地球を守ろう!温暖化対策に伴う税金とは?

「地球温暖化対策のための税」という言葉を耳にしたことはありますか?

産業革命以降、人類の経済活動の活発化に伴い、化石燃料の使用量が増えたことで、大気中には温室効果ガスが大量に放出され続けています。温暖化対策のために企業も早急な対策を求められていますが、対策にかかるコストも見過ごすことはできません。ここでは、環境省によって創設された「地球温暖化対策のための税」が中小企業にどのように関わってくるかを見ていきます。

目次

  1. 地球温暖化対策に税金投入、今直面する問題とは

  2. 地球温暖化対策に税金を導入するメリット

  3. 地球温暖化対策に税金を導入するデメリット

  4. 再生可能エネルギーの導入?企業ができる税金対策とは

  5. まとめ:自社に合う税金対策を検討しよう

1. 地球温暖化対策に税金投入、今直面する問題とは

地球は温暖化による深刻な環境の変化により、危機に瀕しています。2014年のIPCC第5次評価報告書では、2100年の平均気温は4.8度上昇すると試算されました。海面の上昇も続き、20世紀の間で約19cm上昇したと言われています。

世界の平均気温偏差出典:気象庁「世界の平均気温」(1891~2020) 

温暖化対策は人類にとって喫緊の課題であり、積極的かつ効果的な対策が必要です。そんな中、平成24年度「地球温暖化対策のための税(以下、地球温暖化対策税)」が導入されました。この税制度の導入は、中小企業にどのような影響を与えるのでしょうか。

地球温暖化対策税導入の背景

日本は平成9年に採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」で、温室効果ガス6%の削減を掲げたものの、増加傾向が続いていました)。

日本の温室効果ガス排出量出典:環境省「令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書

その後、平成24年度の税制改正において、環境省により「地球温暖化対策税」が創設されました。

「地球温暖化対策税」は、石油や天然ガス、石炭などの全ての化石燃料の利用が及ぼす環境負荷に応じて、全体に向けて公平に負担を求める課税制度です。平成24年10月1日から3年半をかけて段階的に導入しました。

2020年10月26日の第203回臨時国会の所信表明演説では、菅義偉内閣総理大臣が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。

「全体としてゼロ」とは、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの総排出量から、森林などによる吸収量を差し引きゼロを達成するという意味です。

カーボンニュートラルへの転換イメージ出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(令和2年11月17日)

「地球温暖化対策税」=「環境税」

「環境税」とは、どんな税を示しているか、明確に定まった言葉の定義はありません。

一般的には「環境保全を目的とした税」を指しており、「地球温暖化対策税」もその中に含まれています。

しかしながら、日本では環境負荷を減らすことを目的とした環境関連税はわずかしかなく、他国に後れを取っています。

主な炭素税導入国の税率推移及び将来見通し出典:環境省『諸外国における炭素税等の導入状況

地球温暖化対策税の仕組み

「地球温暖化対策税」では、化石燃料ごとに定めたCO2排出原単位を用い、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり等しく289円となるように単位量(キロリットルもしくはトン)当たりの税率を設定しています。また、この税金の導入によって、企業や家庭に急激な負担増が起こらないよう、税率は3年半の期間をかけ、3段階で引き上げられました。

「地球温暖化対策税」の導入によって発生する家計の最終的な追加負担は、平均的な家庭をモデルに計算した場合月100円程度と試算されています。

電気をこまめに消す、アイドリングストップをやめるなどの対策で、二酸化炭素の排出を抑えつつ制負担を軽減することも可能です。

政府広報オンラインによると、税収は主に省エネの抜本強化や導入支援や再生エネルギーの導入、分散型エネルギーの促進や革新的技術開発に使われる予定となっています。

出典:環境省 総合環境政策「地球温暖化対策のための税の導入」

海外での地球温暖化対策への課税状況現在、環境問題に対して意識が高いヨーロッパ諸国を中心とした各国で導入されている環境にかかわる税は、主に炭素税です。環境省によると、地球温暖化対策のためのエネルギー課税は、すでに1990年1月1日にフィンランドやスウェーデン、ドイツ、イギリス、オランダなどですでに導入され、実際に二酸化炭素の排出量を抑えることに成功しています。

今後アメリカのボールダー市、カナダのブリティッシュコロンビア州でも導入が決定しています。

税率は国によって異なり、税収は一般財源に組み込まれているものの、ドイツ、イタリア、イギリスなどでは一部が環境の目的に充てられています。

下表は、デンマークの炭素税導入後の、実質GDPと最終エネルギー消費、CO2排出量の推移を表すグラフです。

実質GDPとCO2排出量の推出典:環境省「諸外国における炭素税等の導入状況」

2. 地球温暖化対策に税金を導入するメリット

では、日本で温暖化対策に税金を導入することで、どのようなメリットが得られるのでしょう。環境省による「温暖化対策税制の効果・影響について」から読み解いてみます。

CO2排出削減

「地球温暖化対策税」は、化石燃料など温室効果ガスの排出を促すものに課税する仕組みです。そのため、化石燃料や二酸化炭素の排出量が少ない省エネ機能が高い機器の購入を促し、長期的には二酸化炭素の排出量を減らす効果が期待できると考えられています。

また、「地球温暖化対策税」の税収を活用することでエネルギー価格の上昇に加えた効果も期待ができるでしょう。電気自動車や太陽光発電装置など、長期的に見たときにエネルギー効率の良いものは、値段が高いのが一般的です。そうした機器の値段を下げる目的の補助金として税金を活用することで、より導入が広がると予測されます。

また、国民が税制に深い関心を持っていることから、「地球温暖化対策税」と銘打った税を創設することで、危機に瀕した国の施策としてのアナウンス効果が期待できるとされています。 

省エネ技術革新へ

また、技術革新によって温暖化対策を推進する動きも大きくなり、環境省地球環境局の「地球温暖化対策税と環境税について」では、「気候変動は喫緊の課題ではあるが、新たな成長の源の創出のチャンスとなる」と掲げています。

再生エネルギーを使いこなす創・省・蓄エネシステムの拡大や推進、世界を変える先導的技術の開発・実証と社会実装を目指し、エネルギー対策特別会計からの支出が決定されている状況です。

再生可能エネルギーの開発

「地球温暖化対策税」の税収は、化石燃料の利用から太陽光や風力発電、バイオマス発電など、自然エネルギーへの転換を進める財源として活用される予定です。この中でも、天候や時間帯を問わず、一定の電力を低コストかつ安定的に供給する一般水力発電や地熱発電は「ベースロード電源」と言われ、昼夜問わず安定して供給化可能である点が重要視されています。

しかし導入にはリードタイムと莫大なコストが課題です。水力発電では既存施設の効率的な稼働や中・小規模発電設備の開発促進、地熱発電では開発のための金銭的な支援や開発効率化の技術研究などが行われています。そうした技術開発への活用は、再生可能エネルギーを効率的に使用する設備の開発にも充てられていきます。

オイルショックによって太陽光発電や風力、水力発電の技術が進歩したように、「地球温暖化対策税」の導入を機にさらなる再生エネルギーの普及拡大が見込まれます。

3. 地球温暖化対策に税金を導入するデメリット

しかし一方で、「地球温暖化対策税」を導入することで、新たな負担が増大する側面があることも重要です。ここからは、企業に想定される負担を見ていきましょう。

企業、家庭への負担増大

「地球温暖化対策税」の導入により、企業や家庭の負担は増大は避けられず、経団連でもこのデメリットについて懸念を示しています。また、企業の負担が増大し業績の悪化を余儀なくされると、海外での競争力を失う可能性も否定できません。特に中小企業の場合は経営状態に悪影響を及ぼしやすく、企業によっては対応できない、雇用を控えるなどの影響も考えられます。

そうした企業がコストの削減を目的として、環境税が導入されていない海外に移転し、その結果温室効果ガスの低減に寄与しないこともあるでしょう。環境税未導入の国であれば、温室効果ガスの排出に制限がないため、却ってよくない結果を招きかねません。

短期的な効果が得られない

温暖化対策を重視した設備投資をした場合でも、企業にとって実際に収益となるには長い時間を要します。地球温暖化防止効果のある商品を使うことが販売競争においても有利になる仕組み作りがされていないため、短期的な増収を見込めないためです。したがって、初期投資そのものが中小企業にとっての大きな痛手となりかねません。

加えて、これまでに多額の設備投資を行ってきた企業にとって、環境税研究開発や設備投資の原資を奪い、企業の自主的な取り組み基盤を阻害するものとして、経団連は憂慮しています。

4. 再生可能エネルギーの導入?企業ができる税金対策とは

中小企業に積極的な普及を進められているのは、「太陽光」「風力」「中小水力」「地熱」「バイオマス」などの設備の積極的な普及です。しかしここまでで見てきたように、そうした再生可能エネルギーの設備は安価ではなく、中小企業においては業績に直結する大きな税負担となります。

再生可能エネルギーの設備導入にも莫大な資金がかかりますが、一定の条件を満たす事業者については税制の優遇措置を受けることが可能です。

省エネ促進税制

「省エネ促進税制」は、事業者単体での中長期的な計画に基づく省エネ投資が行われた際、対象設備の取得価額の30%の特別償却等の税制優遇を受けられる制度です。産業用ヒートポンプやコージェネレーションシステム、高性能ボイラーなどが対象の設備となります。

優遇措置を受けるためには、青色申告書を提出する個人または法人であること、事業者クラス分け評価制度で2年連続してSクラス評価を受けていること、対象期間内に対象設備を購入し事業に供したことなど、条件があります。

出典:資源エネルギー庁「事業者向け省エネ関連情報 各種支援制度」

連携省エネ税制「連携省エネ税制」は、連携省エネルギー計画の認定制度で認定された工場等連携関連高度省エネルギー増進設備に関し、取得価額の30%の特別償却等を行える制度です。中小企業者は、前者以外にも取得価額の7%の税額控除が選択可能です。対象の工場等連携関連高度省エネルギー増進設備には、機械、装置、器具、備品、建物附属設備、構築物及びソフトウェアが含まれます。

この制度下では、例えば2社の工場の設備等を結合・集約して省エネした場合でも、双方が税制優遇が受けられます。

出典:資源エネルギー庁「事業者向け省エネ関連情報 改正省エネ法のポイント」

優遇措置を受けるためには、認定された連携省エネルギー計画に記載されている工場等連携関連高度省エネルギー増進設備等であり、かつ国内の対象事業者の事業のために使われていることが条件です。

加えて計画書の認定日から2020年3月31日までに取得した設備であることが必須となっています。

5. まとめ:自社に合う税金対策を検討しよう

地球の温暖化対策に必要な税金は、家庭の負担のみならず、企業にとっても一時的には大きな負担となります。しかし税収からの技術開発への支援や、設備投資には税制上の優遇措置も講じられています。

そのためにも、優遇措置の対象となる企業は積極的に制度を活用し、温暖化対策に協力していきましょう。

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