目標は10年で170倍!?日本の洋上風力の現状と未来
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
洋上風力発電は、近年世界的にも注目を集める再生可能エネルギー(以下、再エネ)を生み出す仕組みです。陸上風力発電と違って、設備建設や運用時の騒音が問題になりづらかったりしますが、他にもどんな特徴があるのでしょうか。ぜひチェックしてみましょう。
目次
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日本において洋上風力発電が注目される理由
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海外から遅れている?日本の洋上風力の現状
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洋上風力発電の日本の未来とは
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まとめ:積極的に洋上風力発電の実施に向けて考えよう
1. 日本において洋上風力が注目される理由
そもそも洋上風力発電とは
洋上風力発電とは、大型の羽根を回して発電する仕組みである風力発電を、海の上に設置する仕組みです。風力発電自体は、1990年代にデンマークで初めて実施されて以来ヨーロッパを中心に導入が拡大しています。
洋上風力発電は、陸上での風力発電と違って騒音が問題になりづらく、建設においても資材の運搬がしやすいことなどから全世界的に拡大しています。
日本では、設置場所の制約や漁業関係者との利害調整などの問題があり、なかなか洋上風力発電の導入が進まなかったのですが、2019年に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、再エネ海域利用法)」が施行されて事業者が風力発電設備を設置しやすい状況となりました。
今後は、四方を海に囲まれた国土という特性を元に洋上風力発電の活用が期待されています。
他の再生可能エネルギーよりも安定性が高い
太陽光発電や地熱発電と比較して、洋上風力発電は安定性の高い再エネなのが特徴です。なぜなら洋上では昼夜を問わず、ある程度の風量が見込めるからです。
また、再エネ海域利用法により最大30年間の占有が認められるので、長期的なプロジェクトとして実施することができます。
一方で、太陽光発電であれば「PPAモデル」という、電力を必要とする団体が土地やデッドスペースを提供して再エネによるクリーンエネルギーを安価で買い取るという仕組みはありますが、この契約自体も15年〜20年ほどとなり、洋上風力発電に比べると期間が短くなっています。
2. 海外から遅れている?日本の洋上風力の現状
洋上風力の占める割合は1.3%
日本の洋上風力発電は、2020年12月時点で7箇所に28基設置されており、発電量は58.6MWとなっています。これは、風力発電全体のうち僅か1.3%程度の数値となっています。
一方で、陸上と違い洋上は発電設備の設置に対する制約が少ない点や、昼夜や季節を問わず安定した風量が見込めることから、今後本格的な導入が見込まれています。
出典:一般社団法人日本風力発電協会『2020年末日本の風力発電の累積導入量:443.9万kW、2,554基』(2021年2月12日)
海外の洋上風力発電は日本の約400倍
海外に目を向けると、洋上風力発電の導入は年々伸長しています。2008年に1.5GWだった発電量が2018年には23.1GWと10年間で15倍を超えています。日本の洋上風力発電の発電量は58.6MWなので、約400倍の数値となります。
洋上風力発電の中心はヨーロッパで、全体の約80%を占めています。近年では中国、台湾といったアジア圏やアメリカでの洋上風力発電設備設置のプロジェクトも進行しています。
出典: 自然エネルギー財団『洋上風力発電に関する世界の動向』
3. 洋上風力発電の日本の未来とは
洋上風力発電において、日本の取り組みは諸外国に比べて遅れている事実はありますが、今後日本は洋上風力発電に対してどのような取り組みを行っていくのでしょうか。
洋上風力発電への現在の日本の取り組み
出典:経済産業省『第2回 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会』(p.7)
洋上風力発電に対して、日本国内では政府と民間企業で構成される協議会において2030年までに10GW、2040年までに 30~40GWに拡大する目標を打ち立てました。
現在、日本における洋上風力発電は年間58.6MWの発電量なので、10GWでも約170倍と非常に高い目標ですが、洋上風力発電の活用を促進するために2019年に「再エネ海域利用法」が施行されたこともあり、秋田、青森、長崎、千葉といったエリアでは設備開発も進んでいます。
また、ヨーロッパの洋上風力発電をリードする会社も日本市場への参画を果たしており、より活性化が期待されています。
出典:サステナブルブランドジャパン『洋上風力2040年に最大45GW――官民協働で洋上風力を日本の再エネの切り札に』(2020年12月22日)
超えるべきハードルはインフラ構築
四方を海に囲まれた日本だからこそ、洋上風力発電によって得られる発電は、クリーンエネルギー業界にとって大きなメリットとなり得ますが、課題は「得られた電力をどう届けるか」という点です。
陸上とは違い、洋上には送電線が準備されていないので得られた電力を送るための設備が必要となります。対策としては、現在洋上に発電所の仕組みを作り上げてエネルギー減退を極力減らした形で陸上まで届けるという取り組みも進められています。
出典:スマートジャパン『洋上から陸上まで直流で送電するシステム、日本の近海に風力発電を広げる』(2015年7月2日)
また、そもそも設備の建設にも課題があります。日本の海域は急激に深くなる地形が多く、土台を設置する風力発電設備の建設が難しいことが原因です。技術の発達に伴い、浮遊式と呼ばれる土台を海底に設置しないタイプの発電設備も開発されていますが、まだ実用化には時間がかかる見通しです。
出典:JIJI.com『政府、洋上風力普及に本腰 欧州が先行、課題山積』(2021年3月27日)
洋上風力発電に取り組む企業の事例
洋上風力発電に対しては、「再エネ海域利用法」という政府のバックアップもあり、発電業者による取り組みは推進されています。事例をピックアップするのでぜひチェックしてください。
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日本風力開発株式会社
日本風力開発株式会社は、風力発電のエキスパートとして、風力発電事業を営む企業です。風力発電には欠かせない風車をグローバルに展開する企業との協業や、独自で風況調査などを実施しており、青森や秋田を中心に、洋上風力発電施設を建設中です。
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清水建設株式会社
建設大手の清水建設株式会社は、自社の建設用作業台船の製造や、世界の洋上風力発電をリードするノルウェーのFred.Olsen Ocean Ltd.(フレッド・オルセン・オーシャン社)と覚書を締結し、洋上風力発電施設の建設に向けた取り組みを進めています。
出典:清水建設『洋上風力建設分野で欧州有力企業とアライアンス』(2021年6月30日)
4. まとめ:積極的に洋上風力発電の実施に向けて考えよう
洋上風力発電は、四方を海に囲まれた日本にとって向いている再エネ活用のキーポイントとなり得る施策です。風況が読みづらかったり、騒音問題等でなかなか進まない陸上での風力発電に比べて、安定した風量があり、騒音が問題になりにくい洋上風力発電は今後も拡大が期待されています。
現状では、日本国内の風力発電のうち1.3%程度しか占めておらず諸外国に比べて進みが遅い点は否めませんが、2019年の再エネ海域利用法の施行を皮切りに各地で洋上風力発電施設の建設が計画されています。
しかし一方で、実際に洋上風力発電が拡大していくに当たっては洋上から陸上へ電力を届けるための手段や、そもそも設置場所が少ないなどインフラや技術開発といった面での取り組みも必要です。
企業として、洋上風力発電にアプローチするなら、取り組みを進めている企業への支援や協業といった形でアライアンス確立がスムーズとなります。
再エネの日本の切り札とも言える洋上風力発電の進捗は今後も要注目です。