エネルギーミックスとは?日本の現状や課題も解説
- 2024年07月18日
- 発電・エネルギー
エネルギーミックスとはどのようなものか、わかりやすく解説します。エネルギーミックスは、安定的な電力供給のために欠かせない対応です。また発電における環境負荷の軽減にも、エネルギーミックスは大きく関わってきます。エネルギーミックスについて知ることで、電力への興味や関心がより高まるでしょう。
本記事ではエネルギーミックスの概要や背景、各国におけるエネルギーミックスの状況、日本のエネルギーミックスの現状と課題などについて取り上げます。
目次
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エネルギーミックスとは
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各国のエネルギーミックス
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日本におけるエネルギーミックスの現状と課題
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まとめ:エネルギーミックスについて理解し、経済性や環境負荷を考慮した電源を選択しよう!
1.エネルギーミックスとは
エネルギーミックスは、なぜ必要なのでしょうか。エネルギーミックスの基本的な考え方などについて解説します。
エネルギーミックスの概要
エネルギーミックスとは、いろいろな発電方法を組み合わせて電気をつくることを意味します。発電には火力(石油・石炭・天然ガス)・原子力・水力・再生可能エネルギーなど、発電に用いるエネルギーの種類によってさまざまな方法があります。ひとつの方法だけに依存せず電源を構成することが、電力供給においては重要であると考えられています。
エネルギーミックスが必要な背景
電力供給に関しては、以下の4条件を満たすのが理想の状態です。
・安全性・・・原子力発電の事故によるリスクの低減
・安定供給・・発電停止による電力供給不安の低減
・経済効率・・資源調達による国富流出や電気料金上昇の抑制
・環境適合・・CO2排出量の抑制
たとえば日本では、東日本大震災以降原子力発電所が運転停止となり、エネルギー自給率は震災前の約20%から約6%へ大きく落ち込み、火力発電所の利用が増えたことにより、CO2の排出量が増えています。
さらに経済成長の観点では、電気料金の高騰を避けることも重要です。国内外の情勢や各電源の特性などを考慮したエネルギーミックスを策定することで、電気エネルギーを安定して、経済的に確保し、地球環境への影響も抑えていくことができます。日本においても原子力については、安全性を向上させて活用を図りつつ、依存度を可能な限り下げることなどを通じて、上記4条件の実現を目指しています。
出典:一般社団法人日本原子力財団「なぜ、「エネルギーミックス」が必要なの?」(2015/11/12)
発電方法ごとの特性
主な発電方法の特性は、以下のようになっています。
発電効率 |
安定性 |
環境負荷 |
|
火力発電 |
◎ |
◎ |
× CO2を排出 |
水力発電 |
◎ |
〇 水不足でなければ |
▲ 建設時の負荷 |
原子力発電 |
◎ |
〇 高出力の時のみ |
▲ 放射性廃棄物残留 |
地熱発電 |
〇 火山が多ければ |
◎ |
▲ 建設時の負荷 |
太陽光発電 |
× 使う面積に対し発電量が少ない |
▲ 日照次第 |
〇 比較的少ない |
風力発電 |
▲ 地理的状況次第 |
× 気象状況次第 |
〇 比較的少ない |
このように、全ての項目で「◎」となる発電方法はありません。従って、各発電方法の得意不得意を組み合わせ、昼夜の電力使用量の違いなども考慮しつつ、エネルギーミックスを行うことが重要です。
出典:一般社団法人日本原子力財団「エネルギーミックスって何?」
2. 各国のエネルギーミックス
国の置かれた状況によって、エネルギーミックスにも違いが見られます。世界各国のエネルギーミックスについて解説します。
世界のエネルギーミックス
エネルギーミックスは国によって、資源の有無や保有する資源の種類などの特徴が現れます。世界全体で見た場合は、以下のようになっています(※2021年のデータ)。
OECD(経済協力開発機構)は、ヨーロッパ諸国を中心に日本やアメリカを含む38ヶ国の先進国が加盟する国際機関です。OECD加盟国以外では、石炭による発電が半分近い割合を占めていることがわかります。
出典:一般社団法人日本原子力財団「【1-1-13】主要国の電源別発電電力量の構成比」(2024/1/23)
アメリカ
アメリカのエネルギーミックスは、以下のようになっています(※2022年のデータ、以下同様)。
(単位:%)
アメリカでは、環境規制の強化に端を発した石炭から天然ガスへの転換が、天然ガスの価格優位性を背景に一貫して継続しています。また、92基という世界最多の原子炉数を誇っており、原子力発電の割合も高くなっています。
アメリカ政府は気候変動対策推進を指向しており、再生可能エネルギーへの税制優遇措置を拡大しています。一方で近年では天然ガス価格の高騰による電気料金の上昇などが問題になっているため、政府も天然ガスの国内生産拡大を容認しています。
出典:一般社団法人海外電力調査会「各国の電気事業(主要国)2022年版」
フランス
フランスのエネルギーミックスは以下の通りです。
(単位:%)
フランスは石油危機以降、再処理前提に原子力発電を大規模開発してきた経緯があり、原子力発電の割合が特に高いのが特徴です。再生可能エネルギーにも注力しており、2030年までに再生可能エネルギーによる発電量割合を40%まで引き上げることを目標としています。原子力発電はCO2を排出しない非化石エネルギーですが、ウラン燃料を使用するので、再生可能エネルギーとは見なされません。
原子力への高い依存度による電力システムの耐久性の課題や、原子力発電に伴う放射性廃棄物問題を改善するために、2035年までに発電電力量における原子力発電の割合を50%まで引き下げる方針が示されています。
出典:一般社団法人海外電力調査会「各国の電気事業(主要国)2022年版」
出典:一般社団法人日本原子力文化財団「フランスのエネルギー事情はどうなっているの?」
ノルウェー
ノルウェーのエネルギーミックスは以下の通りです。
ノルウェーのエネルギーミックスは、水力が9割以上を占めるという、非常に特徴的なものとなっています。水力以外の再生可能エネルギーも合わせると、発電設備容量の97%が再エネ由来です。新たな産業や雇用の創出などを目的に、洋上風力発電の技術開発も進めています。
ノルウェーでは水力発電量の多さから風力発電開発のインセンティブが働きにくいという課題はありますが、将来的に欧州への電力輸出が期待できることから、洋上風力発電へ進出する企業が増えています。
出典:一般社団法人海外電力調査会「各国の電気事業(主要国)2022年版」
出典:電気新聞「[ノルウェー出帆-浮体風力、野心と挑戦](1)」(2023/9/5)
3. 日本におけるエネルギーミックスの現状と課題
日本のエネルギーミックスには、経済や環境などの観点においてさまざまな問題が見られます。日本におけるエネルギーミックスの現状と課題について解説します。
日本のエネルギーミックスの現状
日本のエネルギーミックスは以下の通りです。
(単位:%)
日本では1970年代の石油ショックをきっかけに、エネルギーミックスの多様化が進められてきました。原子力発電も大きな割合を占めていましたが、2011年の東日本大震災以降原子力発電所は稼働停止となり、2014年には原子力による発電は0となりました。その後原子力発電所の再稼働が順次行われ、現在ではエネルギーミックスにおいて6%程度の割合を占めるようになっています。
現在日本のエネルギーミックスで大きな割合を占めるのは、輸入先が安定している石炭と、クリーンなエネルギーでもある天然ガスです。
出典:資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2024)」p118(2024/6/4)
日本のエネルギーミックスを取り巻く環境
日本は化石エネルギー資源に乏しく、国際的なパイプラインや連系線もありません。また全国に送電線が張り巡らされており、電力の利用効率はエネルギー多消費産業を中心に極めて高くなっています。この結果、高いレベルで信頼できるエネルギー技術が生み出されており、それに基づくサプライチェーンが構成されています。
こうした中、世界的な気候変動対策の動向に合わせ、日本でも2050年カーボンニュートラル実現を2010年に宣言しており、電力供給においても脱炭素を意識した取組が求められています。またロシアによるウクライナ侵攻がきっかけで、日本でも電力需要のひっ迫や電力価格の高騰などが起こり、電力の安定供給もエネルギー政策上の課題として浮上してきました。
出典:資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2024)」p158(2024/6/4)
日本のエネルギーミックスの課題
日本のエネルギーミックスに関しては、以下のような課題があります。
・資源供給国との関係強化
・国産資源(石油・天然ガスなど)の開発促進
・脱炭素電源への移行
・自然災害に対する電力インフラの強靭性確保
こうした課題に対応したエネルギーミックスで、安全性を大前提としつつ、供給の安定性・経済効率性・環境適合性を充足する電力供給を実現していく必要があります。
出典:資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2024)」p159,160,163,164(2024/6/4
出典:資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」(2023/9/1)
4. まとめ:エネルギーミックスについて理解し、経済性や環境負荷を考慮した電源を選択しよう!
エネルギーミックスは、多様な発電手段を組み合わせることで、安定的・経済的な電力供給を実現する手段です。国産資源の少ない日本では、エネルギーミックスにおいても輸入資源への依存度が高いため、資源輸出国との関係強化を図るとともに、エネルギー自給率を向上させることが重要になってくるでしょう。ただし安全性に課題のある原子力については、構成比が高くなり過ぎないように考慮する必要があります。さらに環境配慮も求められますので、今後は再生可能エネルギーへの移行が大きな鍵となることは間違いないでしょう。
エネルギーミックスについて理解し、経済性や環境負荷を考慮した再生可能エネルギーの開発や利用を促進していきましょう。