カーボンクレジットの価格予想は?今後の動向に注目!

 

世界のカーボンクレジットの価格予想として、カーボンプライシング制度の導入などから、今よりも高い値がつくと予想されています。日本でも、2023年10月にカーボンクレジット市場が開設したことで取引の幅が広がっており、今後のカーボンクレジットの価格に注目が集まります。

本記事では、カーボンクレジットの基礎知識を振り返るとともに、現在のカーボンクレジット価格の状況や、今後のカーボンクレジットの価格動向予想などを、わかりやすくご紹介します。

目次

  1. カーボンクレジットとは

  2. 炭素の価格付け「カーボンプライシング」

  3. 現在のカーボンクレジット価格

  4. 今後のカーボンクレジット価格予想

  5. まとめ:今後のカーボンクレジットの価格予想に注目し、価格上昇を視野に入れた取り組みを!

1. カーボンクレジットとは

カーボンクレジットとは、CO2の見込み排出量と実際の排出量の差をクレジット化したもので、「排出削減量」として売買することができます。ここでは、カーボンクレジットの基礎知識をご紹介します。

カーボンクレジットとは

カーボンクレジットとは、従来の方法では排出が見込まれていたCO2排出量(ベースライン)と、省エネ技術や再生可能エネルギーを導入したことによって減少した実際の排出量との差をクレジットとして認証するシステムです。このクレジットは、削減目標を達成できなかった他者に提供することができ、他者は削減量をこのクレジットで購入することができます。購入した側は、購入分のCO2排出削減量を自社のCO2排出削減量として取り扱うことができ、また、提供する側は、クレジット収入により資金を得ることができます。

クレジットの考え方

出典:経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』p,15,16.(2022/06/14)

カーボンクレジットが必要とされる背景

日本では2050年カーボンニュートラル宣言のもと、人為的な温室効果ガスの排出を実質ゼロにするために、2030年までに2013年度から46%削減することを直近の目標としています。日本の2021年度の温室効果ガス排出量は、2013年度から16.9%の削減となっていますが、カーボンニュートラル達成にはさらに多くの除去量が必要となります。

そこで、削減努力をしてもなお排出量が多い企業などが、カーボンクレジットを活用することで効果的に除去量を増やすことができ、結果的に排出量と除去量を差し引きゼロにできるとしています。

出典:経済産業省『カーボン・クレジット・レポート』p,36,37.(2022/06/28)

出典:経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』p,33.(2022/06/14)

出典:環境省『2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値) 概要』p,2,3,5.(2023/04)

2. 炭素の価格付け「カーボンプライシング」

企業などが排出した炭素に価格を付ける手法としてカーボンプライシングがあり、世界では導入が進められています。ここでは、カーボンプライシングの種類について見ていきます。

国内排出量取引制度

国内排出量取引制度とは、企業のCO2排出上限を政府が設定し、設定量を超えてしまった企業は、下回る企業に自社の超過したCO2排出量を買い取ってもらう仕組みです。この制度における炭素価格は、市場での排出量の売買が価格に反映されるために、ニーズと共に変動があるのが特徴です。EUや中国、韓国などで導入されており、EU域内ではCO2排出量の約40%を、韓国では年間排出量の約70%をカバーしているとされています。

出典:環境省『カーボンプライシングの意義』p,8.(2017/09/28)

出典:資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023/05/15)

出典:環境省『排出量取引制度について 資料2』p,4.(2021/04/01)

炭素税

炭素税とは、燃料や電力を使用した際に排出されたCO2に税金を課すもので、欧州を中心に導入が進められてきました。特徴としては、CO2を排出している幅広い関係者に対して、それぞれの排出量に比例した金額を課すことで、平等性が保たれることが挙げられます。欧州においては、フィンランド、スウェーデン、フランス、英国で導入されています。

出典:環境省『カーボンプライシングの意義』p,8.(2017/09/28)

出典:資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023/05/15)

クレジット取引

クレジット取引とは、排出削減量をクレジット化し取り引きをする制度のことで、国内には「J-クレジット」や「JCM(二国間クレジット制度)」があります。J-クレジットとは、日本国内の企業や団体が、CO2排出削減・吸収量をクレジット化し他者と取引するものです。一方、JCMは途上国と共に排出削減量を創出・クレジット化し、その効果を二国間で分け合うものとなっています。

また、国内排出量取引制度とは、排出量を分け合うという考え方は同じであるものの、取引対象がCO2排出量の過不足か、排出削減プロジェクトで創出されたクレジットかという点に違いがあります。

J-クレジット制度について

出典:J-クレジット制度『J-クレジット制度について』p,3.(2023/11/29)

出典:環境省『排出量取引制度について 資料2』p,4.(2021/04/01)

3. 現在のカーボンクレジット価格

日本では、2023年10月にカーボンクレジット市場が開設され、より多くのカーボンクレジット取引が行われるようになりました。ここでは、2023年度のカーボンクレジット価格について見ていきます。

2023年のカーボンクレジット市場の状況

2023年5月に公表された「カーボンプライシングの現状と傾向2023(世界銀行)」によれば、2022年の世界のカーボンクレジット残高が4億7,500万トン(CO2換算)で、2023年4月の時点で世界のCO2排出量の約23%がカーボンプライシングの活用でカバーされていることが報告されています。

日本では政府が「GXに向けた基本方針」のもとで排出量取引制度を導入し、10月に東京証券取引所でカーボンクレジット市場が開設され、この取引所を通じて、同年11月末日までのCO2総取引量は34665トンで、全体の取引平均価格は2381円となっています。しかし、2021年度の各国の炭素価格で比較するとスウェーデンの15,645円やスイスの11,568円に対し、日本のJ-クレジット(再エネ)は、2,995円でとても低い状況となっています。

※価格はCO2排出量1トンあたり

2021年度の各国の炭素価格

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,24.(2022/03/22)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構 『カーボンプライシング政策、世界で950億ドルの収入、世界銀行推計(世界) | ビジネス短信』(2023/05/25)

出典:株式会社東京証券取引所『カーボン・クレジット市場の概要』p,2.(2023/06/09

出典:自然エネルギー財団『Jクレジット制度の概要と最新の動向』p,16,17.(2024/02/06)

出典:日本取引所グループ『市場参加者』(2024/03/06)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に備える | 分断リスクに向き合う国際ビジネス - 特集 - 地域・分析レポート』(2023/08/31)

日本のカーボンクレジットの価格(J-クレジット)

J-クレジットでは大口活用者に入札販売を行っており、再エネ発電・省エネ発電ともに、2017年から需要の拡大により平均価格が上昇しています。近年では省エネに比べて再エネ発電の需要が高まっており、落札の平均価格も省エネが1551円なのに対し、再エネは3246円と倍以上の落札平均価格となっています。また、新たにスタートしたカーボンクレジット市場でも、再エネ・省エネともに入札販売と同等の平均価格の中、森林由来のものは8556円と価格が高くなっています。※平均価格はCO2排出量1トンあたり

J-クレジットの入札状況の推移

出典:J-クレジット制度『J-クレジット制度について (データ集)』p,15.(2024/01/26)

出典:JPX日本取引所グループ『JPX東証 カーボン・クレジット市場の累計売買高が1万トンを超えました』(2023/10/20)

4. 今後のカーボンクレジット価格予想

日本のカーボンクレジット価格がEUと比べてかなり低い中、今後の世界のカーボンクレジット価格は今以上に上昇するものと考えられています。ここでは、今後のカーボンクレジット価格の予想を見ていきます。

今後のカーボンクレジット市場の動向

今後のカーボンクレジット市場の動向の予想として、日本のカーボンクレジット対応の遅さの懸念があります。日本では2023年にカーボンクレジット市場が開設したものの、IPCCによると2035年までに2019年度のCO2排出量より60%削減する必要があり、カーボンクレジット価格を1トンあたり約20000円〜35000円程度まで引き上げ、企業の削減取り組みの意識を高める必要があると考えられています。

しかし、日本のカーボンクレジット平均価格はその1割程度であるうえに、EUのCBAM導入が注目を浴びる中、日本の炭素税に代わる炭素賦課金は2028年度開始と遅れを取っているなどの課題もあり、迅速な対応が必要とされています。

出典:東京新聞 TOKYO Web『日本はまだ出遅れるのか…脱炭素へ「勝負の10年」 GX推進法は実効性に疑問符、排出量取引市場が10月に開設』(2023/07/07)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に備える | 分断リスクに向き合う国際ビジネス - 特集 - 地域・分析レポート』(2023/08/31)

カーボンクレジットの価格予想

IEAの「World Energy Outlook 2020」によると、国連の持続可能な開発目標のシナリオにおいて、先進国の電力・産業及び航空部門に関わるカーボンクレジット価格が、2025年には約6900円、2040年には約15260円になる見込みとなっています。しかし、日本のカーボンクレジット価格は、2028年で1500円、2050年で4400円という見方もあり、カーボンプライシング制度に積極的なEUと比べるとかなり遅れを取る状況が続くため、今後10年がカーボンクレジット市場の勝負の年となると考えられています。※価格はCO2排出量1トンあたり

出典:東京新聞 TOKYO Web『日本はまだ出遅れるのか…脱炭素へ「勝負の10年」 GX推進法は実効性に疑問符、排出量取引市場が10月に開設』(2023/07/07)

出典:環境省『炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向』p,13.(2021/03/22)

5. まとめ:今後のカーボンクレジットの価格予想に注目し、価格上昇を視野に入れた取り組みを!

日本では2023年にカーボンクレジット市場が開設され、これから本格的なカーボンクレジット価格上昇に期待がかかります。一方、EUでは新たなカーボンプライシング制度を導入するなど、常にカーボンクレジットに積極的な対応を進め、日本のカーボンクレジット価格よりもはるかに高価となっています。しかし、日本がEUと同じカーボンクレジット価格になるまでにはまだまだ道のりは遠く、カーボンクレジット市場において積極的な対応が求められますが、脱炭素にはカーボンクレジット取引は欠かせない要素となるため、今後、カーボンクレジット価格は上昇する見込みとなります。

今後のカーボンクレジットの価格に注目しながら、価格上昇を視野に入れた積極的な脱炭素の取り組みを目指しましょう。

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