ESG不動産投資とは?概要やメリット・デメリットを解説

持続可能な開発と社会的責任が重視される現代において、不動産投資の世界も大きな転換期を迎えています。ESG(環境・社会・企業統治)の観点から見た不動産投資、すなわちESG不動産投資は、ただ利益を追求するだけでなく、地球環境の保護・社会的公正・ガバナンスの向上といった新たな価値を生み出すことに注目が集まっています。

本記事では、「ESG不動産投資」とは何かを初めに解説し、不動産投資におけるESGの重要性、ESG不動産投資のあり方、そしてそのメリットとデメリットについて、詳細に掘り下げていきます。

目次

  1. ESG不動産投資とは

  2. 不動産投資におけるESGについて

  3. ESG不動産投資のあり方について

  4. ESG不動産投資のメリット

  5. 日本のESG不動産投資における課題

  6. まとめ:ESG不動産投資で、社会課題の解決へ貢献しよう!

1. ESG不動産投資とは

現在の事業活動においては、さまざまな場面でESGへの配慮が広く求められるようになっています。それは不動産投資においても例外ではありません。ESG不動産投資とはどういうものなのか、解説します。

(1)概要

ESG投資とは、投資家が企業に投資する際ESG(環境Environment・社会Social・企業統治Governance)への配慮を投資先へ求める投資原則です。不動産分野においても同様に、環境負荷低減・執務環境改善・知的生産性向上・優れた健康性や快適性などに優れた不動産へ投資を呼び込もうという動向があり、こうした投資をESG不動産投資と言います。

出典:国土交通省「ESG投資の普及促進に向けた勉強会」

(2)ESG不動産投資の原則

資産運用にあたってESGへの配慮を求める「責任投資原則(RPI:Principles for Responsible Investment)」が2006年に国連で提唱されました。これを受けて国連環境計画の金融イニシアチブ不動産ワーキンググループ(PWG)では、「責任不動産投資(RPI)」を推進しています。RPIは「法律上の要請を超えて、環境的・社会的なパフォーマンスを改善するもの」とされ、RPIに沿った不動産や資産運用計画は、高い社会的責任を果たすものと考えられています。

出典:国土交通省「基本的な考え方」

2. 不動産投資におけるESGについて

ESGでは多くの課題解決が求められます。不動産投資においても、環境課題や社会課題などの解決へ貢献することが重要です。不動産投資におけるESGとの関係について解説します。

(1)ESGの概要

ESGとは、環境・社会・企業統治を考慮した投資活動や経営・事業活動です。ESGという概念は元々投資活動が起源となっています。ESG投資では中長期的なリターンを目指すために、企業の財務情報だけでなく当該企業のESGに関する情報にも注目します。しかし近年ではESGの概念は投資だけでなく、企業経営などより広い場面で考慮されるようになっています。

出典:内閣府「ESGの概要」

(2)不動産業界におけるESG各分野の取り組み

不動産はESGの中でも特に、環境(E)や社会(S)分野の課題解決に対応できる投資対象です。たとえば環境の分野においては、省エネルギー性能にすぐれた建物の建設や改修を通じて光熱費の削減、ひいては環境負荷の低減につなげることができます。CO2排出量や電力使用量など環境負荷に関して情報開示する企業も増えていますので、不動産の省エネルギー性能に対する関心はますます高まることが予想されます。

また社会分野においては、たとえば不動産開発による雇用の創出や開発エリアの価値向上など、地域社会の発展という社会課題解決への貢献が可能です。再開発によって雇用や手頃な価格の家屋が増大したイギリスのキングスクロス駅周辺や、中小企業の人材育成や技術継承を支援するために整備された日本の東糀谷六丁目工場アパートなどが、社会課題に対応した不動産開発の例として挙げられます。

出典:国土交通省「我が国不動産へのESG投資の促進に向けて」p3-4

出典:三菱商事・UBSグループ「ESG Report2019.02」p9

3. ESG不動産投資のあり方

公的な費用だけでは、全ての社会課題に対応することはできません。そのためESG不動産投資においても民間資金の役割は重要であり、官民それぞれでの取り組みが必要です。ESG不動産投資のあり方について解説します。

(1)不動産の中長期的な価値の評価

投資においては通常、予測されるリスクとリターンに着目します。しかしESG投資においてはさらに、社会的な影響についても注意を払うことが重要となります。ESG不動産投資においても短期的な利益のみを期待するのではなく、環境や社会に対する中長期的な付加価値を軸とした投資判断が求められます。

不動産は用途・規模・所在するエリアなどによって求められる役割が異なってくるため、そのような社会的インパクトについては評価が難しい面があります。しかしESG投資の国際的な動向も踏まえつつ、投資にあたって提供される情報を見直していくことによって、安定して持続的に拡大する不動産投資市場が形成可能と考えられます。

出典:国土交通省「我が国不動産へのESG投資の促進に向けて」p1

(2)企業に求められる取り組み

ESG不動産投資を呼び込むためには、ESGのフレームワークを活用して不動産開発の目指すべき姿を明らかにし、関係者間で共有することが効果的です。また環境や社会に与える影響を踏まえてマテリアリティ(重要課題)を把握し、それを踏まえた情報開示に務める必要があります。

開示される情報には、十分な情報量と比較容易性が求められ、可能な限り数値で示される必要があります。さらに中長期的なパフォーマンスを担保する観点から、企業のガバナンスが確保されていることが大前提となります。

出典:国土交通省「我が国不動産へのESG投資の促進に向けて」p2

(3)国や関係機関の役割

ESG不動産投資促進のために、国やその関係機関は、中長期的な収益にもつながるESG不動産投資を促進するという方針を打ち出し、ESG不動産投資で求められる情報開示の標準化・補助金や公的融資の制度など、メッセージ性のある支援を実施することが効果的です。

日本においては、たとえばESG要素に関する不動産評価のあり方や、気候変動に関する財務情報開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の不動産投資分野における取り組みの検討などが、政府や関係機関によって行われています。

出典:国土交通省「我が国不動産へのESG投資の促進に向けて」p2 

出典:TCFD Consortium [Top」

4. ESG不動産投資のメリット

日本においても、ESG不動産投資のさらなる促進が必要と言われています。その背景にある、ESG不動産投資のメリットについて解説します。

(1)長期資産運用に適している

従来型の不動産投資は、ともすれば収益性のみに着目し、表面的な利率や短期的な利益を優先して行われることがあります。しかし本来中長期的に踏まえるべきさまざまなリスクが、不動産投資においては存在しています。中長期的リスクの例としては、環境負荷・健康への影響・大規模災害・所在エリアの衰退・投資対象のガバナンス欠如などが挙げられます。

ESG不動産投資においては、こうしたリスクにも配慮した案件への投資を行うことで、中長期的なリターンの確保につながります。またESG不動産投資のメリットは、中長期的な運用だけでなく、短期的な収益にも反映される可能性があります。

出典:国土交通省「ESG不動産投資について」p2

(2)社会貢献につながる

ESG不動産投資によって開発・建設・改修された不動産は、社会課題の解決に寄与します。環境負荷の少ない建物の建設や開発エリアの雇用創出といった事例のほかにも、以下のような社会貢献例が挙げられます。

  • 防災性の高い建物を作ることによる、災害発生の際そこで働く従業員の安全確保・事業継続・地域の安全性向上などの実現

  • 空き家や空き店舗の再生による周辺環境の改善と、さらなる不動産投資の誘引

  • 保育園やヘルスケア施設の建設による、超少子高齢化社会へ対応

こうした取り組みは社会貢献であると同時に、不動産価値の向上にもなりうる点がESG不動産投資のメリットです。

出典:国土交通省「ESG不動産投資について」p5-7

5. 日本のESG不動産投資における課題

さまざまなメリットのあるESG不動産投資ですが、日本においては推進上の課題も指摘されています。日本のESG不動産投資にはどのような課題があるのか解説します。

(1)評価手法が確立していない

日本の不動産投資市場においては、社会課題への貢献を総合的に評価する手法について、投資家や不動産企業など関係者間で認識が十分に共有されていません。投資の参考指標であるインデックスについても、ESG分野においてはスタンダードと言えるものは確立していません。

またESGに関する各種のインデックスには、台風や地震などの自然災害の多さ・少子高齢化など、日本固有の事情が反映されない場合があります。

出典:国土交通省「ESG不動産投資のあり方検討会 中間とりまとめ」p15

(2)認知度が低い

ESG不動産投資は日本国内でも注目されつつあるとは言え、その認知度はまだ低い現状にあります。欧米で始まった動向だということもあって、具体的な対象もまだ多くはなく、関係する論議も活発であるとは言えません。

不動産証券化協会が2023年5月に行った機関投資家に対するアンケート調査では、不動産へのESG投資を実施している割合は、年金で9.4%・一般機関投資家で29.8%に止まっています。不動産ESG投資を実施しない理由については、年金の45.8%・一般機関投資家の25.0%が、「ESG投資の認知が広がっておらず、説明責任を果たせないため」と回答しています。

出典:国土交通省「ESG不動産投資のあり方検討会 中間とりまとめ」p13-14

出典:一般社団法人不動産証券化協会「第 22 回『機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査』集計結果について」(2023/5/29)p6

6. まとめ:ESG不動産投資で、社会課題の解決に貢献しよう!

ESG不動産投資とは、ESGへの配慮を求めた不動産投資のことを言います。RPIという国際的な規範も定められており、ESG投資を行うことで、高い社会的責任を果たすことができると考えられています。特に環境・社会の分野でESG不動産投資には大きな貢献が期待されており、気候変動対策や雇用創出などにつながった事例もあります。

またESG不動産投資には社会的な意義だけでなく、中長期的なリターンや不動産そのものの価値向上といったメリットもありますので、今後の普及促進が必要と考えられます。一方、不動産に関するESG評価の手法が確立していない・ESG投資の認知度が低いなどといった課題も残されています。

不動産への投資をお考えの企業や不動産開発への投資を募りたい企業においては、ESG不動産投資の活用を通じて、社会課題の解決に貢献することを検討しましょう。

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