【なぜCO2の見える化を?】CDP 「気候変動Aリスト」企業に5度認定された丸井グループの取り組み。ビジネスインパクトもしっかり可視化

左から、株式会社丸井グループ サステナビリティ部の鈴木航二さん、株式会社マルイホームサービス 企画・業務統括部の森本梓さん、株式会社マルイファシリティーズ 企画本部の角町達哉さん

CDP Aリスト常連の丸井グループは、首都圏を中心にファッションビル業態の商業施設を運営する「小売り」と、エポスカードやつみたて投資などの「フィンテック」を主軸に事業展開をする丸井グループは、サステナビリティや脱炭素の先進企業として知られています。

株式会社丸井グループ サステナビリティ部の鈴木航二さん、株式会社マルイファシリティーズ 企画本部の角町達哉さん、株式会社マルイホームサービス 企画・業務統括部の森本梓さんに、その取り組みを聞きました。

 

目次

  1. サステナビリティへの取り組みがステークホルダーからの評価に

  2. いち早く取り組んだからこそ、得られるビジネスインパクト

  3. お客さまと共創し、脱炭素社会の実現を

1. サステナビリティへの取り組みがステークホルダーからの評価に

ーーCO2の見える化に取り組むようになったきっかけを教えてください

鈴木:当社は2008年からCSRレポートを発行するなど、早期から環境問題に対して意識を高く持ち、取り組んできました。その後、2015年のパリ協定、SDGsの発足を皮切りに世界が脱炭素に向けての動きを加速させたこともあり、丸井グループとしてサステナビリティにどのように取り組んでいくかを具体的に検討し始め、2016年にESG推進部を新設、2017年にはCSR推進部をサステナビリティ部へと組織変更をいたしました。これは、単に最新のキーワードへの言い換えということではなく、これまでの私たちの想いと、これからの未来に向けた意志を表しています。CO2の見える化の取り組みも、それがきっかけの1つです。

また、投資家との対話においても、ESG投資などの新しい潮流が注目されはじめ、新たに2050年までの中長期目線のビジョンを策定(VISION BOOK2050)することになりました。そのなかで「グリーンビジネス」を打ち出し、脱炭素に向けて何ができるかを協議・検討した結果、「CO2の見える化・開示」に至ったという流れです。

ーー丸井グループといえば、サステナビリティ先進企業ですが、かなり早期から脱炭素およびCO2見える化に取り組んでいたんですね。

鈴木:はい、2014年3月期より従来のScope 1,2の算定に加え、Scope3の算定もスタート、Scope1,2,3での算定は、今年で11年目になります。当社の代表取締役青井が、投資家や有識者の方々との対話を通じて、その重要性をひしひしと感じ取っていたことが大きく影響し、グループ全体で取り組んでいくことが決まりました。

実際にCO2排出量の見える化に取り組むと、電力由来のものが約8割を占めていることがわかりました。特に主軸事業の1つである「小売り部門」で使用する電力によってCO2が排出されていたのです。

これは見過ごせない事実でした。CO2排出量の見える化・削減に取り組む担当として、強い危機感を抱きました。

角町:「SBT」や「RE100」のような具体的なKPIが立案されてたことは、社員としてはとても取り組みやすかったと感じています。小売り業界の人間は数字に執着心が強いんですよ(笑)。

具体的な目標が数字として掲げられ、早期に取り組みを進めたことにより、世の中にいいことをしていて、ステークホルダーの皆さんに評価されていることを感じながら、目標もしっかり達成できたのだと思っています。

ーー実際のCO2排出量の見える化はどのように行っていますか?

鈴木:当社は内製化対応にてScope1から3まで算定しています。社内イントラを活用し、数値の集計はExcelで行うことで、CO2排出量の見える化に対応しています。内製化対応とはいえ、戦略としての「丸井グループサステナビリティ部」、管理及び削減の取り組み実装として「グループ内環境マネジメント専門会社であるマルイファシリティーズ」が、CO2排出量の見える化の対応していることで、両部でのチェックが入る体制です。

算定した結果は、5月に行う決算にて確定したデータを用いて、6月末に有価証券報告書及びESGデータブックへ開示していますので、算定対応をする期間としては、5月中旬に約3日間まるで合宿でもするかのように算定対応に集中する期間を設けて対応を行っています。

ーー見える化を行なうなかで、課題になっていることはありますか?

鈴木:Excelを活用してCO2排出量の見える化を行うと、労力と時間がかかるだけでなく、そのデータの正確性も課題になります。正確性を担保するために、算定当初から関わってくださっているコンサルティング会社に算定時の排出係数の確認含め、算定データのチェックを実施してもらっています。そして、さらに別途、第三者検証機関にデータの検証をしてもらい、お墨つきをいただくようにもしています。

また、同じような業態の企業はどこも課題になるかと思いますが、迅速に算定を進め開示するうえで、商業施設のエネルギー量などをどこまで把握ができるかは大きなポイントです。当社の場合、マルイファシリティーズにて電力の契約から利用料の把握などを同じグループ内で完結できるからこそ、迅速な算定が可能になっていると感じています。ここは、当社グループの大きな強みと言えると思います。

――Excelを使ってCO2排出量の見える化をするにあたって、工夫していることはありますか?

鈴木: 専門知識が必要となる且つ、毎年対応する必要があるCO2排出量の算定において、担当が入れ替わっても問題なくCO2の算定ができる運用や体制作りは工夫しています。何のために取り組んでいるのか、どういう定義で各カテゴリーのCO2排出量の見える化を行なうのかなど、各事業部と密にコミュニケーションをとることや、算定における対応をマニュアル化するなど、効率化につながる改善を取り組みながら、脱俗人化を意識し組織に知見が根付くように注力しています。

――Excelでの算定ではなく、システムの導入は考えなかったのですか?

鈴木:システムの導入を検討し、アスエネの提案を聞いたこともあります。課題に感じている点を解消できるとても魅力的なサービスだなと思いました。Scope1、2については、システムで自動化して算定も可能だろうと考えてもいます。

ただ、現状Scope3の部分は複雑な定義に基づいて、排出係数の組み合わせや計算方法をExcelで設定しているため、なかなか自動化が難しいと感じています。もしシステムを使って自動算定を行うとしたら、社内の各システムへのAPI連携が個別に必要になるなど、システムの開発コストが膨大にかかることが予想されます。

そのため、まだシステム導入には検討が必要かなと感じている状況です。

2. いち早く取り組んだからこそ、得られるビジネスインパクト

ーーCO2の見える化をすることで、どのような利益またはビジネスインパクトがあったか教えてください。

鈴木:経営方針にも組み込まれ、取締役含め経営全体で取り組んでいく体制がとれたことは、会社にとって大きなインパクトであったと考えます。CO2の見える化を行い、どれだけ削減できたかについては、役員報酬に関わる数値目標となっているため、各社が連携し、目標達成に向けて削減のための取り組みを推進しています。

また2016年3月期よりESGデータブックの開示を始め、2019年には有価証券報告書にTCFDフレームワークでの気候変動に関する財務影響を開示してきたことは、早期から投資家さまと対話ができた有意義な開示であったと感じています。

定量的な利益面においては、有価証券報告書に記載している、TCFDフレームワーク内のリスクと機会において言及しています。そこで捉えた機会の1つである「サステナブルなライフスタイルの提案」は、フィンテックや小売、投資における視点でそれぞれ算出をしています。その一例としてフィンテックにおいては、クレジットカードの利用の変化やLTV向上率などを算出し、丸井グループにどのようなメリットがあるかを金額換算しています。その結果として、「サステナブルなライフスタイルの提案」は約50億円ほどのインパクトがある旨を開示しています。

さらに、2023年には「IMPACT BOOK 2023」を発表し、当社のさまざまな脱炭素、サステナビリティの取り組みにどれほどのビジネスインパクトがあるかを可視化する取り組みも行っています。

そのほか定性的には、早期にCO2排出量の見える化に取り組んできたことで今回のような取材を受けたり、省庁や教育機関から登壇の要請を受けたりすることもそれまでよりも格段に増えました。異業種の企業から協業のお申し出を受けることもあります。

ステークホルダーのみなさんとの関係が深まり、幅も広がっていることも、ビジネスインパクトの一つと言えると思います。

ーー協業というお話でいえば、2022年には株式会社ツクルバとの共創事業においてリノベーションによる脱炭素効果の計測などもなさっていますね。

森本:はい。ワークラウンジ付きコミュニティ型リノベーション賃貸住宅ブランド「co-coono(コクーノ上北沢)」のリノベーションにおけるCO2排出量を見える化しました。

「co-coono上北沢」は、新築ではなく、すでに世の中にある住宅を大切に活用することで、サステナビリティに関心の高い将来世代の方々に住んでもらいたいという想いではじめた新規事業です。

国士舘大学の国士舘大学の朝吹香菜子准教授および学生の皆さんの協力のもとCO2の排出量を見える化した結果、既存の建物を同規模新築程度の新築に建替えた場合と比較して、既存の建物解体から建設段階におけるCO2排出の84%および廃棄物排出の96%を削減することがわかりました。

また施設の運用においては、物件のお部屋や共⽤部およびワークラウンジの電⼒を、再⽣可能エネルギーでまかなうことで、CO2の削減を行っています。太陽光パネルでの⾃家発電に加え、⼊居者さまに「みんな電⼒」に加⼊への加入を推奨することで、再⽣可能エネルギー電⼒100%をめざしています。

今回のCO2排出量の見える化によって、リノベーションや再⽣可能エネルギーの利⽤が脱炭素社会の実現に向けた解決策の⼀つとなる可能性があることがわかりました。

※「co-coono(コクーノ)上北沢」の共創事業は、2023年11月に、株式会社ツクルバからバ・アンド・コー株式会社へ事業継承されています

3. お客さまと共創し、脱炭素社会の実現を

ーー消費者にとても近い、丸井グループがCO2排出量の見える化に取り組む意義はどこにあると思いますか。

鈴木:主軸事業であるフィンテックや小売を通じて、お客さまと直接接点がある企業ですので、脱炭素やサステナビリティについての選択肢をお客さまに商品やサービスとして提供することで知ってもらい、その結果、お客様の行動変容に繋げることができます。その積み重ねによって、社会を動かすムーブメントを作っていきたいです。それこそが、丸井グループがCO2の見える化に取り組む意義だと考えています。

角町:エポスカードをお持ちいただいているお客さまは、全国にいらっしゃいます。エリアに関係なく当社と接点のあるカードをお持ちのお客さまにも脱炭素に貢献していただけるよう、丸井グループでは「みんな電力エポスプラン」をご提供して再エネを利用してもらうプロジェクトを行っており、力を入れています。

「みんな電力エポスプラン」は一例にすぎず、このように店舗のある地域にとらわれることなく、お客さまと接点を多く持てる丸井グループの強みを活かしたサステナビリティの取り組み、脱炭素に向けた取り組みができることは、我々ならではであり、丸井グループが取り組む意義だと思っています。お客様にも脱炭素、地球環境を良くしている取り組みに参加してもらうことができます。お客様と共創をしていく、パートナーとして取り組んでいくことが、意義のひとつかなと感じています。

丸井グループは営利企業であり、世の中のお役に立ちつつ、持続的な成長のためには利益も意識していかなければなりません。だからこそ、例えばエポスカードのような経営資源をうまく活用しながら、CO2排出量の見える化ならびに、脱炭素に取り組んでいきたいと思います。

森本:私は二人の子どもがいるのですが、その様子を見ていると、子どもたち将来世代はサステナビリティや脱炭素に取り組む社会が当たり前になるのだなと感じています。だからこそ、今やらなくてはいけないと日々感じています。子どもたちのためにどんな地球にしたいかを日々考えながら業務に当たる日々です。

私の所属するマルイホームサービスでは約8000戸の入居者さまと物件を所有するオーナーさま、世の中(社会、お取引先様)が三方よしとなるような脱炭素実現に向けた取り組みをしていきたいと思っています。

――丸井グループとしてCO2排出量の見える化に対する今後の展望を教えてください。

鈴木:引き続きCO2排出量の見える化を行い、脱炭素社会の実現に向けてCO2削減の取り組みを進めていきます。具体的には、SBTイニシアティブのネットゼロ認

定を取得しました下記目標を達成するために、

まずは中期目標達成に向けて、引き続き店舗や施設の電力を再生エネルギー由来に切り替えていくことや、新規発電所の自社保有と長期契約を通じて再生可能エネルギー100%達成に向けた取り組みを進めていきます。

また、2026年に渋谷マルイは、技術革新が著しい耐火木材など構造の約60%に木材を使用した、日本初のサステナブルな本格的木造商業施設として生まれ変わります。従来の鉄骨造での建替時と比較して、約2,000tのCO2排出量を削減できる見込みです。環境負荷軽減を促進するサステナブルな施設を目指します。

そして、2023年発行の「ESGデータブック」内で、脱炭素社会実現に向けた移行計画を開示しておりますが、担当としての目標は、2024年度はその内容をブラッシュアップし、CO2排出量をどう削減していくかの財務計画を追加した移行計画の策定にチャレンジしていきたいと考えています。

今後はこのバージョンアップした計画内容をもとに、既存の取り組みはもちろん、新たな取り組みにも着手し、会社全体で脱炭素の取り組みを加速させていきます。

前述の「IMPACT BOOK」のなかでも触れています通り、将来世代、この先、この地球で暮らしていく人々が豊かに生きることができて、幸せを実現可能にするために丸井グループではサステナビリティに取り組んでいます。取り組み一つひとつの積み重ねて、開示していくことで、お客さまだけではなく、地域の方々はじめ多くのステークホルダーを共感の輪に巻き込んで脱炭素社会を実現します。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説