「サステナビリティ開示最新動向とデータ利活用~24年度ISSB/SSBJの改正動向を中心に~」アフターレポート

2023年6月にIFRS財団が財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(IFRS S1)と「気候関連開示」(IFRS S2)を公表しました。それを受け、日本企業のサステナビリティ情報開示の動きが今後どのように変わるのかを概説するセミナー、EY Japan・アスエネ共催ウェブキャスト「サステナビリティ開示最新動向とデータ利活用~24年度ISSB/SSBJの改正動向を中心に~」が行われました。

本セミナーの第1部は「日本企業のサステナビリティデータ開示動向と国際潮流に対する日本の課題」、第2部「今後の気候変動関連開示の方向性」を中心にその内容の一部をアフターレポートとしてご紹介します。

目次

  1. 第1部「日本企業のサステナビリティデータ開示動向と国際潮流に対する日本の課題」

  2. 第2部「〜24年度ISSB/SSBJの改正動向を中⼼に〜今後の気候変動関連開示の方向性」

  3. まとめ 

1. 第1部「日本企業のサステナビリティデータ開示動向と国際潮流に対する日本の課題」

アスエネ株式会社 Co-Founder 代表取締役 CEO 西和田浩平による第1部は「日本企業のサステナビリティデータ開示動向と国際潮流に対する日本の課題」と題して行われました。

本レポートでは国際動向を中心に紹介します。

まずは、国際的な規制の流れについて。

国際的な規制は様々なものがぞんざいしていますが、西和田はその大きな動向としてTCFD/ISSB/TNFDなどにおける情報開示は、自主的な活動からルール化された義務へと、フェーズが変わりつつあることを挙げました。

「義務化ということは開示を行わないと何らかの罰則、罰金が課せられるということ」(西和田)。

TCFDに続く、自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために設立された国際的組織TCNDは、TCFDほど開示を行っている企業は多くないものの、今後求められることになってくるであろうと西和田は指摘。

「CSRD(企業サステナビリティ報告指令: Corporate Sustainability Reporting Directive)2025年1月1日以降に適用される予定になっている」とに西和田は解説。「一部は2024年から適用がスタートし、2026年までにかけて段階的に適用範囲が広がる」(西和田)

また、現在セメント・電力・肥料・鉄鋼・アルミニウム・化学品の6つのセクターに適用されているEUの炭素国境調整メカニズム、CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、「一部は2023年10月1日から開示がスタートしており、2025年12月までが移行期間とされています。2026年1月1日から本格実施されるため、企業は対策の準備を急ぐ必要があります。さらには、現在対象の6セクターに限らず、今後は他の産業も求められる可能性があります。欧州でビジネスを行う企業は対策が急務です」(西和田)

そして、アメリカでは史上最大の気候変動対策に関する法律インフレ抑制法(IRA)が2022年に成立しました。製造業に対して多額の税額控除を予定しており、世界中の企業が米国に1000億ドル以上の clean-techの産業の新興を促す原動力となっています。また米国証券取引委員会 (SEC)にて2024年3月、米国証券取引委員会は気候関連開示規則を採択しました。Scope3の開示義務は取り下げたもののScope 1-2 排出量の開示を義務付けられました。

「約1万社以上の企業が対象となっており、Scope 1-2 だけとはいえ、その影響は大きいものと考えられます」(西和田)。

2. 第2部「〜24年度ISSB/SSBJの改正動向を中⼼に〜今後の気候変動関連開示の方向性」

EY Japan CCaSS エグゼクティブディレクター 山口岳志氏による第2部は「〜24年度ISSB/SSBJの改正動向を中⼼に〜今後の気候変動関連開示の方向性」と題して行われました。

「IFRS財団傘下のInternational Sustainability Standards Board(ISSB)が策定するサステナビリティ開示基準の「IFRS S1」と「IFRS S2」は任意開示です。しかし、ISSBは各地域の規制当局がこれに準拠して義務的な開示項目を策定することを想定して「IFRS S1」「IFRS S2」を作成した」と山口氏。

日本はそれに基づき、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がサステナビリティ開示基準の草案を公表しました。公開草案を基に2025年のSSBJ基準の正式決定に向けた検討が進められていきます。

「2025年にはSSBJ基準が最終化される予定となっているため、日本企業も上場企業を中心に、法定開示基準に沿ったサステナビリティ開示へ向けた取り組みが必要になってきます」(山口氏)。

本レポートでは「IFRS S2」についてを中心に紹介していきます。

山口氏はTCFDとの比較で「IFRS S2」を解説しました。

「ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの項目について開示を求める点についてはTCFDとIFRS S2に違いはなく、ダブルマテリアリティを要求しない、シングルマテリアリティである点についても同様です」と山口氏。ところが、以下、各項目ごとに見ていくと、その内容に相違点があることがわかるでしょう。

①ガバナンス

「TCFDでは気候関連のリスクと機会に係る当該組織のガバナンスについて、監視体制と役割を開示するだけでよかったものが、IFRS S2においては監督者がどのようなスキル能力をもっているのか、どれくらいの頻度で情報がもたらされるのか、戦略や意思決定、リスク管理のプロセス、モニタリングやモニタリングの体制など非常に細かい部分まで開示を求められるようになります」と山口氏は解説しました。

②戦略

「TCFDでは重要な気候変動関連のリスクと機会、対処するため戦略や財務に与える影響、気候変動シナリオに沿ったレジリエンスについて開示を求められました。一方、IFRS S2では、企業のリスクと機会に対しての対応方法について、 ①気候関連のリスク及び機会、②ビジネス・モデル及びバリュー・チェーン、③戦略および意思決定、④財政状態、財務業績およびキャッシュ・フロー、⑤気候レジリエンスの項目ごとに詳細な開示が求められます」(山口氏)

さらに細かく見てみると、それぞれ

【①気候関連のリスク及び機会】

• 企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る気候関連のリスク及び機会 

• 当該リスクを物理的リスク/移行リスクのいずれと考えているか 

• どのような時間軸(短期、中期又は長期)において発生すると見込むか 

• これらの定義がどのように企業の戦略的意思決定に用いる計画期間と整合するか 

【②ビジネス・モデル及びバリュー・チェーン】

• リスク及び機会が企業のビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える影響を理解できるようにする情報

• 企業のビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える現在/将来の影響

• ビジネス・モデル及びバリュー・チェーンのどの部分に気候関連のリスク及び機会が集中しているか(地域・施設)

【③戦略及び意思決定】

• 気候関連のリスク及び機会にどのように対応してきたか、対応する計画であるか(気候関連の目標、達成計画)

 • 企業のビジネス・モデルにおける現在/将来の変更(資源配分) 

• 直接的な緩和及び適応の取組み内容(ビジネス・モデル、戦略、資源配分、生産プロセス、製品、 労働力などの変化を含む)  

• 間接的な緩和及び適応の取組み内容(顧客やサプライヤーとの協働など)  

• 気候関連の移行計画を有している場合の当該移行計画 

• 気候関連の目標をどのように達成することを計画しているか 

• 企業がどのように資源を確保しているか、どのように確保する計画であるか

• 計画の進捗に関する定量的及び定性的情報 

【④財政状態、財務業績およびキャッシュ・フロー】

 • リスク及び機会が、企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与えた/将来与えると予測され る影響 

• 次の年次報告期間中に関連する資産/負債の簿価に重要な修正が生じる気候関連のリスク及び機会
• 財政状態がどのように変化すると見込んでいるか(投資計画及び処分計画、資金源)

• 財務業績及びキャッシュ・フローについて、どのように変化すると見込んでいるか

【⑤気候レジリエンス】

• 気候関連の変化、進展及び不確実性に対する企業の戦略・ビジネス・モデルのレジリエンスを理解でき るようにする 

• 報告日時点における企業の気候レジリエンスの評価

• 企業の戦略及びビジネス・モデルについての評価に対する影響

• 気候レジリエンスの評価において考慮された重大な不確実性の領域 

• 企業の戦略及びビジネス・モデルを調整又は適応する企業の能力(金融資源、既存資 産の再配置、投資の影響) 

• 気候関連のシナリオ分析の実施内容

• インプットに関する情報(シナリオ、シナリオの情報源、範囲、移行リスク/物理的リスクの 別、最新の国際協定と整合するか、レジリエンスの評価に関連すると判断した理由、時 間軸、事業の範囲

• 分析において前提とした主要な仮定(事業を営む法域における気候関連の政策、マクロ経済の傾向、地域の気象パターンや人口統計等の変数、エネルギーの使用や組み合わせ、技術の進展) 

などが開示項目となることを山口氏は解説しました。

③リスク管理

「TCFDでは気候関連リスクの評価・管理するプロセスを中心に開示が求められましたが、IFRS S2では、気候関連のリスク及び機会を識別、評価、優先順位付け、モニタリングする企業のプロセスを利用者が理解できるようにすることが求められます」(山口氏)。

④指標

「TCFDでは気候関連のリスクと機会を評価及び管理する際に用いる指標と目標について開示することを求められました。IFRS S2でも重要な気候関連リスク及び機会をどのように測定・管理・モニタリングしているかを投資家などの利用者が理解できるようにすること、利用者がパフォーマンス(企業が設定した目標を含む)をどのように評価しているか理解できるようにすることが求められます」(山口氏)

より詳しく見てみると

【①気候関連の指標】

• Scope1、Scope2及びScope3のGHG排出量の絶対総量
• 温室効果ガス排出を測定するために用いた、測定アプローチ、インプット及び仮定、仮定の理由
• Scope1・2のGHG排出量については以下それぞれ開示

• 関連会社及びジョイント・ベンチャー、非連結子会社及び他の連結会計グループに含まれない関係会社による排出量を、連結会計グループによる排出量と別個に開示 

•  ロケーション基準に基づくScope2のGHG排出量及び排出源に関する契約上の取決めに関する情報

• Scope3の開示
• Scope3のGHG排出量の測定に含めたカテゴリー

• 気候関連の物理・移行リスクに対して脆弱な資産・事業活動の数値及びパーセンテージ

• 気候関連の機会と整合した資産又は事業活動の数値及びパーセンテージ 

• 内部炭素価格(ICP)。意思決定におけるICPの適用有無

• 役員報酬と結び付いているもののパーセンテージ

• 「IFRS S2号の適用に関する産業別ガイダンス」に記述されている産業別トピックに関連する指標

【②気候関連の目標】 

• 企業自身が設定した定量的及び定性的な気候関連の目標

• 目標を設定するために用いる指標、目的、適用される企業の部分、適用期間、基準年、マイルストー ン及び中間目標、絶対量/原単位の別、最新の国際協定の扱い 

• 目標をレビューするアプローチ、目標に対する進捗をどのようにモニタリングするかに関する情報(第三者検証の有無、レビューするプロセス、進捗をモニタリングするために用いる指標、見直しの有無)

• 目標のそれぞれに対するパフォーマンス、及び企業のパフォーマンスの傾向又は変化についての分析に関する情報

• 温室効果ガス排出目標の細目 

• 対象とする温室効果ガスの種類 

• Scope1~3それぞれの目標 

• カーボン・クレジットの使用有無(依拠する程度、検証・認証のスキーム、種類 など)

といった開示項目である点がTCFDとは異なると山口氏は解説しました。

また、「IFRS S2では1次データを優先して用いるよう記載もされています。それに伴い環境省は2024年3月をめどに、Scope3の1次データを使った算定方法の方針を示す予定となっています」(山口氏)。

一次データをどのように取得していくかについての取り組みも企業に求められるようになっていきます。

3. まとめ 

国際的な情報開示義務化の流れのなかで、「IFRS S2」ではその開示項目について詳細に規定されていることがわかると思います。こうした流れを受けて、企業はより開示に対して詳細な取り組みが求められるようになるでしょう。

本格的な開示要求前に、今から備えておくことが企業にとって喫緊の課題になっていくに違いありません。

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