核融合発電の実用化は可能?課題や最新動向について解説

核融合発電の実用化について、わかりやすく解説します!化石燃料を使用しないため、エネルギー不足と環境汚染の問題を同時に解決できる核融合発電。現在その実用化について、世界中で期待されています。

しかし技術的なハードルも高いことから、核融合発電が実現するまでにはまだ少し時間がかかるとも言われています。本記事では核融合発電の仕組みやメリット、実用化にあたっての課題、世界各国の核融合発電に向けた動向などをご紹介します。

目次

  1. 核融合発電とは

  2. 核融合発電実用化にあたっての課題

  3. 核融合発電に関する世界各国の動向

  4. まとめ:核融合発電実用化に向けた動向に注目しよう!

1. 核融合発電とは

核融合は「地上の太陽」とも言われており、莫大でクリーンなエネルギーを生み出すことができます。核融合発電の概要について解説します。

核融合の仕組み

質量の小さな原子の原子核同士が融合して、別の少し大きな原子核となることを核融合反応と言います。核融合反応が起こると、膨大なエネルギーが発生します。この核融合反応を人工的に起こして、そこで発生したエネルギーを利用する研究が進められています。

出典:文部科学省「核融合を理解する10のキーワード」

核融合エネルギーで発電するメリット

核融合エネルギーの利用方法として、主に検討されているのが発電です。核融合発電には4つのメリットがあります。

(1)燃料資源が豊富:海水から燃料を採取できる

(2)環境にやさしい:二酸化炭素が発生しない

(3)安全性が高い:暴走や爆発の心配がない

(4)発電効率が良い:燃料1gが石油8tに相当する

これらのメリットから核融合発電は、持続可能な社会に調和する究極のエネルギー供給方法と考えられています。

出典:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構「ITER 持続可能なエネルギーの探求」p2

原子力発電との違い

同じく「核」を利用した発電方法として、原子力発電があります。核融合発電が核融合反応を発生させるのに対し、原子力発電では核分裂反応を発生させる点が大きく異なります。核分裂発電では、使用済み燃料の再処理にともなって、高レベル放射性廃棄物が発生します。一方核融合発電では、高い放射能レベルを有する使用済み燃料がそもそも発生しません。

出典:一般社団法人日本原子力文化財団「原子力発電のしくみ」
出典:内閣府「核融合とは何か」p1

2. 核融合発電実用化にあたっての課題

さまざまなメリットがある核融合発電ですが、今のところ実用化には至っていません。核融合発電の実用化に向けた課題について解説します。

巨額のコストが必要

核融合発電では、発電施設の建設に巨額なコストがかかります。現在フランスに建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)は、総建設費が3兆円近くにも上り、日本はその約1割を負担することとなっています。

ITERはあくまで実験炉であり、その後原型炉(実際に発電ができるかテストするための炉)や商業炉を建設するには、また別途費用が必要です。日本は毎年200億円を核融合の推進に支出していますが、その費用対効果も検証する必要があります。

出典:NHK「建設進むITER~核融合計画・最新状況」(2022/9/7)
出典:原型炉設計特別チーム「さあ、エネルギー新時代がやってくる」

技術的なハードルの高さ

核融合発電においては、高度な技術的問題が多数存在します。

  • かつてない強磁場・大型の伝導コイルが必要

  • 超低温と1億℃を共存させなければいけない

  • プラズマを浮かしながら燃やし続けなければいけない

  • 燃料を閉じ込めつつ排気は取り出す必要がある

  • ロケットノズル並みの熱処理が必要

主なものだけでもこれだけの課題があり、これらを同時にクリアすることは、最新の材料や技術を駆使しても難易度が高いものとなっています。

出典:特定非営利法人国際環境経済研究所「核融合炉はどこまで小型化できる?(その1)」(2021/9/4)

人材の育成

特に日本においては、核融合分野において将来必要となる人員数と、現在核融合開発に携わる人員数に大きな隔たりがあります。大学での核融合研究のウェイトや博士課程進学率は低下傾向で、ITER職員における日本人割合も3%程度に止まっています。今後は長期的な計画の下で継続的に、原型炉開発を担う人材を育成・輩出・確保していくことが必要です。

出典:文部科学省「我が国における核融合研究開発の展望」p15,17(2019/2/13)

3. 核融合発電に関する世界各国の動向

核融合発電は画期的なエネルギー供給方法として、世界中で注目されています。核融合発電に関する世界各国の動向をご紹介します。

ITER計画

世界各国が協力して進めているのがITER計画です。2007年に日本・EU・米国・ロシア・中国・韓国・インドの「7極」間でITER協定が締結され、フランスに核融合実験炉を建設しています。日本としては、ITER計画を通じて核融合発電の基幹技術を早期に獲得することによって、関連産業の国際的な競争力を向上させることを目指しています。

出典:文部科学省「核融合研究開発の現状」p4(2022/9/30)

米国の動向

2022年4月19日にホワイトハウスから、「商業核融合イニシアチブ」の発表がありました。その中で米国としては、風力や太陽光で米国内に産業を創ることができなかった反省の下、核融合で新産業を興すとしています。米国では直接政府が核融合炉を運営するのではなく、民間が開発を推進する仕組みとし、さらにスタートアップを積極的に支援する方針です。

出典:内閣府「核融合を巡る技術・国際動向について」p7-9(2022/9/30)

中国の動向

中国では、国営企業であるNational Nuclear Corporationへ政府が資金援助し、トカマク型の実験装置による核融合開発を進めています。このプロジェクトでは、最新の研究成果として、核融合エネルギーの維持で世界最長となる1056秒を達成したことが発表されています。また民間でも、エネルギー会社であるENNグループが、1億ドル以上と言われる額を核融合プログラムへ出資しています。

出典:経済産業省「令和4年度原子力の利用状況等に関する調査」p216(2023/3)6

ロシアの動向

ロシア連邦政府は、核に対する包括的な技術開発・発展計画であるDETSプログラムを実施しており、その中で熱核融合実験を行っています。DETS プログラムはロシアの国営原子力企業である ROSATOMからも資金の提供を受けており、2021年時点では日本円換算で約126億円の予算が承認されていますが、2030 年までの期間に予算増額とプロジェクトの拡張を行うことが検討されています。

出典:経済産業省「令和4年度原子力の利用状況等に関する調査」p251(2023/3)

出典V. I. Ilgisonis, et al.,「On the Program of Russian Research in the Field of Controlled  Thermonuclear Fusion and Plasma Technologies」Plasma Physics Reports, 2021年7月19日

4. まとめ:核融合発電実用化に向けた動向に注目しよう!

核融合発電は、太陽が熱や光を放つ原理である核融合反応を人工的に起こし、その際に発生する莫大なクリーンエネルギーを発電に利用しようというものです。核融合発電による、エネルギーの枯渇や地球温暖化などの問題解決が期待されています。

しかし核融合発電には、費用、技術、人材などの面で多くの課題が存在しており、まだ実用化の段階には至っていません。世界各国が協力して進めているITER計画の他に、それぞれの国でも政府が支援する形で官民一体での研究や開発が行われています。

核融合発電の実用化は、企業の持続可能な事業活動にも大きな影響を及ぼすことが予想されます。核融合研究・開発の動向に注目し、実証実験への協力や開発事業への投資なども積極的に検討しましょう。

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