日本における核融合発電の現状は?企業事例も紹介

日本における核融合発電の現状について、わかりやすく解説します!核融合発電はエネルギー効率が高いうえに、温室効果ガスをほとんど排出しないため、エネルギーや環境に関する諸問題を解決できる画期的な発電方法です。

日本でも核融合発電の実現に向け、様々な取り組みが進められています。本記事では核融合発電の概要や、世界各国が連携して取り組むITER計画における日本の役割、核融合発電に関する日本企業の事例などをご紹介します。

目次

  1. 核融合発電の概要

  2. 核融合発電を巡る状況

  3. 核融合発電に関する日本企業の事例

  4. まとめ:核融合発電に着目し、実用化に向けた支援をしよう!

1. 核融合発電の概要

核融合発電は、核融合エネルギーを使った発電方法です。原子力発電と混同されがちですが、まだ実用化されていない技術です。核融合発電の概要について解説します。

核融合エネルギーとは

核融合エネルギーとは、核融合反応によって生じるエネルギーです。核融合反応とは、質量の小さな原子の原子核同士が融合して別の大きな原子になることを指し、太陽の内部で起きている現象です。

この核融合反応を人工的に起こし、発生した莫大なエネルギーを電気や熱として取り出し利用する研究が進められています。核融合を起こすための資源である重水素と三重水素は海水から採取できるため、資源が少なく海に囲まれた日本にとって、核融合エネルギーの実用化には大きなメリットがあります。また核融合エネルギーは二酸化炭素も排出しないため、環境問題の解決も期待されています。

出典:文部科学省「核融合を理解する10のキーワード」

核融合と発電

核融合エネルギーの開発は「地上に太陽を作る研究」とも言われていますが、主に発電への利用が目標となっています。核融合エネルギーの研究は以下の三段階に分かれているとされています。

第一段階:核融合反応によるエネルギーが大きくなる状態を達成

第二段階:核融合エネルギーが長時間持続する状態の達成

第三段階:実際の発電および経済性向上の達成

現在は第二段階の途中ですが、技術的に困難な課題が多数存在しています。たとえば、核融合反応を起こすためには、1億度超という高温まで燃料を加熱してプラズマという状態にする必要がありますが、それだけの高温下では固体の状態を維持できる物質はありません。

そのためプラズマをどのような容器に閉じ込めるかが問題であり、磁場やレーザーなどを用いた技術が研究されている最中にあります。実際に発電を行うのは第三段階であり、核融合発電実用化までの道のりはまだ道半ばです。

出典:文部科学省「核融合研究」

核融合発電における放射能リスク

核融合反応においては、事故で爆発するなどの心配はありません。しかし、核融合の際発生する放射線(中性子)にさらされる炉内は、放射能を帯びたりもろくなったりするリスクがあるため、適合した材料の開発が求められています。さらに放射能を帯びた材料は、低レベル放射性廃棄物として適切な処分が必要となります。

出典:文部科学省「核融合を理解する10のキーワード」

2. 核融合発電を巡る状況

核融合発電の研究は、世界的な協力体制の下で進められています。その柱となるのが、日本も参加しているITER(イーター)計画です。核融合発電を巡る状況について解説します。

ITERについて

核融合エネルギーが利用可能であることを実証するために、日本・欧州・米国・中国・ロシア・韓国・インドが加盟しているのがITER協定で、参加国を「7極」と呼びます。2007年にITER協定発行とともにフランスに本部を置くITER機構が発足し、世界30か国以上から1000人を超える職員が集められています。

日本にも茨城県那珂市にITER日本国内機関(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構)があり、日本における核融合研究開発の中心となっています。またITER計画の次には、核融合原型炉DEMOという構想もあり、核融合反応の長時間維持や実際の発電などを研究することが計画されています。

出典:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構「ITER 持続可能なエネルギーの探求」p2(2023年11月)1

 ITERにおける日本の役割

ITER計画では、高さおよび直径が30mもある核融合実験炉をフランスに建設中です。各部品はITER協定参加7極がその9割を各国内機関から調達することとなっています。日本も主要な部品である大型超電導コイルや、中性粒子入射加熱装置などの調達・納品を担っています。

部品の開発や製作は国際合意されたスケジュールに沿って行われており、完成した装置や機器は、フランスまでは海路、フランスでは専用の道路でITER建設現場へ運搬されています。

出典:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構「ITER 持続可能なエネルギーの探求」p2-4

3. 核融合発電に関する日本企業の事例

ITER機構を中心に実用化が進められている核融合発電ですが、日本の企業も関連したビジネスを次々と立ち上げています。核融合発電に関連する日本企業の事例をご紹介します。

株式会社Helical Fusion

株式会社Helical Fusionは、2021年に設立されたスタートアップ企業です。核融合科学研究所出身の研究者を中心に、「核融合エネルギーを実装した持続可能な世界を実現する」をミッションに掲げています。KDDI株式会社などの出資を受け、核融合炉の社会実装を目指しています。

出典:KDDI株式会社「核融合発電に取り組むHelical Fusionへ出資」(2022/11/8)

出典:株式会社Helical Fusion「Home」

京都フュージョニアリング株式会社

京都フュージョニアリング株式会社は京都大学発のスタートアップ企業で、核融合炉関連装置・システムの研究開発およびプラントエンジニアリングを手がけています。電源開発株式会社(Jパワー)などから出資を受け、世界初の「核融合炉からの熱取り出し」と「発電」に用いられる機器を開発するための核融合発電試験プラント「UNITY」の建設を進めています。

出典:電源開発株式会社「京都フュージョニアリング株式会社へ出資しました」(2023/5/17)
出典:京都フュージョニアリング株式会社

三菱重工株式会社

三菱重工株式会社ではITER計画に参画して、「トロイダル磁場コイル」「ダイバータ」などの主要機器を製作しています。またITER計画と並行してBA活動(ITER計画の効率的・効果的な研究開発を支援・補完する活動)が進められていますが、三菱重工株式会社においてもITER計画への参画で培われた技術や知見を活かし、熱から電気を取り出す発電実証を目的とした核融合原型炉の開発に挑戦しています。

出典:三菱重工株式会社「核融合エネルギー」

出典:日本原子力研究開発機構「用語解説 BA活動」2017年

4. まとめ: 核融合発電の動向に今後も着目しましょう!

核融合エネルギーは「地上の太陽」とも呼ばれるクリーンなエネルギーで、核融合エネルギーによる発電は環境問題・エネルギー問題を解決するものとして、大きな期待が寄せられています。

世界各国が協力して推進しているITER計画においては、日本も主要部品を開発・製作するなど重要な役割を負っています。また核融合発電に関しては、大企業だけでなくスタートアップ企業も、電力会社などからの出資を受け研究開発などの事業に参入しています。

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