Aqueductによる水のリスク管理とは?企業の活用事例も紹介

企業が事業活動を行う上で知っておくべき水リスク管理と、それを支援するAqueductについてわかりやすく解説します!洪水や水不足などの水リスクは人道上の脅威であり、企業の事業活動にも重大な影響を及ぼします。水リスクを管理する際に役立つのが、WRIが提供しているAqueductです。本記事では企業が考慮すべき水リスクとはなにか、Aqueductとはなにかについて説明します。また、日本企業によるAqueductの活用事例もご紹介します。

目次

  1. 企業が考慮すべき水リスク管理

  2. Aqueductの概要

  3. 企業によるAqueduct活用事例

  4. まとめ:Aqueductを活用して、水リスクを管理しよう!

1. 企業が考慮すべき水リスク管理

水リスク管理の必要性

企業が水に関連するよくない事象を経験する可能性のことを、「水リスク」と言います。洪水や干ばつ、水を媒介とする病気などの公衆衛生上の危機は、代表的な水リスクです。近年の気候変動は、水リスクに関する問題を悪化させていますが、きれいな水の供給は人間社会の維持には不可欠であり、水リスクは人道上の大きな脅威にもなっています。

出典:環境省「企業が知っておくべき国内外の水リスク」p6(2021/12/24)
出典:WRI「Aqueduct」

企業の水リスク管理におけるポイント

企業が水リスクを管理する際に重要な点は、以下の通りです。

  • 自社の事業活動が自然へ与える影響の評価

  • 自社のバリューチェーン全体が水に与える影響の評価

  • 事業を展開する地域の特性に合わせて目標を設定する

  • 企業の状況に応じた目標設定

大気汚染が地球規模の目標設定で管理できるのに対し、水は局地的な資源であるため、水の課題は地域ごとに管理しなければなりません。

出典:WRI「5 Takeaways for Companies Setting Science-based Freshwater Targets」(2023/11/6)

消費者の水使用にも企業の対応が必要

企業の水管理においてはバリューチェーン(企業活動における、他の企業や消費者との連なり)全体を考慮することが必要ですが、特に消費者の水使用へ対処することが重要です。家庭用水の需要は過去50年間で6倍にもなっており、農業や工業の需要をはるかに上回っています。

世界の水需要を充足するには、2030年までに供給を56%増加させるか、需要を56%削減しなければなりません。企業は節水に寄与する製品の開発や水再生事業、消費者啓発キャンペーンなど、社会の水の安全性を向上させる取り組みが必要です。

出典:総務省「平成30年版情報通信白書」p59
出典:WRI「The Next Phase of Corporate Sustainability: Addressing Consumer Water Use」(2023/10/20)

2. Aqueductの概要

Aqueduct(アキダクト)は水管理に役立つプラットフォームで、水に関するさまざまな情報が集約されています。Aqueductの概要について解説します。

Aqueductとは

Aqueductは非営利団体WRI(World Resorce Institute:世界資源研究所)が提供するインターネット上のデータプラットフォームで、水リスクに関するあらゆる情報が集約されています。水リスクを特定し、理解して対処するためには、透明性がある公開データが必要です。

Aqueductに掲載されたツールは、検証された公開情報を使用して、洪水や干ばつ、水不足指標などの水リスクを地図化しています。またツール提供だけでなく、Aqueductチームは企業や研究機関などと連携し、水資源管理におけるベストプラクティスを支援しています。

出典:WRI「World Resorce Institute」
出典:WRI「Aqueduct」

Aqueductツールの内容

Aqueductでは、以下のようなツールが公開されています。

  • Aqueduct水リスクマップ:複数の場所にわたる水リスクへの曝露を評価

  • Aquduct国別ランキング:国内および準国内の水リスクを比較

  • Aqueduct食物:農業と食料安全保障に対する水リスクを特定

  • Aqueduct洪水:洪水リスクを特定し、洪水防御への投資コストと利点を分析

これらのツールには誰でも無料でアクセスし利用することができます。Aqueductにはツールのほかにも、データ集やコラムなどが数多く掲載されており、水リスクについて理解を深めるのに役立ちます。

出典:WRI「Aqueduct Tools」

Aqueductが利用されるシーン

Aqueductは多くの企業や、国・地方自治体の職員、研究者、水道分野の実務家などによって利用されています。「Aqueduct水リスクマップ」は世界各地の拠点の水リスクを評価する際などに使用されています。「Aqueduct国別ランキング」は、国レベルでの水リスクを伝えるために使用されています。

「Aqueduct食物」は農業や食料安全保障に関する将来の水リスクを特定する際などに使用されています。「Aqueduct洪水」は洪水リスクを回避して水災から最大の回復力を得るためにはどこに投資するべきかを決定するために使用されています。

出典:WRI「Frequently Asked Questions」
出典:WRI「Aqueduct User Stories」
出典:農林水産省「食料・農林水産業の気候関連リスク・機会に関する情報開示(実践編)」p32(2022/6)

3. 企業によるAqueduct活用事例

Aqueductは広く公開されたプラットフォームであり、日本でも多くの企業が利用しています。企業におけるAquductの活用事例をご紹介します。

株式会社リコー

株式会社リコーでは、「Aqueduct水リスクマップ」を活用し、生産拠点の水不足指標および水枯渇リスクを確認しています。「Aqueduct水リスクマップ」で設定されている指標のうち、「基礎の水不足指標」と「将来の水不足指標」 が「高」以上で、かつ「年ごとの変動」が「中~高」 の事業拠点を「水ストレス地域」と位置付けると、リコーグループの総取水量のうち、水ストレス地域からの取水率は10%未満であることが確認されました。

出典:株式会社リコー「水資源の有効活用」

株式会社フジシールインターナショナル

株式会社フジシールインターナショナルでは、Aqueductを活用して、渇水など水リスクの高い地域を特定しています。Aqueduct上で「総合水リスク」が「非常に高い」と表示される地域には製造拠点がないことを、2022年の調査において確認しています。今後も製造拠点における水リスクを把握するため、Aqueductを活用した調査を定期的に実施する予定です。

出典:株式会社フジシールインターナショナル「水資源に関する取り組み」

日本電気株式会社(NEC)

日本電気株式会社(NEC)では、水リスクが同社グループの各生産拠点やサプライチェーンにどのような影響を及ぼすかを評価・確認しています。その1次調査としてAqueductを活用し、水量・水質・風水害に関する物理的リスク、水に関する税制改正や政策などの規制リスク、企業のESG行動に関する評判リスクの3つに分けて状況を把握し、水関連のリスクが高い拠点を特定したうえで、詳細な2次調査を実施しています。

出典:日本電気株式会社「水リスク管理と水資源の有効活用」

4. まとめ:Aqueductを活用して、水リスクを管理しよう!

洪水や干ばつ、水に関係する公衆衛生上の問題などを水リスクと言います。企業が事業活動を行う上で、水リスクの把握や管理は重要課題となります。企業は地域ごとに異なるさまざまな水リスクへ対処し、消費者の水利用を含むバリューチェーン全体の水利用についても配慮する必要があります。

WRIが提供するAqueductは水リスクに関するデータプラットフォームで、企業が水リスクに対処する際に「Aqueductツール」などを利用できます。実際に多くの企業がAqueductを利用して自社の水リスクを評価するなどしています。Aqueductを活用して自社のビジネスにおける水リスクを特定し、しっかり管理しましょう。

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