FIT・固定価格買取制度の仕組みとメリットをわかりやすく解説

FITや固定価格買取制度などの言葉を目にすることはあってもその意味するところや詳しい内容はあまり知られていません。FIT(Feed-in Tariff)とは再生可能エネルギーを固定価格で買い取る制度のことをいい、再生可能エネルギーの普及を目的に2012年に国が定めたものです。FIT・固定価格買取制度がなぜ創設されたのか、その背景、仕組み、そして今後の課題やメリットについてまとめました。

目次

  1. FIT・固定価格買取制度の仕組みと制度が創設された背景

  2. FITで買取できるエネルギーの種類

  3. FITによるメリットとは?

  4. FITで実際に買い取ってもらう方法とは

  5. FITの今後の課題と取り組み

  6. まとめ:FITについて知ることは日本のエネルギー問題を知ること

1. FIT・固定価格買取制度の仕組みと制度が創設された背景

そもそもFIT・固定価格買取制度とは?

FIT(Feed-in Tariff)とは正式にいうと「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のことです。再生可能エネルギーの普及を目標に、事業者や個人が再生可能エネルギーで発電した電力を、一定の期間一定の価格で電力会社が買い取ることを国が約束した制度です。「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に基づき2012年7月に開始されました。

これにより企業が再生可能エネルギー発電事業に着手しやすい環境が整い、一般住宅では太陽光発電を取り入れやすくなるなど、それぞれのメリットが生まれました。このようにして国は再生可能エネルギー発電を日本に定着させることを目指したのです。

出典:資源エネルギー庁『固定価格買取制度 制度の概要』

背景には日本のエネルギー自給率の問題がある

FIT・固定価格買取制度が生まれた背景には日本のエネルギー自給率の問題があります。日本は燃料資源に乏しく、そのためエネルギー自給率は非常に低い状況です。エネルギー自給率は他国の輸入に頼らずどこまで一次エネルギーを確保できるかということで決まります。

一次エネルギーとは石油・石炭・天然ガスなど、加工される前のエネルギーのことをいいますが、日本は石油資源への依存度が高く、そのほとんどを海外から輸入しています。そのため国際情勢の影響で安定した電力の供給が困難になる場合もあり、エネルギー自給率を上げることは早急な課題です。

出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー2020「エネルギーの今を知る10の質問」』

FIT・固定価格買取制度の仕組みは?

それではFIT・固定価格買取制度の仕組みはどのようなものなのでしょうか。固定価格買取制度は、再生可能エネルギーで発電した電力を電力会社が一定期間定価格で買い取りますが、その買い取る費用の一部をその電力会社の利用客から賦課金という形で集金します。そのようにしてまだコストのかかる再生可能エネルギーの導入を支えていくという仕組みです。

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック2020年度版』(p.4)

2. FITで買取できるエネルギーの種類

再生可能エネルギーとは?

FIT・固定価格買取制度で買い取りができるのは再生可能エネルギーのみです。再生可能エネルギーとは、資源が有限な化石エネルギーとは違い、太陽光、風力など自然界に常時存在するエネルギーのことを指します。特徴として、自国の自然環境を生かしながらエネルギーを生産することが可能で永続性があり、さらには環境の負荷になる温室効果ガスを排出しないというメリットがあります。

再生可能エネルギーの種類

再生可能エネルギーは、太陽光発電、地熱発電、水力発電、風力発電、バイオマス発電、また大気中の熱、その他自然界に存在する熱、と定められています。固定価格買取制度では、上記の「太陽光」「水力」「風力」「バイオマス」「地熱」の5つのうちのどれかを使用し、かつ国が定めた要件を満たした新たな事業計画を策定してそれに基づき発電事業を始めたものが対象です。

再生可能エネルギーの買取価格の推移 

FIT・固定価格買取制度の施行当初は太陽光発電の買取価格は2倍になりましたが、現在は少しずつ下がっている状況です。設備価格が安価になれば買取価格も下がる傾向があり、これはほかの再生可能エネルギーにも言えることです。ただし固定価格買取制度では開始年度の価格で固定されるのでそれ以上下がるわけではありません。企業の太陽光発電などの固定価格買取制度の買取期間は20年です。満了後は売電価格は下がりますが、買い取ってくれる電力会社に引き続き売電は可能であり、蓄電して安心を確保するという方法もあります。

<太陽光発電(2,000kW)の各国の買取価格>出典:資源エネルギー庁『太陽光発電について』(2022年12月)(p.6)

3. FITによるメリットとは?

(1)日本のエネルギー自給率を上げることができる

FIT・固定価格買取制度は、何よりもまず日本のエネルギー自給率を上げることが可能という利点があります。再生可能エネルギーで自国で電力を生産し輸入に頼らないシステムを構築できれば国際情勢により電力供給が左右されることはありません。さらに自給率を上げることで、余剰電力まで確保でききるようになれば、他国にエネルギーの輸出を目指すこともできるのです。

(2)電気を安く使える 

再生可能エネルギーでの発電は現在まだコストのかかるところもありますが、固定価格買取制度の導入にともない普及は加速しています。FIT制度創設以降、水力を除く再生可能エネルギーの発電量割合は2.6%(11年)から9.2%(18年)に増加しています。市場が活発になることで発電コストが下がっており、

出典:資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案(2020年9月)(p.6)

日本でも、2021年7月に経産省が2030年の電源別発電コスト試算の結果を発表し、太陽光発電が30年時点で原発より安くなるという試算を示し、「再エネは価格が高い」という考えはもはや非常識となりつつあります。

出典:資源エネルギー庁『発電コスト検証に関するこれまでの議論について』(2021年7月12日)(p.4)

(3)地球温暖化抑止を含めた環境保護に参加できる 

自然環境を生かした再生可能エネルギーの普及は今後の社会を維持していく上でも非常に重要です。2016年のパリ協定でも、21世紀後半までに温室効果ガス削減を目標にしています。日本の温室効果ガスの排出量は東日本大震災以降増加しましたが、2018年以降は減少しています。今後もさらに削減を目指し世界に貢献していかなくてはなりません。

日本の温室効果ガス排出量の推移

出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』

4. FITで実際に買い取ってもらう方法とは

どのような手続きがいるのか

それではFIT・固定価格買取制度にはどのような手続きが必要なのでしょうか。発電設備の設置から電力供給開始までにはさまざまな手続きがあります。固定価格買取制度においては買取価格、買取期間の適用を受けるためには、再生可能エネルギー発電設備について国に事業計画認定の申請をしなくてはいけません。事業計画認定にあたり、あらかじめ電力会社から系統接続について同意を得る必要があります。それぞれのケースに応じて手続きの方法も変わるのでよく確認することが大事です。

出典:資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギー 認定手続関係 新規認定申請』

買取価格・買取期間は

固定価格買取制度の買取価格は経済産業大臣が関係省庁などの意見を参考に毎年年度開始までに定めることになっています。価格は各電源ごとや売電規模など通常に必要となるコストをもとに、価格の目標や適正な利潤などを考慮し決められるため、年度ごとの確認が必要です。買取期間は太陽光、風力、水力、バイオマスは20年、地熱は15年です。また太陽光発電ででも10kW未満のものは10年となっています。

出典:資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギー買取価格・期間等(2021年度以降)』

買取対象は発電量全量か

「全量買取制度」と呼ばれるものがありますが、それは電力会社の系統に送電をされた電力を全て買い取る制度のことです。電気の供給方法には再生可能エネルギー電力だけを系統連系する「全量配線」と家庭や企業に供給されるものと同じ引き込み線に接続する「余剰配線」の二通りあります。太陽光発電設備においては10Kw未満のものは余剰配線のみです。

けれどこの区分以外ではどちらかを選択することができます。どちらにせよパワーコンデショナーなどの発電設備の電気は引かれるので全量が売電とはなりません。

5. FITの今後の課題と取り組み

国民の負担・再生可能エネルギー発電促進賦課金

FIT・固定価格買取制度の課題として、電力会社が電力を買い取る費用に含まれる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(以下再エネ賦課金)の問題があります。再エネ賦課金は電力会社の電気料金に含まれており、使用者が支払います。つまり電力会社が再生可能エネルギーの電力を買い取る費用を国民が負担する制度でもあるのです。

そのため固定価格買取制度の普及が進めば、その分国民の負担も増えていくという課題が浮き彫りになっています。また事業の未稼働案件などの問題もあります。

「再生可能エネルギー特別措置法の一部を改正する法律」改正FIT法が成立

政府はそれらの課題の改善を図るために2017年4月に改正FIT法を施行しました。改正FIT法(再生可能エネルギー特別措置法の一部を改正する法律)では、新認定制度を導入してこれまでの「設備認定」から事業の計画を確認する「事業計画認定」に変更されたのです。

これにより企業には計画段階から長期間の事業実施計画を明確に定め、また発電設備が計画された性能を維持するための保証、適切なメンテンナンス体制の確保が求められました。

FIP制度(Feed in Premium)の創設 

さらに政府は2022年に電気事業者による「再⽣可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」を改正しました。これによりFIT・固定価格買取制度に加えて新たに市場価格を踏まえてプレミアム額が交付される制度が創設されました。この制度をFIP(Feed in Premium)制度といいます。FIP制度では、事業者が発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電し、そこから得られる収入を踏まえ、「あらかじめ定める売電収入の基準となる価格と市場価格に基づく価格の差額(=プレミアム単価)×売電量」を基とした金額を交付します。

このプレミアム額を交付することで再生可能エネルギーの発電事業者にさまざまな投資インセンティブを促すことを目的としています。また再生可能エネルギー事業者に電力市場を意識した電気供給を促すことで電力市場の統合や再生可能エネルギーの自立化へのステップを目指すことができます。

出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021第3章 第1節 競争力のある再エネ産業への進化』

6. まとめ:FITについて知ることは日本のエネルギー問題を知ること

FIT・固定価格買取制度についてさまざまな角度から解説しました。この制度を通し見えた日本のエネルギー問題は、そのまま再生可能エネルギービジネスへのチャンスとも捉えられます。

再生可能エネルギーはまだコストの高い電力ではありますが、新規事業として将来的に非常にビジネス価値の高い分野でもあります。企業の方々は事業の一環として、また地球温暖化防止への貢献の一環として、再エネ発電の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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