カーボン・オフセットとは? 世界の企業の取り組み事例を紹介

地球温暖化が進む現在、その原因となるCO2排出量の削減を促すカーボン・オフセットは世界中に事例が存在します。カーボン・オフセットへのアプローチ方法はさまざまで、自身が削減に向けて努力するだけではなく、削減に意欲ある企業へ支援することも含まれます。そのため、あらゆる業界でカーボン・オフセットの取り組みが進められています。では、実際にはどのような事例があるのでしょうか。

この記事では日本や世界で行われているカーボン・オフセットの取り組みについて、さまざまな業界の事例と共に紹介します。

目次

  1. カーボン・オフセットの概要

  2. 世界の企業のカーボン・オフセット事例

  3. 日本企業のカーボン・オフセット事例

  4. まとめ:CO2削減量に目を向け、カーボン・オフセットに取り組もう!

1.カーボン・オフセットの概要

ここではカーボン・オフセットの概要とその背景について説明します。

カーボン・オフセットとは

カーボン・オフセットとは、できるだけ温室効果ガスの排出削減を行ったうえで、どうしても削減できないものについて、その量を補填する削減活動に投資することなどによって実質的に相殺するという考え方です。

出典:環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」

カーボンクレジットとは

カーボン・オフセットに欠かせない概念として、カーボンクレジットがあります。カーボンクレジットとは、あるベースラインに対して実際の温室効果ガス排出量が下回った場合に、その差分を売買できるものとして認証したものです。森林管理や植林、省エネ設備の導入など、削減活動が差分として認証されるとクレジットになり、カーボン・オフセットにおいて売買できるようになります。

このベースラインの設定やクレジットの認証は様々な機関によって行われており、国際機関ではCDM(クリーン開発メカニズム)やCORSIA、国家としてはEU-ETSやJ-クレジット、民間事業者ではVerraやGold Standardなどが挙げられます。

出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」p.15,16(2022年6月)

出典:ジェトロ「世界で導入が進むカーボンプライシング(後編)拡大するボランタリークレジット市場」(2021年9月15日)

カーボン・オフセットが注目される背景

地球温暖化が深刻化し、早急な脱炭素社会の構築が求められるようになった現代では、あらゆる分野において、あらゆる企業・市民が、主体的に温室効果ガスの排出削減に取り組まなければならなくなりました。そこで、自らの排出量を認識し、削減努力や排出量の埋め合わせを行うカーボン・オフセットは、「温室効果ガスの排出はコストである」という観念を作り、主体的な取り組みを促進するとともに、社会全体で確実に排出量を減らす手段として注目されるようになりました。

出典:環境省「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」p.3~8

2.世界の企業のカーボン・オフセット事例

カーボン・オフセットには、排出削減プロジェクトへの参加や、自然保護活動への投資など、様々なものがあります。ここでは世界のトップ企業や共同体が行っている、大規模なカーボン・オフセットの事例をご紹介します。

(1)Amazon社の事例

Amazon社(以下Amazon)は、2040年までの実質的なCO2排出量ゼロを目指し、社内ではコントロールしえないScope3(従業員の出張など)を相殺するために、カーボン・オフセットを活用しています。AmazonはCO2の排出削減から吸収まで様々なプロジェクトに投資しており、EVメーカーから4億4000万ドルの投資や10万台の配送車を購入することにより3600万トン以上、テキサスのDAC(空気中から直接CO2を回収し吸収する技術)プロジェクトの購入によって25万トン、世界中の森林や湿地、泥炭地を復元・保護するプロジェクトに1億ドル投資することにより数百万トンのCO2排出量がオフセットされると考えられています。

出典:Reuters「Amazon makes first investment in direct air capture climate technology」(2023年9月12日)

出典:Amazon「AmazonはGlobal Optimismと、パリ協定の目標達成を10年早める気候変動対策に関する誓約を共同で立ち上げました」(2019年9月21日)

(2)Frontierの事例

stripe社、Alphabet社、shopify社、Meta社など9社の企業の共同体であるFrontierは、光に反応して海水からCO2を分離する分子や、生物由来の廃棄物を地中に埋め込むことによる炭素の貯蔵、無機物を利用した川の炭素の吸収など、開発段階にあるが脱炭素社会の構築に繋がるであろう先進的な技術を用いた、12の企業による全14のプロジェクトに約800万ドルを投資し、60万トンのCO2排出量をオフセットしています。Frontierは他にも、農地に砕いた玄武岩を撒くことによりCO2を吸収する技術など、100以上のプロジェクトに投資し、先端技術を支援するという形で、地球温暖化対策における企業の社会的責任を果たしています。

出典:Frontier「Frontier facilitates third round of carbon removal purchases」(2023年9月7日)

出典:Frontier「Frontier buyers sign world’s first enhanced weathering offtake agreements with Lithos Carbon」(2023年12月6日)

(3)The Walt Disney Companyの事例

The Walt Disney Company(以下Disney)では、森林再生事業を通じてカーボン・オフセットに貢献しています。Disneyは北米や中国、ペルー、カンボジア、メキシコにおける森林の保護・回復といった直接的な活動だけでなく、効率的な薪ストーブを普及させ、木質燃料の使用量を減少させるプロジェクトなど、10年間で25の森林再生プロジェクトに携わっており、これらは900万本以上の植樹や、100万エーカー以上の森林の保護に加え、再生地域の交通整備や職の創出など、社会的な利益をも生み出しています。Disneyの10年間にわたる投資では、730万トン以上のCO2排出量がオフセットされました。

出典:The Walt Disney Company「NATURAL CLIMATE SOLUTIONS WHITE PAPER」(p.4)

(4)Pacific Gas & Electric(PG&E)社の事例

アメリカの大手ガス・電力会社であるPG&E社は、発電所から電気を供給することにより発生する温室効果ガスを、月の利用料に約3.3ドル追加することでオフセットするクレジットを顧客に販売していました。2007年のサービス開始後、利用者の減少により4年で終了しましたが、ピークとなる2008年には利用者が31000人に達し、「温室効果ガスの濃度上昇に対策を打たなければならないという空気を作る」という目的は達成されました。この先進的なプロジェクトでは、このほかにカリフォルニアの森林保護活動により創出された20万トンのCO2排出量も販売され、オフセットされました。

出典:Reuters「PG&E carbon offsets fund California forest」(2008年2月26日)

出典:SFGATE「PG&E to end carbon offset plan after few sign on」(2011年11月11日)

3. 日本企業のカーボン・オフセット事例

カーボン・オフセットの事例では、高額の投資による大規模なものが目立ちますが、自社の仕組みを活かしたものや、小規模ながら地域貢献を果たすものなど、幅広いものも存在します。ここでは、日本の企業が行っている様々なカーボン・オフセットの事例をご紹介します。

(1)株式会社ローソンの事例

株式会社ローソンでは、個人消費者に向けたカーボン・オフセットのサービスを提供しています。消費者は期間中、Pontaカードで貯まるポイントをカーボンクレジットと交換したり、店頭端末Loppiからクレジットの所有権を移転申込したり、クレジットが付与された商品を購入したりすることができ、生活の中で手軽にカーボン・オフセットを行えます。このサービスには、2023年2月末時点で3875万人が参加し、東京大学サステイナブルキャンパスプロジェクトなどから創出された計30191トンのCO2排出量がオフセットされました。

出典:ローソン「CO2オフセット運動」

(2)キヤノン株式会社の事例

キヤノン株式会社(以下キヤノン)は、自社で製造するオフィス向け複合機について、原材料の調達から廃棄・リサイクルまでにかかるCO2排出量(カーボンフットプリント)を可視化し、製造にかかるCO2の排出をできる限り減らした後にオフセットすることを認証した「どんぐり制度」を用い、実質的な排出量をゼロにしています。キヤノンでは1992年からカーボンフットプリントの可視化を行っており、地球温暖化防止に貢献するとともに、自社製品の環境付加価値を向上させる、環境とビジネスの両立を実現しています。

出典:キヤノンマーケティングジャパン株式会社「キヤノンのカーボン・オフセットの取り組み」

(3)出雲ガス株式会社の事例

出雲ガス株式会社は、日本のカーボン・オフセット制度であるJ-クレジットを利用し、2021年度から2025年度までの5年間にわたるガス事業に伴って発生した150トンのCO2排出量をオフセットしました。このクレジットは、同じく出雲市で行われた、神話の國出雲さんさん倶楽部による住宅への太陽光発電設備の導入に伴うCO2排出削減活動によってまかなわれており、CO2排出量が相殺されるだけでなく、出雲市内での環境価値の地産地消が実現されました。

出典:J-クレジット制度「出雲ガスにおけるガス事業のカーボン・オフセット」

4. まとめ:CO2削減量に目を向け、カーボン・オフセットに取り組もう!

温室効果ガスの排出量をできる限り減らしたうえで、どうしても削減できないものを、投資やカーボンクレジットの購入によって相殺するカーボン・オフセットは、自社の製品・サービスの特性や地域、自社製品の環境価値の向上や先端技術への投資といった目的の差異から、様々な規模や手法の事例が挙げられます。この記事で述べたカーボン・オフセットの様々な事例を理解し、自社の特性に合った今後の脱炭素経営を考える手がかりにしてみましょう。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
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