固定価格買取制度FITと再エネを電力市場に統合する新制度FIPについて徹底解説!

脱炭素社会実現に向けて日本は大きく動き出しました。しかしまだ海外と比べると再エネ導入にあたっての設備コストが高いなど、更なる再エネ導入を推進するにあたって多くの課題があります。

そのコスト面での課題を解決するために、2012年に固定価格買取制度(FIT)が施行されました。さらに2022年にはFIT施行後に明るみになった課題を解決し、再エネ主力電源化への次なるステップとなる新制度FIPが施行されます。

FIT とFIPの仕組みやメリット、課題などを確認しましょう。

目次

  1. 固定価格買取制度FITとは

  2. FITのメリットと課題

  3. 再エネを電力市場に統合するFIP

  4. まとめ:再エネはFIPで新たなステップへ

1. 固定価格買取制度FITとは

FITの仕組み

FIT(Feed-in Tariffの略)は「再生可能エネルギーの固定買取制度」のことで、再エネで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを義務づける制度です。これにより再エネ導入時にかかるコスト回収の見通しを立てやすくし、再エネ導入を推進するのが目的です。

FITの対象となる再生可能エネルギー

FITの対象となる再エネは太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスです。国が定める要件を満たす事業計画を策定し、その計画に基づいて新たに発電を始めるものが対象です。

発電した電気は全量が買取対象になりますが、住宅の屋根に乗せるような10kw未満の太陽光の場合やビル・工場の屋根に乗せるような10〜50kwの太陽光の場合は、自家消費した後の余剰分が買取対象です。

再生可能エネルギー発電促進賦課金

FITにおいて電力会社が買い取る費用は、すべての電気利用者から賦課金という形で集めてまかなわれています。再エネで発電された電気は、日々使用される電気の一部として供給されるため、再エネ賦課金は毎月の電気料金に加算されます。

この単格は毎年経済産業大臣により、FITの買取価格などを踏まえて決定されます。この推測値と実績値の差分は翌々年の再エネ賦課金単価で調整します。

出典:資源エネルギー庁『固定価格買取制度 制度の概要

2. FITのメリットと課題

メリット:再エネ普及に貢献

FITは再エネ普及がまだ進んでいない段階に作られた制度です。固定価格で電気を買い取ることを保証し、設置コスト回収の見通しを立てやすくすることで、発電事業者を保護して再エネの大量導入促進を目的としています。

FITが施行されたことにより、再エネ導入量は急速に増加しました。再エネ導入量は2019年から2012年までの年平均伸び率が9%であったのに対し、FIT施行後の2012年から2015年には年平均伸び率29%という勢いで再エネ導入が進みました。

出典:資源エネルギー庁「再エネのコストを考える

課題1:国民への賦課金の負担

FITでは再エネ発電によってつくられた電気を、電力会社は一定期間買い取ることが義務付けられます。この買取費用は電気の使用量に上乗せされる再エネ賦課金によってまかなわれています。

再エネ導入の増加により、FIT買取費用も増加しています。認定年度ごとにFITの買取金額は見直されていますが、国民の負担する再エネ賦課金の単価は、FIT買取費用増加に伴い年々上昇しています。

出典:資源エネルギー庁『「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?

課題2:電力市場の競争から切り離されている

FIT電力は、固定価格での買取が約束された、電力の需要や市場の競争からは切り離された存在です。電力の需要が少ない時でも、発電を続ける事業者がいても、それを止めることができません。

また、電力需要が多い時には電力の市場価格は高くなりますが、こうした市場の動きの影響を受けないため、需要に合わせた供給の奨励がされにくいと言えます。

出典:資源エネルギー庁『「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?

3. 再エネを電力市場に統合するFIP

2022年から始まる制度FIPとは

新制度のFIP(Feed-in Premiumの略)では、FITのように固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電着業者が卸市場などで売電した時、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする仕組みです。

FIPは再エネ導入が進んでいるヨーロッパなどではすでに取り入れられている制度です。下の図からもわかるように、FITでは市場価格の低い時の再エネ発電に対して賦課金からの負担が大きくなるのに対し、FIPでは賦課金からの買取への負担は一定になります。

出典:資源エネルギー庁『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート

FIPの市場と連動する買取価格

FIPではあらかじめ「基準価格(FIP価格)」と「参照価格」が定められます。この基準価格と参照価格の差を「プレミアム」として再エネ発電業者が受け取ります。

  • 基準価格
    再エネが効率的に供給される場合に必要な費用の見込み額をもとに、様々な事情を考慮して設定される。

  • 参照価格
    市場取引によって発電事業者が期待できる収入。1か月単位で見直される。

出典:資源エネルギー庁『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート

「参照価格」は卸売電力市場の価格に連動して算定された価格に、非化石価格取引市場の価格に連動して算定された額の合計から、バランシングコストを引いた価格で決まります。

非化石価値取引市場とは、石油・石炭などの化石燃料を使っていない非化石電源で発電された電気が持つ「環境価値」を「非化石証書」という形で可視化し、取引する市場です。再エネにも「非化石価値」があるため、この価値の取引からも収益が出ます。

バランシングコストとは、発電業者は発電する電気の見込みを「計画値」として作り、「実績値(実際の発電量)」と一致させること(バランシング)が求められており、計画値と実績値の差(インバランス)が出た場合、発電業者がその差を埋めるために負担する費用です。FIPでは再エネ事業者もバランシングをしなくてはならないので、インバランスにかかる費用に配慮し、その分をプレミアムの一部として受け取ることができます。

出典:資源エネルギー庁『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート

FIPのメリット

FIPにより、再エネ事業者も需要と供給のバランスを意識しながら発電するようになります。蓄電池の活用などで、市場価格が高い時に売電する工夫をすることにより、より収益を増やすことができます。

また、必ずしも全ての再エネ事業者がバランシング可能とは限らないため、小規模な再エネ電源を束ねて蓄電池システムと組み合わせ、需要と供給の管理を行い市場取引を代行する「アグリゲーション・ビジネス」の発展が期待できます。

出典:資源エネルギー庁『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート

アグリゲーションビジネスとは、電力供給の予測をしたり、分散化した電源を集約して最適に制御したりする事業構想です。天候によって再エネの出力が変動した場合のバックアップとなる、調整力としても期待されています。

出典:資源エネルギー庁『2019年、実績が見えてきた電力分野のデジタル化②~バーチャルパワープラント編

4. まとめ:再エネはFIPで新たなステップへ

大規模再エネ事業者はFITからFIPへ

2050年カーボンニュートラル実現のためには、再エネ電力が競争力のある電力へと成長する必要があります。しかしFITでは市場価格の変動や需要と供給に柔軟に対応するのが難しいという課題があります。

小規模な再エネ電源では、引き続きFITで安定した収益を確保し、導入促進を目指します。大規模な再エネ事業者はFIPへと移行することにより、プレミアムという形で補助を受けながら電力市場の競争に加わり、再エネが主力電源へとなる足がかりとなることが期待されています。

小規模再エネ電源もアグリゲーションにより競争力のある電源となる

今後のAIやIoT技術の発展とともにアグリゲーションビジネスが活性化されれば、小規模な再エネ電源も集約して需要と供給の管理や市場取引に参入ができるようになり、競争力のある電源へと変わることが期待されています。再エネ発電事業にとどまらず、アグリゲーションビジネスなどの新たな事業・雇用の創出も再エネ主力電源化のためのよい循環を構築するために必要です。

社会が持続可能な循環型へと生まれ変わるために、国、自治体、大企業だけではなく、中小企業や家庭に至るまでの幅広い取り組みが求められています。中小企業も環境への取り組みに無関心では将来の企業の成長が危ぶまれるようになった今、このような再エネの今後の展望を踏まえ、できる限りのCO2削減や再エネ導入などに取り組みましょう。

 

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