ゼロエミッション車とは 自動車業界の取り組みと企業の活用

温室効果ガスの排出削減に対する需要から、商用車のゼロエミッション化の実現は全世界共通の目標となっています。ゼロエミッション車では、エネルギー源を温室効果ガスを排出しないものにすることで、走行に関わる排出をなくすことができ、運輸業での排出量を大幅に削減することができます。

この記事では、ゼロエミッション車の種類やそれぞれの特徴といった基本的なことから、ゼロエミッション車先進国といえる中国やヨーロッパにおける商用車のゼロエミッション化に関する現状、日本での普及に向けた課題まで、わかりやすくご説明します。

目次

  1. ゼロエミッション車とは

  2. 中国とヨーロッパにおける商用車のゼロエミッション化

  3. 日本における商用車のゼロエミッション化

  4. まとめ:ゼロエミッション車の導入で一歩進んだ脱炭素経営をしよう!

1. ゼロエミッション車とは

(1)ゼロエミッション車とは

ゼロエミッション車とは、走行時にCO2などの温室効果ガスを排出しない、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)のことです。ゼロ・エミッション・ビークル(Zero Emission Vehicle)の頭文字をとって、ZEVといわれることもあります。

商用車のゼロエミッション化とは、バンやトラック、バスなどの事業に用いられる車を、これらの温室効果ガスを排出しないものに置き換えるということです。

出典:東京都環境局「ゼロエミッション・ビークルの普及に向けて」

(2)ゼロエミッション車の種類

ゼロエミッション車として挙げられる、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)について詳しく解説します。

電気自動車(EV)

電気自動車(EV)とは、自動車に搭載したバッテリーに充電をし、その電気を用いて走行する車です。

EVには、走行時に温室効果ガスを排出しないことのほかに、エネルギー効率が高く、発電所から排出されるものを加味してもCO2を削減することができること、従来のガソリン車より燃料費が安いことなどのメリットがあります。

一方で、商用車のEV化に向けた課題としては、航続距離が短いことや、トラック等の大型車では、大型の重い電池を搭載しなければならず、荷室スペースが小さくなること、充電ステーション数は十分であるものの、大型車には必須の広い駐車スペースや高出力の高速充電設備が十分でないことが挙げられます。

出典:国土交通省『環境にやさしい自動車』

出典:国土交通省『電動車の特性を理解して運転しましょう ~電動車は加減速時に注意が必要~』(2023年3月31日)

出典:資源エネルギー庁「電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!」

出典:公益社団法人 全日本トラック協会「電気トラックに関する動向調査 調査報告書」(p.34~38, 45~47)2018年3月26日

プラグインハイブリッド自動車(PHV)

プラグインハイブリッド自動車(PHV)とは、電動モーターとガソリンエンジンの両方を搭載した自動車です。

PHVは、バッテリーの充電量が多い時にはEVと同様に電動モーターを用いて走りますが、充電量が少なくなった時にはエンジンに切り替えることができます。このため、EVにある航続距離の短さや充電設備の不足、電池切れといった問題を解決できます。しかし、PHVはエンジンで走る場合には温室効果ガスを排出してしまいますし、モーターとエンジンのどちらもを搭載しているためにコストが高額です。

出典:国土交通省『電動車の特性を理解して運転しましょう ~電動車は加減速時に注意が必要~』(2023年3月31日)

出典:トヨタモビリティ東京『ハイブリッドカー・プラグインハイブリッドカー・燃料電池自動車の違いとは?』(2017/9/8)

出典:資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(後編)~購入補助も増額!サポート拡充で電動車普及へ」

燃料電池自動車(FCV)

燃料電池自動車(FCV)とは、燃料電池で水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを燃料にする自動車です。燃料電池を動かすための水素を得るためには、従来のガソリンスタンドではなく水素ステーションを必要とします。

FCVは航続距離や燃料の充填にかかる時間がエンジン車と変わらず、運用性が高いと考えられていますが、車両そのものの価格や燃料にかかるコスト、水素タンクの搭載による荷室スペースの減少、水素ステーションの不足が課題となっています。

出典:国土交通省『環境にやさしい自動車』

出典:国土交通省『電動車の特性を理解して運転しましょう ~電動車は加減速時に注意が必要~』(2023年3月31日)

出典:JHFC『燃料電池車FCVのしくみ』

出典:経済産業省「燃料電池⾞の普及に向けた 中間まとめ(案)」p.15~17(2023年3月)

日本では、ゼロエミッション車それぞれの特徴を使い分け、小型宅配車両など近距離の小型車ではEV、乗用車など中型車ではPHV、バスやトラックなど長距離を走る大型車ではFCVというように、商用車間でも技術を使い分ける構想が練られています。

出典:資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(後編)~購入補助も増額!サポート拡充で電動車普及へ」

(3)商用車のゼロエミッション化が求められる背景

地球温暖化が進む現在、その原因となる温室効果ガスの一つであるCO2の排出抑制が求められています。特に自動車や船舶といった運輸部門から排出されるCO2は、2021年度の日本の総排出量のうち17.4%(約1億8500万トン)を占めており、さらに商用車は日本全体の6.9%(約7500万トン)を占めています。

このことから商用車において、まずは走行中に排出される温室効果ガスをゼロにすること、さらにはこれらゼロエミッション車のエネルギー源を、再生可能エネルギーなどの温室効果ガスを排出しないものにし、自動車の走行に関する一切の温室効果ガス排出をゼロにすることが求められています。

出典:資源エネルギー庁「電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!」

出典:国土交通省「環境:運輸部門における二酸化炭素排出量」

2. 中国とヨーロッパにおける商用車のゼロエミッション化

2022年には全世界で約2600万台のEVが生産され、商用車においても約66000台の電動バスや約60000台の電動トラックが販売されるなど、ゼロエミッション車の普及が進んでいます。ここでは最も普及が進んでいる中国と、EUにおいて商用車のゼロエミッション化が宣言されたヨーロッパのZEV事情をご紹介します。

(1)中国

政府による支援

中国は、新エネルギーを用いるZEVは、温室効果ガスの排出抑制に不可欠であると考えており、2016年には「省エネルギー・新エネルギー車技術に関するロードマップ」1.0、2020年には同2.0を発表し、ZEVの普及促進に努めています。このロードマップでは、2035年までに全車のうち新エネルギー車を50%以上とすることや、FCVを100万台流通させることのほかに、省エネルギー車の完全ハイブリッド化や商用車の燃費改善といった目標が掲げられています。

これらの目標の達成に向け中国政府は、EV、PHEV、FCVの購入には、補助金の交付や車両取得税の減税、保有台数の制限解除を行い、生産には車両の生産におけるクレジット制度を導入し、ZEVの生産台数などの目標を達成できなければ他社から余剰分を購入させることで、購入・生産の両方から支援を行っています。

出典:中国汽车工程学会「《节能与新能源汽车技术路线图2.0》正式发布」2020年10月27日

出典:ジェトロ「経済低迷下のNEV補助金策、生産過剰と市場の歪み是正が政策課題 | 中国EV・車載電池企業の海外戦略」2023年12月4日

市場での流通

中国は、世界のEVの約60%(約1400万台)を売り上げているEV大国で、BYD(比亜迪)社やXpeng Motors(小鵬汽車)社といった、地元に拠点を置く大手EVメーカーが各地域におけるEV普及を牽引しています。乗用車やバンといった小型商用EVはもちろん、バスやトラックなどの大型商用EVの売り上げも著しく、2022年には約54000台の電動バスおよび約52000台の電動トラックが販売されました。これらの電動トラックは3.5〜4.5トンの、荷物の運搬またはごみの収集を目的としたものがほとんどで、大型の長距離稼働するものでは整備が進んでいません。

出典:IEA「Trends in electric light-duty vehicles – Global EV Outlook 2023」

出典:IEA「Trends in electric heavy-duty vehicles – Global EV Outlook 2023」

出典:IEA「Trucks & buses」

(2)EU

政府による規制

EUでは、2035年までに全ての乗用車および小型商用車(バン)において、新車を作る際にはゼロエミッション車とすることを排出基準として定めています。欧州自動車工業会や欧州自動車部品工業会はこれに対し、充電インフラや再生可能エネルギー、原材料の調達の整備およびゼロエミッション車の製造面の安定、これらの正確な評価の必要性を主張しており、官民共同でゼロエミッション車の供給安定に向けた取り組みがなされると考えられます。

また、バスやトラックなど大型商用車においても、共通の排ガス規制「Euro7」によってEVおよびPHVのバッテリーに基準を設け、ゼロエミッション車の質を高めています。

出典:ジェトロ「EU、2035年の全新車のゼロエミッション化決定、合成燃料に関する提案が焦点に(EU)」

出典:毎日新聞「EU、新たな自動車の排ガス規制「ユーロ7」大筋合意 EV電池も対象」2023年12月19日

市場での流通

ヨーロッパは、中国の次にEVの市場が大きく、2022年には270万台ものEVが市場に流通しています。小型商用EVは広く普及しており、中でもドイツは83万台、続くイギリスやフランスもそれぞれ30万台以上の売り上げとなっています。これらの売り上げは、温室効果ガス排出削減に向けた政策「Fit for 55」の影響を受け、さらに拡大するとみられています。

また、中国には劣るものの、2022年には約5000台の電動バスや約2800台の電動トラックが導入されるなど、大型商用EVの普及も進んでおり、特に大型商用車の電動化が進むフィンランドでは、2022年のバスの売り上げの65%以上を電動バスが占めていました。

出典:IEA「Trends in electric light-duty vehicles – Global EV Outlook 2023」

出典:IEA「Trends in electric heavy-duty vehicles – Global EV Outlook 2023」

出典:IEA「Trucks & buses」

3. 日本における商用車のゼロエミッション化

日本では、「2050年カーボンニュートラル宣言」の達成に向け、グリーン成長戦略を掲げています。ここでは小型車から大型車まで、あらゆる商用車においてゼロエミッション化することが言及されており、技術開発や制度、充電設備の整備などの拡充が計画されています。また、産業界においても、気候変動に危機感を持つ企業からなる団体、日本気候リーダーズ・パートナーシップが、商用車のゼロエミッション化促進に関する意見書を提出しており、政府に対しゼロエミッション化に向けた計画策定や優遇措置、開発・導入に伴う補助金等の整備、柔軟な制度運用を求めています。

一方、実際に稼働しているEVの台数は少なく、2022年度のEV販売台数は、バンが約3万台、トラックは35台、バスは20台と、諸外国とは大きな差があります。これには、充電・充填インフラの不足や技術の未達といった世界共通のものから、国内での蓄電池生産やゼロエミッション車への移行に伴う産業構造の変化、人材の不足など日本特有のものまで、多くの課題が残っていることが起因しています。

出典:経済産業省「2050 年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略」p.48, p.63~71

出典:JCLP 「「商用車のゼロエミッション車への転換加速に向けた意見書」を公表しました。」(2023年6月9日)

出典:IEA「Global EV Data Explorer」(2023年4月26日)

出典:参議院「自動車産業のカーボンニュートラル実現に向けた課題 」p.12~15(2021年9月10日)

4. まとめ:ゼロエミッション車の導入で一歩進んだ脱炭素経営をしよう!

走行時に温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車として挙げられる次世代エネルギー車には、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)があり、それぞれの特徴をうまく用いることや、エネルギー源を再生可能エネルギーとすることによって、大幅な温室効果ガス排出削減が見込めることから、中国やヨーロッパでは政府の支援の下、商用車における普及が進んでいますが、日本ではまだ計画段階にあり、諸外国に匹敵するほどの市場が作られているとは言えません。

しかし、だからこそ今商用車をゼロエミッション化することによって、自社の進んだ脱炭素経営をアピールすることができるとも捉えることができます。ゼロエミッション車の特性や補助金といった利点を見極め、自社に最適な形での導入を検討してみましょう。

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