シングルマテリアリティとダブルマテリアリティとは?その意味と違いを解説

企業の経営戦略に用いられるシングルマテリアリティとダブルマテリアリティは、考え方が異なることから、適切な活用のためにふたつの違いをしっかりと理解する必要があります。また、企業の今後の発展に大きく影響する自社の重要課題を特定するには、マテリアリティの適切な活用が必要不可欠です。

ここではシングルマテリアリティとダブルマテリアリティの意味やそれぞれの違い、今後注目されるダイナミック・マテリアリティの考えについて分かりやすくご紹介します。

目次

  1. マテリアリティとは

  2. シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違い

  3. 時代はダイナミック・マテリアリティの考え方へ

  4. マテリアリティはサステナビリティ情報開示に重要な要素となる

  5. まとめ:シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違いを理解して、意味のあるサステナビリティ情報開示をしよう!

1.マテリアリティとは

マテリアリティは、企業経営において企業価値向上を実現させる上で重要な要素となります。ここではマテリアリティとは何かについてご紹介します。

マテリアリティの意味とは

マテリアリティとは、「重要課題を特定するための独自の基準」のことを意味し、「重要性」という意味合いでも使われています。自社の重要課題を特定するには、このマテリアリティを用いて優先的に取り組むべき課題を見つけ、リスクやステークホルダーに対する影響の分析、ヒアリングなどを経て解決することが有効的な手立てとなります。特に企業のマテリアリティにおいては、自社に関わるステークホルダーとの関係性や、持続可能な開発目標(=SDGs)が重要な要素となります。また、マテリアリティは枠組みや基準によって考え方が変わるため、課題を特定する際は目的や求められている情報とマテリアリティをしっかりと照らし合わせて判断する必要があります。

マテリアリティと重要課題

出典:経済産業省『事務局説明資料』p,13.p,14.(2021/06)

出典:経済産業省『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』p,2.(2021/11/15 )

出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス 2.0』p,14.(2022/8/30)

マテリアリティに関係するESG

持続可能な開発目標の手段として「ESG」という言葉があり、近年企業の経営においてもESGを視野に入れた経営方法が定着しています。

ESG経営とは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス/企業統治)を考慮した企業経営や事業活動、投資活動を指す言葉で、企業がSDGsの目標を達成させるための重要な要素となります。具体的には、Eには環境問題や気候変動、生物多様性など、Sには社会、ダイバーシティ、サプライチェーンなど、Gには組織のシステムやルールの管理、情報開示の充実などが挙げられます。

ESGとは

出典:内閣府『ESG/SDGsと 消費者志向経営との関係 統治 社会 環境』p,1.(2018/10/18)

出典: 内閣府『2.2.1 ESGとは何か|令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況調査報告書 』(2022/11/14)

出典:内閣府『2.2.2 本事業において調査すべき事項|令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況調査報告書 』(2022/11/14)

出典:内閣府『消費者団体ほか 関係団体等との意見交換会 議事録』p,25.(2022/09/22)

2. シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違い

企業におけるマテリアリティは、主に「シングルマテリアリティ」と「ダブルマテリアリティ」に分けることができます。この2つの違いを理解することは、マテリアアリティに取り組むために重要な過程となります。ここでは2つの違いについて説明します。

シングルマテリアリティとは?

シングルマテリアリティとは、企業の発展や業績、財務状況など企業財務にもたらす影響を重視した考え方のことで、主に投資家が利用することを目的としたものです。例えば、気候変動関連リスクなどによる財務的影響を情報開示するTCFD提言は、シングルマテリアリティの分野と言えます。

出典:経済産業省『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』p,15.(2021/11/15 )

出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス 2.0』p,15.(2022/8/30)

出典:国土交通省『TCFD提言について』p,1.(2021/03/19)

ダブルマテリアリティとは?

ダブルマテリアリティとは、企業の財務的影響(シングルマテリアリティ)と、企業活動が社会や環境にもたらす影響とのふたつの側面から受ける影響を重視した考え方のことです。シングルマテリアリティが投資家に向けたものなのに対し、ダブルマテリアリティは投資家や消費者、従業員、社会市民など幅広い枠組みとなっています。

財務と社会・環境の視点は「気候」という要素によって重なる部分もあり、企業が気候に与える影響が、結果的には企業の財務に影響を及ぼす可能性があるとしています。

シングルマテリアリティとダブルマテリアリティ

出典:経済産業省『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』p,15.(2021/11/15 )

出典:経済産業省『事務局説明資料』p,18.(2021/06)

出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス 2.0』p,15.(2022/8/30)

企業におけるマテリアリティの課題

企業におけるマテリアリティには、いくつかの課題があり、そのひとつとしてマテリアリティの取り組みに着手する時期が企業によって差があるということが挙げられます。取り組みに遅れが生じてしまうのには、「マテリアリティを用いた分析を何のためにするのか?」ということを理解するのに時間がかかることが原因とされています。

また、シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの目的が混同しやすいという点もあり、マテリアリティが企業の創価価値に向けたものなのか、または、社会のサスティナビリティに向けたものなのか、シングルからダブルに移行するべきなのかなど、目的の重要度や優先度合いを明確にする必要があります。

出典:経済産業省『マテリアリティ分析を巡る最近の状況』p,2.p,3.p,4.(2021/06/25)

3. 時代はダイナミック・マテリアリティの考え方へ

企業の財務状況は、時代の変化や企業経営の変化によって左右されます。今後、マテリアリティの考え方は、「変化」に着目した考え方が必要となります。ここでは、この「変化」に着目したダイナミック・マテリアリティについてご紹介します。

ダイナミック・マテリアリティとは?

ダイナミック・マテリアリティとは、時間の経過と環境による変化が企業価値に影響し、財務的にも影響があるという考え方で、主にサステナビリティに関するマテリアリティに用いられ、財務開示にも反映されます。

CO2排出量を例に挙げると、地球温暖化の影響が、人・環境・経済に影響することで、企業のゼロネット経営が促進、投資家による企業価値に影響、これらの変化を経て最終的に企業の財務状況に反映するということです。この変化のスピードは、条件によって緩やかであったり、急速であったりという特徴があります。

出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス 2.0』p,15.(2022/8/30)

出典:金融庁『事務局説明資料②(サステナビリティに関する開示(1))』p,11.(2021/9/29)

出典:環境省『非財務情報開示フレームワークの 基準化・統合化の動き』p,16.(2021/3/16)

ダイナミック・マテリアリティが必要とされる理由

マテリアリティの見直しは、中期経営計画の期間ごとに行なうことが理想とされており、特に企業の経営環境や事業環境の変化に着目し柔軟な対応が重要とされています。時代の変化と企業の変化に柔軟に対応していくには、シングルマテリアリティやダブルマテリアリティの考えだけではなく、ダイナミック・マテリアリティの考えに基づいた考え方を意識することが今後の企業経営向上に必要とされています。

出典:経済産業省『「社会の持続可能性の向上と長期的な企業価値の創出に向けたESG情報開示のあり方」に関する調査研究報告書』p,121.p,145.(2023/5/25)

4. マテリアリティはサステナビリティ情報開示に重要な要素となる

投資家や消費者が企業経営の状況を知る手立てとして「サステナビリティ情報開示」があり、このサステナビリティ情報開示においても、マテリアリティの要素が取り入れられています。

サステナビリティ情報開示とは?

国は、全ての企業に対してサステナビリティによる企業の経営環境や企業価値への影響などを含む「サステナビリティの情報開示」を義務付けています。ここでのサステナビリティとは、環境や社会、リスク管理などのESGの要素が大きく関係しており、主に投資家の企業への投資の判断として利用されることを目的としています。

出典:金融庁『「サステナビリティ情報」の開示』p,5.(2023/05/18)

出典:金融庁『「サステナビリティ情報」の開示』p,3.(2022/5/13)

出典:環境省『非財務情報開示フレームワークの 基準化・統合化の動き』p,17.p,18.(2021/3/16)

マテリアリティにおけるサステナビリティ情報開示

マテリアリティによるサステナビリティ情報開示においてもシングルマテリアリティとダブルマテリアリティでは、考え方が異なります。シングルマテリアリティのサステナビリティ情報開示は、主に投資家に向けた情報となり、企業の発展や業績、財務状況など投資家の企業価値に対する判断材料となるものです。

一方でダブルマテリアリティのサステナビリティ情報開示は、投資家だけではなく消費者や従業員、市民など幅広い人たちに向けたものであり、企業の財務環境だけでなく企業が環境や社会にもたらす影響についても開示する必要があります。サステナビリティ情報開示においても何を目的としているのかを明確にすることが重要です。

出典:金融庁『事務局説明資料②(サステナビリティに関する開示(1))』p,10.(2021/9/29)

5. まとめ:シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違いを理解して、意味のあるサステナビリティ情報開示をしよう!

シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違いについてご紹介しました。シングルマテリアリティは、環境や社会が企業に影響をもたらすものであり、ダブルマテリアリティは、シングルマテリアリティの要素に、企業が環境や社会に影響をもたらす考え方を加えたものとなります。しかし、近年は環境や社会の「変化」を重要視したダイナミック・マテリアリティの考え方も取り入れられています。

さまざまなマテリアリティの考え方がありますが、一番重要なことは「何のためにマテリアリティを用いるか?」ということです。マテリアリティの違いを理解して、企業にとって価値のあるサステナビリティ情報開示をしましょう。

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