プラネタリー・バウンダリーが示す危機的状況とそれに対する取り組み

現在、地球温暖化の影響で気候変動や生態系へのダメージなどが深刻化していますが、プラネタリー・バウンダリーという概念は、あらゆる項目において人間が持続的に生存していくために超えてはならない基準を示しています。
昨今の地球環境はどれほど深刻な状況に陥っているのでしょうか。

この記事ではプラネタリー・バウンダリーの概要とそれが示す危機、プラネタリー・バウンダリーに対するSDGsの取り組みについてまとめています。

目次

  1. プラネタリー・バウンダリーとは?

  2. プラネタリー・バウンダリーが指摘する危機について

  3. プラネタリー・バウンダリーに対するSDGsの取り組み

  4. まとめ:日本のプラネタリー・バウンダリー意識やSDGsの取り組みに注目しよう!

1. プラネタリー・バウンダリーとは?

プラネタリー・バウンダリーの概要と現在の状況について解説しています。

(1)プラネタリー・バウンダリーの概要

プラネタリー・バウンダリーとは、人間が地球上で持続的に生存していくために、超えてはならない地球環境の境界があるということを明確に示した概念です。
項目ごとにこの値を超えていけない、または下回ってはいけないという限界値が決められており、その限界値を超えると地球温暖化や異常気象といった環境問題が生じることになります。

プラネタリー・バウンダリーの項目は以下の9つです。

  • 気候変動:大気中の二酸化炭素濃度、地球と宇宙の間でのエネルギー収支

  • 大気汚染:大気汚染物質の量

  • 成層圏オゾンの破壊:成層圏のオゾン濃度

  • 海洋酸性化:海の炭酸イオン濃度

  • 淡水変化:人間が利用できる淡水や、植物が取り込む水分の量

  • 土地利用変化:森林面積の大きさ

  • 生物圏の一体性 :生態系機能が維持されている度合い、生物種が絶滅する速度

  • 窒素・リンの生物地球化学的循環:化学肥料として人工的に作られた窒素や、リンの海洋や土壌への放出量

  • 新規化学物質:プラスチックなどの化合物による汚染

出典:環境省『令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書第1節 地球の限界と経済社会の危機』

出典:国立環境研究所『地球の限界 "プラネタリーバウンダリー" & 循環型社会 ~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~』

(2)プラネタリー・バウンダリーの現状について

プラネタリー・バウンダリーの現状では、「窒素・リンの生物地球化学的循環」と「新規化学物質」、絶滅の速度からみた「生物圏の一体性」の項目で、すでに限界値を超えています。

窒素に関しては、工業由来の窒素流入量の限界値を年間62テラグラムと定めていますが、実際の流入量は年間150テラグラムと大幅に超過しています。また、生物種の絶滅率は、100万種あたり年間10種を限界値としていますが、実際の年間絶滅種は100〜1000種に及んでいるのが現状です。

このように実測値が限界値を超えると、もはや元には戻らない変化が地球に生じると予測されています。しかし、プラネタリーバウンダリーの各項目の限界値は、技術の進展などによって、今後更新されることが期待されるため、経済活動をプラネタリー・バウンダリーの限界内にとどめる努力を続けることが大切です。

出典:国立環境研究所『地球の限界 "プラネタリーバウンダリー" & 循環型社会 ~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~』

2. プラネタリー・バウンダリーが指摘する危機について

プラネタリー・バウンダリーが指摘している「気候変動による平均気温の上昇」「生物多様性の損失」「森林面積の減少」「窒素化合物の増加」この4つの危機について解説しています。

(1)気候変動による平均気温の上昇

気候変動に関する政府間パネルの報告書によると、1986〜2005年の平均値と比べて、世界平均地上気温は1880年〜2012年の間に0.85℃上昇しています。また、最近30年における10年ごとの平均気温は、いずれも1850年以降のどの10年間よりも平均気温が高くなっています。

出典:環境省『平成30年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流 』

(2)生物多様性の損失

国際自然保護連合が公表している世界で絶滅のおそれのある野生生物のリスト(レッドリスト)では、今後絶滅するおそれのある野生生物は2万5,821種に達しています。今までに比べて種の絶滅速度が速く、その主な原因は人間活動による影響であると考えられています。

出典:環境省『平成30年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流 』

(3)森林面積の減少

国連食糧農業機関によると、1990年から2015年までの25年間で、日本の国土面積の3.4倍に当たるおよそ1億2,900万ヘクタールの森林が世界で減少しています。森林減少は、特に南米やアフリカで顕著になっており、人口増加や商品作物の生産拡大などによって、森林を農地へ転用していることが主な原因だとされています。

出典:環境省『平成30年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流 』

(4)窒素化合物の増加

大規模な化学肥料の生産や農作物への使用により、大量の窒素化合物が環境中に放出されています。化学肥料の需要は年々増加していることから、窒素化合物の量は今後も増大する見込みです。
環境中に蓄積された窒素化合物は、河川や海へ流出することで水質汚染を引き起こすとともに、大気中に放出された窒素酸化物は酸性雨や気候変動の原因にもなっています。

出典:環境省『平成30年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流 』

3. プラネタリー・バウンダリーに対するSDGsの取り組み

プラネタリー・バウンダリーに対する取り組みのひとつであるSDGsの概要と、SDGsにおける日本の対応について解説しています。

(1)SDGsとは

SDGsとは、持続可能な社会の実現に向けて2015年に国連で採択された国際目標です。気候変動などの経済活動によって引き起こされる諸問題に対して、先進国と途上国がともに取り組むべき課題として、17のゴールと169のターゲットが設定されています。

出典:経済産業省『SDGs』

(2)SDGsに対する日本の取り組み

日本政府は全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し、当該本部の下で2016年に今後の日本の取り組みの指針となる「SDGs実施指針」を策定しました。
この指針では、日本の「SDGsのモデル」の確立に向けた取り組みの柱として、8分野の優先課題をあげており、日本において特に注力すべきものとして示しています。

優先課題として掲げられたのは以下の8分野です。

  • あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現

  • 健康長寿の達成

  • 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション

  • 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備

  • 省エネ・再エネ、防災・気候変動対策、循環型社会

  • 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全

  • 平和と安全・安心社会の実現

  • SDGs実施推進の体制と手段

出典:経済産業省『SDGs』

4. まとめ:日本のプラネタリー・バウンダリー意識やSDGsの取り組みに注目しよう!

この記事で述べたように、プラネタリー・バウンダリーは人間が地球上で持続的に生活するために超えてはならない基準を示しており、気候変動や生物多様性など一部の項目では限界値をすでに超えています。2023年の夏に起きた記録的な高温や豪雨災害は、プラネタリ―・バウンダリーを越えてしまったために起きた現象です。

日本はSDGsの取り組みの中で、環境問題や社会問題を含む8つの分野において尽力することを公表しました。今後プラネタリー・バウンダリーやSDGsの枠組みを受けて、日本がどのように行動していくのかということに注目してみましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024