2023年施行の改正省エネ法:事業者への影響と対策について解説

2023年4月に施行された改正省エネ法が、事業者にどんな影響を与えるか知っていますか?改正内容を理解し事業者としての責務を果たすことは、円滑な会社運営に必要不可欠です。この記事では、省エネ法の改正内容や事業者がとるべき対応などについて詳しく解説していきます。

2023年4月に施行された省エネ法の改正は、エネルギー効率向上と環境への負荷軽減を重要視しており、新たな課題と機会を提供するため事業者に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。改正省エネ法の改正内容について正確に理解し、事業者としての責務を適切に果たすことは、円滑な会社運営を行うにあたって不可欠となります。この記事では、改正された省エネ法の具体的な変更点や、改正内容を踏まえ事業者が遵守すべき対策について詳しく説明します。

目次

  1. 省エネ法とは

  2. 省エネ法改正の概要

  3. 改正省エネ法と事業者が行うべき対応

  4. まとめ:事業に関係のある改正事項を理解しよう

1. 省エネ法とは

(1)省エネ法とは?

省エネ法の正式名称は、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」です。この省エネ法の対象となる事業者は、エネルギーの使用状況等について定期的に報告し、省エネや様々な取り組みの計画を立てたり、計画の見直しをしたりする必要があります。今まで省エネ法の使用の合理化は化石エネルギーに限られていましたが、2023年4月をもって新たに対象が増えました。

省エネ法によって直接規制される事業分野は、

  • 工場

  • 事業場

  • 運輸分野

間接規制される事業分野は、

  • 機械器具等の製造

  • 小売事業者

があります。

会社の運営側からすると、仕事が増えるので厄介な法律だと思うかもしれません。しかし、気候変動に有効な対策をすることは、地球だけでなく企業としての持続可能性にも関与しているのです。

出典:資源エネルギー庁『省エネ法とは​』(2023/5/9)

(2)省エネ法改正の背景

これまでの省エネ法では、大規模なエネルギー消費者に対し、化石エネルギー使用の合理化が求められてきました。しかし、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指すためには、非化石エネルギーの導入を増やす必要があるだけでなく、電気の需要の最適化も求められます。したがって、非化石エネルギーも含めたエネルギー利用の合理化、非化石エネルギーへの移行、そして電力需要の最適化が重視され、法改正が行われたのです。

この法改正を背景に、省エネ法に関連する各種の省令や告示も適宜更新が行われ、非化石エネルギー移行における事業者の基準も設定されました。

事業者には、これらの新しい基準やガイドラインに則って、非化石エネルギーの転換等に励むことが求められているのです。

出典:経済産業省『エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律の施行のための省令・告示が本日公布されました』(2023/3/31)

2. 省エネ法改正の概要

(1)対象範囲の拡大

上記でも軽く触れたように、使用の合理化の範囲が増えました。今までは化石エネルギーが対象でしたが、非化石エネルギーまで拡大されたのです。これによって新たにエネルギーの使用量を定期報告するときに必要な非化石燃料の「熱量換算係数」が定められました。

以前より報告対象が増え、非化石エネルギーへの転換がより一層求められるようになりましたが、求められるものが増えれば増えるほど事業者の負担は当然のように大きくなります。

この場合、支援補助金や融資を受けられる場合があります。これについては「3-(4)事業者向けの支援補助金について」でも解説しています。

出典:経済産業省『エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律の施行のための省令・告示が本日公布されました』(2023/3/31)

(2)ベンチマーク制度の見直し

ベンチマークとは、事業者がどれだけ省エネ出来ているかを、業種共通の指標を使って評価するものです。

そしてこのベンチマーク制度の対象業種の追加と目標値の見直しが、改正省エネ法の影響で行われました。ここでは新たに追加された4つの業種についてそれぞれの目標水準を説明します。

  • 石炭火力供給業

石炭火力電力供給業におけるベンチマーク指標は、目指すべき水準は発電プロセスの効率を示す数字で43.00%以上と定められました。この数値は石炭をもやし電力を生成するプロセスがエネルギーをより効率的に変換し、環境に与える影響を減少させるための重要な要素となります。

  • データセンター業

データセンター業におけるベンチマーク指標はエネルギー使用量です。この指標は、データセンター内のエネルギー使用量(単位:kWh)を、そのデータセンターで運用されるIT機器のエネルギー使用量(単位:kWh)で割った値を示します。目指すべき水準は、この値が1.4以下であることです。

  • 圧縮ガス・液化ガス製造業

圧縮ガス・液化ガス製造業におけるベンチマーク指標は、製造品種の違いを補正した深冷分離方法による圧縮ガス・液化ガス生産量あたりのエネルギー使用量です。この指標は、異なる製品やプロセスに対応するためにエネルギーをどれだけ使用しているかを示しており、目指すべき水準は、LNG 冷熱利用事業者において0.077kl/千N㎡以下、その他の事業者において0.157kl/千N㎡以下です。これは、生産量あたりのエネルギー使用量が低いほど、より効率的にエネルギーを活用し、環境への負荷を減少させることを意味します。

出典:資源エネルギー庁『省エネ法の改正(令和4年度)改正省エネ法のポイント』(2023/5/9)

3. 改正省エネ法と事業者が行うべき対応

(1)事業者の義務

義務が生じる事業者は、以下の2点を満たす事業者です。

  • 1,500kl/年度以上

  • 特定事業者、特定連鎖化事業者または認定管理統轄事業者

該当する事業者にはエネルギー管理統括及びエネルギー管理企画推進者の選任、エネルギー使用状況届(指定時のみ)・エネルギー管理統括者等の選解任届出書(選解任時のみ)・定期報告書及び中長期計画書(原則毎年度)の提出、管理標準の設定や省エネ措置の実施といった判断基準に定めた措置の実施、そして燃料転換や稼働時間の変更といった指針に定めた措置の実施が義務付けられています。

また、エネルギー管理指定工場等に指定された工場、事業者等については、個別に下記の義務が課せられているため注意しましょう。

エネルギー管理指定工場等ごとの義務

出典:経済産業省資源エネルギー庁『省エネ法の手続き』(2023年3月)p4

(2)遵守すべき判断基準

すべての事業者が、省エネ法によって示された事項を実施するために必要な判断の基準となる事項を告示として公表したもの、これを判断基準と言います。

この判断基準は、以下の3つに分類されています。

・基準部分

・目標部分

・調和規定

判断基準の概要

工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準

Ⅰ 基準部分

1ー1 全ての事業者が取り組むべき事項

1ー2 1 工場単位、設備単位での基本的実施事項

2 エネルギー消費設備等に関する事項

2ー1 事務所:主要な設備について、その管理、計測・記録、保守・点検、新設・更新に当たっての措置の基準を規定

2ー2 工場等:エネルギーの使用に係る各過程について、その管理、計測・記録、保守・点検、新設・更新に当たっ ての措置の基準を規定

Ⅱ 目標部分

1ー1 事務所:主要な設備について、事業者として検討、実施すべき事項を規定

1ー2 工場等:主要な設備について、事業者として検討、実施すべき事項を規定

2 その他エネルギーの使用の合理化に関する事項

Ⅲ 調和規定

非化石エネルギーへの転換に関する措置が、エネルギーの使用の合理化に関する措置の効果を著しく妨げることのないように留意すべき点について規定。

工場等における非化石エネルギーへの転換に関する事業者の判断の基準

Ⅰ 基準部分

1–1 全ての事業者が取り組むべき事項

1ー2 工場等において取り組むべき事項

(1)事務所:燃料・熱・電気等に関して取り組むべき基本的実施事項

(2)工場等:燃料・熱・電気等に関して取り組むべき基本的実施事項

Ⅱ 目標部分

特定事業者等が中長期的に努力し、計画的に取り組むべき事項について規定

Ⅲ 調和規定

非化石エネルギーへの転換に関する措置が、エネルギーの使用の合理化に関する措置の効果を著しく妨げることのないように留意すべき点について規定。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『省エネ法の手続き』(2023年3月)p8(P8)

(3)3つの評価軸について

改正省エネ法では、様々な取り組むべき事項が示されています。それらを適切に評価するために、3つの評価軸を設定しています。

1. エネルギー使用の合理化

2. 非化石エネルギーへの転換

3. 電気の需要の最適化

以上3種類の評価軸にはそれぞれ、数値化するための公式が設けられています。

「1エネルギー使用の合理化」を例に挙げると、

エネルギー消費原単位 = (A’− B − B’)/ C 

A : エネルギー使用量(燃料、熱、電気の使用量) 

A’: A の非化石燃料に対して補正係数 0.8 を乗じて再計算した全エネルギー使用量 

B : 販売した副生エネルギー量

B’: 購入した未利用熱量 

C : エネルギーの使用量と密接な関係を持つ値(生産数量、売上高、建物床面積、入場者数、外来者数、ベッド数×稼働率 等)

となります。

しかしながらこれらには注意点があります。改正省エネ法では、エネルギーの定義や係数が見直されるため、事業者が算定するエネルギー消費原単位も変わります。これによって定期報告の要領にも変化が生じたため、期限ぎりぎりで慌てることのないように、早いうちに計算方法や報告要領を理解しておかなければなりません。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『省エネ法の手続き』(2023年3月)p11~14

(4)事業者向けの支援補助金について

省エネ法の改正によって、実施すべき事項が増え、事業者の負担は増えました。中には新しい設備に多額の費用がかかる事業者もいるでしょう。そういった場合に、支援補助金や融資を受けられる可能性があります。以下に、設備投資に対する支援補助金の一例を挙げますので参考にしてください。

省エネルギー設備への入替支援

事業者がさらなる省エネ設備の導入を促進するため、以下の4種類の事業に対して補助金があります。

1. 先進事業

2. オーダーメイド型事業

3. 指定設備導入事業

4. エネルギー需要最適化対策事業

<支援補助額>

 

先進事業

オーダーメイド型事業

指定設備導入事業

エネルギー需要最適化対策事業

上限額

15億円/年度

15億円/年度

1億円/年度

1億円/年度

下限額

100万円/年度

100万円/年度

30万円/年度

100万円/年度

この他にも、省エネルギー設備投資に係る利子補給金助成事業費補助金や、中小企業等に対するエネルギー利用最適化推進事業費補助金、⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦など、様々な支援が準備されています。

また、支援内容は補助金だけでなく、省エネ最適化診断や講師派遣など多岐にわたるため、補助金の対象にならなかったからといって諦める必要はありません。利用できる支援はすべて使って少しでも負担を減らしましょう。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『省エネルギー投資促進に向けた支援補助金』(2023/6/12)

4. まとめ:事業に関係のある改正事項を理解しよう

改正省エネ法では、エネルギー使用の合理化の対象に「非化石エネルギー」が追加されました。これに伴い、定期報告要領が変わったり、ベンチマーク制度の見直しがされたりして事業者の負担が増えることになります。

しかし、支援補助金の種類は豊富で、補助金以外の支援もあります。それらを利用することで、より一層省エネにつなげることが出来るのです。

早めに事業に関係のある改正内容を把握し、今後の事業のさらなる発展と、省エネの両立をしていきましょう。

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