EV市場の現状とは?自動車分野の日本における普及率の課題と戦略

近年、電気自動車(EV)の市場が急速に拡大しています。かつて、自動車産業は地球温暖化の大きな原因として指摘され、環境対策が難しい業界と認識されていました。日本ではまだEVの普及率は低いと言われており、インフラ整備や価格、技術の発展など、さまざまな課題が残されています。この記事では、世界のEV市場を比較対象とし、日本のEV普及の現状や今後の展望、そして取り組むべき課題について詳しく解説していきます。

目次

  1. そもそもEV車とはなにか?

  2. カーボンニュートラル自動車市場はどう生き残るか

  3. 日産自動車のEV市場戦略

  4. まとめ:環境によい未来のために、EV市場に関する知見を広げよう!

1. そもそもEV車とはなにか?

EV市場に関して解説する前に、まずはそもそもEVとは何か詳しく解説します。

(1)EVとは電気自動車のこと

EVとは「Electric Vehicle」の略で電気自動車のことを指します。

EVはガソリンを燃料とするエンジンを使用した自動車とは異なり、バッテリーに蓄えた電気でモーターを回転させて走る、電気自動車です。今世界中で注目されている地球温暖化対策への貢献も期待できる自動車です。これまで自動車市場で普及し続けてきた「ガソリン車=内燃機関(ICE)車」と比較して、エネルギー効率の良さも注目されています。

一方で、走行距離やコスト面の課題が指摘されることから、コスト削減や走行距離の長距離化を強化した製品も出始めていることがわかりました。

出典:経済産業省『電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!』(2017-10-12)

出典:トヨタ『「EV」って何?トヨタのEVってどんな車?』

(2)HEV・BEV・PHEV・FCEVの違い

今後が期待されるEVですが、EVには種類があることをご存知でしょうか。EVには「HEV」「BEV」「PHEV」「FCEV」の4種類があります。

  • HEV(Hybrid Electric Vehicle)

現在、最も普及しているハイブリッド車です。電気だけでなくガソリンもエネルギー源であり、市場で最も販売されています。

HEVのモーターはエンジンが発電したエネルギーを利用するため、外部の電力を必要としません。さらにHEVには「ストロングハイブリッド」「マイルドハイブリッド」の2種があります。

ストロングハイブリッド・・・電力のみで走行する自動車

マイルドハイブリッド・・・エンジンがメインで、発進・加速などにはモーターを使用

  • BEV(Battery Electric Vehicle)

エンジンのない電力のみで走行する電気自動車です。環境にとても優しいことを特徴としています。定期的な充電が必要な自動車ではありますが、維持費の安さも含め、世界的に注目されています。

走行距離の短さや、充電設備の普及が実現すれば、今後HEVの普及率を超えることが期待できるでしょう。

  • PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)

HEVと設備は同じですが、外部電力が利用できる電気自動車です。充電が切れてもエンジンで走れるところを特徴としています。別名、「次世代エコカー」とも呼ばれています。

電力で走行する距離が長く、災害時やアウトドアなどでも活躍する製品と期待されています。一方、バッテリーなどの設備を整えるコストがかかることは大きな課題。値段が気になる人は多いかもしれません。

  • FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)

水素が燃料の電気自動車です。自動車は水素と電気のみを生み出すことを特徴としています。CO2を排出することなく走行できるのです。また、BEVよりも走行距離が長く、1回の燃料充填も約3分なのでフル充電まで時間がかからないことも大きな魅力といえます。

ただし、PHEV同様コスト面が課題です。価格はPHEVよりも高額であり、700万円以上になるといわれています。

出典:西自動車商会『電気自動車(EV)の種類と違い【BEV・HEV・PHEV・FCEV】』(2023/03/10)

出典:新電元工業株式会社『EV4種類の違いと基礎知識【BEV・HEV・PHEV・FCEV】』(2022/06)

出典:東日本三菱自動車販売株式会社「防災に役立つPHEV」

出典:KINTO:『2022年の電気自動車(BEV)保有率は前年比3.7%増の8.2%、買い替え検討者は34.9%に』(2022/11/25)

2. ICE販売台数減少と日本のEV普及率の課題

自動車分野は、日本全体のCO2排出の内、16%を占める産業です。ここでは経済産業省が公表した自動車におけるEV市場への見解と、ICE車の販売台数の現状、日本のEV普及率の課題を解説します。

(1)経済産業省公表、自動車分野のEV化課題

経済産業省から発表された“「トランジション・ファイナンス」に関する自動車分野における技術ロードマップ”によると、2023年3月時点で自動車分野においてカーボンニュートラルの目標実現に向けた技術は確立されていないとされています。

電動化の課題は、電動パワートレインの容量・重量による航続距離(EVにおける走行距離)に制約が生じることと指摘。リサイクルシステム未確立などサスティナビリティにおける課題も残っていることがEV普及率の壁となっています。

自動車分野は2035年の温暖化効果ガス排出の削減目標達成に向けて、EV市場を加速化させることが今後の課題となるでしょう。

出典:経済産業省『「トランジション・ファイナンス」に関する自動車分野における技術ロードマップ 2023年3月』p.4-5,13

(2)ICE自動車の販売台数減少は2035年

内燃機関(ICE)自動車の販売台数は世界規模で2017年にピークを過ぎ、今後数年でEV市場が急増する見込みです。公共充電インフラの合理化、電気自動車蓄電池のリサイクル問題など、課題は残りますが2035年までにはICEの新車販売を段階的に終了することが検討されています。

しかし、一般社団法人日本自動車販売協会連合会の調査によると、最新の燃料別販売台数は未だICE車がEVを上回る結果でした。日本においては、未だICE車を購入する人が多数派であり、今後EV市場の加速が考えられます。

ICE購入者が多数派ではありますが、調査結果を見るとトヨタやホンダ、マツダ、SUBARU、輸入車は前年と比較してICEの購入台数はマイナス。EVは前年と比較してマイナスではないことから、自動車市場全体の売り上げが下がっているわけではないことがわかります。

EV市場が加速することにより、徐々にICE車の販売台数は減少していくと予想できます。

出典:BloombergNEF『電気自動車は2026 年までに1 億台に達する予想も、ネットゼロの軌道に乗るには一段と強力な後押しが必須』(2023/06/08)

出典:一般社団法人日本自動車販売協会連合会「燃料別販売台数(乗用車)」

(3)日本のEV普及の課題

日本におけるEVの普及率は、世界と比較すると緩やかな状況かもしれません。しかし、2023年の普通乗用車のEV普及率は前年と比較して増加しています。

EV市場で最も普及しているHV(HEV)の2022年7月の販売台数は88,621台、2023年7月は122,922台でした。EV販売台数はHVと比較すると少ない状況ですが、HVもEVも前年比を上回っています。これらからも売り上げは非常に伸びることが予想できます。

今後、日本におけるEV市場普及の課題は価格です。EVの車体価格は最低金額で約300万円、燃料電池自動車(FCEV・FCV)は700万円を超えるにも関わらず、日本のEV補助金の条件付き上限は85万円・軽EVなら55万円。充電設備などのコストや生活費・光熱費の値上げも考えると手が届かないと感じる消費者がいることは容易に想像できます。

また、その他にも特に地方部では充電器の設置が不足している等のインフラ整備部分での課題があります。そのため、現在では、政府もインフラの整備補助や開発予算の補助、購入補助や減税などの手立てを講じています。

出典:一般社団法人日本自動車販売協会連合会「燃料別販売台数(乗用車)」

出典:TEPCO『【2023年最新】EVの普及率はどのくらい?日本と世界のEV事情を解説』(2023/07/31)

出典:経済産業省『令和4年度補正予算・令和5年度当初予算「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」』

出典:新電元工業株式会社『EVが抱える課題とは?車体やインフラの問題点から開発状況まで解説』(2022/12)

3. 日産自動車のEV市場戦略

日産自動車株式会社はEV市場加速のために電子化戦略に取り組んでいます。その取り組みを「長期ビジョン:Nissan Ambition 2030」とし、各市場のニーズに合わせたEVおよびe-POWERの普及を加速する見込みです。

発表されたビジョンによれば、2030年度までに電動化を強化、電動車両のモデル数を増加し、インフィニティとニッサンの両ブランドを融合したグローバル電動者モデルミックスは50%から55%以上へ上昇すると宣言しました。また、電動自動車販売率も55%から58%に引き上げ、日本のみならずグローバル化の推進が期待できます。

全個体電池(ASSB)を進化させることで、手ごろな価格設定やEVの安全性が高まることも予測されています。EVのコストがICEレベルになれば、普及率向上は予想を上回る結果になると期待できるでしょう。

出典:日産自動車株式会社『日産自動車、電動化戦略の取り組みを加速』(2023/02/27)

出典:NISSAN MOTOR CORPORATION「Nissan Ambition 2030」

4. まとめ:環境によい未来のために、EV市場に関する知見を広げよう!

日本においてEVの価格が、普及率向上の未来を握っていることがわかりました。物価上昇のなか、今お持ちの自動車を買い替えるにはICEを大きく上回るEV市場の魅力が必要です。

今回紹介した日産を含む自動車メーカー各社は、EV普及のためにさまざまな戦略を打ち出しています。私たちも企業での取り組みとして、環境や自動車産業のために今できることとして、EV市場への理解や、自動車のEC化、補助金制度などの情報収集を行い、長期的な計画も含め見直していきましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024