ドイツの脱炭素社会に向けた取り組みと水素エネルギー拡大計画

世界各国が脱炭素社会に向けて、再生可能エネルギーによる発電や温室効果ガスの排出規制などを行っています。その中でドイツは、水素エネルギー拡大計画を実施しており、水素をあらゆる分野で利用しようと取り組んでいますが、これはいったいどのような計画で、何に活用しているのでしょうか。

本記事では、ドイツのエネルギー事情と水素エネルギー拡大計画、その課題、実際に行われているプロジェクトの事例などについてまとめています。

目次

  1. ドイツのエネルギー事情

  2. ドイツの水素利用に向けた取り組み

  3. ヨーロッパ・ドイツの水素の活用事例

  4. 他国の水素プロジェクト事例

  5. まとめ:ドイツの脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの利用を参考にしよう!

1. ドイツのエネルギー事情

ドイツの発電方法の割合と脱炭素社会に向けた昨今の現状について解説しています。

(1)ドイツの発電における現状

ドイツはメルケル政権の下、2022年に脱原発の完了、2038年までに脱石炭、2030年には再生可能エネルギーで総電力の65%を占めるという目標を掲げ、法制化しています。

2021年時点で総発電量のうち、再生可能エネルギーがおよそ48%(風力23%、太陽光11%、バイオマス9%、水力4%)、再生可能エネルギー以外がおよそ52%(石炭火力26%、原子力13%、天然ガス火力12%、その他1%)でした。

総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、1990年にはおよそ4%でしたが、現時点では45%以上まで拡大しており、2030年の目標である65%に順調に近づいています。

出典:公益財団法人 自然エネルギー財団『ドイツの脱炭素戦略』p.8-9

 

(2)ドイツの脱炭素社会に向けた現状

ドイツは温室効果ガスの排出削減に向けて、中期目標として2030年までに温室効果ガスを1990年度比で65%減、長期目標として2045年までに気候中立(排出量を減らし吸収量を増やすことで、排出する温室効果ガスを実質ゼロにする)を目標として掲げています。中長期目標の達成のため、ドイツは気候保護に向けた計画や法律を整備しており、2016年には気候保護計画2050が成立し、2019年には連邦気候保護法が施行されました。

気候保護計画2050とは、2050 年までの気候中立と、2030 年までに温室効果ガス排出量を 1990 年比で55%削減することをあげているもので、この計画でエネルギー、産業、建築、運輸、農業の部門別に 2030 年の排出削減目標も明示されています。また、連邦気候保護法では、2040年までに温室効果ガスを88%削減することが目標に加えられ、さらに建築や運輸、農業などの分野に温室効果ガスの年間許容排出量が設定されました。

出典:公益財団法人 自然エネルギー財団『ドイツの脱炭素戦略』p.2-4

2. ドイツの水素利用に向けた取り組み

ドイツの水素支援策と水素の利用促進に向けた取り組みについて解説しています。

(1)ドイツの水素戦略

ドイツは2020年に国家水素戦略を発表し、水素分野に90億€(約1.1兆円)の投資を行うと表明しました。水素の製造、水素の利用、研究・教育・イノベーション、EUへの働きかけを施策として掲げています。

具体的には、水素の製造では水素製造への税制見直し(再エネ賦課金免除等)や水電解装置への支援を行う予定で、水素利用では、重貨物輸送・鉄道・航空機用の水素充填インフラ整備、航空機のクリーン燃料利用義務化などの施策・検討を行っています。

加えて、定量的な目標としては以下のようなものがあります。

  • 水素の製造能力目標を2030年までに5GWとする

  • さらに2040年までに5GW追加する

  • 水素関連分野へ90億€(1.1兆円)を投資(国内の水素技術:70億€(8900億円)、国際連携:20億€(2500億円))

出典:環境省『2020年に国家水素戦略で水素分野に90億€(1.1兆円)を投資することを発表した』p.1.3

(2)ドイツの水素支援策

研究への開発支援

ドイツは発電部門において脱炭素化が進む一方で、運輸や建設などの産業では脱炭素化の進展が遅れているのが現状です。そこでドイツはエネルギー転換を進めるとともに、水素等の再生可能エネルギーが効率的に利用されることを可能にする「セクターカップリング」に力を入れています。

ドイツのエネルギー研究プログラムでは、大規模実証が注力されており、2018年の第7次エネルギー研究プログラムでは、低炭素水素の製造・輸送・利用に関する20のプロジェクトに2018年からの4年間で64億€(約1.028兆円)を割り当てました。

国立水素・燃料電池技術機関による取り組み

国立水素・燃料電池技術機関は主に水素や燃料電池の開発と推進を担い、政府と産業界や研究機関の連携を図り、水素・燃料電池技術革新国家プログラムの管理、運営を行っています。

水素・燃料電池技術革新国家プログラムでは、技術の育成や水素・燃料電池の市場参入に取り組んでいるほか、水素ステーションの整備なども支援しています。

出典:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所『エネルギー経済』p7.8

(3)ドイツの水素利用推進に向けて

発電部門

再生可能エネルギーによる発電量を増やしていくとともに、災害時や停電時など、電力供給が不安定な場合を想定した非常用電源の確保も重要です。近年では、燃料電池と無停電電源装置を組み合わせたシステムが非常用電源として普及しつつあります。

産業部門

産業部門においては、まだ水素利用の推進が進んでおらず、2030年の目標達成は難しいとされているため、改善に向けて日々、水素利用の研究が進められています。

輸送部門

輸送部門では、燃料電池自動車(fuel cell vehicle,FCV)の普及が進められており、2019年10月時点でFCV530台、FCバス21台、FCトラック2白、FCフォークリフト約100 台が稼働していると報告されています。

また、燃料電池自動車による輸送が増加しており、燃料電池自動車に欠かせない水素ステーションの整備も順調に進んでいます。2020年時点で稼働している水素ステーションはおよそ80カ所で、このままいけば100カ所を達成する見通しです。

さらに、ドイツでは、2018年9月に世界初の燃料電池で走る列車が試験的に導入されています。

出典:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所『エネルギー経済』p9.10

3. ヨーロッパ・ドイツの水素プロジェクト事例

実際に行われた水素活用に向けたプロジェクト事例について、具体例を用いて解説します。

(1)ヨーロッパの燃料電池バス導入事例

欧州の取り組みとして、約300台の燃料電池バスを導入する取り組みが行われ、実際に各国に導入されたFCバスの台数は合計で291台、国・地域ごとの台数は以下の通りです。

  • イギリス:88台

  • ドイツ/イタリア:88台

  • ベルギー/オランダ/ルクセンブルク:88台

  • 北/東ヨーロッパ:60台

  • フランス:15台

出典:環境省『地域種別ごとの国内外の水素プロジェクト事例』p.11

(2)ドイツ、デンマーク、ベルギーの農地での脱炭素実証

ドイツでは収穫率を維持した上で、農地の脱炭素化を行うため、農地内での水素の製造・利活用の実証が行われました。

発電では、農地に地面から独立した太陽光パネルを設置し、 農地そのものの収穫率を低減させずに発電を行い、太陽光からは電力、周囲の水分を活用し直接水素を生成する試みがされました。生成された水素は小型の貯蔵装置で貯蔵され、安全基準の元農地内のトラクターにて使用されました。

出典:環境省『地域種別ごとの国内外の水素プロジェクト事例』p.36

(3)ドイツのグリーン水素プロジェクト

ドイツの経済・気候保護省(BMWK)が、欧州委員会から2つの水素プロジェクトへの国家補助の承認を得たことを報告しています。これらのプロジェクトは「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」の枠組みで実施されます。

ザルツギッター社によるグリーン鉄鋼の生産

2033年までに鉄鋼生産をCO2をほとんど排出しない方法へ転換する計画です。このプロジェクトでは、水素を利用して鉄鋼を生産し、年間約9000トンのグリーン水素を生産する予定です。設備完成後には年間で360万トンのCO2削減が見込まれています。

BASF社によるラインラント・プファルツ州ルートビヒスハーフェン工場

化学製品の製造工程の脱炭素化と輸送部門での水素利用を目的としています。このプロジェクトでは、年間約5000トンのグリーン水素と4万トンの酸素を生産する54MW規模の電解槽を設置する予定です。

出典:JETRO『欧州委員会、ドイツのグリーン水素プロジェクト2件への補助を承認』(2022/10/25)

4. 他国の水素プロジェクト事例

(1)日本での水素エネルギー活用に伴う検証

水素コストの低減を目指し、山梨県・東レ・東電などは、太陽光発電でグリーン水素を製造するシステムの実証事業を実施しています。

この計画では、製造から使用までの水素のサプライチェーンを作り、コストを削減する方法を探ります。目標は、工場やスーパーマーケットに水素を供給することです。特に、山梨県北杜市にあるサントリーの白洲工場には、2024年度末までに16MW級の水素関連設備を設置する予定です。

出典:環境省『地域種別ごとの国内外の水素プロジェクト事例』p.9

(2)北京冬季オリンピックでの水素活用

中国・張家口では、600台以上の水素燃料電池バスが北京冬季オリンピックで使用されました。この計画には、年間4000セットの空冷水素燃料電気スタックの自動生産ラインを所有しており、低コストのバッチ生産を達成することができる空冷水素燃料メーカーである張家口水素エネルギー技術有限公司が参加しました。

張家口市は近年、水素エネルギー総合利用産業システムの構築を加速させ、水素製造、水素化、水素貯蔵、水素エネルギー産業機器製造、燃料電池コア部品製造、水素エネルギー完成車製造vなど、産業チェーン全体を形成しています。

出典:環境省『地域種別ごとの国内外の水素プロジェクト事例』p.10

(3)ロサンゼルス港での水素利用

ロサンゼルス港では、港湾内での輸送を中心に水素の利活用が進められており、水素製造の実証も行われました。このプロジェクトでは、豊田通商、Toyota Motor North America、Kenworth Truck等が参加し、約120億円の予算が使用されました。

港湾のクリーンエア行動計画の目標を推進し、カリフォルニア州が温室効果ガスと有毒な大気排出量の削減を目的としており、豊田通商が、マーセドにてバイオガスより水素を生成し、 Shellが大容量水素ステーションを設置するなど、さまざまな機関が協力し、実行されました。

出典:環境省『地域種別ごとの国内外の水素プロジェクト事例』p.37

5. まとめ:ドイツの脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの利用を参考にしよう!

ドイツは総発電量の約半数を再生可能エネルギーで賄っており、さらに発電以外の分野においても水素を活用しようとする、水素エネルギー拡大計画が進められています。

日本は総発電量に占める再生可能エネルギーの割合がおよそ2割であり、それ以外の分野でも再生可能エネルギーはあまり普及していません。ドイツに比べると、脱炭素社会に向けた取り組みがまだまだ不足していることが分かります。

 

海外市場に進出する際には、取引相手の国についても考える必要があります。この先の脱炭素社会に向けて、他国の事例からも学んでいきましょう。

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