南極海氷減少の背景と気候変動との関係とは?

2022年2月、南極の海氷の面積が過去最少を記録し、多くの専門家や研究者がこの現象に注目しています。一部の人々は、これが地球温暖化による気候変動の明確な証拠であると考えていますが、真実はどうなのでしょうか。

この記事では、南極海氷の現状とその背後にある要因、そして海氷の減少がもたらす可能性のある影響について詳しく解説します。さらに、気候変動の実態と、これに対する取り組みや対策についても触れています

目次

  1. 南極海氷の変化と気候変動

  2. 南極海氷減少による影響

  3. 南極海氷減少に対する取り組み

  4. まとめ:海氷が減少していることを知ったうえで、今できることをしよう!

1. 南極海氷の変化と気候変動

南極海氷とはなにか、南極海氷が昨今どのように変化しているのかについて解説していきます。

(1)南極海氷とは?

海氷とは、海水が凍結して氷になったものです。南極地域にある海氷のことを南極海氷と呼びます。海氷は厚いものだけでなく薄いものもあり、全てが一定ではありません。そこで、国立極地研究所は海面に占める海氷の割合、いわゆる海氷の密接度が15%以上の領域を海氷面積と定義しています。

また、現在では海氷の減少は記録的な問題であることから「シックスシグマ(Six Sigma)」と呼ばれています。シックスシグマとは、統計学で6σにあたる、100万回に3回、もしくは4回エラーが起こる確率のことをいいます。現在、シックスシグマと呼ばれていることから、如何にこの課題が通常ではあり得ない事象かが分かります。

※シグマ(σ)とは、統計学用語で、標準偏差のことをいい、平均からどれくらいバラつきがあるのかを示すものです。

出典:国立極地研究所『南極域の海氷面積が観測史上最小を記録』(2022/4/28)

(2)南極海氷の減少

南極海氷は南極の冬にあたる10月頃に増加し、夏にあたる2月頃に減少する傾向があります。
2012年に打ち上げられた水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによると、2021年から2022年にかけては、10月すぎから海氷面積の減少傾向が見られ、年明けの2月20日に過去最小値を更新しました。過去10年間の2月頃の海氷面積の平均値はおよそ290万平方キロメートルで、今回計測された過去最小値は平均の73%程度しかありませんでした。

出典:国立極地研究所『南極域の海氷面積が観測史上最小を記録』(2022/4/28)

(3)気候変動の動向

2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)でパリ協定が合意され、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標が掲げられました。

しかし、現在においてその目標に向けては不十分な状態です。2030年の温室効果ガスの排出量は10年比でおよそ10%増える見込みであり、パリ協定の目標を実現するためには、気温上昇を2℃に抑えるなら25%減、1.5℃に抑えるなら45%減にする必要があります。

特に二酸化炭素排出量が世界の3割を占める中国や、次に多いアメリカなど先進国の負担が不可欠です。その中で日本は、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度の水準から26%削減するという目標を立てており、順調に目標達成に向けて削減できています。ただ、水力発電などの再生可能エネルギーの使用率や石油、石炭から天然ガスのような低炭素な燃料へと変えていく低炭素化という点では他の主要国に比べて低い状況です。

政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013〜2014年)によると、世界平均地上気温は、1880年から2012年の期間に0.85℃上昇していることが報告されており、今後、この傾向が続くと、海氷の減少や海面水位の上昇を引き起こし、人類の生活にも影響を及ぼすとされています。

出典:日本経済新聞「2030年温暖化ガス10.6%増 各国目標分析、パリ協定遠く」

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「パリ協定のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み」

出典:環境省『地球温暖化の現状』

(4)南極海氷シミュレーションとパリ協定

南極の海氷の観測とシミュレーションに基づく研究は、地球の未来にとって重要な意味を持ちます。これらの研究により、温暖化の進行を抑え、パリ協定の目標を達成することの重要性が明らかになっています。

観測データは、南極の氷が急速に減少している現状を示しており、シミュレーションでは温暖化が進むとその減少が加速することが予測されています。これらの情報は、パリ協定の下で設定された気温上昇の制限を達成するために、世界中の国々が二酸化炭素排出を削減する必要があることを示しています。

南極の氷が融解すると、海面が上昇し、全世界の沿岸地域に深刻な影響を及ぼす可能性があります。したがって、観測とシミュレーションに基づく情報を活用し、パリ協定の目標達成に向けて迅速かつ効果的な行動を取ることが求められています。

出典:日本経済新聞『40年内に後戻りできない臨界点に 南極の氷どう守る』(2021/6/5)

2. 南極海氷減少による影響

南極海氷減少による漁業生産、生態系への影響について解説していきます。

(1)漁業生産への影響

海氷が減少するということは、海氷の生成に必要な冷たい海水が流入してこないということであり、海の循環が弱まっているということが分かります。海の循環が弱まると海氷だけでなく、人類や他の生物にも影響を与えます。

海の循環は植物プランクトンや栄養物質などを輸送する働きがあります。プランクトンや栄養物質が循環していることでそこに住む生物が成長することができているのです。しかし、海の循環が弱まるとそれらを運ぶことができなくなり、魚などのエサがなくなることで、種の個体数が減少する可能性があります。

結果として、魚が取れにくくなり漁業生産にも影響する可能性があります。

出典:北海道大学『海氷減少の巨大な影響を探る』(2022/12/1)

(2)生態系への影響

南極半島地域では、冬に海氷の下で発達した藻類が、夏になって氷が融け、太陽光が当たるようになると大増殖し、さらにそれを餌とするオキアミが大量に増殖します。そしてペンギンなど南極の多くの動物の餌となります。このように、南極における海氷の変化と生態系は密接に関係しています。特に温暖化が進んでいるこの南極半島地域では、海氷が融けてしまい上記のサイクルが成り立たなくなってオキアミが減少したことで、1970年代後半から2010年の間でペンギンの数が80%近くも減少しました。

出典:北海道大学『海氷減少の巨大な影響を探る』(2022/12/1)

出典:事業構想『ペンギン目線の観測で 生態系と環境変化を解明』(2017/7)

3. 南極海氷減少に対する取り組み

南極海氷減少に対する取り組みが問題視されていることを受け、どのような施策を打っているのかについて、解説します。

(1)海氷のデータ取得のための取り組み MONACA

国立極地研究所の研究グループは、東京大学生産技術研究所附属海中観測実装工学研究センターとともに海氷計測ロボット「MONACA」を開発しました。
「MONACA」は海氷の下に入り込んで、全自動で航行しながら、海氷のデータを高性能に計測することができます。衛星の観測データと「MONACA」の海中データと組み合わせれば、より研究が進展して、南極海氷が減少している原因も判明するかもしれません。

出典:国立極地研究所『海中ロボットによる海氷裏面の全自動計測に成功』(2021/3/18)

(2)南極監視のための取り組み

この観測では、「しらせ」という砕氷船を使用して、棚氷下の海洋観測を行っています。これには、「しらせ」の砕氷能力に加えて、横方向への動きを可能にするスクリューや、ROV・AUVなどの無人探査機器が必要となりますが、観測時期や観測場所を設定するフレキシブルな運行体制がを行うことにより、監視を可能にしています。

また、その他の取り組みとして、昭和基地は老朽化が進んでいるため、新しい時代に求められる観測を行うために基地の革新が進められています。基地施設は約70棟から10棟程度に集約され、観測機能が強化されています。

上記の施策を行うことで、夏期に留まらず、通年観測が行える体制が構築できると考えられています。

また、「ドームふじ」地域に大規模な天文台を建設する構想が国際的に進められており、各国が必要な観測施設を持ち込んで運営する国際宇宙ステーションのような協働運営方式も視野に入れています。

出典:国立極地研究所『世界屈指の砕氷能力に最先端の研究観測機能で棚氷下の海洋観測に、挑む。』

4. まとめ:南極海氷への気候変動の影響を理解した上でパリ協定などの国際全体での取り組みにも目を向けよう!

南極海氷の減少は気候変動の一環であり、海洋生態系や漁業に影響を及ぼす可能性があります。パリ協定の目標達成や海氷データ収集など、取り組みが必要で、国際協力が重要です。

近年、企業でも持続可能なエネルギー源を活用し、二酸化炭素排出を削減する取り組みを強化し、気候変動への対策を推進することが求められています。企業内でも温室効果ガスの排出量を調査し、対策する等の対策を講じ、気候変動の解決に寄与しましょう。

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