気候変動・ESG運動の背景とイギリスの金融機関の取り組み

気候変動の影響は、地球全体で深刻な問題となっています。この問題に対する対策として、気候変動対策やESG(環境、社会、ガバナンス)運動の重要性が世界中で強調されています。特に、金融業界は経済の中心として、その役割が大きく、多くの企業や組織がESG運動に取り組んでいます。本記事では、イギリスを中心に、気候変動やESG運動の最新の動向、取り組み、そしてその影響について詳しく解説します。

目次

  1. 気候変動とESGの背景

  2. 金融機関と気候変動

  3. イギリスのESGに対する取り組み

  4. まとめ:気候変動やESGに関心を持ち、社会へ貢献できる事を始めましょう!

1. 気候変動とESGの背景

近年、問題視されている気候変動に対する取り組みとして、ESGがあげられます。本章では、気候変動の動向とESGの意義について、解説します。

(1)近年の気候変動

日本全国で気温の上昇、大雨の頻度の増加、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動及びその影響が顕著になっています。2018年の夏は、西日本で「平成30年7月豪雨」や、埼玉県での歴代最高気温の更新など、記録的な気象現象が発生しました。これらの現象は多くの被害をもたらしており、気候変動に対処するためには、温室効果ガスの排出削減だけでなく、気候変動の影響を軽減する対策の実施が必要だと考えられています。

出典:環境省『第2章 気候変動影響への適応』

(2)気候変動課題で注目を集めるESG

ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指します。

ESGは投資活動から始まった概念で、ESG投資では企業の財務情報に加えて環境や社会への配慮、企業統治の向上などの情報を考慮し、中長期的なリターンを目指すものです。近年、企業経営においてもESGに配慮する傾向が増しており、ESG経営とも呼ばれています。ESGの考え方は、投資だけでなく、経営にも適用されるものとなっています。

出典:内閣府『ESGの概要』

2. イギリスの気候変動に対する取り組み

(1)イギリス政府の取り組み

イギリス政府は、環境法案の元で、環境と気候の課題に対処するため以下のような取り組みに対する実施を検討しており、環境問題に対して前向きな検討を行っています。

  • 空気の質の向上

国内の空気質を向上させるための強力な行動をサポートするため、私たちの健康に最も大きな影響を与える大気汚染物質である微細粒子状物質(PM2.5)への公衆の曝露を特に減少させることに焦点を当てた目標を探求ています。

  • 資源の効率と廃棄物の削減

潜在的な目標は、資源の生産性を向上させ、生成される残留廃棄物とプラスチック汚染の量を減少させるような取り組みを検討しています。

  • 生物多様性

陸上、淡水、海上の保護地域および広範な田園地帯での野生生物の生息地を復元および創出する目標、および陸上の種の個体数を増加させ、海洋の生物多様性を向上させる目標を検討しています。

農業と廃水からの汚染に対処し、水質を向上させる目標を設定することを検討します。さらに、取水量を削減するための水需要に関する目標の設定を行います。

環境大臣は、これらの目標は、私たちの自然環境を保護し向上させるための大胆な行動の背後にある推進力となり、残された課題に取り組むための鍵となることを示しています。

出典:英国政府『「より環境に優しい復興」を支援する法的拘束力のある目標』( 2020/8/19)

(2)HSBC銀行のESGに関する考え方

イギリスの銀行の1つであるHSBCは、高いガバナンスの基準を維持し、長期的なビジネスの構築、持続的な関係の発展に取り組んでいます。

実際にHSBCはESGのパフォーマンスに関する更新情報を定期的に公開しており、グループCEOのNoel Quinnは、重要性を認識しており、環境、社会、ガバナンスのパフォーマンスに関する透明な報告は、すべてのステークホルダーに価値をもたらすために必要であるとしています。

出典:HSBC 『持続可能な成長への取り組み』

(3)NatWest Groupの気候変動に対する取り組み

NatWest Groupは気候変動への取り組みを優先事項としており、顧客やコミュニティのためのより持続可能な経済と未来を提供することを目指しています

NatWest Groupは、Science Based Targets initiative (SBTi)によってその科学的目標が検証された英国初の銀行です。これらの目標は2030年までに彼らの資金調達活動の気候への影響を半減させ、2050年までにネットゼロを達成するという目標を概説する気候移行計画の基盤となっています。

2022年、NatWest GroupはCOP27の英国パビリオンをサポートするための重要な役割を果たし、Sustainable Markets Initiativeと共にいくつかのイベントを共催しました。銀行の取締役会も、気候戦略に関連する株主の意見を「気候に関する意見」という決議を通じて求め、圧倒的な支持を受けました。

さらに、協力の重要性を認識し、NatWest GroupはCarbonplaceというグローバルな炭素クレジット取引ネットワークや、英国の建物のエネルギー効率を向上させることを目的としたSustainable Homes and Buildings Coalitionに参加しました。また、NatWest Groupは石油・ガス部門と関連する重大なリスクを認識しており、2022年には、石油・ガスESEポリシーをさらに厳格化しました。

英国の銀行ナットウエストの最高経営責任者(CEO)、アリソン・ローズ氏が2023年7月26日に辞任しました。旧ブレグジット党の党首であるナイジェル・ファラージ氏と銀行との関係についてBBCの記者と話した際に「重大な判断ミス」を認めたことが辞任の理由としています。記事の詳細は提供されていませんが、この出来事は英国の金融業界に大きな影響を及ぼす可能性があります。

出典:NatWest Group『私たちの気候変動に関する野心と 2022 年のハイライト』

出典:Reuters『英銀ナットウエストCEOが辞任、ファラージ氏口座閉鎖巡る問題で』(2023/7/26)

3. 日本の気候変動への対策と金融機関の取り組み

近年の気候変動とESGへの取り組み等について解説してきましたが、この章では日本がどのような対策をとっているかについて解説します。

(1)日本の環境変動への対策

日本のCO₂排出量削減の目標は、2030年度までに、2013年度比で温室効果ガス排出量を26%削減、2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減することとしており、今世紀後半早期に向けて脱炭素社会を目指しています。

脱炭素社会に向けた具体的な取り組みは、社会全体として企業の脱炭素経営の推進やESG金融の推進、技術面では二酸化炭素回収・有効利用・貯留や水素利用などの技術革新の加速化、家庭ではエコカーの購入や省エネ住宅の導入、5つ星省エネ家電の選択などが検討されています。

出典:環境省『気候変動対策』p.5 p.9

(2)金融機関の取り組み

金融分野でも、カーボンニュートラル・気候変動問題に関する議論が活発化しています。国際機関やNGOなどが金融機関と協力してイニシアティブを組成し、ルール作成を進めています。

また、企業が気候変動に関連する環境変化に直面する中、顧客企業の気候変動対応を支援することで変化に強い事業基盤を構築し、持続可能な経営につなげてきました。サプライチェーン全体の脱炭素化が目指されており、多くの中小事業者は脱炭素化に必要なノウハウや人材が不足しているため、金融機関の支援が期待されています。

出典:環境省『温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ』p.7 p.8

4. まとめ:気候変動やESGに関心を持ち、社会へ貢献できる事を始めましょう!

日本全国でも気候変動が見られ、2018年夏の異常気象、農作物の品質低下、動植物の生息地が不自然に変わる、など気候変動による影響が明らかになってきています。

このような状況下で企業のESG(環境、社会、ガバナンス)の考え方が重要となってきました。特に、環境問題や人権問題などの社会的課題が問題視される中で、ESGの要素を無視することはリスクが高いとされ、ESGを取り入れた経営は、企業の長期的な成長を支える基盤にもなると考えられています。

イギリスの大手銀行であるHSBCも、ESGに関する情報を公開し、透明性を高めることで取り組みを強化しています。この取り組みはステークホルダーに価値を提供しているとも言えます。

企業としてもESGという新しい考え方を取り入れ、長期的に成長できる経営を行いましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024