カーボンニュートラルはおかしい!?そう言われる背景から効果的な取り組みを解説

今、カーボンニュートラルはおかしいという見方が注目されています。本来、カーボンニュートラルは、地球温暖化の原因ともなる温室効果ガスの削減に効果的な取り組みですが、世界的な視野ではカーボンニュートラルには「おかしい」点があるのも事実です。

ここでは、カーボンニュートラルと世界の温室効果ガス排出量を振り返るとともに、カーボンニュートラルがおかしいと言われる理由や、それでもカーボンニュートラルが必要とされる背景、日本の企業に求められていることなどを分かりやすくご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルとは?

  2. 地球全体の温室効果ガス排出量

  3. 世界から見た「カーボンニュートラルはおかしい」と言われる理由

  4. それでも日本がカーボンニュートラルに取り組む理由

  5. まとめ:カーボンニュートラルの矛盾を理解した上で役割を果たせる企業を目指そう!

1. カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、CO2を含む温室効果ガスの「排出量」と、植林・森林管理などによる「吸収量」を均衡させ、排出量を実質的にゼロにすることです。カーボンニュートラル達成のためには、温室効果ガスの排出量の削減だけでなく、同時に 吸収作用の保全・強化が重要となります。パリ協定の採択を受け、2020年に政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を掲げています。

カーボンニュートラルとは出典:環境省『カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル』(2023/01)

2. 地球全体の温室効果ガス排出量

世界でカーボンニュートラルへの動きが進む一方、地球全体での温室効果ガス排出量は今も増え続けています。ここでは、地球全体の温室効果ガス排出量と、特に排出量の多い国をご紹介します。

地球全体の人為的な温室効果ガス排出量

2019年度における地球全体での人為的な温室効果ガス排出量は59億トン(CO2換算)で、過去最高の排出量となっています。ここで言う人為的な温室効果ガスとは、人間の活動によって排出された温室効果ガスという意味であり、人為的温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがあります。その中でも、化石燃料および産業由来の二酸化炭素においては、1990年から増加の一途をたどっています。 世界全体の正味の人為的GHG排出量(1990-2019)

出典:資源エネルギー庁『温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?「IPCC」の最新報告書』(2022/11/10)

出典:気象庁『地球温暖化について』(2017/05/15)

世界の温室効果ガス排出量の割合

2018年度のデータを参照すると、世界の温室効果ガス排出量の割合が一番多いのは中国であり、次にアメリカ、インドの順となっています。日本はロシアに次ぐ5番目に位置しており、この5ヵ国だけで世界の温室効果ガス排出量の約6割を占めている状況となっています。特に中国は、発電のための石炭消費量が世界最大であり、上位5ヵ国の温室効果ガス排出量のうち約5割を占めています。

世界の温室効果ガス排出量(2018年)

出典:資源エネルギー庁『第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組』(2021/06/04)

出典:BBCニュース『中国で「グリーンエネルギー」が急増 気候変動対策にプラス効果=報告書 』(2023/06/30)

3. 世界から見た「カーボンニュートラルはおかしい」と言われる理由

地球温暖化の緩和に、カーボンニュートラルの取り組みは不可欠であり、全世界で早急な対応が求められています。しかし、一方で「カーボンニュートラルはおかしい」という意見もございます。

疑問視される先進国によるカーボンニュートラルの取り組み

温室効果ガスは主に先進国から排出されていることが分かっており、特に温室効果ガス排出量が上位の4ヵ国と1連合(中国、アメリカ、インド、ロシア、EU)は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度以下に保ち、気温の上昇を1.5度に抑える努力をすることを目標とした「パリ協定」に署名している国にも関わらず、温室効果ガス排出量が多いというのが実情です。

主な原因のひとつとして、これらの国ではエネルギー燃料を石炭や石油などの化石燃料に依存していることが挙げられ、カーボンニュートラルの取り組みに大きな課題があります。

出典:BBCニュース『気候変動対策の実情、汚染大国はCO2削減にどう取り組んでいるのか』(2021/11/16)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構 『李首相がケリー米特使と会談、気候変動での協力強化と先進国の率先した対応を希望(中国、米国) | ビジネス短信』(2023/07/31)

出典:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集』(2017/08/17)

温室効果ガス排出量上位の国による化石燃料の依存

世界最大の温室効果ガス排出国の中国では、発電に石炭を使用していることが温室効果ガス排出量の増加に繋がっていますが、エネルギー需要の高まりも相まって、石炭への依存から抜け出せずにいます。

アメリカにおいても、2020年の段階ではエネルギー源の8割以上を化石燃料で賄っており、パリ協定の目標と足並みを揃えるには大幅な改善が必要だとされています。

インドは、経済の急成長とともに石炭による温室効果ガス排出が増加しており、その排出量は20年前と比べると倍になっています。アメリカ、欧州、日本などが2050年頃を目途にカーボンニュートラルの実現を目指している中、インドは2070年頃を目途にカーボンニュートラルの実現を目指しています。

出典:BBCニュース『気候変動対策の実情、汚染大国はCO2削減にどう取り組んでいるのか』(2021/11/16)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構 『李首相がケリー米特使と会談、気候変動での協力強化と先進国の率先した対応を希望(中国、米国) | ビジネス短信』(2023/07/31)

出典:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集』(2017/08/17)

「パリ協定」の落とし穴

中国の温室効果ガス排出量が全体の約1/4を占めているのに対し、南アフリカの温室効果ガス排出量は全体のわずか1.3%となっていることからもわかるように、パリ協定は世界共通の気候変動対策の目標ですが、実際に温室効果ガスを多く排出している国は主に先進国であることから、温室効果ガスの排出量が少ない発展途上国に同じような対応を求めるのはおかしいという見方があります。

出典:ロイター『焦点:カルタゴや奴隷貿易拠点も、アフリカ史跡に気候変動の被害 』(2022/11/12)

出典:BBCニュース『ヴェトナムで史上最高気温を記録 44.1度 』(2023/05/08)

出典:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集』(2017/08/17)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『COP27を振り返る(前編)途上国の要求受け「損失と損害」基金の設立合意』(2022/12/26)

4. それでも日本がカーボンニュートラルに取り組む理由

地球規模による異常気象の懸念

今地球では、温室効果ガスと自然に発生するエルニーニョ現象の影響で、気温の急激な上昇が懸念されており、今後5年間で世界の気温は記録を塗り替える危険があると言われています。

特にエルニーニョ現象は、地球温暖化の影響で今後増える見通しとなっていて、人為的な温室効果ガス排出の増加と互いに影響し合うことで、地球規模で異常気象が発生すると考えられています。地球規模による異常気象は、自然環境だけでなく人々の健康や食の安全、水の管理など、多くのものに影響があると懸念されています。

出典:世界気象機関『世界の気温は今後5年間で新記録に達する見込み』(2023/05/17)

日本の企業のカーボンニュートラルの取り組み状況

日本では、「2050年カーボンニュートラル宣言」に向けた取り組みを行っています。日本の温室効果ガス排出量は年間で12億トンを超えており、2030年までに2013年度比で46%の排出量削減、2050年度には温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目標としています。

企業においては、再生可能エネルギーの導入や企業の温室効果ガス排出量の情報開示などによる脱炭素経営が求められています。しかし、大企業においては約7割の企業が脱炭素経営に取り組んでいる一方で、中小企業においては3割程度に留まっている状況です。しかし、中小企業のうち4割は今後脱炭素経営に取り組む予定があると答えており、企業に脱炭素経営が浸透しているとも言えます。

出典:環境省『国の取組 - 脱炭素ポータル』(2021/07/14)

出典:環境省『改正地球温暖化対策推進法 成立 - トピックス - 脱炭素ポータル』(2021/06/04)

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『サプライチェーンを意識して脱炭素化対応を(世界、日本) | コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 』(2022/03/22)

日本の企業に求められるカーボンニュートラルの取り組み

脱炭素経営に向けた主な取り組みとしては、「省エネ・省資源化」「環境に配慮した商品開発」「再エネ・新エネの導入」などが挙げられます。特に「再エネ・新エネの導入」では中小企業の課題として、電力の安定化や蓄電などに関わる周辺設備の初期投資のコストや、設備の設置場所の確保などの問題が取り上げられています。

また、世界的に企業単体でなく、企業に関わるサプライチェーンでの脱炭素化が主流となっていることから、日本でも「原材料の調達」「製造」「物流」「販売」「廃棄」というサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みが進められています。

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『サプライチェーンを意識して脱炭素化対応を(世界、日本) | コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 』(2022/03/22)

5. まとめ:カーボンニュートラルの矛盾を理解した上で役割を果たせる企業を目指そう!

カーボンニュートラルがおかしいと言われる理由には、温室効果ガス排出量の多くは経済大国である先進国が原因であるにも関わらず、排出量の少ない発展途上国にも同じようにカーボンニュートラルの対応を求めていることが挙げられます。

実際に、発展途上国では国の宝とされる文化や自然が消滅の危機に直面しており、カーボンニュートラルの実現が急がれます。日本は、中国やアメリカと比べると温室効果ガス排出量が少ないものの、世界的には排出量上位の位置にいることも事実です。カーボンニュートラルの達成のために、自社に求められる役割を果たせる企業を目指しましょう。

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