SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)とは?グリーンボンドについても解説
- 2023年10月28日
- SDGs・ESG
SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)とはなにか、わかりやすく解説します!社会課題の解決策として注目されているSIB。
革新的な社会課題解決事業に必要な資金の調達という問題を解消する手法として、地方公共団体を中心に、健康増進・高齢者対応・地域活性化などさまざまな活用事例があります。一方でSIBには、導入するうえでいくつかの課題も指摘されています。本記事では、SIBの概要・具体的な発行事例・課題などについて紹介します。
目次
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SIBの概要
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SIBの発行事例
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SIBの課題
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まとめ:SIBの仕組みを理解し、各種事業に活用しよう!
1. SIBの概要
SIBとは「ソーシャル・インパクト・ボンド」の略称で、債権の一種です。公共事業を行う上でさまざまなメリットがあり、活用事例も増えてきています。そんなSIBの概要について解説します。
SIBは民間資金を活用した社会課題解決事業
SIBとは、社会課題を解決するための公共事業を、民間から資金を集めてサービス提供者に委託する仕組みです。「ボンド」は債権という意味で、当該事業から得られた成果報酬が配当として資金提供者に還元されます。
サービス提供者の活動による行政コスト削減効果など、社会的インパクトを第三者機関が評価し、その結果が成果報酬に反映される点が特徴です。
出典:経産省「新しい官民連携の仕組み:ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の概要」P1
SIBのメリット
SIBには、立場に応じてさまざまなメリットがあります。
SIBは初期投資に多額の費用を要する複数年度にまたがる事業において、特にその効果が期待できます。
出典:経産省「新しい官民連携の仕組み:ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の概要」P2
2. SIBの発行事例
SIBは地方自治体を中心として、様々な公共事業に活用されています。実際にSIBを活用して行われた事業の事例をご紹介します。
八王子市 大腸がん検診受診勧奨事業
東京都の八王子市では、大腸がん精密検査受診率の向上が喫緊の課題となっていたため、SIBを活用した大腸がん検診受診勧奨事業を行いました。
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発注者:八王子市
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受託者:株式会社キャンサースキャン
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資金提供者:株式会社みずほ銀行・社会的投資推進財団・個人投資家・株式会社デジサーチアドバタイジング
本事業では大腸がん検診受診率などを評価指標とし、過去の問診データから対象者ごとにパターン分けした通知を発送する「オーダーメイド型勧奨」が受託者によって実施され、大腸がん検診及び大腸がん精密検査が受診率が基準値を上回る結果となりました。
出典:経済産業省「平成28年度:八王子市『大腸がん検診受診勧奨事業』」p2-3,12
豊田市 ずっと元気!プロジェクト
愛知県の豊田市では、高齢者の増加に伴う介護リスクの増大に対応するため、趣味・運動・就労などにより、高齢者の社会参加機会・社会活動量の増加を図る「ずっと元気!プロジェクト」を、SIBを活用して実施しています。
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発注者:豊田市
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受託者:合同会社 Next Rise ソーシャルインパクト推進機構
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資金提供者:株式会社ドリームインキュベータ、株式会社日本政策投資銀行、日本生命保険相互会社、株式会社 DI ソーシャルインパクトキャピタル
この事業では、65歳以上の市民を対象とした、運動・趣味・エンタメ・就労など30以上のプログラムが受託者によって提供されました。各プログラムへの参加者数を評価指標とし、事業期間は令和8年までとされています。
内閣府 非行少年への学習支援事業
非行少年への学習支援事業が、法務省によってSIB方式で行われています。
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発注者:国(法務省)
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受託者:株式会社公文教育研究会、株式会社キズキ、一般社団法人もふもふネット
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資金提供者:株式会社日本政策投資銀行・株式会社三井住友銀行・株式会社CAMPFIRE
この事業では、少年院在院中に学習支援計画の策定等を行った上で、出院後最長1年間にわたり学習支援を実施しています。学習支援計画の策定数・支援の継続率・学習支援計画の見直し検討の回数などを評価指標として、令和6年3月までの事業期間が設定されています。
出典:内閣府「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)による非行少年への学習支援事業」p1-2
前橋市 アーバンデザイン推進業務
群馬県前橋市では、遊休不動産の増加や商業活動の停滞、来街目的の喪失などの課題解決を目指して、「SIB による前橋市アーバンデザイン推進業務」を実施しています。
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発注者:前橋市
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受託者:一般社団法人前橋デザインコミッション
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資金提供者:第一生命保険株式会社・すみれ地域信託株式会社
この事業では、エリア内歩行者通行量の増加を目指して、「まちづくり勉強会開催事業」や「社会実験実施事業」などが行われています。事業期間は令和6年3月までです。
出典:内閣府「SIBによる前橋市アーバンデザイン推進業務」p1,5
西条市 地域活性化事業
愛媛県西条市では、地域産業の活性化へSIBを導入しています。
本事業は他のSIBとは少し形態が異なっており、行政が民間から募った資金を個別の市内事業者へ提供する方式となっています。各事業者は資金提供を受けるにあたって、それぞれの成果目標が設定されます。たとえば平成30年度の採択事業者である「酒ダイニングつじ丸」は、特産品開発事業として「5種類のパウンドケーキおよびパッケージを開発する」などの目標が設定されていました。SIBの形をとりつつも、補助金の有効活用という側面が大きいケースと言えるでしょう。
3. SIBの課題
さまざまな地域で活用が進むSIBですが、メリットばかりではありません。SIBの課題について解説します。
複雑なスキーム
SIBにおける大きな課題は、スキームが複雑であることです。関係者が多くとりまとめるのが煩雑な一方、定型化されたシステムがあるわけではないので、自治体側もサービス提供事業者側も理解に時間がかかります。
成果報酬の算定に必要となる評価方法も、妥当性を検証するためのデータが必ずしも十分ではなく、後になって「この評価方法では成果が公正に反映しないのではないか」ということも起こりえます。
出典:国土交通省「まちづくり×SIB~3つの価値を創出する新しいまちづくり」P36
行政は単年度予算主義
SIBは長期に亘る事業の初期投資を容易にする効果がある一方、行政においては予算が単年度主義で決められる場合が多く、SIBによる事業計画を予算化するのは必ずしも容易ではありません。
出典:国土交通省「まちづくり×SIB~3つの価値を創出する新しいまちづくり」P36
資金調達が困難な場合も
SIBによる事業は民間からの資金提供を前提としていますが、事業の有用性や採算などについて理解が得られなければ、当然資金は集まりません。地域住民・企業・金融機関などが資金提供者の有力候補ですが、SIBによる事業の趣旨に賛同を得ることが必要です。
出典:国土交通省「今後のまちづくり分野のSIB普及に向けた提言報告書」P15
4. まとめ:SIBの仕組みを理解し、各種事業に活用しよう!
SIBは民間の資金を活用した社会課題解決事業という行政手法です。SIBを活用することによって、行政コストの削減や革新的な社会課題解決事業の実施などさまざまなメリットが生まれます。
各地域で活用事例も多いSIBですが、複雑なスキームなど課題もあります。SIBの仕組みを理解し、地域課題解決のため各種事業に活用しましょう。