ボード3.0とは?1.0や2.0との違いについてわかりやすく解説
- 2023年10月28日
- SDGs・ESG
ボード3.0とはなにか、わかりやすく解説します!「ボード」とは英語で「板」「会議用のテーブル」などを指しますが、企業経営において「ボード」は取締役会、すなわち株式会社において業務執行の意思決定等を行う合議体を意味します。
企業のガバナンスがなにかと注目される昨今、ボードの役割は非常に重要なものになっています。アメリカ発の新潮流で、今後日本でも広がる可能性のあるボード3.0だけでなく、ボード1.0やボード2.0についても取り上げます。
目次
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ボード3.0とは
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ボード3.0の課題
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日本企業におけるボード3.0関連事例
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まとめ:ボード3.0について理解し、取締役会のあり方を検討しよう!
1. ボード3.0とは
ボード3.0とは、取締役会のあり方についての概念です。ボード3.0が登場する前にはボード1.0、2.0という考え方もありました。それぞれについて解説します。
ボード1.0とは
ボード1.0は1950~1960年代に提唱された取締役会のありかたで、「アドバイザリー・ボード」とも呼ばれます。 取締役はCEO(最高経営責任者)が率いる経営チームに所属し、社外取締役は顧問弁護士や取引先銀行などの企業に関係する専門家で構成されます。
これは企業の意思決定に外部の専門家からの知識を取り入れることができるという利点がありますが、一方で経営陣の違法行為やビジネス上の課題を発見できない点や、経営陣の管理能力を超えた企業の多角化を阻止できない点などの課題があります。
出典:経済産業省「日本のコーポレートガバナンスに関する取組と将来展望」(2021/12/20)P51
ボード2.0とは
ボード2.0は1970年代から現代にかけて提唱されている取締役会のありかたで、「モニタリング・ボード」とも呼ばれます。CEO以外は経営陣から独立した社外取締役により構成され、独立性の基準が厳格化されています。
ボード2.0においては、取締役の指名・報酬や監査委員会の整備が進展しました。一方でボード2.0は「パートタイム取締役会モデル」とも呼ばれ、「取締役会が少ないために、社外取締役が経営陣から得られる情報が不足しがち」「独立の取締役は非常勤であるために、活用できる分析リソースがない」「取締役の報酬は多くが低額かつ固定的で、モチベーションが上がらない」などの課題が指摘されています。
出典:経済産業省「日本のコーポレートガバナンスに関する取組と将来展望」(2021/12/20)P51
ボード3.0とは
ボード3.0は今後の取締役会のあり方として、米国で提案されているものです。ボード3.0では、取締役会の構成メンバーに投資のプロを加え、戦略と事業実績の評価・予測・監督を専門的に担当させます。また取締役会の関係組織として「戦略検証委員会」と「戦略分析室」を設置するほか、長期株式報酬等のインセンティブを設定する形が考えられています。
このような取締役会を実現するためには、ファンド投資家による取締役の派遣や分析リソースの提供に関する協力が不可欠です。
出典:経済産業省「CGS研究会(第3期)第1回 事務局説明資料」(2021/11/16)P48
出典:ECGI「Board 3.0: What the Private-Equity Governance Model Can Offer to Public Companies」P8
ボード3.0の意義
ボード3.0によって、ボード2.0で指摘されていた情報・リソース・モチベーションに関する課題が解決すると言われています。
具体的には、独立取締役が経営陣から得られる豊富な情報を事業戦略の評価などに活用できるようになります。
またファンドや外部コンサルタント、社内部門の有する潤沢なリソースを事業戦略の分析などに活用できるようになり、さらには長期の株式報酬によって高い意欲を持つようになると考えられています。
ボード3.0においては、経営陣による戦略の策定や遂行を効果的に監督することが目標です。
出典:経済産業省「日本のコーポレートガバナンスに関する取組と将来展望」(2021/12/20)P51
2. ボード3.0の課題
ボード3.0は将来の取締役会についての試案であり、米国でもまだ議論の段階にあります。そのため、いくつかの課題も残っていると指摘されています。
どうやって信頼性を得るか
ボード3.0の仕組みや実際に任命された取締役は、機関投資家をはじめとする株主の信頼を得なければなりません。そのためには、取締役会の戦略検証委員会と取締役の支援に充てる社内のリソースや、戦略検証委員会の規約や定款で定める権限、取締役に対する報酬、取締役の経歴や実績などを情報公開する必要があるでしょう。ボード3.0においては、取締役の質が極めて重要になります。
出典:独立行政法人産業経済研究所「Board 3.0(取締役会 3.0): 上場企業がプライベート・エクイティ(以下「PE 投資」)のガバナンスモデルから学ぶべきもの ∗」P16
導入が容易ではない
ボード3.0を構築するためには、取締役への報酬や戦略分析室への社内リソース配分など、追加コストがかかります。また投資家から導入した社外取締役は、「上場企業の業務等に関する未公表の重要事実を知る会社関係者」であるインサイダーそのものになるという点も整理が必要です。
金融商品取引法では、インサイダーが情報の公表前に当該企業の株式を売買することを「インサイダー取引」として禁じており、この点をどう管理するかは大きなテーマとなります。
そもそも日本では取締役会の役員が経営陣から独立し、モニタリングに特化してきたわけではなく、取締役会のあり方についてはさらなる議論を要するでしょう。
出典:ECGI「Board 3.0: What the Private-Equity Governance Model Can Offer to Public Companies」P8
出典:経済産業省「CGS研究会(第3期)第1回 事務局説明資料」(2021/11/16)P48
出典:経済産業省「CGS研究会 第4回事務局資料」(2022年4月6日)P40
3. 日本企業におけるボード3.0関連事例
米国でも論議の途上にあるボード3.0ですが、日本においてもボード3.0を意識した動向が見られます。日本企業におけるボード3.0関連事例をご紹介します。
(1)株式会社ユーザベース
株式会社ユーザベースは、2022年のグローバルな大手投資ファンドであるカーライル・グループ(以下、カーライル)による株式公開買い付け(TOB)を経て、取締役会にカーライルのメンバーを加え、ボード3.0の考え方をとり入れた新体制へ移行しました。カーライルのボードメンバーはいくつかの役員会にオブザーバーとして出席し、アドバイスや経営陣との論議を行っています。
出典:ユーザベース「サステナビリティレポート2023」P82
(2)コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタ株式会社では、取締役会議長が2022年度取締役会運営方針について「コーポレートガバナンスを次のステージへと昇華させる」とコメントし、ボード3.0についても触れています。
具体的には「ボード3.0をそのまま導入すればよいわけではないが、現状のコーポレートガバナンスの進化や改革への取り組みなどへの、モニタリングボードとしての実効性を高めつつ、日本社会に適した次世代のガバナンスの在り方を検討することも取締役会の大切な役割である」という内容になっています。
(3)富士ソフト株式会社
富士ソフト株式会社では、出資を受けているひびき・パース・アドバイザーズの代表兼投資責任者を、2022年12月に社外取締役として迎え入れました。
ひびき・パース・アドバイザーではこの件について、「今回の社外取締役就任を通じ、日本企業の取締役会がボード3.0領域へと進化することを促し、株式市場でより一層高く評価されるよう貢献していく決意を新たにしている」という旨のメッセージを発表しています。
出典:ひびき・パース・アドバイザーズ「清水雄也 富士ソフト株式会社 社外取締役就任」(2022/12/4)
4. まとめ:ボード3.0について理解し、取締役会のあり方を検討しよう!
ボード3.0は、米国で提唱されている取締役会の新たな概念です。現在多くの企業で取り入れられているボード2.0(モニタリング・ボード)の課題である、情報・リソース・モチベーションの不足を解決するものとして注目されています。
具体的には投資家からの取締役任命や、戦略分析室の設置などがボード3.0の姿として想定されています。ただしその導入は簡単ではなく、独立取締役の信頼性をいかに保証するか、新たに必要となるリソースやコストをいかに捻出するかといった課題については、引き続き議論が必要になるでしょう。
ボード3.0について理解し、有効に機能する取締役会のあり方について検討しましょう。