排出係数の違いで何が変わる?IEA発表の国別排出係数を比較

IEAデータに基づく国別排出係数について、わかりやすく解説します!カーボンニュートラルを語るうえで欠かせない、CO2排出係数。CO2排出量を算出するうえで重要な指標ですが、実は唯一無二の基準があるわけではありません。さまざまなデータから独自に計算されたものや、政府や業界団体などで定めるガイドラインなど、複数の排出係数が存在します。

また排出係数は国によっても設定が異なっており、グローバルで展開している企業は、国による排出係数の違いも踏まえた算出が必要となります。そこで、国際的な機関であるIEAが算定・公表している国別排出係数について解説します。

目次

  1. 排出係数とは

  2. 排出係数の選択

  3. IEAの国別排出係数の概要

  4. IEAの国別排出係数を利用している企業事例

  5. まとめ:国別排出係数を理解し、脱炭素への取り組みを検討しよう!

1. 排出係数とは

まずは排出係数とは何で、何に影響を与えるのかについて、おさらいしておきましょう。

排出係数とは?

排出係数とは「活動量当たりの排出量」のことです。温室効果ガス(GHG)の排出量は、次の算式で求められます。

温室効果ガス(GHG)排出量 = 活動量 × 排出係数

活動量とは生産量、使用量、焼却量など、排出活動の規模を表す指標です。ここに排出係数をかけ合わせることで、温室効果ガスの排出量が算出できます。

排出係数の違いで何が変わる?

排出係数が変わると、活動量が同じであってもGHGの排出量が変わります。たとえばエネルギー使用量が同じでも、排出係数が大きい場合はGHGの排出量も多く算定されることとなります。

出典:環境省「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」

2. 排出係数の選択

日本の「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」においては、環境省がマニュアルで定めた排出係数を使用するか、実測により求めた排出係数を使用します。しかし排出係数にはほかにも種類があり、GHG排出量算定の目的や地域によって使い分ける場合があります。

出典:環境省「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver4.9) (令和5年4月)第Ⅱ編温室効果ガス排出量の算定方法」P15

排出係数の種類

排出係数には、以下のようなものがあります。

1.燃料の組成に基づいた排出係数を燃料供給会社より入手するもの

2.排出係数を実測して求めるもの

3.温対法に基づいた係数や IPCCガイドラインの排出係数

4.IEAが公表する国別の排出係数

このうち4については、グローバル拠点の排出係数としてよく利用されています。

出典:環境省「気候変動」P16

IEAの排出係数とIPCCガイドラインとの違いは?

IPCCとは「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)」のことで、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織です。IPCCではGHG算定方法のガイドラインを定め、その中で排出係数の標準的な値も示しています。

IPCCガイドラインの排出係数はあくまで標準的なパラメータであり、各国ではIPCCガイドラインを基礎としつつも、各国の実情などに合わせ排出係数を設定しています。これに対しIEAでは最初から国別に、排出係数を示している点が異なります。

出典:経済産業省「気候変動対策を科学的に!『IPCC』ってどんな組織?」(2022/10/12)

出典:環境省「温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告」

3. IEAの国別排出係数の概要

IEAの排出係数とは、具体的にはどのようなものでしょうか。IEAの国別排出係数の概要について解説します。

そもそもIEAとは

IEAとは、国際エネルギー機関(International Energy Agency)とも呼ばれる、OECD(経済協力開発機構)枠内における自律的な機関です。これはキッシンジャー米国務長官(当時)の提唱を受けて、第1次石油危機後の1974年に設立されました。IEAは石油・ガス供給途絶などの緊急時への準備・対応など、エネルギー全般の政策を幅広くカバーしています。

出典:外務省「国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の概要」(2021/9/13)

IEAの排出係数の内容と単位

毎年9月に発表されるIEAの排出係数データベースには、次の指標が含まれています。

  • 世界各国の電力と熱の生成による二酸化炭素(CO2)排出係数

  • 世界各国の発電のみによるCO2排出係数

  • OECD諸国および一部の非OECD諸国の最新年における排出係数

  • 発電によるメタン(CH4)および一酸化二窒素(N2O)の排出係数

  • 電気および熱生産以外の部門での直接燃焼による燃料別排出係数

  • 送電網での電力損失によるCO2排出量の補正係数

  • OECD諸国の電力取引によるCO2排出量の補正係数

直接燃焼による排出係数のみ「燃料1kgあたりのCO2」となっており、その他は全て「kWhあたりのCO2」です。

出典:IEA「Emissions Factors 2022」

IEAの排出係数は有料コンテンツ

IEAの排出係数データベースは有料です。利用にあたって必要なユーザーライセンスはオンラインで購入できますが、企業または企業グループ単位での利用のみが認められており、第三者へデータを共有することなどはできません。

データを利用する人が1名の場合は「シングルユーザー」、複数の場合は「マルチユーザー」、多国籍企業など複数の国をまたがって利用する場合は「グローバルユーザー」のライセンスが必要となります。またIEAのデータを使って計算したCO2排出量などを企業の年次レポートなどで発表する場合にも、「グローバルユーザー」でなければならない点にも注意が必要です。

出典:IEA「Emissions Factors 2022」

4. IEAの国別排出係数を利用している企業事例

実際にIEAの国別排出係数を利用している企業の事例には、どんなものがあるでしょうか。日本国内の企業事例をご紹介します。

日鉄物産株式会社

日鉄物産株式会社では、ホームページ上で「ESGデータ」を公開しています。CO2排出量も掲載されており、電力によるCO2排出の排出係数として、国内での事業におけるものは環境省が公表している「電気事業者別排出係数における基礎排出係数」、海外での事業におけるものはIEAによる「国別のCO2排出係数」を使用しています。

出典:日鉄物産「ESGデータ」

兼松株式会社

兼松株式会社でもホームページ上で環境データを公開し、CO2排出量を掲載しています。排出量に先立って紹介されている排出係数では、国内での事業におけるものは環境省が公表している「電気事業者別排出係数(調整後排出係数)」、海外での事業におけるものはIEAの「国別排出係数」を用いています。

兼松株式会社のアスエネ導入インタビューの記事はこちら『CO2見える化を通じて、次世代に持続可能な商業を残す

出典:兼松「E:環境データ」

5. まとめ:国別排出係数を理解し、脱炭素への取り組みを検討しよう!

国際協力機関であるIEAはエネルギー政策全般を幅広くカバーしており、各国の排出係数も算出しています。排出係数と活動量をかけ合わせることで、CO2排出量を算出することができます。

この排出係数にもいくつかの種類があり、IEAの国別排出係数もそのひとつです。有料コンテンツですが、日本国外における国別の排出量を算出するのに広く利用されており、日本国内の企業IRでもIEAの排出量を用いて海外事業でのCO2排出量を算出している例がよく見られます。

グローバル企業では、海外における事業でのCO2排出量を算出することも重要です。IEAの国別排出係数について理解し、事業におけるCO2排出量を正しく把握して、脱炭素への取り組みを検討しましょう。

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