EUタクソノミーとは?気候変動対策に貢献する経済活動の基準を解説
- 2023年09月30日
- SDGs・ESG
EUでは環境問題への取り組みについて、サステナビリティの情報開示の法規制、法制化を進めています。そのうちのひとつ、「EUタクソノミー」規制とは何かわかりやすく解説していきます。
様々な分野で環境問題への取り組みが加速しています。企業は経営方針の一つとして気候変動対策に向き合っていく必要があります。しかし、どのような活動が「サステナブルであるかどうか」という定義については不明瞭な部分も多くあります。
ここでEUでの「環境に良い活動とは何か?」を示す分類・要件について理解し、企業の環境問題への取り組みの参考にしてみてください。
目次
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EUタクソノミーとは
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EUタクソノミーの目標と基準
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EUタクソノミーに関わる世界の動向とは
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【まとめ】EUタクソノミーを理解し向かうべき未来をイメージしよう!
1. EUタクソノミーとは
EUタクソノミーとは、欧州委員会(EU)が「環境面でサステナブルな経済活動」を示す分類を定めたものです。※「タクソノミー=分類」
EUは2018年に「サステナブルファイナンスアクションプラン」を採択しました。これは環境問題への取り組みにより持続可能な成長を遂げるために、資本の流れをサステナブルへの投資にむけさせること、気候変動などの社会的課題への金融リスクをコントロールすることを目的としています。
そのために必要な投資家への「投資に必要な情報の開示」や、ベンチマークやグリーンボンド(グリーンプロジェクトへの資金を調達するための債券)などに必要な適合基準となる「ツール」を定めるための分類となります。
出典:環境省「EUにおけるサステナブルファイナンス戦略及びサステナビリティ情報開示に関する規制の動向」
出典:環境省「EUのサステナブルファイナンス戦略の動向」(p2)
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)p.3
EUタクソノミーの目的
EUタクソノミーの目的は、大きく分けて2つあります。
(1)グリーン・サステナビリティの定義の一貫性・ハーモナイゼーション
EUタクソノミーで定義を明確にすることで、国際的な調和がとれた基準を作成する。
(2)グリーンウォッシュの防止
グリーンウォッシュとは、「環境に良い商品」を装って、消費者に誤解を与えること。EUタクソノミーで作成された基準によりグリーンウォッシュの防止を図る。
これにより、EUでは市場で活動する金融機関・企業に「EUグリーンボンド(環境債)」を発行する際に資金使途としてEUタクソノミーへの適合を必須としたり、一定規模以上の企業・投資家に対して経費や投資額のうちタクソノミーに基づく割合の開示が求められています。
出典:環境省「EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き」(p6)
EUタクソノミーのスケジュール
EUでは2018年以降、EUタクソノミーについて順次検討が進められ、2020年6月にはタクソノミー規則が採択。また、2022年1月にはタクソノミーの目標となる「気候変動緩和」「気候変動適応」の項目について適用が開始されています。
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p5)
2. EUタクソノミーの目標と基準
EUタクソノミーでは目標となる6項目とそれを判定する4つの基準が定められています。
6つの目標
この目標に対する活動については、「その活動自身の環境パフォーマンスを改善させる」こと、「その他の活動の環境パフォーマンスを改善させる」ことの2種類を当該活動の条件としています。
2022年1月より、「1.気候変動の緩和」「2.気候変動の適応」からスタートしており、その他の4項目については具体的な基準を策定中となっています。
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p8,9)
4つの判定基準
目標に対する活動として認められるのは、次の4つの判定基準を全て満たしている経済活動としています。
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6つの環境目的の1つ以上に「実質的」に貢献する
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6つの環境目的のいずれにも重大な害とならない
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最低安全策(人権等)に準拠している
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専門的選定基準(①、②の最低基準)を満たす
「重大な害とならない」とは、気候変動については大量の二酸化炭素の排出、汚染防止については水、空気、土壌の汚染度合いの大幅な悪化など、上記の6つの環境目的を著しく害するような活動を行っていないことを指します。
また、最低安全策に準拠しているかは、実施主体がOECD多国籍企業行動指針や、ビジネスと人権に関する国連指導原則等を実施しているかによって判断されます。
EUタクソノミーは2050年でのネットゼロエミッションの達成を目指して作成されており、今後この基準はさらに厳格化されるべきと考えられています。
出典:環境省「EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き」(p6~8)
3. EUタクソノミーに関わる世界の動向とは
国際的な動き
EUタクソノミーの採択を受けて国際的にも議論が行われ、様々な案が公表されています。
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インド
インド証券取引委員会(SEBI)がグリーンボンドの資金使途で用いる事業区分を公表。グリーンソーシャルタクソノミーを策定中。
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イギリス
財務省が英国版グリーンタクソノミーの導入方針を表明。
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オーストラリア
国内金融機関からなる「Australian Sustainable Finance Initiative」がロードマップを公表。オーストラリア版タクソノミー策定を提言。
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カナダ
カナダ規格協会(CSA)が産業界・金融界と連携し、トランジションに関する基準案を策定中。
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中国
グリーンボンドの発行基準としてグリーンボンド適格プロジェクトカタログを公表。
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シンガポール
シンガポール通貨管理局(MAS)がトランジションを含む経済活動の基準を定義する規則案を公表。
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マレーシア
Bank Negara Malaysia(銀行や保険の監督当局)が気候変動緩和・適応を対象とするタクソノミーを作成。
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p17)
G20における議論
このような国際的な動きの中、2021年にイタリアで行われたG20サミットでは、サステナブル・ファイナンス作業部会により「G20サステナブルファイナンスロードマップ」が作成され、首脳コミュニケで承認されています。
G20サステナブル・ファイナンス・ロードマップの概要
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サステナビリティ目標に則した投資を実現する市場開発とアプローチ
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サステナビリティに関するリスク、機会、インパクトに関する比較可能で意思決定に活用できる情報
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気候及びその他のサステナビリティに関するリスク評価と管理
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国際金融機関・公的ファイナンスとインセンティブの役割
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トランジションファイナンスに関するハイレベル原則の策定などの横断的事項
気候変動やその他のサステナビリティに関するアジェンダや作業計画を5つの重点分野と19のアクションとして提示し、G20で進捗をフォローすることになっています。
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p18)
日本国内での対応
日本国内では、2017年に環境省が国内実務指針としてグリーンボンドガイドラインを策定し、2018年にはグリーンボンド発行に要する追加的費用に関する補助事業を開始しています。
また、合わせてグリーンボンド発行促進プラットフォームを設置し、さらに2020年には国際動向を踏まえガイドラインを改定し、サステナブルファイナンス市場の拡大を図っています。
これにより国内でのグリーンボンド発行額は増加し、2021年の国内発行額は1.8兆円を超えています。
出典:日本環境衛生センター「EUのサステナブルファイナンス戦略とEUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p20)
4.【まとめ】EUタクソノミーを理解し向かうべき未来をイメージしよう
今後も脱炭素社会にむけたトランジションファイナンス(長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取り組みに対しての資金供給)が拡大することは間違いなく、企業としても足元の気候変動対策に合わせ、長期的な戦略をしっかり示して行くことが求められています。
EUタクソノミーは今後のサステナビリティ関連の情報開示基準として世界各国で活用されていくことが予測され、日本での経済活動もこの内容を理解しておくことはとても重要となるでしょう。
これからの企業は環境問題についての未来のイメージをどれだけ実践できるかが大切です。この記事を参考に環境問題への取り組みの推進を考えてみましょう。