SBTiとは?背景や目的、参加方法を詳しく解説
- 2023年09月30日
- CO2算定
SBTiとは何か、わかりやすくご説明します。早急な解決が急がれる気候変動問題は、国際社会における重大なグローバルリスクに挙げられています。IPCCによると、2050年までに地球の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えなければ、極端な高温や海氷の溶融、海水面の上昇などがさらに悪化し、人間含む生物の生存をさらに脅かすこととなると考えられています。
その対策として2015年、国連グローバル・コンパクトを中心に、企業がネットゼロ目標を設定するための科学に基づく基準を定義した国際機関であるSBTiが設立されました。本記事では、SBTiの目的や背景、また企業がSBTiに参加する方法を詳しく解説します。
目次
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SBTiとは
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SBTiネットゼロ基準の枠組み
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企業がSBTiに参加するメリット
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SBTiに参加できる組織と申請方法
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まとめ:SBTiに参加して持続可能な企業を目指そう
1. SBTiとは
SBTiは、2050年までの実質的な二酸化炭素排出量ゼロ(ネットゼロ)の達成に向け、企業がネットゼロ目標を設定するための科学に基づく基準を定義した国際機関です。ここでは、SBTiが設立された背景とその目的を解説します。
(1)背景
SBTiは、「産業革命以降の地球の気温上昇を1.5℃に抑えること」の目標達成に向けて立ち上げられた国際機関です。近年、異常気象や干ばつ、森林火災などの気候変動に伴う災害が多発し、気候変動は国際社会における重大なグローバルリスクとして認識されています。
それにより、多くの企業が二酸化炭素の吸収と排出を均衡させ、実質的な排出量をゼロにする(ネットゼロ)目標を掲げて活動していますが、各企業が提示する目標値は共通の定義で算出されたものではなく、ネットゼロ目標に与える影響が限定的であると懸念されていました。
そこで、2015年に国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、CDPが協力して、科学に基づく共通のネットゼロ目標基準を策定しました。
(2)目的
SBTiの目的は、企業がネットゼロ目標を設定する際の科学に基づいた基準、ガイダンス、要件、推奨事項を提供することです。さらに、SBTi基準に基づいたネットゼロ目標に取り組む企業を評価し、認められた企業に対してSBT認定を与えます。
2. SBTiネットゼロ基準の枠組み
ネットゼロ基準は、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減に取り組むだけの単純な基準ではありません。社会や環境問題に与える影響を考慮した上で、多くのプロセスを踏む必要があります。ここでは、SBTiネットゼロ基準の定義と具体的な要素について解説します。
(1)SBTiネットゼロ基準の定義
SBTiネットゼロ基準は以下のように定義されています。
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企業が直接排出する温室効果ガスの量(Scope1)、他社から供給されたエネルギーの使用に伴う間接的な排出量(Scope2)、サプライチェーンにおける他社による間接的な排出量(Scope3)をゼロにする
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1.5℃目標に沿った温室効果ガス排出量の削減において、グローバルもしくはセクターレベルでのネットゼロ排出達成と整合する程度の残余排出量水準までの削減
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残余排出量および大気中に放出される全ての温室効果ガスを中和する
SBTiネットゼロ基準では、自社のみならずサプライチェーン全体での目標設定が義務付けられています。また、どうしても排出されてしまう温室効果ガスについては、排出量の影響を抑えるために大気中から炭素を除去する取り組みが必要です。
(2)SBTiネットゼロ基準の要素
SBTiネットゼロ基準は大きく4つの要素で構成されています。
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短期的なSBTの設定
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長期的なSBTの設定
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バリューチェーンを超えた緩和
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ネットゼロにするための残余排出の中和
1. 短期的なSBTの設定
短期的なSBTの設定とは、5〜10年間の短期的な削減目標を指します。これは、2030年までに削減が必要な排出量削減に向けて、企業が取るべき行動を活性化させることが主な目的です。
2. 長期的なSBTの設定
2050年までにネットゼロ排出を達成するために、バリューチェーン排出量をどれだけ削減する必要があるのかを計画し、目標として設定することです。これは、SBTiネットゼロ基準に基づき、経済全体の整合性と長期的な事業計画を指します。また、企業は長期SBTが達成されるまでネットゼロを主張・宣言することはできない点が重要です。
3. バリューチェーンを超えた緩和
バリューチェーンを超えた緩和とは、温暖化の緩和に向けた温室効果ガスの排出回避や削減活動に対する投資等の企業行動を指します。これは、自社サプライチェーン全体の排出量削減に寄与するものではありませんが、企業の社会的責任を果たすとともに、国際社会全体でネットゼロへの移行を促進させ、また1.5℃目標の達成に向けた可能性を高める重要な要素です。
4. ネットゼロにするための残余排出の中和
企業が掲げたネットゼロ目標に対し、削減できず一部残ってしまった温室効果ガスは、排出量の影響を相殺するために大気中から炭素を除去し貯蔵しなければなりません。これは、温室効果ガス排出量による気候への影響をなくすために必要な取り組みです。
3. 企業がSBTiに参加するメリット
ここまで、SBTiネットゼロ基準の目的や枠組みを中心に解説してきました。SBTiは温室効果ガス排出量をゼロにし、地球温暖化を止めることが主要な目的です。しかし、SBTiに参加・認定を受けることは企業にメリットをもたらします。企業がSBTiに参加するメリットは以下のとおりです。
(1)ESG投資を受けやすい
近年、投資家は企業のESG(環境、社会、ガバナンス)評価を重視し、投資対象を選んでいます。 ESG投資の評価には、気候変動などの環境問題、社会問題、健全な企業経営に関する要素が含まれます。 SBTiの気候変動対策はESGの「環境(Environment)」に該当し、企業がSBTiに参加することは、ESG投資家に対する持続可能性のアピールにつながります。それにより、ESG投資を受けやすくなるメリットがあります。
(2)ビジネス展開におけるリスクの低減および機会拡大
サステナビリティが重視される社会へ移行するなかで、顧客の製品やサービスに対する調達元へのリスク意識は高まっています。リスク意識の高い顧客の声を無視すると、企業としての信頼を損ね、持続可能な経営を維持するのが難しくなるのです。しかし、SBTi目標を設定することにより、ビジネス展開におけるリスクを軽減し、新たなビジネス機会を拡大させることができます。
(3)サプライチェーンの調達リスク低減およびイノベーションの促進
SBTiは、自社のみならずサプライチェーン全体での取り組みが求められています。サプライヤーに対して自社のSBTi目標を示すことにより、サプライチェーンの調達リスクの低減や、イノベーションの促進につながるのです。
万が一、自社が掲げた削減目標に対し、サプライヤーが対策に取り組まなければ、企業は評判の低下や排出規制のコスト増といった経営リスクを招きます。そのため、企業はサプライヤーに対して自社のSBTi目標を明確に示し、取り組み内容や進捗の把握とサポートが大切です。
4. SBTiに参加できる組織と申請方法
現在、SBTi目標は大企業を中心に参加を増やしていますが、今後は中小企業を含む様々な企業がSBTiに参加する必要性が高まると予想されます。そこで、SBTiに参加できる組織と申請方法について解説します。
(1)SBTiに参加できる組織
SBTiに参加できる組織は多岐にわたり、一般企業はもちろんのこと、金融機関、合弁会社、協同組合、国有企業が対象です。特に、温室効果ガスの排出量が多いセクターの組織の参加が推奨されています。
しかし、現時点では都市や地方自治体、500人以上の従業員を有する公共機関、教育機関、非営利組織の目標は、公式な評価はされておりません。とはいえ、これらの組織も積極的にSBTi基準に基づいた目標設定をすることが推奨されています。
(2)SBTiへの申請方法
SBTiに参加するためには、SBTiウェブサイトより参加申請の手続きが必要です。申請は、以下の手順に沿って進めてみてください。
SBTiの申請は大企業と中小企業(従業員数が500人未満の非子会社、独立企業、公的機関)で異なります。
大企業の場合
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SBTiウェブサイトに登録し、標準のコミットメント・レターに署名をして提出します。既に自社内で排出削減目標がある場合にはこの目標が審査され、ない場合には24か月以内に科学に基づく目標を設定します。
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期限内に目標を提出し、審査を経てそれを公表した企業は、SBTiやそのパートナーウェブサイトに記載されます。
中小企業の場合
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SBTiウェブサイトより、中小企業向け科学に基づく目標設定フォームに入力します。目標設定フォームで目標の選択肢を1つ選び、次に排出プロファイルの欄を入力します。最後に自社の連絡先を入力して送信します。
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デューデリ(審査)に通過した場合、送付された契約書に署名して手数料として1000ドルを支払います。
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支払い確認のメールを送信後、中小企業向け科学に基づく目標設定フォームを提出すると、SBTiウェブサイト・We Mean Business ウェブサイト上でSBT認定されます。
5. まとめ:SBTiに参加して持続可能な企業を目指そう
SBTiは気候変動の解決に貢献できるのはもちろんのこと、持続可能な企業を目指すうえでの重要な取り組みです。とくに、気候変動問題は早急な解決が求められている課題であり、今後さらに企業に環境への責任は強く求められると予想されます。
SBTi目標を設定することは、経営リスクの軽減、ESG投資の呼び込み、顧客からの信頼向上など得られるメリットは多いです。積極的にSBTiに参加し、持続可能な経営へ踏み出してみてください。