カーボンニュートラルには矛盾がある!?指摘されている理由と解決へつながる取り組みを解説

CO2排出量削減に欠かせない「カーボンニュートラル」には、矛盾点があるとの指摘がされています。それは、カーボンニュートラルを目指す過程で、CO2が排出されているにも関わらず、カーボンニュートラルの目的を達成することができるのか?という矛盾です。

ここでは、カーボンニュートラルの基礎知識を振り返った上で、カーボンニュートラルに生じる矛盾やその原因、また、CO2排出量削減効果に期待できる取り組みなどをご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルとは?

  2. カーボンニュートラルの矛盾

  3. カーボンニュートラルの矛盾と「グローバル・バリューチェーン」という考え方

  4. カーボンニュートラルの矛盾の解決につながる「カーボンネガティブ」

  5. まとめ:カーボンニュートラルの矛盾に向き合い、取り組む事で社会的価値のある企業を目指そう

1. カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、人間活動によるCO2排出量と、植林や森林管理などによるCO2吸収量を均衡させ、排出量を実質ゼロにすることです。日本では「2050年カーボンニュートラル宣言」のもと、カーボンニュートラルの取り組みが進められています。

カーボンニュートラルとは

出典:環境省『カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル』(2023/01)

日本の温室効果ガス排出量

日本における温室効果ガスの排出量は、2021年度では11億7,000万トン(CO2換算)となっており、前年度の11億4,700万トン(CO2換算)に比べて2,320万トン(CO2換算)増加しています。この増加は、パンデミックで落ち込んでいた景気が回復傾向となったための増加とみられます。

出典:環境省『1. 温室効果ガス排出・吸収量』p,1,2.(2023/04/21)

企業がカーボンニュートラルに取り組む事で得られる効果

「2050年カーボンニュートラル宣言」のもと、企業にもカーボンニュートラルの取り組みが求められています。企業のカーボンニュートラルの取り組みは、企業経営の強みとなると考えられており、その理由として省エネのコスト削減や経営資金の調達、製品や企業の市場価値の向上などが挙げられます。

具体的には、省エネ効果のある設備を導入することで、エネルギーにかかるコストを削減することができます。また、金融機関は環境・社会・ガバナンスの要素を考慮するESG投資を促進していることから、環境への取り組みを加味した融資条件の優遇を受けられる機会が増えます。そして、CO2排出量削減の取り組みによって企業価値が上昇することで、新しい顧客の獲得に期待があります。

出典:資源エネルギー庁『クリーンエネルギー戦略 中間整理』p,112.(2022/05/19)

2. カーボンニュートラルの矛盾

気候変動の危機によってカーボンニュートラルへの取り組みが緊急を要する状況の中、カーボンニュートラルには矛盾があるとの指摘もあります。ここではカーボンニュートラルの矛盾として指摘されている、その例をいくつかあげます。

化石燃料の使用

地球温暖化を根本的に解決するには、化石燃料からの脱却が不可欠です。しかし、カーボンニュートラルの考え方では、化石燃料からCO2を排出しても、排出後にCO2を回収し差し引きゼロにすれば良いということになってしまうので、化石燃料の利用は継続されてしまいます。

出典: 国際環境NGO FoE Japan『「カーボンニュートラル」のまやかし 』(2021/10/18)

バイオマス発電

バイオマス発電は、実質的にCO2を排出しない特徴から、カーボンニュートラルに期待があります。バイオマス発電とは、家畜の排せつ物や稲わら、林地残材、生ゴミなどの生物資源(バイオマス)を直接燃焼、ガス化して発電する方法です。これは、生物がその生育過程でCO2を吸収するために、燃焼した際に排出されるCO2と吸収されたCO2が相殺され、燃焼時の実質的なCO2排出量がゼロであるとみなされます。

しかし、バイオマス発電では、燃焼時のCO2排出量はゼロであるものの、実際にはその過程でCO2が排出されていることも理解する必要があります。例えば、バイオマス発電の燃料生産では、CO2を吸収し貯蔵している森林を伐採することで大気中にCO2が排出されますし、燃料の加工・輸送では化石燃料を利用することでCO2が排出されます。このため、バイオマス発電はカーボンニュートラルではないとする考えもあります。

出典:国際環境NGO FoE Japan『【見解】バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)」ではない 』(2020/11/11)

出典:資源エネルギー庁『バイオマス発電|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー』(2023/07/04)

ゼロエミッション火力

ゼロエミッション火力とは、火力発電の燃料にCO2を排出しないアンモニアや水素を活用する方法です。火力発電は需要に合わせて電力供給の調整がしやすいという点から、不安定な再生可能エネルギーと合わせて活用することで、カーボンニュートラル下においても安定した電力供給が可能になると考えられています。

国際エネルギー機関は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2035年までに先進国の電力部門でのCO2排出量ゼロを目指していますが、日本のゼロエミッション火力の導入は、2035年よりも遅い2040年代を目途に、アンモニア100%の専焼化開始となっています。

ゼロエミッション火力の技術が確立するまでは、アンモニアと石炭の混焼を続けるために、CO2を排出する石炭火力に頼ることとなり、カーボンニュートラル実現に大きく遅れをとる形となっています。

出典:資源エネルギー庁『燃料アンモニア導入・拡大に向けた 直近の政府の取組について』p,5.(2021/11/29)

出典:東京新聞『岸田首相が普及を宣言した「ゼロエミ火力」の現実味は? 石炭維持が前提、脱炭素の足かせに』(2021/12/06)

3. カーボンニュートラルの矛盾と「グローバル・バリューチェーン」という考え方

カーボンニュートラルは、CO2排出量の削減効果が期待できる一方で、どうしてもその過程でCO2を排出してしまうという矛盾が生まれてしまいます。しかし、製品やサービスを通して最終的にCO2排出量削減に貢献すれば、カーボンニュートラル実現に期待ができる「グローバル・バリューチェーン」という考え方があります。

グローバル・バリューチェーンとは?

グローバル・バリューチェーンとは、ひとつの製品やサービスに関わる原材料調達から、製造、販売・流通、使用、廃棄・リサイクルまでの一連の流れのことを指します。

出典:一般社団法人 日本経済団体連合会『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献』p,7.(2023/03/28)

ライフサイクル全体でのCO2排出量削減

製品やサービスのCO2排出量は、製造や使用時にばかり注目されがちですが、原材料調達からリサイクルまでの一連の流れでのCO2排出量を考慮することで、CO2排出量削減に大きく貢献できます。

また、仮にCO2排出量削減効果の高い高機能素材や部品の開発で、従来製品やサービスよりもCO2排出量が増えてしまっても、使用段階でそれを上回るCO2排出量削減ができていれば、結果的にその製品やサービスはCO2排出量削減に貢献していると言えます。

出典:一般社団法人 日本経済団体連合会『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献』p,7.(2023/03/28)

4. カーボンニュートラルの矛盾の解決につながる「カーボンネガティブ」

カーボンネガティブとは?

カーボンネガティブとは、CO2の吸収量が排出量を上回ることで、実質的なCO2排出量をマイナスにし、既に存在する大気中のCO2をも吸収しようとする考え方です。カーボンネガティブは、CO2排出量とCO2吸収量を均衡させるカーボンニュートラルよりも、CO2排出量削減効果が高い取り組みと言えます。

出典:国立環境開発法人国立環境研究所『地域における 「脱炭素社会ビジョン」』p,12.( 2023/07/20)

カーボンネガティブの必要性

日本では2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル宣言」に取り組んでおり、身近な目標として「2030年までにCO2を含む温室効果ガス排出量を2013年度のCO2排出量14億800万トン(CO2換算)から46%削減する」ことを掲げています。2021年度の温室効果ガス排出量は2013年度と比べて16.9%削減にしかなっておらず、よりCO2排出量削減効果の高いカーボンネガティブが必要とされます。

出典:資源エネルギー庁『クリーンエネルギー戦略の策定に向けた検討』p,71.(2022/02/18)

出典:環境省『1. 温室効果ガス排出・吸収量』p,1.(2023/04/21)

ネガティブエミッション技術

ネガティブエミッション技術(=NETs)とは、大気中のCO2を回収して吸収し、貯留・固定化することで、大気中のCO2除去に貢献する技術のことで、自然のCO2吸収・固定化の過程に人為的な工程を加えることで、CO2除去の効果を加速させる技術やプロセスを指します。

大きな取り組みとして「植林・再生林」「BECCS(バイオマス発電の過程で発生するCO2を吸収する技術)」「DACCS(大気中のCO2を直接吸収する技術)」「風化促進(人工的に風化を促進し、その過程でCO2を吸収する技術)」「ブルーカーボン・ブルーリソース(海洋生物の生育過程でのCO2吸収を促進する技術)」などがあり、それらは2050年カーボンニュートラル実現に向けて大きな効果が期待できるとされています。

ネガティブエミッション技術

出典:経済産業省『ネガティブエミッション技術について』p,6.(2022/02/17)

5. まとめ:カーボンニュートラルの矛盾に向き合い、取り組む事で社会的価値のある企業を目指そう

カーボンニュートラルとその矛盾についてご紹介しました。緊迫する気候変動問題においてカーボンニュートラルの実現は不可欠なものとなります。しかし、カーボンニュートラルに取り組む過程では、CO2の排出が許容されているのも事実です。

この矛盾点をしっかりと理解した上で、ライフサイクル全体での視点からCO2排出量削減を目指す「グローバル・バリューチェーン」や、カーボンニュートラルよりもCO2排出量削減効果の高い「カーボンネガティブ」の取り組みを視野に入れ、社会的価値のある企業を目指しましょう。

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