化学産業におけるカーボンニュートラルとは?取り組み事例をわかりやすく解説

化学産業におけるカーボンニュートラルの取り組みについて、わかりやすく解説します!化学産業は、化学反応を利用して原料を加工する工業形態です。特に原油の副産物であるナフサからは、エチレン・プロプレン・ブタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレンなどが製造され、そこからさらにプラスチック・合成ゴム・合成繊維・塗料・界面活性剤・電子材料などが生産されます。

天然資源が乏しい日本においては重要な産業である一方、環境への影響が大きい産業でもあります。そのような化学産業ではCO2の排出量削減に向け、さまざまな技術開発が進められています。企業の事例もいくつかご紹介いたします。

目次

  1. カーボンニュートラルとは?化学産業の現状

  2. 日本の化学産業におけるカーボンニュートラル

  3. 化学産業における企業の取組事例

  4. まとめ:化学産業におけるカーボンニュートラルの取り組みを理解し、サステナブルな生産・流通体制を実現しよう!

1. カーボンニュートラルとは?化学産業の現状

今の時代企業が事業活動を行う上で、カーボンニュートラルを無視することはできません。カーボンニュートラルの意味や意義について復習しておきましょう。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、CO2など温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量を均衡させることです。CO2は製品の製造や流通などの過程で、大量に排出されます。この排出量を森林などによって吸収可能な量に削減することで、温室効果ガスの量を実質的にゼロにすることができます。

2015年のパリ協定において「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」が世界共通の目標となり、カーボンニュートラルへの取り組みが始まりました。

出典:経済産業省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」

化学産業のCO2排出における現状

化学産業におけるGHG排出量は、国内では鉄鋼業に次ぐ第2位となっています。GHG排出の要因のうち、化石燃料および化石原料の燃焼が7割を占めています。化学産業は熱エネルギーを多く消費する産業であり、カーボンニュートラルの観点から燃料・原料それぞれにおける化石資源からの早期脱却が必要です。

産業別CO2排出:2020年度(令和2年度)温室効果ガス排出量(確報値)について(環境省)

出典:環境省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」(2023/1/25)P3

2. 化学産業におけるカーボンニュートラル

化学産業界では、カーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みが行われています。製造過程でのGHG排出削減に加え、CO2そのもののリサイクルも研究対象です。

(1)ケミカルリサイクル

廃プラスチックや廃タイヤを化学分解し、製品の原料として再利用するのがケミカルリサイクルです。各国でさまざまなケミカルリサイクルが進められており、たとえばドイツではメルセデス・ベンツの廃タイヤを熱分解して同社製自動車部品向けの量産樹脂を供給する体制を拡充中です。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P10(2023/1/25)

(2)プラスチック原料に関する技術開発

欧州ではケミカルリサイクルについて、廃プラスチックや廃ゴムの熱分解プラントの実証が始まっています。また、再エネ電力をナフサ分解炉の熱源として用い、CO2を削減する技術の開発も進められており、ドイツのBASFでは2020年代後半までの実証段階完了と2030年以降の商用化を検討しています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P11(2023/1/25)

(3)多様な化学品の生産体制の維持

廃プラスチックや廃ゴムの原料への転換(原料循環)・熱分解炉燃料のアンモニアなどカーボンフリーのものへの置き換え(燃料転換)・CO2からの化学原料や化学性機能品製造・人工光合成によるグリーン水素からの化学原料製造などを組み合わせることで、カーボンニュートラルを実現しながら多くの化学品を生産できます。

こうした体制を維持することを、経済産業省・製造産業局では提言しています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P12(2023/1/25)

(4)原料のサステナブル性とマスバランス方式

廃プラスチック・廃ゴム・CO2などケミカルリサイクルで再利用される素材は、今後ますます増えていくと思われます。一方でこのようなサステナブル素材は、通常の原材料と混合されてしまい、カーボンニュートラルへどのぐらい貢献しているか評価できなくなってしまうという課題があります。

そのためサステナブル素材の投入量に応じて、生産する製品の一部をサステナブル素材だけで生産したと見なす、「マスバランス方式」の活用が有効と考えられています。さまざまな国際基準を策定しているISOでは、マスバランス方式を含む加工流通プロセス管理の国際標準について検討を開始しています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P17-18(2023/1/25)

(5)プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律

廃プラスチックを原材料として再利用するためには、廃プラスチックの流通確保が重要です。日本では「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が2022年4月1日から施行され、プラスチック使用製品の廃棄物の自主回収や再資源化が促進されています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P22(2023/1/25)

3. 化学産業における企業の取組事例

国内化学メーカーにおける、カーボンニュートラルへの取組事例をご紹介します。

三井化学株式会社のカーボンニュートラル戦略

三井化学株式会社では、2020年11月に2050年カーボンニュートラル宣言を行いました。2030年までに1,400億円規模でのカーボンニュートラル関連の投資枠を予定しており、全社横断的で柔軟に資金投入を行っていくこととしています。

具体的には以下のような取り組みを進めています。

  • ナフサ分解の燃料を低炭素であるアンモニアへ置き換え

  • 新技術開発のため三井化学カーボンニュートラル研究センター設立

  • 製品カーボンフットプリント(PCF)を含むライフサイクルアセスメント(LCA)の評価体制を構築

出典:三井化学「サーキュラーエコノミーに向けて」

三菱ガス化学株式会社のカーボンニュートラル戦略

三菱ガス化学株式会社は、カーボンニュートラルに向けた取組みを経営戦略上の最重要項目の一つと位置づけています。地熱開発やLNG火力発電などカーボンニュートラルへつながる事業を展開しており、CO2の回収・貯蔵・資源化や水素サプライチェーンの構築などへもそのノウハウを応用しています。

具体的には以下のような取り組みを進めています。

  • 環境循環型メタノールの製造・2030年以降最大100万トン商業化

  • クリーンアンモニアの調達・普及

  • CCU(CO2回収・再利用)やCCS(CO2貯留)の活用推進

  • 地熱発電・バイオマスなど再生可能エネルギー事業展開

出典:三菱ガス化学「カーボンニュートラル戦略説明会」P14-27

4. まとめ:化学産業におけるカーボンニュートラルの取り組みを理解し、サステナブルな生産・流通体制を実現しよう!

化学産業はエネルギー多消費産業であり、カーボンニュートラルへの取り組みが重要です。取り組み内容としては、ケミカルリサイクルや低炭素燃料への活用などが挙げられ、そのための技術開発が欠かせません。

また、廃プラスチックについてはリサイクルのための流通確保もポイントであり、製造過程だけでなく、消費者からの回収も必要になります。化学産業におけるカーボンニュートラルの取り組みを理解し、サステナブルな生産・流通体制を実現しましょう!

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