紙パルプ産業におけるカーボンニュートラルの達成に向けた企業の取り組み事例を紹介!
- 2023年08月26日
- CO2削減
脱プラスチックにより紙パルプ産業の期待が高まる中、紙パルプ産業におけるカーボンニュートラルの取り組みは、2050年カーボンニュートラル達成のために、欠かせないものとなっています。ここでは、紙パルプ産業のカーボンニュートラルの具体的な対応策や企業の取り組み事例をわかりやすくご紹介します。
目次
-
カーボンニュートラルとは?
-
紙パルプ産業におけるCO2排出量の現状とは?
-
紙パルプ産業のカーボンニュートラルに向けた取り組み
-
カーボンニュートラルに取り組む企業事例
-
まとめ:紙パルプ産業界の先駆け的存在となるカーボンニュートラルを目指そう!
1. カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、CO2を含む温室効果ガスの「排出量」と、植林・森林管理などによる「吸収量」の差を実質的にゼロにすることです。政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を掲げており、カーボンニュートラル達成のためには、温室効果ガスの排出量の削減だけでなく、吸収作用の保全や強化も重要となります。
出典:環境省『カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル』(2023/01)
2. 紙パルプ産業におけるCO2排出量の現状とは?
SDGsなど環境への取り組みが日常となっているなか、飲食業や小売業など脱プラスチック経営により、紙パルプ産業への期待が高まりをみせています。ここで、懸念されるのが紙パルプ産業におけるCO2排出量です。
紙パルプ産業におけるCO2排出量
2019年度の日本のCO2排出量は約10億トン(CO2換算)であり、そのうち紙パルプ産業が含まれる産業部門のCO2排出量は、全体の35%を占める約3.8億トン(CO2換算)となっています。
紙パルプ産業においては、産業部門の5.5%と少ない状況ですが、その内訳を見てみると紙パルプ産業のCO2排出量の半分以上は「紙」と「パルプ」となっていることが報告されています。紙・パルプは、木材からなるバイオマス(木質資源)が原料であり、紙・パルプのCO2排出は製造過程によるエネルギー起源が大半を占めます。
出典:経済産業省『「トランジション・ファイナンス」に関する 紙・パルプ分野における技術ロードマップ』p,10.p,16.(2022/03/22)
紙パルプ産業における脱炭素に向けた長期ビジョン
「2050年カーボンニュートラル宣言」に合わせて、日本製紙連合会は「製紙業界ー地球温暖化対策長期ビジョン2050」を掲げ、大手製紙メーカー各社もカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを進めています。日本製紙連合会は、紙パルプ産業におけるCO2排出量削減目標を2013年度比の2,100万トン(CO2換算)とし、2020年の時点で2013年度比の約320万トン(CO2換算)のCO2排出量削減を達成しています。
紙パルプ産業におけるカーボンニュートラルの具体的な取り組みとしては、紙・パルプの製造過程での再生可能エネルギーを活用した燃料転換や、古紙リサイクルの回収・再利用システムや技術の拡大、植林や成長が早い樹種の開発などが掲げられています。
出典:経済産業省『「トランジション・ファイナンス」に関する 紙・パルプ分野における技術ロードマップ』p,21.p,22.p,25.(2022/03/22)
3. 紙パルプ産業のカーボンニュートラルに向けた取り組み
紙パルプ産業のCO2排出は、製造過程でのエネルギー起源が主となっており、この分野でのCO2排出量削減に取り組むことで、紙パルプ産業のカーボンニュートラルに貢献できます。
再生可能エネルギーへの転換
2019年度における紙パルプ産業の使用エネルギーは、石炭やガスなどの化石エネルギーの依存度が高く、CO2排出量削減には再生可能エネルギーへの転換が必要です。
特に、自然資源由来のバイオマス燃料の利用を促進し、2050年までに、使用エネルギーの約70%を再生可能エネルギーへ転換し、2019年には10%だったバイオマス燃料を36.8%まで増やすことを目標としています。
出典:経済産業省『紙パルプ産業における カーボンニュートラルに向けた課題と取組み』p,9.(2022/3/11)
CO2の固定化・再利用技術の導入
CO2の回収・固定化や大気中のCO2を再利用する取り組みもカーボンニュートラルに有効です。本来は温室効果ガスの原因となるCO2の放出を防いだり、CO2を回収して再利用することで、CO2を再生エネルギーとして循環させ大気中のCO2を減少させることが可能です。
出典:経済産業省『紙パルプ産業における カーボンニュートラルに向けた課題と取組み』p,10.(2022/3/11)
森林経営と植林技術の展開
森林は、CO2を吸収する大きな役割を果たしています。植林推進は、CO2排出量削減に大きな効果があり、成長の早い樹種を広大な面積に植林することで社会全体のCO2排出量削減に貢献できます。また、CO2を吸収した木は、木質燃料としての利用価値があり森林を循環させることで、人と自然が共に生活することができます。
出典:経済産業省『紙パルプ産業における カーボンニュートラルに向けた課題と取組み』p,11.(2022/3/11)
木質資源由来によるカーボンニュートラルな素材・製品の提供
紙パルプ産業の技術をパルプ以外での用途の利用も視野に入れ、石油や石炭などの化石資源由来の化学製品の代替え品として、木質資源由来の化学製品製造技術「バイオリファイナリー」を展開し、カーボンニュートラルな環境適応素材を用いた製品を提供することで、社会全体のCO2排出量削減に貢献します。
出典:経済産業省『紙パルプ産業における カーボンニュートラルに向けた課題と取組み』p,12.(2022/3/11)
グローバル・バリューチェーンの見直し
紙パルプ産業の技術のロードマップは、原燃料となる木材・古紙の調達から、紙・パルプの製造やそれに伴うエネルギー転換、製品加工、使用・廃棄までをCO2排出量削減の取り組みとしています。
これは、グローバル・バリューチェーンにも当てはめることができ、グローバル・バリューチェーンにおいてCO2排出量削減に貢献することで、ライフサイクル全体のCO2排出量削減に効果が期待できます。
出典:経済産業省『ガイドラインの主要論点について』p,5.(2018/02/18)
出典:経済産業省『「トランジション・ファイナンス」に関する 紙・パルプ分野における技術ロードマップ』p,26.(2022/03/22)
4. カーボンニュートラルに取り組む企業事例
兵庫パルプ工業株式会社
「兵庫パルプ工業株式会社」は、従来のウェットパルプからドライパルプへと転換し、商品の輸送時に排出されるCO2を7,944トン/年(2013年)から4,791トン/年(2017年)に削減することに成功しました。
これは、ウェットパルプの水分量が約50%なのに比べてドライパルプの水分量が約10%という水分の違いによるもので、ドライパルプは水分量が少ない分、商品の容積が小さくなり、一度に輸送できる量が2倍に増えたためです。
出典:経団連『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献』p,20.(2023/03/31)
フタムラ化学株式会社
「フタムラ化学株式会社」は、2030年の目標として基準年度(令和2年度)から40%のCO2排出量削減を目指しています。化石燃料からなる石炭ボイラーの使用を廃止し、新たに高効率ガスタービンコジェネレーションおよび高圧ガスボイ ラーを導入しCO2排出量削減に取り組みます。ガスの使用効果として窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじんの発生の抑制、石炭灰処理等廃棄物処理費の大幅な削減などのCO2排出量削減の期待が挙げられます。
出典:環境省『令和3年度 SHIFT事業 事例集』p,40.p,41.p,42.( 2022/3/25)
大王製紙株式会社 三島工場
「大王製紙株式会社 三島工場」では、社内方針として「生産コストの低減」を掲げており、それぞれの現場において積極的な省エネに取り組んでいます。その結果、発電設備のコンプレッサに高効率なターボコンプレッサを導入することで、効果検証時の見込みCO2排出削減量96トン(CO2換算)を大きく上回るCO2排出削減量1,406トン(CO2換算)に成功しました。
また、その他、「プーリ径変更による回流機の速度低下化」や「エア漏れ改善活動の徹底」でも、検証見込みを上回るCO2排出量削減を達成しています。
出典:環境省『フォローアップ診断事例集』p,10.(2022/3/1)
川越製袋株式会社
封筒・製袋物の印刷や加工、製造を手掛ける「川越製袋株式会社」では、冬場はカスタムヒーターを使用しています。そのエネルギー源は灯油ですが、カスタムヒーターの更新や、工場排熱の利用による暖房負荷削減に取り組みCO2排出量削減を行っています。
また、照明のLED導入や照明の間引き、開口部の断熱強化などCO2排出量削減の基本的な取り組みを徹底することで、年間で約47トン(CO2換算)のCO2排出量削減に効果があるとしています。
出典:環境省『平成29年度 CO2削減ポテンシャル診断事業 診断事例』p,14.(2022/3/1)
5. まとめ:紙パルプ産業界の先駆け的存在となるカーボンニュートラルを目指そう!
紙パルプ産業におけるカーボンニュートラルの取り組みをご紹介しました。紙パルプ産業では、脱炭素における長期ビジョンに取り組む企業も多く、化石燃料から再生エネルギーの転換や植林による大気中のCO2の回収、CO2を吸収した森林の木材燃料での利用など、自然を循環させる取り組みを行なうことができます。
自然との共存は、企業のアピールポイントとしても効果が高く、企業にとってプラスのイメージとなります。ぜひ、カーボンニュートラルの取り組みを積極的に行い、紙パルプ産業の先駆け的存在を目指しましょう。