鉄鋼業におけるカーボンニュートラルとは?取り組み事例をわかりやすく解説

鉄鋼業における地球温暖化ガスの排出状況やカーボンニュートラルの取り組みについて、わかりやすく解説します!鉄鋼業界でもCO2削減目標が定められ、脱炭素に向けたプランがいろいろ考えられています。各社の取り組み事例もピックアップしてご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルとは

  2. 日本鉄鋼連盟のカーボンニュートラル行動計画

  3. 鉄鋼業におけるカーボンニュートラル取り組み事例

  4. まとめ:鉄鋼業界におけるカーボンニュートラルの取り組みを理解し、CO2を削減しよう!

1. カーボンニュートラルとは

環境問題を語るうえで、カーボンニュートラルを避けては通れません。今一度カーボンニュートラルの意味をおさらいしておきましょう。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理などによる人為的な吸収量を差し引いて、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることです。発生した量と同じだけの温室効果ガスが吸収されれば、言わばチャラの状態になります。

2015年にパリ協定が採択されカーボンニュートラルが世界的な共通課題となったことを受け2020年10月日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

出典:経済産業省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」

鉄鋼業におけるCO2排出の現状

経済産業省・エネルギー庁が発表している「総合エネルギー統計」によれば、国内CO2排出量のうち産業部門の占める割合は35%で、そのうち14%(産業部門内の占有率40%)が鉄鋼業となっています。

鉄鋼業の排出内訳で一番大きい割合を占めるのは、高炉製鉄の54%です。鉄鉱石から銑鉄を取り出す高炉は鉄鋼業の中核設備であり、鉄鋼業の中でも大手事業者のみが保有しています。

鉄鋼業について|CO₂排出の現状

出典:経済産業省「トランジション・ファイナンスに関する鉄鋼分野におけるロードマップ(案)」P9

2. 日本鉄鋼連盟のカーボンニュートラル行動計画

鉄鋼業界の取り組みとしては、業界団体である一般社団法人日本鉄鋼連盟が「カーボンニュートラル行動計画」を推進しています。当該計画はフェーズⅠとフェーズⅡに分かれています。

フェーズⅠ期間(2005年度~2020年度)の取り組み

日本鉄鋼連盟のカーボンニュートラル行動計画フェーズⅠは、元々「低炭素社会実行計画」と称されていましたが、2021年より名称を変更しました。フェーズⅠは「エコプロセス」「エコプロダクト」「エコソリューション」および「環境調和型プロセス技術開発(COURSE50)」を四本柱としています。

2020年度における取り組み結果は、2005年の技術水準のまま特段対策を取らなかった場合のCO2排出量(BAU排出量)からの削減実績が▲648万トンとなり、目標を348万トン超過することができました。

出典:経済産業省「鉄鋼ワーキンググループ」

フェーズⅡ期間(2021年度~2030年度)の取り組み

日本鉄鋼連盟では2021〜2030年度をカーボンニュートラル行動計画のフェーズⅡと位置付けています。フェーズⅠに引き続き「3つのエコ」と「革新的技術開発」の4本柱を基本コンセプトとして、2030年までにCO2排出量を業界として2013年度対比30%削減することなどを目指しています。 

革新的技術開発については、水素を高炉へ吹き込むことでCO2排出を削減し、さらに発生したCO2を分離改修する技術・低品位の鉄鉱石を水素で直接還元しCO2を大幅に削減する技術などを、業界ベースで研究しています。

出典:経済産業省「鉄鋼ワーキンググループ」

3. 鉄鋼業におけるカーボンニュートラル取り組み事例

鉄鋼業界の各社においても、国内外問わずカーボンニュートラルの取り組みが進められています。そのうちのいくつかをご紹介します。

(1)日本製鉄の取り組み

日本製鉄株式会社では、大型電炉での高級鋼量産・水素還元製鉄・CCUS(分離・貯蔵したCO2の有効活用)など複線的なアプローチで、カーボンニュートラルを目指しています。そのため経済産業省が所管する「グリーンイノベーション基金」を活用して、水素還元高炉・直接還元炉・電気炉の試験に向けた準備を進めています。

出典:経済産業省「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P4(2022/9/12)

(2)JFEホールディングの取り組み

JFEホールディングス株式会社では、カーボンリサイクル高炉とCCS(CO2を回収・貯留する技術)を軸とした超革新的技術開発で、カーボンニュートラル実現を目指しています。やはりグリーンイノベーション基金を活用し、カーボンリサイクル高炉・水素直接還元炉・電気炉の試験に向け試験炉を準備中です。

出典:経済産業省「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P4(2022/9/12)

(3)神戸製作所の取り組み

株式会社神戸製作所では、技術・製品・サービスで1億t以上のCO2排出削減に貢献するとしています。既存技術の省エネ化・革新技術の揮発・直接還元鉄の製造を進めており、2022年5月から低CO2高炉鋼材「Kobenable Steel」を商品化しています。グリーンイノベーション基金を活用した小型商用電炉の試験も進行中です。

出典:経済産業省「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P4(2022/9/12)

(4)SSAB(スウェーデン)の取り組み

ストックホルムに本社を置くスウェーデンスティール株式会社(SSAB)は2016年に、鉄鉱石生産のルオッサヴァーラ=キルナヴァーラ社(LKAB)・電力のヴァッテンフォール社という公営企業2社と共に共同の枠組みであるHYBRITを開始、直接水素還元技術を開発し、世界初の水素還元銑鉄の製造に試験規模で成功しています。

化石燃料を含まない水素ガスを使用することで製鋼プロセスからCO2削減し、2026年には脱化石燃料鋼を市場投入することが目標です。

出典:経済産業省「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P7(2022/9/12)

(5)U.S.スチール(米国)の取り組み

ペンシルベニア州に本社を持つユナイテッド・ステイツ・スチール・コーポレーションは、高炉に比べCO2排出量が1/4である電炉を備えた鋼板工場を2024年に新設・稼働し、次世代高機能鋼材を年間300万t生産する予定です。持続可能な生産ライン「verdeX」によって、スクラップ鉄を最大90%活用して高張力鋼を生産可能とされています。

出典:経済産業省「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P●~●(2022/9/12)

4. まとめ:鉄鋼業界におけるカーボンニュートラルの取り組みを理解し、CO2を削減しよう!

鉄鋼業からのCO2排出量は日本全体の排出量のうち14%を占めており、日本鉄鋼連盟ではカーボンニュートラル行動計画に基づき、脱炭素の取り組みを進めています。鉄鋼業のカーボンニュートラルにおいては、水素還元やCCS・CCUSなどの技術が重要なポイントです。

国内ではグリーンイノベーション基金を活用して試験炉の建造などが行われて、海外でもCO2排出量を削減する生産方法の研究や実用化が進んでいます。 

鉄鋼業界におけるカーボンニュートラルの取り組みについて理解し、CO2を2030年度までに30%削減することを目指しましょう。

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