【脱炭素社会に向けて】日本の再生可能エネルギー導入拡大への課題とは?

世界が脱炭素社会に向けて加速しています。再エネが社会にとって当たり前となる、持続可能な再エネ型社会の実現のためには、非効率な石炭火力のフェードアウトと同時に再エネの導入拡大が必要です。

しかし再エネ導入拡大にあたって、「日本は諸外国に比べて再エネ導入に不利な状況にある」と言われます。日本の抱える再エネ導入拡大における課題とは、具体的に何があるのでしょうか。世界の再エネ導入の現状も確認し、日本の現状と課題について理解しましょう。

目次

  1. 日本の再生可能エネルギーの現状

  2. 世界の再生可能エネルギー事情

  3. 再生可能エネルギー導入拡大への課題

  4. まとめ:中小企業も脱炭素社会への課題をしっかりと把握しよう

1. 日本の再生可能エネルギーの現状

日本の再生可能エネルギーの割合

2011年の東日本大震災とその後の原子力発電所の停止により、日本では化石燃料の消費が増えました。それまで減少傾向にあった石油の割合は2010年では40.1%でしたが、2011年には44.7%まで上昇しました。

出典:資源エネルギー庁『エネルギー供給の概要

しかしその後、再生可能エネルギーの導入や原子力発電所の再稼働が進むとともに、石油火力の電源構成に占める割合は減少傾向に転じます。それにともない、2010年では全体の9%を占めていた再生可能エネルギーの割合は2019年には18%まで増加しました。

石油火力の割合は減少傾向にあるものの、依然として2019年の時点で石油、LNG(天然ガス)、石炭を含めた化石燃料による火力が電源構成に占める割合は76%と大きく、2050年カーボンニュートラル実現のためには国・地域・企業・家庭の全てが力を合わせ、化石燃料に依存しない社会づくりを目指す必要があります。

出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書 国内のエネルギーの動向』p.86,p.87

出典:経済産業省『今後の再生可能エネルギー政策について』p.19 (2019年)

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク委員会 2021年3月16日』(資料4)p.4

日本企業の再生可能エネルギー導入

日本では今、幅広い業種でEGS投資の呼び込み、グローバルなサプライチェーンの生き残り、企業立地などの観点から幅広い業種で脱炭素経営が推進され、再エネの導入が進んでいます。

世界は今、カーボンニュートラルに向けた大競争時代に突入し、日本でも大企業だけではなく、中小企業にとっても脱炭素経営は競争力に直結します。政府も次々と温暖化ガス削減目標を引き上げており、再エネ需要は高まっています。

出典:環境省『2030年目標に向けた検討』p.14

2019年には2030年の再エネ導入の目標を22~24%としていました。しかし、2021年には経済産業省の委員会で、2030年の電力総需要に対する再エネ導入比率50%を達成するポテンシャルがあるとJCLP(日本気候リーダーズパートナーシップ)が提言しています。経済産業省は2021年7月下旬に再エネ導入率36〜38%を野心的な目標として素案を提出し、8月中に閣議決定される予定です。

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク委員会 2021年3月16日』(資料4)p.7,p.8
出典:資源エネルギー庁『エネルギー基本計画(素案)の概要 令和3年7月21日』p.12

2. 世界の再生可能エネルギー事情

世界の再生可能エネルギーの導入割合

脱炭素社会に向けて世界が進む中、近年世界全体の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は増加しています。しかし、2019年時点でのシェアは水力を含めても11.4%と、エネルギー消費全体に占める比率はまだ大きくありません。

近年の太陽光発電や風力発電のコスト低下により、再生可能エネルギーの比率はさらに拡大しています。再生可能エネルギーのコスト競争力の高まりとともに、更なる導入量の増加が期待されます。

【世界のエネルギー消費量の推移】

出典:資源エネルギー庁『エネルギー需給の概要等

世界の2030年目標

世界では「2030年・2050年の温室効果ガス削減目標」を実現するために、再エネ導入を加速させ、高い目標を設定しています。「2030年には電力の40~70%を再エネに、2050年にはカーボンニュートラル」が先進国の目指す基準です。

主要国の具体的な再エネ導入目標は、2021年時点では次のように発表されています。

出典:金融庁『脱炭素に向かう世界』p.7をもとにアスエネ作成

世界と比較した日本

発電の割合で見ると、日本は主要国の中では大きく出遅れているような印象を受けますが、発電量で見ると決して少ないわけではありません。日照量や平地面積では恵まれた条件とは言えない中でも、急速に再エネ導入が進んでいます。

下のグラフの右側、発電電力量に注目してください。日本はアメリカや中国のように大きな国土を持つ国を除いた主要国の中では群を抜いて総発電電力量が多いことがわかります。

出典:資源エネルギー庁『国際エネルギーの動向』p.198

国全体の発電電力用は2018年の時点ではイギリスで3,300億kWh、ドイツで6,400億kWhですが、日本は1兆500億kWhです。全体の発電電力量が大きいために割合で見ると日本の再エネ導入量は少ないように見えますが、下のグラフの実際の電力量では世界第6位です。

そのなかでも太陽光の発電容量では世界第3位です。日本の再エネ発電電力量は2012年から2018年で約3倍に増加しており、世界でもトップクラスの速度で再エネ導入が進んでいます。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.20

太陽光や陸上風力の導入にあたっては国土が狭く平地の少ない日本は決して有利とは言えません。しかし、平地当たりの再エネ発電量でみると日本は世界最大で、限られた国土の中でも導入が進展していることがわかります。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.22

日本の再エネ導入量は、発電電力量では少なくないのにもかかわらずの全体での割合が他国と比較して上がりにくいのはなぜでしょうか。次の章でその課題と今後の再エネ導入推進にあたって必要とされることを確認しましょう。

3. 再生可能エネルギー導入拡大への課題

出力変動への対応

特に太陽光や風力は自然条件によって出力変動するため、需要と供給を一致させる「調整力」が必要です。現在は調整力として主に以下の二種類の方法に依存しています。

  1. 燃料を備蓄することが可能で発電量の調整がしやすい火力発電

  2. 夜間などに余剰電力で水を高所に汲み上げ、電力需要の大きい時間帯に水力で発電する揚水発電

調整力が適切に確保できなければ再エネを出力制御しなければならなくなり、再エネの収益性が悪化し、再エネへの投資が進まない恐れがあります。

今後、太陽光・風力などの変動再エネの導入量が増加する中で、この調整力をいかに確保するかは大きな課題のひとつです。また、調整力の水素・蓄電池・カーボンリサイクル付火力・バイオマス・デマンドレスポンスなどの脱炭素化の推進も必要です。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.12

出典:資源エネルギー庁『再エネ大量導入に向けて~「系統制約」問題と対策

送電容量の確保

日本では、再エネでの大量発電が可能な条件の地域(北海道など)と電力の大規模需要がある地域(東京など)が離れているため、送電容量が不足した場合、需要地に送電ができず再エネの活用が難しくなってしまいます。

例えば日本でも広大な土地をもつ北海道ですが、北海道内の電力需要が小さいために、再エネ導入拡大が進めにくい状況です。今後、どのように再エネ供給地と電力の需要地を結ぶ送電網を整備していくかは重要な課題です。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.12

系統の安定性維持

突発的な事故で発電所が停止した際に、周波数を維持し、ブラックアウト(広域な大停電)を避けるためには、電力系統全体で変化に対応しながら発電を維持する能力や、発電量を機動的に増減できる能力が必要です。柔軟な発電量の調整が難しい太陽光・風力の割合が増加すると、系統の安定性を維持できない可能性があります。

この系統全体での一定の電力供給を維持する慣性力の確保は再エネの大量導入にあたって必要不可欠です。この電力供給の慣性力の開発を進め、災害などのトラブルに対する耐性を確保しなければなりません。

出典:資源エネルギー庁『再エネと安定供給~求められる「発電を続ける力」
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.12

自然条件や社会制約への対応

自然条件の影響が大きい再エネの導入には、平地や遠浅の海が少なく、また日射量も多くないという日本の自然条件を考慮する必要があります。また、農業・漁業など、その土地の他の利用との調和や景観・環境への配慮を含む、地域との調整も必要です。

再エネは導入できる適地が限られています。この中で電源ごとに現状を踏まえた再エネ導入の計画を進めなくてはなりません。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.12

コストの受容性

再エネ導入にあたってのそれぞれの課題を克服していくためには、大規模な投資が必要です。日本の限られた条件での再エネ導入拡大により、適地が不足してコストがさらに上昇する恐れもあります。

イノベーションによる新たな発電方法の開発・コストの低下・発電効率の上昇は期待されているものの実現が不確実な中で、コスト面でもリスクに備えた対応が求められます。すでに再エネ賦課金の国民への負担が問題になっている現状とともに、こうしたコスト負担への理解と大規模な投資をどう獲得していくかも大きな課題です。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.12

4. まとめ:中小企業も脱炭素社会への課題をしっかりと把握しよう

世界は再エネ導入が急速に加速している

世界では再エネのコスト低下が進み、ビジネスベースでの再エネ導入は急速に加速しています。再エネは新しい産業であり、日本もこの競争力を強化しなくてはなりません。

再エネ産業の支えとなるインフラ・地域社会の開発が進められる中で、企業のビジネスの機会を見出すには、その課題をしっかりと把握する必要があります。経済・社会の課題の中には、今後のニーズや経済の変化を予測する鍵があるからです。

不確実性の中に参入の機会を見出す

2050年カーボンニュートラルまでの道のりには技術革新などの不確実性が存在し、具体的に見通すことは難しい現状です。脱炭素社会への変革を進めるにあたって、自社の温室効果ガス削減に取り組むことも必須ですが、社会全体での再エネ導入の課題を理解し、しっかりと今後の産業・経済の流れをつかんでおくことも大切です。

不確実性があれば、そこにはできる限りの確実性を求める流れが生まれ、投資・融資を受ける際にも、企業の情報開示などで信頼性を示すことは一層重要となります。

脱炭素社会は国や大企業だけが作るものではなく、中小企業や家庭に至るまで、社会全体、世界全体で作るものです。企業は省エネ・再エネ導入などでの温室効果ガス削減に積極的に取り組むと同時に、社会全体の今後の課題を見据えた上での経営方針を打ち出し、自社の情報開示に取り組み信頼を確保しましょう。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.4

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024