ESG債とは?注目される背景と発行事例を解説

グローバル債券市場において、サステナビリティ(持続可能性)を意識した資金調達商品が重要な地位を占めつつあります。そこで最近話題になっているのがESG債です。

現在、様々な種類のESG債が投資可能となる中で、投資によるインパクトを実現していくためには慎重に投資対象を見極めることが重要となります。この記事では、ESG債の概要とともに、日本国内におけるESG債発行事例などもあわせて解説しますので、ぜひご参考になさってください。

目次

  1. 関心や期待が寄せられているESG債

  2. ESG債の種類

  3. ESG債への投資のメリットと注意点

  4. まとめ:理解を深めてESG債に取り組もう

1. 関心や期待が寄せられているESG債

現在、環境問題や社会問題の改善に積極的に取り組むためのお金を募っているESG債に大きな関心が寄せられています。まずはESG債がどのようなものか確認しておきましょう。

(1)ESG債とは

ESG債とは、ESGの課題である環境改善や社会的課題を解決する事業に資金を集めるための債券です。ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字から成り、近年多くの企業がESGに配慮した経営に取り組んでいます。

資金使途や資金管理、プロジェクトの進捗状況などを投資家に詳しく開示することを求められるのが特徴のESG債は、日本で初めて発行された2016年以降発行額が年々増加しており、現在注目を集めています。

出典:内閣府 「ESGの概要

出典:財務省「EGS投資について」(令和3年12月1日)p5

(2)ESG債が注目されている理由

これまでの投資では、会社の利益や業績など財務情報をもとに投資先を判断していたのが一般的でした。しかし近年、財務諸表には出てこない非財務価値を加えたうえで会社を評価するべきだと考えられるようになり、注目されたのがESGです。実際に環境改善や社会的課題の解決に取り組んでいる会社は、長期的に安定した収益力を持つ傾向にあります。非財務価値にも関心が高まったことが、ESG債注目に繋がりました。

出典:環境省 「グリーンボンドガイドライン グリーン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン」(2020年3月)p2~5

(3)世界と日本におけるESG債の発行額

世界で見ると、グリーンボンドを中心にESG債の発行額は年々増加を続けており、2020年におけるESG債の発行額は7,000億ドルを超えています。地域別にみると欧州の発行額が世界全体の36.7%を占めており、欧州でのEGS投資が盛んであることが分かります。

近年では、中国等のアジア諸国でのESG投資の発行額が増加しており、ESG債発行に貢献しています。一方、日本国内でも環境目的などに資金調達するESG債の存在感が高まっており、2022年の発行額は4兆1786億円で、初めて4兆円を突破しました。

出典:日本証券業協会 「SDGs債の発行状況

出典:Climate Bonds Initiative「Sovereign Green, Social, and Sustainability Bond Survey」

2. ESG債の種類

ESG債は、発行目的・プロジェクトに応じて分類されており、大きく分けて5つの種類があります。それぞれの違いについて詳しく解説していきます。 

(1)グリーンボンド(環境債)

グリーンボンドとは、企業や地方自治体などがCO2削減といった環境改善効果を目的としたプロジェクトの資金を調達するために発行する債券です。再生可能エネルギーや省エネルギー、環境汚染防止などの事業もグリーンボンドの対象に含まれます。また、グリーンボンドで調達した資金は、環境改善活動での利用に限定されます。

出典:環境省 「グリーンボンドとは

(2)ソーシャルボンド(社会貢献債)

ソーシャルボンドとは、企業や公的機関が、ソーシャルプロジェクトのための資金を調達するために発行する債券です。ソーシャルプロジェクトとは、復興支援、環境保全、地域活性化など、社会的課題の解決を目的とする活動を指します。

ソーシャル・プロジェクトの多くは、貧困ラインを下回る生活者、社会から取り残されている人々やグループ、移民、失業者、女性または性的マイノリティー、障害者や避難民などを対象とするものです。それらの債券によって調達された資金の使途は、社会問題を軽減する目的に特定され、特に最も大きな影響を受けた人々に焦点を当てています。

出典:国際資本市場協会ICMA「ソーシャルボンド原則 2020 ソーシャルボンド発行に関する自主的ガイドライン 」(2020年6月) 

出典:金融庁 「ソーシャルボンド ガイドライン」(2021年10月)p27

(3)サステナビリティボンド(持続可能性債)

サステナビリティボンドは、環境的課題と社会的課題の双方に取り組むプロジェクトの資金調達のために発行される債券です。国際的には、「サステナビリティボンドガイドライン」が2017年に策定されて以来、発行が増加しています。グリーンプロジェクトを資金使途の対象として含むサステナビリティボンドは、グリーンボンドと同様のメリットがあり、グリーンプロジェクトに民間資金を導入するための有効なツールの一つです。

出典:環境省 「サステナビリティボンドとは

(4)サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)

サステナビリティ・リンク・ボンドは、債券のクーポンに関する財務制限条項を通じて、構造的に発行体の気候や広範なSDG目標の達成状況に連動する債券です。発行体(資金の借り手)が事前に設定した目標の達成状況によって、金利条件が変化します。目標設定によっては低金利で資金を調達できる可能性がありますが、目標が達成できなかった場合は利率が上がるなど返済条件が悪化してしまいます。

出典:環境省 サステナビリティ・リンク・ボンド原則

(5)トランジションボンド(移行債)

トランジションボンドとは、グリーンボンドには入らないものの、脱炭素(または低炭素)への移行を進める取り組みを資金用途として発行される債券です。全産業での脱炭素化を推進するためには、現段階において脱炭素化が困難なセクターにおける低炭素化・脱炭素化への取り組みへの資金供給が重要であるという観点から注目されています。

出典:環境省「トランジション・ファイナンスに関する ガイドライン、調査レポートの紹介

3. ESG債への投資のメリットと注意点

最後に、ESG債に投資するメリットと注意点をご紹介します。

(1)ESG債を通じたサステナビリティ経営の高度化

ESG債に投資するメリットとして、企業価値の工場につながる点があげられます。投資した資金がそのまま環境改善などの活動に使われるため、資産形成をしながら間接的に社会貢献することになります。こうした取り組みは、発行体の中長期的なESG評価の向上につながり、ひいては企業価値の向上にだけでなく、企業のサステナビリティ経営をさらに高度化していくことにもつながるのです。

出典:環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」

(2)新たな投資家層の獲得による資金調達基盤の強化

企業等が資金調達基盤を強化するためには、資金調達手段の多様化が有効です。ESG債を通じて、地球温暖化をはじめとした環境問題の解決に資する性質を有する投資対象を高く評価する投資家等の新しい投資家層の獲得につながり、資金調達基盤の強化につながる可能性があります。

出典:環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」

(3)グリーンウォッシュの懸念

ESG債に投資する場合、「グリーンウォッシュ」の存在に注意が必要です。グリーンウォッシュとは、実態もないのに環境改善に貢献しているように見せかける企業行動を指します。例えば、エコな取り組みをしていないにもかかわらず、省エネという表記をしたりといったものが考えられます。

グリーンウォッシュを見分けるには、1つの情報だけに頼らず複数の情報から資金が適切に使われているか調べることが重要です。ESG債ではこうした確認をしっかりしたうえで、ご自身が応援したいプロジェクトに投資することをおすすめします。

出典:環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版

4. まとめ:理解を深めてEGS債に取り組もう

SDGsの目標達成に貢献するための事業の資金調達のために発行されるEGS債。ESG投資や環境問題・社会問題への意識の高まりにより、EGS債の発行件数は年々伸びており、今後もこの流れは続いていくと予想されます。 企業にとっては、資金調達ができるだけでなくSDGs活動を積極的に進めている企業として対外的なアピールにもなり、資本市場における競争力向上にもつなげるためにESG 債に取り組んでみましょう。

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