カーボンニュートラルLNGとは?意味や仕組みをわかりやすく解説

カーボンニュートラル(carbon neutrality、炭素中立)とは、人が活動を行った際に大気中に排出される二酸化炭素と、植物などによって大気中から吸収される二酸化炭素の量が等しく、全体としてゼロとなっている状態を指します。二酸化炭素は地球温暖化の原因となり、気候変動を引き起こすことから、カーボンニュートラルは地球規模の課題とされています。今回は、カーボンニュートラル実現に向けた手段の一つであるカーボンニュートラルLNGについてご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルLNGとは

  2. カーボンニュートラルLNGの仕組み

  3. カーボンニュートラルLNGの課題

  4. まとめ:カーボンニュートラルLNGについて理解を深めよう

1. カーボンニュートラルLNGとは

(1)カーボンニュートラルLNGとは

カーボンニュートラルLNGとは、LNG(液化天然ガス)の一種です。LNGは、燃やした時の二酸化炭素排出量は石炭の半分程度ですが、生産時や輸送時にも二酸化炭素を排出してしまうという欠点があります。カーボンニュートラルLNGでは、燃焼するまでに出る二酸化炭素を、森林保護や再生可能エネルギー導入事業で創出されたカーボンクレジット(二酸化炭素削減量)を購入して相殺することで「排出ゼロ」と見なすことができます。カーボンニュートラルLNG利用企業は、このカーボンクレジットを購入することで、従来のLNGを使用したままでカーボンニュートラルを実現したと主張できます。

例えば、上智大学四谷キャンパスでは2021年12月1日から、消費する都市ガスについて、カーボンニュートラル都市ガスを導入しました(都市ガスはLNGを原料としています)。これに伴い、上智大学四谷キャンパス全体で使用する都市ガス量である年間約910千㎥が、CO2を実質的に排出しないエネルギーに切り替わることとなり、上智大学はホームページで大幅な脱炭素化をPRしています。

しかし、カーボンニュートラルLNGの取引が広がっている一方、クレジットの質が課題となっています。実際の二酸化炭素削減効果よりも大きい規模でクレジットを発行して問題になったケースが過去にあり、実際よりも過大なカーボンクレジットが出回る背景には、二酸化炭素相殺の実態をチェックするルールが整備されていないことがあります。

オーストラリアでは、カーボンクレジットの詳細を報告書にまとめることを義務付けられており、またこれは認証機関のサイトで公表されるため、第三者も点検することができます。カーボンニュートラルLNGの実効性を高めるには、日本においてもこのようなルール作りを急ぐ必要があります。

出典:資源エネルギー庁「LNGを安定的に供給するための取り組み」(2017年12月5日)

出典:上智大学HP(2022.03.17)

(2)我が国のカーボンクレジットの状況

我が国におけるカーボンクレジット認証制度としては、「J-クレジット」があります。これは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を、「クレジット」として国が認証する制度です。2013年度より国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度を一本化し、経済産業省・環境省・農林水産省が運営しております。

2023年3月時点で承認された方法論の数は69あります。方法論とは、温室効果ガスを削減する技術や方法ごとに排出削減算定方法やモニタリング方法等を規定したもののことです。クレジットの種類は主に4種で、「再生可能エネルギー(発電)」「再生可能エネルギー(熱)」「省エネルギー設備」「森林吸収」があります。

「再生可能エネルギー(発電)」は、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーを導入することにより削減されたCO2排出量に対してクレジットが認証されます。「再生可能エネルギー(熱)」は、バイオマス・地熱などの再生可能エネルギーを導入することにより削減されたCO2排出量に対してクレジットが認証されます。

「省エネルギー設備」は、ボイラーや照明設備の導入など燃料転換や高効率化のため省エネ設備を導入することにより削減されたCO2排出量に対してクレジットが認証されます。「森林吸収」は、森林経営活動や植林活動によって吸収されたCO2量に対してクレジットが認証されます。

出典:環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」

2. カーボンニュートラルLNGの仕組み

(1)カーボンニュートラルLNGの仕組み

カーボンニュートラルLNGは、LNGのうち生産(採掘)から燃焼(消費)までに排出する二酸化炭素を実質的にゼロとするものですが、実際にはどのような仕組みなのでしょうか。

カーボンニュートラルLNGを支える仕組みに「カーボンクレジット(carbon credit)」があります。カーボンクレジットとは、再生可能エネルギーの導入や植林・森林保全等の取り組みによって生み出された二酸化炭素の削減量をクレジットとして発行したものです。

カーボンニュートラルLNGでは、消費までに発生した二酸化炭素に対し、その量を相殺するカーボンクレジットを購入することで、二酸化炭素の排出量と削減量を埋め合わせ「排出量実質ゼロ」としています。

出典:資源エネルギー庁「LNGを安定的に供給するための取り組み」(2017年12月5日)

(2)カーボンニュートラルLNGの生産から供給までの流れ

カーボンニュートラルLNGが成立するには、まず、カーボンクレジットの制度化が必要です。カーボンクレジットとは、再生可能エネルギーの導入や植林・森林保全等の取り組みを対象に、その取り組みが実施されなかった場合の排出量及び炭素吸収・炭素除去量(以下「排出量等」)の見通し(ベースライン排出量等)と実際の排出量等(プロジェクト排出量等)の差分について、MRV(測定・報告・検証)を経て、国や企業等の間で取引できるよう認証したものです。

カーボンニュートラルLNGは、天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する二酸化炭素を、新興国等における環境保全プロジェクトにより創出されたカーボンクレジットで相殺することにより、地球規模ではこのLNGを使用しても二酸化炭素が発生しないとみなされるLNGです。

出典::経済産業省「 カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会「カーボン・クレジット・レポート」(2022年6月,)

3. カーボンニュートラルLNGの課題

カーボンニュートラルLNGの課題

カーボンニュートラルLNGの最大の課題はカーボンクレジットの信頼性です。先述の、実際よりも過大なカーボンクレジットが出回ってしまったことも課題の一つです。

また、2007年、イギリスの下院環境監査委員会が公表した報告書で指摘されたこととして、「クレジットを活用してカーボンニュートラルを達成した」と発表した企業の二酸化炭素排出量を算定したところ、実際にはむしろ増加していたという企業事例がありました。

クレジットという制度自体、お金を払って埋め合わせればいくらでも二酸化炭素を排出してよいという「免罪符」になってしまう危険性を有しています。このような事態の背景には、二酸化炭素相殺の実態をチェックするルールが整備されていないことがあります。

出典:環境省「英国において指摘されているカーボン・オフセットの主な問題点」

課題に対する対策

カーボンクレジットの信頼性を担保するためには、対象となるプロジェクトに対して一定の要件が設けられ、その要件を満たすことが必要です。

例えば、一般的にカーボンクレジットの要件として知られている ICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)が定める「ICROA CODE OF BEST PRACTICE」6の要件を整理したものが次です。

(1)Real(実際に行われていること)

全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去活動は、真に行われたことが証明されなければなりません。

(2)Measurable(測定可能性)

全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去は、信頼できる排出ベースラインに対して、認められた測定ツールを使用して定量化されなければなりません。

排出ベースラインとは、そのプロジェクトが実施されなかった場合の排出量及び炭素吸収・炭素除去量の見通しのこと。

(3)Permanent(永続性)

カーボン・クレジットは、恒久的な排出削減と炭素吸収・炭素除去を表すものでなければならなりません。プロジェクトに可逆性リスクがある場合には、少なくとも、リスクを最小限に抑えるための適切な保護手段を講じ、反転(漏洩)が発生した場合に備えた保証メカニズムを導入する必要があります。なお、国際的に認められている永続性基準年数は100年間です。

(4)Additional(追加性)

プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去(排出ベースライン)から、追加的なものでなければなりません。カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければなりません。

(5)Independently verified(独立した検証)

全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去は、認定された独立した第三者検証者によって検証されなければなりません。

(6)Unique(唯一無二であること(二重カウントされていないこと))

1トンの排出削減・炭素吸収・炭素除去量が、1トン分のクレジットを生み出す必要があります。カーボンクレジットは、独立したレジストリーで管理され、無効化・償却されなければなりません

出典:経済産業省「 カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会「カーボン・クレジット・レポート」(2022年6月),)P6

4. まとめ:カーボンニュートラルLNGについて理解を深めよう

カーボンニュートラルLNGの意味や仕組みについて解説してきました。2050年のカーボンニュートラル実現へと日本をはじめ世界が動き出すなか、カーボンニュートラルなLNGが注目されています。

LNGは石炭と比較して二酸化炭素の排出量が半分程度と地球環境に優しいエネルギーでありながらも、二酸化炭素を排出するという点においては石炭と同様といった批判もあります。

LNGの脱炭素化は、そういった批判を払拭するとともに、巨額の新規投資をすることなく既存の施設や輸送網といったインフラを利用しながら実現することができます。 二酸化炭素排出削減を行いながら従来の事業活動を続けるために、カーボンニュートラルLNGの理解を深めていきましょう。

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