日本における海洋貯蔵プロジェクトとは!?CCSも合わせて解説!

近年、CO2回収として海洋貯蔵が注目されております。そして日本においてCCS(二酸化炭素回収・貯留)は、海洋の性質を活かして地球温暖化や二酸化炭素削減といった環境問題に対処するため効果的な手段として注目されています。

本記事では、日本における海洋貯蔵プロジェクト、CCS(二酸化炭素回収・貯留)の将来展望、課題を解説します。

目次

  1. 海洋貯蔵プロジェクトの概要

  2. 日本の気候変動対策や環境保護の重要性

  3. 日本の海洋貯蔵プロジェクトの実施例

  4. 日本における海洋貯蔵プロジェクトの課題と将来展望

  5. まとめ:CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトに関する情報に触れ、理解を深めよう!

1. CCS(二酸化炭素回収・貯留)の概要

この章では、海洋貯留プロジェクトと二酸化炭素回収・貯留(CCS)について解説します。

(1)海洋貯留プロジェクトの基本的な概念

海洋貯留プロジェクトとは、海洋は大気中のCO2濃度と平衡になるまでCO2を吸収するという性質により生まれる海洋中のCO2量が減ると大気中のCO2量も減るという関係を活かし、地球温暖化改善や二酸化炭素(CO2)排出削減を目指したプロジェクトを言います。

具体的な海洋貯蔵プロジェクトとして、海洋生物やCO2の海底埋設によって、海洋内のCO2量を減らし大気中から海洋にCO2を吸収させ、地球温暖化改善や二酸化炭素(CO2)排出削減を行うというものがあります。

出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)p2-3
出典:気象庁『海洋の炭素循環』
出典:国土交通省港湾局「海の森ブルーカーボン」(2021/3)p6-7

(2)二酸化炭素回収・貯留(CCS)の定義とプロセス

前述のとおり、海洋貯留プロジェクトは地球温暖化改善や二酸化炭素(CO2)排出削減を目指したプロジェクトを指しますが、その手段として二酸化炭素回収・貯留(CCS)というものがあります。

  1. CCSとは
    二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)とは、CO2を発電所や化学工場でといった排出源から集め、地中深く等の貯留場所に安全に補完する技術をいい、温室効果ガスの排出削減と気候変動対策の一環として注目されています。

  2. プロセス
    二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)のプロセスには、回収、輸送、貯留の三段階があります。

    1. 回収
      製油所、発電所、化学プラント等のCO2排出源から排出されたCO2を回収設備を用いてCO2を回収します。

    2. 輸送
      回収されたCO2は、パイプラインやタンカーなどを使用して貯留場所まで輸送されます。

    3. 貯留
      回収し輸送したCO2を地中深くに圧入し、大気中に放出されないように遮蔽層と呼ばれるCO2を通さない泥岩などの地層のより地下に存在する貯留層という玄武岩質の地層で貯留されます。

    4. 貯留後のCO2について
      玄武岩質の地層に貯留されたCO2は数年の時を経て、化学反応により炭酸塩鉱物が形成されます。
      炭酸塩鉱物

出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)p4

  1. 図解
    以上をイラストにすると以下のようになります。
    CCSの仕組み出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)5

  2. 類似概念としてのCCUS
    なお、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)に類似するものとして、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)というものが存在し、これは回収・貯留したCO2を利用することを指します。例を挙げるとアメリカではCO2を古い油田に注入し、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ同時にCO2を地下に貯留する技術です。この方法は、CO2の排出削減を実現するだけでなく、石油の生産量を増やすことにも繋がるため、ビジネスとして活用されています。

出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)p3
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」(2017/11/14)

2. 日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの背景

日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトは、主に気候変動対策とエネルギー安全保障の観点から進められています。

  1. 気候変動対策としてのCCS

二酸化炭素(CO2)は、地球温暖化の主要な原因となる温室効果ガスの一つです。CCSは、大気中のCO2濃度を低減するための技術として注目されています。特に、化石燃料の使用を続ける一方で、その排出ガスを大気に放出せずに地下に貯留することで、温室効果ガスの排出を抑制することが可能であることから期待がされています。

  1. エネルギー安全保障としてのCCS

CCSは、化石燃料の使用を続けることを可能にする技術としても重要です。化石燃料は、エネルギー供給の安定性や経済性から見て、今後も一部のエネルギー源として必要とされると考えられています。CCSにより、化石燃料の使用と気候変動対策を両立することが可能となるため、導入検討が進んでいます。

具体的なプロジェクトとしては、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、2050年カーボンニュートラルの実現に向けたCCS事業の本格展開のため、2030年までの事業開始と事業の大規模化・圧倒的なコスト削減を目標とするCCS事業7案件を、「先進的CCS事業」として選定しました。これにより、2030年までにCO2の年間貯留量約1,300万トンの確保を目指します。

また、日本は「アジアCCUSネットワーク」を通じて、日本の技術や制度、ノウハウを生かし、アジア全域での知見の共有や事業環境整備を推進しています。

出典:環境省「第2節 パリ協定を踏まえた我が国の気候変動への取組」
出典:気象庁『海洋の炭素循環』
出典:経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」(2023/6/13)
出典:環境省「ブルーカーボンについて」(2022/3)p5-7

3. 日本政府が進めているCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの一部としての二酸化炭素回収利用・貯蔵(CCS)施設の開発

日本政府は、7つの二酸化炭素回収利用・貯蔵(CCS)プロジェクトを発表しました。これらのプロジェクトのすべては、2030年までに稼働予定であり、年間1300万トンのCO2能力回収を持つことになり、そのうち5つのプロジェクトは、海洋貯蔵施設を必要とします。

Itochu Corp.やINPEX Corp.などの企業が主導するプロジェクトでは、鉄鋼工場、石油精製所、石炭火力発電所など、さまざまな発生源からのCO2を回収し、三井物産株式会社は、回収したCO2をマレーシアの油田へ輸出するプロジェクトが予定されています。 日本は海洋国家であり、日本の排他的経済水域には安定した玄武岩質の地層が多く存在することから、海洋貯留が注目されています。

出典:国立研究開発法人海洋研究開発機構「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)p3
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に」(2020/11/27)
出典:経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」(2023/6/13)

4. 日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの課題と将来展望

CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの課題と将来展望について、解説します。

(1)日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの課題

日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトは、以下の点に課題があります。

  1. 技術的観点
    CO2の分離・回収技術においては、CO2回収率の向上、エネルギー効率の改善が求められています。また、CCSの船舶輸送は、日本において(地形の観点から)不可欠であると考えられていますが、世界での実用例が少なく技術的な課題が未だに残っています。

  2. コスト
    貯留と貯留後のモニタリングにおいては、掘削や貯留の低コスト化、CCUS/カーボンリサイクルのコストの太宗を占める分離回収技術の進展によるコスト低減、モニタリング技術の緻密化や自動化、低コスト化が課題です。 

  3. 貯留適地の選定と貯留量拡大
    日本には約1500〜2400億トンの貯留が可能ですが、より精緻な貯留適地の特定と経済性や社会的受容性の考慮が必要で、また年間の貯留可能量には限界があり、輸送ネットワークの整備も課題となってきます。

  4. 事業環境の整備
    現在は、事業環境に特化した法令が不足しており、様々な法律の適用法規が必要で手続きが煩雑でコスト負担が大きくなっています。また、モニタリングには永続的な義務があり、民間企業が参入しにくい状況もあります。政策的な支援やインセンティブも必要であり、CCSの事業リスクや官民の役割やコスト分担についての議論も重要です。

出典:公益財団法人地球環境産業技術研究機構「CCS実用化への展望と課題」(2022/2/2)p33

(2)日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの将来展望

日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトの将来展望は以下のことが予想されます。

  1. CCS実証事業
    日本の代表的なCCS実証事例として、苫小牧実証事業が挙げられます。同プロジェクトは、実用規模でのCCS実証を目的とし、日本初の大規模CCS実証試験として始動しました。2012年度から2015年度にかけて実証設備を建設し、2016年度からCO2の圧入を開始しました。このプロジェクトでは地域社会と緊密に連携し、地元の理解を得ながら運営を行っています。

そして、2019年11月には、都市圏近辺での運営を通じて地元の理解を得て、累計で30万トンのCO2を安全に圧入することに成功しました。苫小牧プロジェクトは、地域社会と連携をとり安全に操業できた点で、世界でも有数の成功事例とされ、今後の日本におけるCCS実証のリーディングケースとして認識されていくことが予想されます。

  1. 技術の発展とコスト低減
    技術の発展とコスト低減という観点では、新たな材料やプロセスの開発、効率的なCO2の回収・貯留技術の実用化など、技術革新による進化が進むことで、海洋貯蔵プロジェクトにおけるCO2削減の効果が高まり、海洋貯蔵技術のさらなる発展とコストの低減が期待されます。

  2. 日本の地理的特質
    日本の排他的経済水域には、安定した海洋プレート状に玄武岩を基盤とする海山(大規模平頂海山)が複数存在しているため、大規模なCCSに係るイノベーションが期待されている。

出典:公益財団法人地球環境産業技術研究機構「CCS実用化への展望と課題」(2022/2/2)p34
出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/21)p3
出典:経済産業省「CCS 長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ(案)」(2023/5)p12

5. まとめ:CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトに関する情報に触れ、理解を深めよう!

日本におけるCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトは、海洋の性質を利用し地球温暖化や二酸化炭素(CO2)排出削減を目指すものであることを解説しました。CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトによって地球温暖化や二酸化炭素(CO2)排出削減を効果的に図ることが期待されていますが、コストや管理方法等に課題があり今後、改善の取り組みが求められています。

そのため、企業にはCCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトに投資、寄付、協力を行うことを社会的に期待されるでしょう。そこで、CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトに関する情報に触れ、理解を深めましょう!

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