大学によるSDGsへの取り組みとそのメリット

SDGsに取り組むうえで、大学の存在が非常に注目されています。次世代への世界目標に対して思うように研究に取り組めない企業も多くある中で、大学は研究機関として、SDGsの17の目標で様々な角度効果的な対策のシミュレーション、他の目標との相関の検証などが期待されます。今回は、大学がSDGsに取り組む意義や、すでに社会的な評価を得ている大学の実際の取り組みをご紹介します。

目次

  1. SDGsとは
  2. SDGsに関する大学の役割
  3. 大学が取り組むメリット
  4. 各大学のSDGsへの取り組み
  5. 大学から未来の世界に向けて

1. SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals)は国連が持続可能な世界の実現を掲げた国際目標です。SDGsは前身のMDGs(2001年に制定されたミレニアム開発目標)の後続目標で、途上国の開発に重きを置いたMDGsから発展して、さらに視野を全世界に広げた形となっています。

SDGsは2015年9月、国連サミットで加盟国の満場一致で採択された15年間での達成を目指した国際目標です。

SDGsは地球上の総ての人を対象に、「貧困・飢餓問題」、「ジェンダー問題」の解消、また将来の子供たち、多くの自然生物のための「エネルギー・環境問題」など17種類と多岐にわたり、さらにそれらを達成するために多くの具体的なターゲットを設定しています。

  1. 普遍性:総ての国が行動する
  2. 包摂性:誰一人取り残さない
  3. 参画型:総てのステークホルダーが役割を担う
  4. 統合性:社会・経済・環境に統合的に取り組む
  5. 透明性:定期的にフォローアップを行う

を掲げ、これらを誓った決議で、国連加盟国の満場一致での採択は大きな意味があります。

国連加盟の193か国で推進され、先進国から発展途上国まで地球規模で全世界が一丸となって今後の地球を考える一大プロジェクトで、まさに「地球全体の進むべき道筋」を示したものです。

2. SDGsに関する大学の役割

SDGsにおける大学の役割とは何でしょうか。

大学は研究機関であり、英知が集結する拠点です。SDGsは2015年に採択された国際目標であり、スタートから5年が経過した今、更には最近の温暖化現象、異常気象など自然環境の悪化から、国内外でも関心が高まってきています。

大学の重要な役割の一つは、それぞれの分野での、今までの文化を基に次の時代をより質の良い文化となるよう研究し、発展するための道筋を示すことです。

SDGsの場合、17の各目標は課題が互いに関連しあっているため、目標の達成には分野の枠を超えた多くの分野との関連が必須となります。このような分野を超えた分野融合型研究で、単独分野では思いもよらない新しい手法の開発が求められています。

また、大学の重要な役割に人材育成があります。SDGsを実現するには、社会構造の変革が必要です。今までの「作ること、消費することに価値がある」という生産・消費型の考え方から、命の価値、自然環境の価値を見直し、「総ての人々(総ての生き物)が同様に、生きることに価値がある」というエコロジー・ナチュラリーという方向性に考え方を変えなければなりません。

このような考え方の転換や、具体的な取り組みを広く学ぶためには、相応の時間と学びの環境が必要です。そのため、時間と環境が充実している大学が重要視されています。官公庁や企業も、SDGsの実現に向け様々な教育環境を用意するところが増えています。

2030年以降、SDGsの次のGoals:世界的な目標まで見据え、国際社会で主役となれる人材を育成するには、学びに特化した大学の存在が必要です。

3. 大学が取り組むメリット

大学は社会の中で知の創造、検証と普及という重要な責務があります。これは社会、国家、世界の科学的、医学的、文学的、芸術的、そして歴史的発展に大きく寄与し、世界的なイノベーションの道筋を創造してきました。

SDGsの目標を達成するためには高等教育及び科学研究分野は不可欠で、幅広く大学の貢献が必要とされています。世界の千を超える大学がグローバルネットワークを積極的に利用し、SDGs達成のための技術的解決策を見い出すことを、各国・国連は望んでいます。

そんな中で、大学のSDGsに関する社会貢献度を評価する「THE大学インパクトランキング※」という指標が現れました。このランキングは2019年に初めてイギリスの専門誌によって発表され、2020年の参加大学は世界で857大学、前年比297大学増加と毎年増えています。2020年に参加した日本の大学は72項で世界最多でした。

世界の関心事、トレンドがSDGsであることは間違いなく、実際に世界中の多くの大学が研究に参加しています。「THE大学インパクトランキング」に参加すること自体評価されることであり、研究の成果は、SDGsに関心がある多くの人々に希望を与えることとなります。

また、最近ではSDGsの取り組みは高校、中学校、小学校へと広がってきています。SDGsがより身近になったSDGsネイティブ世代にとって、大学のSDGsへの取り組みは大学を選ぶ基準の一つとなるかもしれません。

Times Higher Education『THE大学インパクトランキング』

イギリスが発表している大学のSDGsへの社会貢献度のランキングです。同紙は世界で最も権威があると言われる大学ランキングを作成・発表しています。

4. 各大学のSDGsへの取り組み

2015年、国連のサミットでSDGsが採択されてから多くの大学がSDGsを取り組んでいます。日本では2020年には世界最大の72大学が「THE大学インパクトランキング」に参加して、さらに広がりを見せています。

各大学は、多くの学部が集まる組織力と、置かれた環境、地域の特性を活かし、以下のような事柄に重点を置きながら、SDGsの17の目標に取り組んでいます。

  1. 産・学・官が既存の垣根を超え、分野融合型研究で今までの常識を覆す新しい発想で目標に取り組む
  2. 大学のリソース、地元エリアをスモールSDGsと見立て、その中でSDGsの実装シミュレーションを行う
  3. 日本国内の事象・利益にとらわれず、世界の人々の平等と幸福に寄与するための研究を行う

ここではその具体例として国立大学から京都大学、地方国立大学から岡山大学、私立大学から立命館大学を紹介します。

京都大学の取り組み事例

京都市をフィールドに産学公が連携してSDGsをともに考え、協力して行動し、社会に発信する「京都 産学公 SDGs コンソーシアム」を立ち上げ、京都市というフィールド内での資源の循環や省エネ・創エネなどの取り組み、山間部の人口減少問題、SDGsをテーマとした教育システムの構築など、SDGsを実社会に実装することを目標とした取り組みを行い、シンポジウムや博覧会などへ発信していきます。

出典:SDGs KYOTO TIMES『京都超 SDGs コンソーシアム』

岡山大学の取り組み事例

岡山大学は2017年12月、第1回「ジャパンSDGsアワード」の特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しました。ジャパンSDGsアワードはSDGs達成に向けた取り組みを促し、オールジャパンの取り組みを推進し、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体などに贈られる賞で、同大学は「特筆すべき功績があった」と評価され、国立大学で唯一の受賞となりました。評価の内容は、SDGsに先駆けてESD(持続可能な開発のための教育)共働推進室を設置するなど、ESDの関する活動をしていること。また、SDGsの研究は「植物の多様性」「気候変動」「海洋と水資源」などで、乾燥地での麦の育成、温室効果ガスの対策と低炭素社会の実現、水産資源のモニタリングなど多岐にわたるものです。

2021年3月現在、槇野学長は、「岡山大学はSDGsを共通言語とし、世界や地域の皆様とパートナーシップを強化し、SustainabilityとWellbeingを追求する研究大学として、大学だけでなく、世界と地域に新たな価値を創造し続けていく」とメッセージを発信しています。

出典:国立大学法人岡山大学『岡山大学 x SDGs』

立命館大学の取り組み事例

  立命館大学はTHE大学インパクトランキング総合評価で100位台にランキングし、早稲田大学と並び日本の私立大学で最も高い評価を得ました。そんな立命館大学の取り組みの特徴は「Sustainable Week」活動を取り組んでいることです。「Sustainable Week」は同大学のびわこ・くさつキャンパスを1万人の「小さな地球」に見立て、SDGsの17の目標の啓発、達成に取り組んでいます。

また、同大学のSDGs推進本部は新型コロナウイルスの影響に対し、プロジェクト「立命館Beyond COVID-19」を立ち上げ、同大学の学生たちが社会課題を解決するために様々なプロジェクトを企画、コロナ禍ならではの取り組みを実施しています。

同大学のSDGs推進本部team RIMIXはWith/Afterコロナ時代の社会課題の解決に取り組んでいます。立命館学園の学生・生徒・児童らがプロジェクトを企画し、アクションするための支援をクラウドファンディングで募集したことは大きな反響となり、様々なステークホルダーから寄付が集まりました。このような活動が評価され、2020年9月、「学生の挑戦がコロナ後の世界を切り拓く | 立命館Beyond COVID-19」が日本ファンドレイジング大賞の新型コロナウイルス支援大賞特別賞を受賞しました。

出典:学校法人立命館『RITSUMEIKAN SDGs』

5. 大学から未来の世界に向けて

大学は今まで、英知を結集して人類の技術的、経済的な発展に大きく貢献してきました。しかし、その技術、経済の発展が自然を破壊してしまったり、人々の格差、習慣の問題を浮き彫りにしています。

SDGsの問題は複雑に相関しており、例えば単純にジェンダー問題だけが解決するわけではありません。さらに、関係する団体も多岐にわたるため、目標に対する進捗・効果の評価も難しく、コントロールは大変です。

しかし、こういった時にこそ、大学の力量が試されています。SDGsを自分自身のこととして受け止める若者が増えようとしているなかで、大学は持てる知を結集し、組織、ネットワークを駆使して複雑な問題に取り組むことが求められます。

SDGsが国連加盟国の満場一致で採択されたことは非常に大きな意味があります。先進国から途上国まで総ての加盟国が「貧富の格差をなくす。安全な食糧環境、医療環境、教育環境を整える。」など、協調して持続可能な社会の実現取り組むのです。

今回、多くの大学、人々がSDGsに賛同しています。しかし、「取り組もう」という雰囲気だけでは目標達成はできません。

各大学には目標に向けた具体的な行動と、取り組みを深めるための情報発信、コミュニケーションが必要です。

SDGsの取り組みは毎年様々な形で評価されますが、参加大学は年々増加しており、初年で好評価を得る大学も少なくありません。、今の取り組みはSDGsの締めくくりの時に評価され、更には次のGoalsの導入となるものです。

分野に精通した研究成果だけでなく、様々なグループで多くの取り組みを検討し、SDGs達成を目指しましょう。

 

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