2022年のCDP Aリスト選出企業は!?CDP Aリストの評価基準も解説!

環境問題に関する情報開示を行うNGO団体であるCDPは2022年12月に「CDP Aリスト」を公表しました。これは気候変動対策に取り組む企業にとって重要な指標となるものです。

ここではこの「Aリスト」がどのようなものなのか、また今回の結果から得られる今後の環境問題への取り組みについて解説します。環境問題への取り組みは今後も企業の経営に大きく影響を与える問題となりますので、この記事でしっかり理解しておきましょう。

目次

  1. 環境問題に取り組むNGO「CDP」とは?

  2. 2022年のCDP Aリストの企業名は!?

  3. 2022年のCDP Aリストの評価基準とAリスト入りのメリットとは?

  4. まとめ:CDPからの情報をもとに、環境問題を正しく理解しよう!

1. 環境問題に取り組むNGO「CDP」とは?

まず、Aリストの公表を行っているCDPという組織とAリストの内容についてご紹介します。

CDPとは?

CDPは環境問題についての情報の収集、開示を行っている2000年に設立されたイギリスの非政府組織(NGO)です。CDPとは「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(carbon disclosure project)」の略で、現在はカーボン以外の「水セキュリティ」、「フォレスト(森林保護)」なども対象となっています。

世界の先進企業や投資家、自治体などに対して情報開示を求めて質問状を送付、回答結果を分析しスコアリングを行い世界に公開しています。この評価は企業価値測定の指標として活用され、世界中の投資家や企業のほか、政策決定にも大きな影響を与えています。

2005年より日本での活動もスタートし、2020年には環境情報の開示を行う参加企業は世界で過去最高の9600社を超えています。

出典:CDP「CDPについて」

CDPが発表する「Aリスト」とは?

CDPでは企業や自治体に対して3つの質問状を作成し、情報の開示を求めています。

(1)気候変動質問書

GHG(温室効果ガス)排出量やそれに対する削減目標などについての情報開示で、気候変動対策の取り組みを通しての企業評価について使用されます。

出典:CDP「CDP2023気候変動質問書導入編」p29

(2)水セキュリティ質問書

世界で水の需要増加と気候変動による干ばつの影響などから、水に対するリスクの認識とレジリエンスの向上を目的として企業への水管理の情報開示を求めるものとなっています。

出典:CDP「2023年CDP水セキュリティ質問書」p16

(3)フォレスト質問書

気候変動対策の中でも自然の保護が重要とされており、森林は炭素の純吸収源として大きな役割を持っています。

そのためCDPでは森林保護の観点から、企業に対して畜牛品、パーム油、大豆、木材、天然ゴム、カカオ、コーヒーなどの原材料が森林減少に影響を与えていないか、また、森林保護への対策内容についての情報開示を求めるものとなっています。

CDPでは以上の内容について回答した企業の評価としてAからDのスコアを付与しています。つまり、Aリストとは環境問題に対して最高評価を与えられた企業リストとなります。

出典:CDP「CDP2023フォレスト質問書導入編」p45

2. 2022年のCDP Aリストの企業名は!?

では、今回発表されたAリストの内容についてご紹介します。2021年のAリストと比べてそのように変化しているかも合わせてみていきましょう。

2021年の企業スコアでAリスト入りの日本企業

2021年は評価対象の約12000社から272社がAリストに選出されました。気候変動における質問書の回答を行った日本企業は427社でそのうちAリスト入りした企業は56社となり、全体の約13%でした。これは全世界でのAリスト企業数として日本が最多となっています。

出典:CDP「気候変動レポート2021:日本版」p6

2021年Aリスト入り企業

小野薬品工業株式会社・第一三共株式会社・中外製薬株式会社・アサヒグループホールディングス株式会社・味の素株式会社・キリンホールディングス株式会社・サントリーホールディングス株式会社・住友林業株式会社・日本たばこ産業株式会社・不二製油グループ本社株式会社・大林組株式会社・熊谷組株式会社・清水建設株式会社・積水化学工業株式会社・積水ハウス株式会社・大和ハウス工業株式会社・戸田建設株式会社・三井不動産株式会社・アズビル株式会社・京セラ株式会社・コニカミノルタ株式会社・小松製作所株式会社・セイコーエプソン株式会社・ソニーグループ株式会社・ダイキン工業株式会社・トヨタ自動車株式会社・ナブテスコ株式会社・ニコン株式会社・日産自動車株式会社・富士電機株式会社・古河電気工業株式会社・三菱電機株式会社・村田製作所株式会社・ヤマハ株式会社・リコー株式会社・花王株式会社・コーセー株式会社・住友化学株式会社・東京製鐵株式会社・ポーラオルビスホールディングス株式会社・Jフロントリテイリング株式会社・イオン株式会社・MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社・SOMPOホールディングス株式会社・アスクル株式会社・大和ハウスリート投資法人株式会社・東急不動産ホールディングス株式会社・凸版印刷株式会社・日本電気株式会社・野村総合研究所株式会社・野村ホールディングス株式会社・日立製作所株式会社・富士通株式会社・SGホールディングス株式会社・川崎汽船株式会社・日本郵船株式会社

出典:CDP「気候変動レポート2021:日本版」p6〜p8

一番リスト入りの多かったのは製造セクターで、Aリスト入り企業47社中、17社が日本企業で36.1%を占めています。

2022年のAリスト企業

2022年は質問書で情報開示した企業は15000社となり、そのうち330を超える企業が気候変動、水セキュリティ、フォレストのいずれかのAリストに認定されました。

出典:CDP「CDP2022スコア公表」

日本企業は1101社が回答、91社がAリスト入りを達成し、昨年から大きく増加しています。これは昨年に続き世界最多数となっています。また、気候変動Aリスト75社、水セキュリティ35社、フォレスト4社で、それぞれ各項目をみてもいずれも世界最多です。

出典:CDP「CDP気候変動レポート2022:日本版」p6

全体としても昨年からAリスト企業は増加していますが、3つの質問書全てでA評価を獲得した企業は12社(全体の1.3%)に止まり、66%の企業は2021年のスコアから改善がみられないという問題も明らかになっています。

出典:CDP「CDP2022スコア公表」

2022年Aリスト入り企業

大塚ホールディングス株式会社・小野薬品工業株式会社・塩野義製薬株式会社・第一三共株式会社・武田薬品工業株式会社・中外製薬株式会社・アサヒグループホールディングス株式会社・味の素株式会社・キリンホールディングス株式会社・コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス株式会社・サントリーホールディングス株式会社・住友林業株式会社・明治ホールディングス株式会社・日本たばこ産業株式会社・大林組株式会社・清水建設株式会社・積水ハウス株式会社・大成建設株式会社・大和ハウス工業株式会社・戸田建設株式会社・ヒューリック株式会社・三井不動産株式会社・三菱地所株式会社・アズビル株式会社・オムロン株式会社・川崎重工業株式会社・コニカミノルタ株式会社・小松製作所株式会社・セイコーエプソン株式会社・ソニーグループ株式会社・ダイキン工業株式会社・太陽誘電株式会社・デンソー株式会社・豊田自動織機株式会社・トヨタ紡織株式会社・ナブテスコ株式会社・ニコン株式会社・パナソニックホールディングス株式会社・日立製作所株式会社・日立ハイテク株式会社・富士電機株式会社・富士フイルムホールディングス株式会社・横浜ゴム株式会社・リコー株式会社・AGC株式会社・花王株式会社・コーセー株式会社・資生堂株式会社・住友化学株式会社・太平洋セメント株式会社・東京製鐵株式会社・ポーラオルビスホールディングス株式会社・Jフロントリテイリング株式会社・イオン株式会社・ファーストリテイリング株式会社・丸井グループ株式会社・三越伊勢丹ホールディングス株式会社・KDDI株式会社・SOMPOホールディングス株式会社・三菱重工業株式会社・ジャパンリアルエステイト投資法人株式会社・セコム株式会社・第一生命ホールディングス株式会社・大日本印刷株式会社・大和証券グループ本社株式会社・大和ハウスリート投資法人株式会社・東急不動産ホールディングス株式会社・日本電気株式会社・野村総合研究所株式会社・富士通株式会社・ANAホールディングス株式会社・SGホールディングス株式会社・川崎汽船株式会社・日本郵船株式会社

出典:CDP「気候変動レポート2022:日本版」p6〜p10

3. 2022年のCDP Aリストの評価基準とAリスト入りのメリットとは?

CDPリストは質問書の回答内容によってスコアリングされます。その評価基準についてご紹介します。

CDPスコアの意味

CDPのスコアはAからFにランク分けされます。質問書に対して無回答の場合はFとなります。その他のランクの意味は以下のようになります。

  • D(情報開示レベル)

現状の把握ができているレベル。質問書に対して完全に回答していること。また、信頼できるデータの提示と品質の向上を推進している。

質問書に回答する準備はできているが、スチュワードシップに向けた努力が成熟していない状態。

  • C(認識レベル)

環境問題が自社の事業にとってどのような影響をもたらすかを認識している。開示による透明性を高め、環境問題に対して認識を深めている状態。

  • B(マネジメントレベル)

環境問題によるリスクや影響に対してアクションを起こしている。環境リスクやその影響をトラッキングし、緩和、削減しようとしている状態。

  • A(リーダーシップレベル)

環境問題に対してベストプラクティスを行っている。環境問題について自社の事業に沿った理解をしており、実行したアクションについて説明ができる状態。

出典:CDP「CDP2022スコアリング各種注意点」p2

Aリストの評価基準とは

Aリストに選出されるには様々な要件において基準をクリアする必要があります。大きく分けて次のような条件が設定されています。

  • スコアがAレベルの閾値をクリアしている

  • 各質問書テーマごとの条件を満たしている

  • 回答を公表している

  • CDPスコアリングチームによる回答の確認

  • 評判リスクに関するチェック

  • CDPスコアリング運営委員会の最終承認

出典:CDP「CDP2022スコアリング各種注意点」

Aリスト入りのメリット

Aリスト入りのメリットを考える際に、現在の環境問題に対する世界、そして日本の現状を理解する必要があります。

企業の脱炭素経営の促進

環境省では、国際的なESG投資の潮流の中での企業価値の向上のため、企業の脱炭素経営の推進を進めています。

これにより、TCFD(企業の気候変動への取組、影響に関する情報を開示する枠組み)、SBT(企業の科学的な中長期の目標設定を促す枠組み)、RE100(企業が事業活動に必要な電力の100%を再エネで賄うことを目指す枠組み)などへの賛同、認定企業は世界でトップクラスとなっています。

出典:環境省「企業の脱炭素経営への取組状況」

環境省が提示する脱炭素経営のメリット

環境省が作成する「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」では、脱炭素経営への取り組みについて以下のようなメリットがあげられています。

  • 優位性の構築

他社より早く取り組むことで「脱炭素経営が進んでいる企業」や「先進的な企業」という良いイメージを獲得できる。

  • 光熱費・燃料費の低減

年々高騰する原料費の対策。業種によっては光熱費の半分近くを削減が可能。

  • 知名度・認知度向上

環境に対する先進的な取組がメディアに取り上げられ、知名度・認知度の向上につながり、売上の増加が見込まれる。

  • 社員のモチベーション・人材獲得力向上

自社の社会貢献は社員のモチベーションにつながり、サステナブルな企業へ従事したい人材が増加している中、人材獲得力の向上を図れる。

  • 好条件での資金調達

企業の長期的な期待値を測る指標として、脱炭素への取組が重要指標化している。

出典:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」(p3)

CDPの開示情報が世界で活用されている

環境問題・脱炭素経営の重要性が高まる中、CDPが提供する情報は世界中で活用されています。

2021年には、投資運用額110兆ドル超、590を超える投資家がCDPを通じた情報開示を要請、また購買力5.5兆ドルを超える200以上のサプライチェーンメンバーがCDPを通じた情報開示を要請しています。

出典:環境省「CDPからの情報提供」(p9)

Aリスト入りにより脱炭素経営に取り組む企業として世界的に認められる

CDPに情報開示を行う企業は今後さらに増加することが予測され、CDPのAリストに企業名があげられることは環境省が提示するメリットに大きく寄与することになるでしょう。

出典:環境省「CDPからの情報提供」(p39)

4. まとめ:CDPからの情報をもとに、環境問題を正しく理解しよう!

年々、CDPの質問書に回答し情報を開示している企業は増加していることからも企業の環境問題への取り組みや透明性は重要度が上昇していることがわかります。

環境問題への取り組みは企業経営の継続に大きく影響を与えることになります。今後もCDPなどの情報をもとに環境問題を正しく理解し、解決に向けた行動を目指す必要があるでしょう。この記事を参考に自社の問題点を明確にし、改善に向けて行動してみましょう。

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