直接空気回収技術(DAC)とは?利点や課題、市場規模まで解説!
- 2024年01月11日
- CO2削減
この記事では、直接空気回収技術(DAC)についてご紹介します。DACは、大気中のCO2を取り除く画期的な技術であり、カーボンニュートラルの手段として注目を集めています。本記事では、DAC技術の原理や仕組み、利点、最新のプロジェクトや課題、市場規模の展望について解説しています。
目次
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直接空気回収技術(DAC)の概要
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直接空気回収技術(DAC)の利点
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直接空気回収技術(DAC)に関する技術革新
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直接空気回収技術(DAC)技術の課題と市場規模(将来の展望)
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まとめ:直接空気回収技術(DAC)への理解を深め、環境問題に取り組もう!
1. 直接空気回収技術(DAC)の概要
本章では、直接空気回収技術(DAC)の基本原理や仕組みを説明します。
(1)直接空気回収技術(DAC)とは
DAC(Direct Air Capture)とは、大気中から直接二酸化炭素(CO2)を回収する技術をいいます。回収されたCO2は、再生可能エネルギーや廃棄物エネルギーとして利用されたり、地中貯留によって大気中のCO2濃度の削減に用いられたりします。
出典:climeworks「Direct air capture: our technology to capture CO₂」
出典:川崎重工業株式会社 技術開発本部 技術研究所「空気からのCO2分離回収(DAC)技術」(2022/1/21)p3-5
(2)直接空気回収技術(DAC)の仕組み
直接空気回収技術(DAC)の仕組みの一例として以下のような技術が挙げられます。
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空気の吸収: DACは、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するための特殊なフィルターまたは吸収剤を使用します。大気はこのフィルターまたは吸収剤を通過し、CO2が捕捉されます。
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CO2の分離: 次に、フィルターまたは吸収剤は加熱や化学反応を通じて再生され、CO2が分離されます。このプロセスは、CO2を純粋な形で集めることを可能にします。
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CO2の圧縮と輸送: 分離されたCO2は圧縮され、パイプラインまたはトラックを使用して輸送されます。このCO2は、地下に貯蔵されるか、合成燃料の製造などの他の用途に利用されます。
以上は、一例ですが、その他のCO2回収メカニズムとして、物理吸着、化学吸収、膜分離、ドライアイス化等によって回収する技術もあります。
出典:川崎重工業株式会社『空気からのCO2分離回収(DAC)技術』(2022/1/21)(p.9)
出典:産業競争力懇談会「DAC(Direct Air Capture)研究会」(2021/10/15)p12
(3)二酸化炭素回収・貯留(CCS)と直接空気回収技術(DAC)の違い
CO2を回収するという点で似ている技術として、二酸化炭素回収・貯留(CCS)というものが存在します。二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)とは、CO2を発電所や化学工場でといった排出源から集め、地中深く等の貯留場所に安全に補完する技術をいい、温室効果ガスの排出削減と気候変動対策の一環として注目されています。一方で、直接空気回収技術(DAC)は、前述のとおり大気中のCO2を回収する技術をいいます。つまり、両者の違いは、回収源であるということができます。もっとも、直接空気回収技術(DAC)により回収されたCO2を地中深くに貯留する場合もあるため、その意味でDACはCCSにおける回収作業を担うことができるといえるでしょう。
出典:climeworks「Direct air capture: our technology to capture CO₂」
出典:経済産業省「空気からのCO2分離回収(DAC)技術」(2022/1/21)p3-5
出典:経済産業省「海のカーボンニュートラル 新技術開発」(2022/1/2t1)p3
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」(2017/11/14)
2. 直接空気回収技術(DAC)の利点
DACは、二酸化炭素を効率的かつ直接的に取り除くことができるため、以下のような利点があります。
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場所に影響されずにCO2の回収が可能
場所に影響されず世界中どこにでも直接空気回収技術(DAC)を利用できる
CO2は、地球上のどの場所でも同じ濃度で大気中に存在しているため、直接空気回収(DAC)設備を特定の排出源に接続する必要がなく、世界中どこにでも設置することができます。 -
CO2の再利用が可能
回収されたCO2は資源として有効活用することができ、セメント、機械、エンジニアリング、再生可能エネルギーや廃棄物エネルギーとして利用することができます。
出典:経済産業省資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装」(2021/4/30)
出典:climeworks「Direct air capture: our technology to capture CO₂」
出典:九州大学「大気中からのCO2直接回収と地中貯留でネガティブエミッションを達成するコンセプトを構築!」(2021/6/25)
3. 直接空気回収技術(DAC)に関する技術革新
DAC技術は、以下のように実用化に向けて技術革新が進んでいます。
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二酸化炭素回収速度
東京都立大学では、二酸化炭素回収技術(DAC)の研究が進められており、相分離を利用した新しいDACシステムの開発に成功しています。開発されたDAC技術は従来の技術と比べ二酸化炭素回収速度が2倍以上早く、またその他の二酸化炭素回収にも応用可能な汎用性の高いシステムであるため、新しいDACシステムとしての実用化が期待されています。 -
新しいDACプラント
2021年9月には、DACサミットで展示されたClimeworksとCarbFixが共同で設置したDACプラントであるOrcaの実用化がスタートしました。Orcaはアイスランドのヘリシェイディ地熱発電所近郊に建設されていて、年間4000トンの二酸化炭素を抽出でき、欧州約600人分の二酸化炭素排出量に相当します。Climeworksは、MicrosoftやSwiss Reなどの著名企業から出資を受けており、環境問題に対する期待が高まっています。
出典:東京都立大学「【研究発表】既存技術を凌駕!世界最速級!空気中のCO2高速回収技術の開発」(2022/5/11)
出典:climeworks「Orca: the first large-scale plant」(2021/9)
4. 直接空気回収技術(DAC)技術の課題と市場規模(将来の展望)
まだまだ市場として浅いDAC産業の現状と将来展望を紹介します。
(1)直接空気回収技術(DAC)技術の課題
DAC技術の課題として以下のものが挙げられます。
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維持管理コスト
DAC技術で、低濃度のCO2を大量に回収するためには大量のアミンが必要となり、アミンを大量に使用するとこれに伴いDAC施設が大きくなり、多くの維持管理コストが必要となります。
注釈:アミンとは、アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物の総称
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DACプラント稼働による汚染物質やCO2の排出
CO2を除去する方法には、自然の解決策や技術的な解決策がありますが、DACはまだ技術開発の初期段階であるため、技術的な問題が発生する可能性があります。例えば、DACプロセスの中で使用される溶剤や吸着剤は、環境に悪影響を与える化学物質である場合があるため、適切な処理が必要です。また、DACプラントが稼働することによる、排出される温室効果ガスの量についても考慮する必要があります。
出典:産業競争力懇談会「DAC(Direct Air Capture)研究会」(2021/10/15)p4,20
出典:WORLD RESOURCES INSTITUTE『6 Things to Know About Direct Air Capture』(2022/05/02)
(2)直接空気回収技術(DAC)技術の将来展望
気候変動問題の解決に向けて、二酸化炭素の回収と利用技術の確立が急務となっています。その中でも、大気中の低濃度二酸化炭素を回収するDirect Air Capture(DAC)技術は、効率とコストの面で改善の余地があり、新しいDAC技術の開発が望まれています。
東京都立大学大学院理学研究科の研究チームは、相分離を利用することで二酸化炭素吸収速度の向上と反応系からの生成物の分離を実現し、ガス流通下でも400ppmの二酸化炭素を99%以上の効率で除去する新しいDACシステムの開発に成功しましており、このシステムは、既存技術と比べて二酸化炭素吸収速度が2倍以上速く、新しいDACシステムとしての実用化が期待されています。
DAC技術は今後の気候変動対策において重要な役割を果たすと考えられており、新しいDAC技術の開発と実装により、効率的かつコスト効果的な二酸化炭素の回収と利用が可能になり、ゼロカーボン社会の実現に大きく寄与するでしょう。
出典:東京都立大学「【研究発表】既存技術を凌駕!世界最速級!空気中のCO2高速回収技術の開発」(2022/5/11)
出典:国立研究開発法人 科学技術振興機構「二酸化炭素のDirect Air Capture(DAC)法のコストと評価」p1
5. まとめ:直接空気回収技術(DAC)への理解を深め、環境問題に取り組もう!
直接空気回収技術(DAC)は、大気中のCO2を捕捉する画期的な技術です。その利点として、追加の排出源を必要とせず、炭素中和の手段として有効であることが挙げられます。最新のDACプロジェクトでは、技術革新や商業化が進んでおり、社会的・環境的な影響も大きく、現在も研究・開発が進められており、今後より浸透していくことが予想されます。そこで、早いうちから直接空気回収技術(DAC)に関する理解を深め、環境問題に取り組みましょう。