非財務情報開示とは?現状の課題と企業に与える影響、今後の取り組み方について

近年、企業の情報開示が重視されています。財務情報はもちろんのこと、企業の非財務情報の開示が求められています。そこで、この記事では非財務情報開示の意味と現状の課題、企業に与える影響や今後の取り組み方を中心に解説します。

目次

  1. 非財務情報開示とは

  2. 非財務情報開示における現状の課題

  3. 非財務情報開示が企業に与える影響

  4. 非財務情報開示の考え方

  5. 非財務情報開示で国内企業が取るべき対応

  6. まとめ:非財務情報は積極的に開示しよう

1. 非財務情報開示とは

非財務情報とは数値や数量に表れない非財務的な情報の見える化です。非財務情報開示は、企業の社会的価値の向上と、中長期的な経営成長に影響を及ぼす重要な取り組みであり、日本においては2030年度から上場企業に対して義務付けています。

また、多くの機関投資家は、人材投資という非財務情報を重視しています。各企業は、非財務情報を開示する流れや、開示すべき非財務情報の中身を把握して、早急に取り組む必要があるといえます。

出典:経済産業省-「非財務情報の開示指針研究会」中間報告・概要資料 p2

出典:内閣官房『非財務情報可視化研究会の検討状況』p6,10

2. 非財務情報開示における現状の課題

(1)「共通性」と「独自性」のバランスをとること

国際的な非財務情報の策定が進む中で企業は独自性と多様性を尊重しつつ、共通性と比較可能性を確保する必要があります。そのためには統一された基準や指標を採用し情報の共有と比較が容易なるように務める必要があります。

一方で、企業独自の特徴や価値を大切にし、持続可能な取り組みの独自性を示すことも求められます。「共通性」と「独自性」を両立させることが持続可能なビジネスにとって重要な要素となります。

(2)サステナビリティ活動における情報開示の定義に一貫性がない

現在、様々な開示基準が存在し、それぞれが異なる「読み手」や「重要性」として扱う内容を想定しているため一貫性が不明瞭になっています。企業は「誰に向けて」情報を伝えるのか、そして「何を伝えるべきか」を特定・判断する必要があり、関係者や利害関係を明確にすること、彼らの情報ニーズを考慮することが求められます。

さらに、事業活動にとって重要な要素や影響力のある項目を明確にし、それに基づいて情報を選択・開示することで特定の読み手に対して適切な情報を提供し、持続可能性に関する重要な事項を的確に伝えることができます。

(3)情報の共通理解の醸成と関係性の解明

財務情報、非財務情報、サステナビリティ情報など、さまざまな用語や概念に対して、共通の理解が必ずしも広まっていないという課題があります。特に、これらの情報の相互の関係性や包含関係を正しく理解することは困難です。課題解決のためには明確な定義と共通の基準を確立することが不可欠です。

また、異なる情報の要素や要点を明確にし、それらが相互にどのように関連し合い、包含されるかを理解したうえで関係者や利害関係者とのコミュニケーションを強化し、彼らの視点や期待に基づいて情報を解釈・共有し合う必要があります。

出典:経済産業省「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて」 p4

出典:経済産業省「非財務情報の開示指針研究会」p9

3. 非財務情報開示が企業に与える影響

国際的にサステナビリティが重視され、また企業と投資家の双方が継続的な利益を得るためにも、非財務情報の開示が強く求められています。しかし、企業にとって非財務情報の開示は大きな負担にもなり得るのです。

(1)情報開示を実施するうえでの負担の増加

企業が求められている非財務情報開示の事項は、CO2排出量の削減やダイバーシティなどの人的資本といったサステナビリティ活動や、ESG投資やガバナンスなど多岐にわたり複雑で大きな工数がかかるのが現状です。

しかし多くの企業は、国際社会および日本政府の要請・方針に沿った情報収集や開示に取り組むほかはなく、多大な時間と労力を費やすことに負担を感じているのが現状です。

サステナビリティ情報報告について財務情報と関連付けた包括的 な報告を行うにあたっての課題

出典:内閣官房『非財務情報可視化研究会の検討状況』p14

また、日本政府は2023年度より有価証券報告書の記載事項に非財務情報の明記を義務化する方向で動いており、今後さらに企業の非財務情報開示における負担は増えると考えられます。

出典:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「非財務情報可視化研究会の検討状況」p14

出典:内閣官房『非財務情報可視化研究会の検討状況』p6,10

4. 非財務情報開示の考え方

非財務情報の開示における企業の負担は大きいとはいえ、避けて通ることはできません。社内の負担を減らし、適切な情報を開示することが大切です。続いては、非財務情報開示の考え方を解説します。

(1)投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報開示

非財務情報は、投資家が将来にわたって継続的に収益が出せる企業を選択する指標の1つです。したがって、企業は投資家が経営者視点で企業を理解するための非財務情報の提供を考えて作成する必要があります。

(2)財務情報全体を分析するための文脈の提供開示

非財務情報は、企業の将来的な経営ビジョンやサステナビリティ活動への取り組みを示すものであり、これまでの財務情報とは異なります。とはいえ、非財務情報は中長期的な経営成長を指しはかる基準です。したがって、投資家が経営者視点で企業を理解するための情報を提供するなかで、数字やデータを用いて財務情報全体を分析し結果を提供することが大切です。

(3)企業収益やキャッシュフローの性質および収益基盤の情報開示

投資家は、慈善事業で投資をしているわけではありません。企業側が開示する財務情報や非財務情報をもとに、継続的な収益が出せる企業に投資をしているのです。その判断材料として重視されているのが非財務情報であり、サステナビリティ活動に取り組むことによって将来的に見込まれる収益やキャッシュフローなどの収益基盤を考えた情報開示が必要とされています。

出典:内閣府・知的財産戦略推進事務局「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」p40,41

5. 非財務情報開示で国内企業が取るべき対応

ここまで、企業の非財務情報開示における現状の課題や考え方を中心に解説してきました。では今後企業が非財務情報を開示するうえで、どのような対応を取るべきなのでしょうか。

(1)開示すべき情報の整理

企業が非財務情報を開示するためには、国際社会や政府の情報開示基準に照らして開示すべき情報を整理することが大切です。自社の経営戦略をもとに導かれる情報を選択し、また開示すべき情報に優先順位をつけ、将来的な経営ビジョンをストーリー化して開示することによって、投資家を含めたステークホルダーに開示する情報がうまく伝わると考えられます。

(2)信頼性のある情報収集

投資家を含めたステークホルダーに開示する情報は、信頼性のある情報でなければなりません。やみくもに数字を並べるだけの情報では、かえって理解しづらくなってしまうのです。

信頼性のある情報とは、ポジティブな情報ばかりではなくネガティブな情報も積極的に開示し、また客観的なデータで示すことが企業の価値を高め投資家からの信頼獲得に繋がります。

(3)開示情報作成の基盤の整備

非財務情報を作成するにあたって、該当事項を所管する各部署から情報を集め、また取りまとめるのは困難といえます。また、その過程で情報が錯綜し、信頼性のない情報になりかねないのです。

信頼性のある情報を収集し、開示すべき情報を円滑に取りまとめるために、非財務情報を取りまとめる委員会を設立する等トップダウンで推進できる管理体制を整えることが必要とされています。

出典:東京取引所「改訂コーポレートガバナンス・コード」p11

6. まとめ:非財務情報は積極的に開示しよう!

国際的に企業の非財務情報開示が強く求められていますが、情報開示における基準や定義が明確になっておらず、企業において負担になっているのは否めません。とはいえ、すでに投資家を含めたステークホルダーにおいて、企業の非財務情報が重要視されています。非財務情報開示の重要性を理解しているものの、情報開示における考え方や対応に苦慮している企業さまは、国際社会や政府が示す開示基準をもとに、信頼性のある情報を提供することを心がけましょう。

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