あらゆる企業にビジネスチャンス!脱炭素社会に向けた取り組みを解説

世界が脱炭素社会に向けての取り組みを拡大しています。ESG投資の波は、地球環境対策に貢献しないと事業を持続できないという危機感を企業にもたらしています。

しかし、脱炭素への取り組みはエネルギー転換だけではなく、あらゆる産業での取り組みが必要であることが、政府の政策からわかります。政府はグリーン成長戦略として成長の可能性を見据えています。脱炭素社会がビジネスチャンスとなる可能性を、さまざまな取り組みから解説いたします。

目次

  1. 脱炭素社会とは

  2. 脱炭素社会を実現させる技術

  3. 脱炭素を企業経営に取り入れる

  4. まとめ:脱炭素社会におけるこれからのビジネスモデル

1. 脱炭素社会とは

地球温暖化の影響

二酸化炭素に代表される温室効果ガスは、地球温暖化による気候変動をもたらしました。異常気象、生態系への影響、海面の上昇、農業の生産性低下等数えあげたらきりがないほどの影響が出ています。

産業革命以降、化石燃料の使用、森林伐採等により、二酸化炭素等の温室効果ガスの濃度が上昇していることが原因で、その濃度は地球の80万年間の中で前例のない水準と言われています。

温室効果ガスの削減対策を行わず、高い排出量が続いた場合、21世紀末の地球の平均気温は20世紀末に比べて、約2.6〜4.8℃上昇すると試算されています。

出典:気象庁『温室効果とは』

パリ協定で決められたこと

この世界的な気候変動に対し、2015年パリ協定で、全ての国は世界平均気温の上昇を産業革命前から2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが2020年以降の長期目標として採択されました。

これを受け、各国が削減目標を掲げ、125の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を表明しました。カーボンニュートラルとは地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。日本も2020年10月、菅総理大臣が所信表明演説で明らかにし、2050年脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。

出典:「経済産業省『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021.2.16))

脱炭素社会に向けての日本の目標

日本政府は、パリ協定の目標設定を、まず2030年に温室効果ガスを2013年度比46%削減することとしています。この2050年カーボンニュートラル及び2030年46%削減を実現することは、節電や省エネ、およびこれまでの社会の仕組みだけでは非常に困難と考えられています。

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)』(2021.2.16)

2. 脱炭素社会を実現させる技術

エネルギー政策の転換

出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』

野心的と言われる2050年脱炭素社会を実現させるにあたり、エネルギー政策の転換は必須です。日本の2018年のエネルギー供給の85.5%は石油、石炭、液化天然ガス(LNG)等の化石燃料です。そしてそのほとんどを海外からの輸入に頼っています。日本の一次エネルギー自給率は11.8%となっています。

出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』

化石燃料による二酸化炭素の排出、エネルギー自給率の観点からも、太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギーへの早急な転換が望まれます。また、製造業等において、熱や燃料の電化も待たれる状況です。

カーボンニュートラルを実現させるためには、大胆なイノベーション創出と環境への投資を増大させる仕組みが必要です。政府はありとあらゆる方面から、技術的課題、取り組み方法、行政支援等を戦略的に洗い出しています。温室効果ガスの削減対策として、現在どのような技術が進行しているのでしょうか。

出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』

出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』

出典:資源エネルギー庁『グリーン成長戦略「実行計画」の14分野』(2021)

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?』」(2021)

再生可能エネルギー

ドイツで石油化学の電化を進める企業が、専用の洋上風力発電所の建設を打ち出す等、欧州を中心に洋上風力発電の導入が進んでいます。全世界的にも市場が拡大しており、特にアジア市場は急速に成長しています。日本でも、インフラの計画的整備が進められています。しかし、国内に風車製造拠点がないため、今後国内でサプライチェーンが形成できれば関連産業への波及効果は大きいと見込まれています。

太陽光発電は、企業等一般にも導入しやすく、また、政府は地域の導入を後押しする施策を打っています。脱炭素社会を実現するためには、太陽光発電の役割は大きいと言えるでしょう。立地制約の克服のために軽量な次世代型太陽光電池の開発が必要とされます。住宅・建築物のZEH※、ZEB※普及拡大への取り組みも進められています。

地熱発電は、地下に1000〜3000メートル掘削した井戸から噴出させた蒸気によって発電します。季節や天候に左右されないため、ベースロード電源となりえると期待されています。また、発電に使った蒸気や熱は、暖房や農業、養殖等に再利用が可能です。ただし、運転開始までの掘削調査等多大なコストを要する点が課題となっています。

※ZEH:省エネポータルサイト『ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について - 省エネ住宅 | 家庭向け省エネ関連情報』省エネポータルサイトhttps://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html

※ZEB:省エネポータルサイト『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル) - 各種支援制度 | 事業者向け省エネ関連情報』|https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/support/index02.html

 

出典:資源エネルギー庁『再エネの設備容量の推移(大規模水力は除く)』(2020)

ネガティブエミッション: CO2の回収・貯留「CCS」

ネガティブエミッションとは、大気中に蓄積された二酸化炭素を回収・除去する技術のことです。植林、バイオエネルギー、二酸化炭素の貯留がこれにあたります。

二酸化炭素を回収して貯留する技術を「CCS」、それを有効に利用する技術を「CCUS」と言いますが、これらの技術は国際エネルギー機関(IEA)のレポートで累積削減量の15%を担い、削減貢献が期待されているものです。CCSは日本でも実証実験がなされ、2030年までの商用化を目指しています。

出典:資源エネルギー庁『CCSの流れ』(2017)

出典:資源エネルギー徴収『CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)』(2020.11.27)

カーボンリサイクル

二酸化炭素を資源として捉え、これを分離・回収し、素材や燃料に再利用することで、待機中への二酸化炭素排出を抑制していくのがカーボンリサイクルです。今後、化学、セメント、バイオ等さまざまな事業分野で活用可能なものとして技術開発がされており、脱炭素社会を実現するための鍵を握るテクノロジーと期待されています。

具体的には、CO2吸収型コンクリートや、パソコンの外装、DVDに使われるポリカーボネート、そしてバイオ燃料、合成燃料などです。これらの技術の多くにおいて、CO2フリーの水素が必要不可欠となっており、政府は水素価格の低減に向けての水素製造や、水素を使用しない技術の開発にも着手しています。

出典:資源エネルギー庁『カーボンリサイクルのコンセプト』(2021)

出典:資源エネルギー庁『未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に』(2019)

出典:資源エネルギー庁『CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装 ...』(2021)出典:資源エネルギー庁『「未来ではCO2が役に立つ?!『「カーボンリサイクル』」でCO2を資源に』」(2019)

出典:資源エネルギー庁『「CO2削減の夢の技術!進む『「カーボンリサイクル』」の開発・実装 ...』」(2021)

 

新たな燃料: 水素、合成燃料、バイオ燃料、アンモニア

運輸部門において、石油やガス等の化石燃料から二酸化炭素を発生しない電池や燃料への転換が必要となります。電気自動車(EV)、水素と酸素を使ってモーターを駆動させるFCVのほか、二酸化炭素と水素を合成して製造される合成燃料の開発も進められています。

また、航空機では、バイオジェット燃料、合成燃料、船舶については水素、アンモニアなどの代替燃料の技術開発がされており、バイオジェット燃料についてはすでに商用化されています。合成燃料の活用は、既存の設備の活用と、工業的な大量生産が可能な点でメリットが大きいでしょう。

出典:資源エネルギー庁『合成燃料におけるCO2再利用のイメージ』



出典:資源エネルギー庁『脱炭素技術 克服すべき主な課題』(2021)

3. 脱炭素を企業経営に取り入れる

グリーンボンド

グリーンボンドとは、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行される債権のことです。その使途はグリーンプロジェクトに限定されており、確実に追跡管理されるという特徴があります。脱炭素に対する取り組みが、グリーンボンドを発行することによって認知性が高められ、持続可能性への戦略、ガバナンスの体制強化となり、ついては企業価値を向上させることにつながります。

また、投資側にとっては、環境、社会、ガバナンスへの配慮を重視したESG投資の一つとして、債権投資の利益を得ながら、持続可能な社会の実現に貢献するというアピールになります。グリーンボンドは環境省によって発行支援がなされています。

出典:環境省『国内企業等によるグリーンボンド等の発行実績』(2021)

出典:環境省『グリーンファイナンスポータル』

カーボン・オフセット

カーボン・オフセットとは、経済活動を通して、削減努力をしてもどうしても排出される二酸化炭素等の温室効果ガスについて、温室効果ガスの削減活動に投資をすることによって、埋め合わせをするというものです。カーボン・オフセットを推進するものとして、環境省、経済産業省、農林水産省が運営する「Jークレジット制度」があります。

出典:Jークレジット制度『Jークレジット制度とは』

4. まとめ:脱炭素社会におけるこれからのビジネスモデル

世界は脱炭素社会構築にシフトしています。政府は、すべての社会経済活動において脱炭素を主要課題の1つと位置付けました。この大きな取り組みは、エネルギー産業だけでなく、製造業、建設業、農業等ありとあらゆる産業におよびます。

企業経営は確実に脱炭素社会に向けて変化していきます。脱炭素への取り組みが企業価値と持続可能性を高めることになります。グリーンボンドやカーボン・オフセットはその助けとなるでしょう。

 

再生可能エネルギーへの転換は軸となります。そして、関連する業界、業種が脱炭素にどのように関わっていくのか、その取り組みをどのように経営に反映させていくのかことが、これからのビジネスモデルの1つとなるでしょう。まずは事業に関連する分野での取り組み方法を調べてみてはいかがでしょうか。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
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