【企業のCO2排出量削減】算定・報告・公表制度やSBT、改正温対法の観点から徹底解説!

2050年カーボンニュートラルに向け、世界の国や地域、企業がCO2の排出量削減に取り組んでいます。日本でも、SBTの行政による支援や、地球温暖化対策推進法の改正等、多くの施策、支援事業、法整備がされています。

この世界的な流れは、企業の持続可能性を高めることにつながっています。今回は、実際に企業はどのようにCO2排出量を削減すればよいのか、改正地球温暖化対策推進法やSBTの視点から解説いたします。

目次

  1. CO2排出量 日本の現状は?

  2. パリ協定と2050年カーボンニュートラル

  3. 温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度とは

  4. SBTが中小企業にもたらす影響

  5. 改正地球温暖化対策推進法で何が変わる?

  6. 再生可能エネルギーが企業のCO2排出量削減の鍵

1. CO2排出量 日本の現状は?

世界の中の日本

地球温暖化が叫ばれるようになり、世界ではCO2に代表される温室効果ガスの排出削減の対策が本格化しています。2018年の世界のCO2排出量は335億トンと計算されています。このうち中国は28.4%、アメリカが14.7%、インド、ロシアと続き、日本は3.2%となっています。

中国の排出量が目立っていますが、EUや日本など先進国の製造拠点が中国に代表される国々に移転していることが影響しています。

出典:JCCCA全国地球温暖化防止活動推進センター「データで見る温室効果ガス排出量(世界)」

出典:資源エネルギー庁『CO2の排出量、どうやって測る?~“先進国vs新興国”』(2020.8.14)

日本の排出量の推移

日本における温室効果ガスの排出量の推移を見ると、リーマン・ショックの影響や原子力発電の増加により、2009年は一時的にエネルギー需要が大きく減少しました。東日本大震災後は、原子力発電所が稼働を停止、火力発電による石炭の消費が増加し、2013年に過去最高を記録しています。

2013年以降は省エネ、および再生可能エネルギー等による電力の低炭素化が年々進んでいます。しかし、製造業における製造ラインの他国への移転が進んでおり、サプライチェーン全体では数字通りに捉えられない部分があります。

 

出典:JCCCA全国地球温暖化防止活動推進センター「データで見る温室効果ガス排出量(日本)」

日本の現状は?

2019年度の温室効果ガス排出量は、12億1300万トンで、2013年度比で14%減少しました。製造業での生産量の減少や再生可能エネルギーの導入拡大が要因とされています。温室効果ガスの排出量は減少しているものの、2030年に2013年度比46%減とした目標値のクリアには、より大胆な施策や技術開発が必要とされており、官民一体となった取り組みが始まっています。

出典:環境省『2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量 確報値(概要)』(2021)

2. パリ協定と2050年カーボンニュートラル

パリ協定とは

2015年国連気候変動枠組条約締約国会議において、世界平均気温の上昇を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指すことを世界共通の長期目標とすることが採択されました。参加国はそれぞれにCO2の排出削減目標等を5年ごとに提出することになり、日本は、2030年に2013年度比46%減の目標を打ち出しています。

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編 )〜いつ、誰が実現するの?』(2021.2.16)

2050年カーボンニュートラルとは成長することである

2020年10月菅総理大臣は所信表明演説にて、2050年カーボンニュートラルを宣言しました。これは、2050年にCO2をはじめとした温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目標として定めたものです。この目標は決して簡単ではなく、産業界からも驚きの声が上がったほどです。世界の125の国と地域が同様に2050年カーボンニュートラルを宣言しました。

この目標を実現させるためには、さまざまな施策を打っていくこと、イノベーションの創出が必要とされています。エネルギー起源のCO2排出を抑えることは最も優先される事項です。エネルギーの再エネ化は喫緊の課題として取り組まねばなりません。しかし、これらの課題を克服していくことが、社会経済の変革、産業構造の転換をもたらし、成長に繋がっていくと考えられます。

出典:資源エネルギー庁「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編 )〜いつ、誰が実現するの?」(2021.2.16)

出典:資源エネルギー庁「カーボンニュートラルって何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」(2021.3.16)

出典“環境省脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」

3.「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」とは

温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度の概要と目的

平成18年4月より、温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)には、自らの温室効果ガス排出量を算定した上で、国に報告することが義務づけられました。燃料の使用や、供給された電気の使用、CO2やその他の温室効果ガスの発生を伴う製造について、活動ごとに政省令で定められた算定方法、排出係数を使って温室効果ガスの排出量を算定します。

この制度は、事業者が排出するCO2等の温室効果ガスの量を把握するとともに、企業自身が客観的に自社の排出量の増減を知り、主体的に削減の努力を期待するものです。そのため、報告されたものは公表、開示されることになっています。あわせて、社会全体に省エネ、CO2削減の意識醸成が進むことを期待しています。

出典:環境省『制度概要 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 」』

出典:環境省『制度概要 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」』

 

出典:環境省『制度概要 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 」』

サプライチェーンを通じた排出量算定について

サプライチェーン排出量とは企業活動の全体的な流れの中で排出された温室効果ガスのことです。原材料の調達や製造、使用、廃棄に至るまでをサプライチェーンと言います。企業のサプライチェーンにおけるCO2排出量の算定はScope1・2排出量とScope3排出量を合計して算出します。

Scope1とは、燃料の燃焼や工業プロセス等事業者自らの温室効果ガスの直接排出です。Scope2は、電気の使用等他社から供給された間接排出です。そして、Scope3がサプライヤーや輸送等の事業者の活動に関連する他者の排出となります。

出典:環境省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライハイ質量算定を始める方へ』

4. SBTが中小企業にもたらす影響

SBT(Science  Based Targets)とは

SBTは、企業が設定するパリ協定に整合した5〜15年の温室効果ガスの削減目標のことです。2021年 3月時点でSBTに参加する企業は、世界全体で1274社、日本では122社で、年々増加しています。食料品、電気機器、建設業など多様な業種に及びます。

この取り組みに参加することは、ステークホルダーに持続可能性をアピールすることとなり、ESG投資を呼び込むことが期待されます。

出典:環境省『SBT(Science Based Targets)とは︖(p.1) 』

中小企業にもたらす影響

SBTの中長期排出削減目標等設定において、Scope3の排出量がScope 1・2・3の合計の40%に以上になる場合、Scope3目標の設定が必要となります。サプライチェーンの中にある企業はCO2削減を求められるようになるかもしれません。

また、従業員500人未満の企業が対象の、中小企業向けSBTの目標設定支援事業も環境省にて実施されています。

出典:環境省『SBT(Science Based Targets)とは︖』

出典:環境省『中長期排出削減目標設定マニュアル』27P(2021)

5. 改正地球温暖化対策推進法で何が変わる?

改正地球温暖化対策推進法の3つの柱

2050年カーボンニュートラル実現に向け、2021年5月地球温暖化対策推進法の改正案が成立しました。この法律には3つの柱があります。

(1)改正法の位置付け

1つ目に、脱炭素に向けた長期的な方向性の位置付けです。2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念とすることで、国民、地方公共団体、事業者がより確信を持って温暖化対策に取り組むための方向性を提示しています。

(2)再生可能エネルギー転換を地域から

2つ目は、再生可能エネルギーの導入が地方創生につながるしくみづくりを促進する点です。地方公共団体は再生可能エネルギーの導入目標を開示します。再生可能エネルギーの導入促進を地方から進め、いっきに再エネ化へ加速させることが改正地球温暖化対策推進法のポイントでもあります。また、再生可能エネルギーの地域における合意形成の円滑化のため、地方公共団体が実行計画を策定し、脱炭素化や課題解決に貢献する事業の認定制度を設けました。関係法律の手続きの簡素化も図っています。

(3)企業の排出量の見える化

 3つ目は、温室効果ガス排出量のオープンデータ化です。温室効果ガス算定・報告・公表制度においては、報告のデジタル化で利便性を向上するとともに、オープンデータ化し開示請求を廃止しました。これにより、企業の取り組みがより可視化され、ステークホルダーによる評価がされやすくなります。公表までの期間も短縮されます。

環境省脱炭素ポータル「改正地球温暖化対策推進法 成立 - トピックス」(2021.6.4)

6. 再生可能エネルギーは企業のCO2排出量削減の鍵

現在日本の電源構成は火力に依存しています。2019年度は火力発電が76%、再生可能エネルギーが18%、原子力は6%にとどまっています。パリ協定での目標である2030年に2013年度比46%削減するためには、再生可能エネルギーの普及を推進していかなければなりません。企業にとっても、CO2削減の鍵は再生可能エネルギーへの転換と言えるでしょう。

取引先、地方公共団体、投資家、そして社会全体から、CO2削減のためのエネルギーの転換が期待されています。企業がCO2削減に向けた取り組みを推進することは、環境問題解決に貢献できるだけでなく企業の大きなアピールポイントとなります。世界の流れに乗って、積極的に再エネへの転換を進めていきましょう。

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