世界は脱炭素社会へ なぜ急速にカーボンニュートラルを目指すのか?

世界は今、脱炭素社会生まれ変わる挑戦をしています。カーボンニュートラル(CO2排出量実質ゼロ)を目指し、持続可能な社会への変革が強く叫ばれているのは現状の生産・社会のシステムでは住み続けられる地球を持続できないからです。

普通に暮らしている限りでは、地球の環境がどれほどの危機にあるのか実感できないかもしれません。では、世界の動きと地球の環境はどのような状況なのでしょうか。

目次

  1. 世界は脱炭素社会へ変わろうとしている

  2. 脱炭素できないと何が起こるのか

  3. 気候変動がもたらす経済への影響

  4. まとめ:今、全ての企業が脱炭素社会を目指す時

1. 世界は脱炭素社会へ変わろうとしている

世界のカーボンニュートラルへの動き

2021年1月にバイデンが大統領に就任し、その翌月にはアメリカがパリ協定に復帰したことにより、世界のカーボンニュートラルへの動きはさらに加速しました。アメリカは、気候変動への対策として電力の脱炭素化やグリーンエネルギー化を目指し、資金として4年間で2兆ドルのインフラ投資を行う方針です。

しかし、国連気候変動枠組条約事務局は、世界各国の現状の取り組みではパリ協定の目標達成にはほど遠いと指摘しています。世界は更なる温室効果ガス削減の必要があるのです。

出典:環境省『第1回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の 省エネ対策等のあり方検討会』p.10

欧州はコロナからの経済回復にあたって「グリーンリカバリー」を目指します。グリーンリカバリーとは、コロナ禍による経済ダメージからの再起と、脱炭素社会などの環境問題への取り組みを両立して行おうとする政策です。2020年7月、EU首脳会議でコロナ禍による経済ダメージからの復興を目的する「欧州復興基金」が合意され、約94兆円がEU共同債権の発行により調達されます。これは2021~2027年の中期予算の約138兆円に上乗せされ、コロナ禍からの復興をCO2削減対策に託す大型プロジェクトとして世界を驚かせました。

出典:日経エネルギーNext『コロナ危機が生んだEUの大型グリーンリカバリー

コロナの影響も大きく、世界のCO2排出量は2020年、前年比で8%減少しました。世界はコロナ禍からの復興と同時に、経済社会の再設計に向けた脱炭素社会・循環経済・分散型社会への移行を進めています。

出典:経済産業省『気候変動に関する国際情勢』p.2

日本のカーボンニュートラルへの取り組み

2020年10月に政府は「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言しました。その実現に向けて、「再エネ型の経済社会」を創造するために、以下の3つの面での政策が検討されています。

  1. 競争力のある産業への進化

  2. 社会インフラの整備

  3. 再エネと共生する地域社会の構築

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.4

これに対応して、2021年1月には経済産業省が以下の点について速やかに議論を開始し、加速化をする方針を示しました。

  • 非効率な化石火力エネルギーのフェードアウト

  • 再エネ投資促進のための電力市場の整備とネットワーク

  • 脱炭素火力や原子力の持続的な利用システム

  • カーボンフリー電力の価値が適切に評価され、需要家がアクセスできる環境整備

  • 省エネの更なる取り組み

  • 電化・水素化などを含めた需要側からの非化石化

  • 水素供給やCCSと一体となった上流開発

※CCS:火力発電所などから排ガス中のCO2を取り出して回収し、地下へ貯留する技術
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.7

日本は社会全体としてのカーボンニュートラルを実現するために、再生可能エネルギー導入の拡大・メタンを合成する技術・合成燃料などによる脱炭素化を進める方針です。国民負担を軽減するために既存の設備を最大限活用し、需要側のエネルギー転換への受容性を高めるなど段階的な取り組みが検討されています。

カーボンニュートラル

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.11

2. 脱炭素できないと何が起こるのか

なぜ、このように脱炭素化・カーボンニュートラル実現が急がれるのでしょうか。その理由である現在の地球の環境について確認しましょう。

地球温暖化の現状

20世紀半ば以降、人間の活動による温室効果ガスの大量排出により地球の気候は温暖化の一途をたどりました。温室効果ガスの排出を抑制しなくては、更に温暖化は進み人々や生態系に深刻で取り返しのつかない影響を与える可能性が高まります。

出典:環境省『令和2年度版 環境白書 地球環境の保全

地球の平均気温は2016年に観測史上最も高くなりました。次いで2019年は観測史上2番目に暑い年でした。大気中のCO2濃度は産業革命(1760年-1840年)以前に比べて約40%も上昇しています。

出典:環境省『環境省における気候変動対策の取組』p.3

世界の平均気温は上昇し続けている

人間の活動により、工業化以前に比べ現在地球の平均気温は1℃上昇しています。このまま温暖化が続くと2030年から2052年の間に1.5℃の上昇に達してしまう可能性が高く、この1.5℃を大きく超えないために世界は2050年カーボンニュートラルを目指しています。

出典:環境省『令和2年度版 環境白書 地球環境の保全

平均気温が1.5℃上昇した地球の姿

たかが1.5℃だと考える人もいるでしょうが、もしも世界の平均気温が1.5℃の上昇に達してしまったら、何が起こるのでしょうか。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書では以下のような科学的知見に基づいた可能性が挙げられています。

  1. 人間の住むほとんどの地域での極端な高温の増加

  2. 海水面の上昇

  3. 陸上の生物多様性と生態系への影響(種の喪失)

  4. 夏季に北極の氷が消滅

  5. サンゴ礁の70%~90%が死滅

気候変動は生計、生物多様性、インフラ、食料システムに対するリスクを悪化させます。すでに氷床や氷河の質量減少、積雪の減少、永久凍土の温度上昇、海面水位の上昇、沿岸湿地の減少などが報告されています。

出典:環境省『令和2年度版 環境白書 地球環境の保全

3. 気候変動がもたらす経済への影響

2020年6月環境省は「気候危機」を宣言しました。直近20年間の気候関連の災害による被害額は合計2兆2450億ドルに上り、それ以前の20年間の2.5倍になりました。このまま地球温暖化が進み、気候関連の災害がさらに多発すれば、経済への打撃は計り知れない額となるでしょう。

出典:環境省『環境省における気候変動対策の取組』p.6

気候変動がもたらす金融・経済へのリスク

気候変動は以下の3つの経路からのリスクにより、金融システムの安定を損ない、経済に深刻な影響を与える恐れがあります。

  1. 物理的リスク
    洪水、暴風雨等の気象事象によってもたらされる財物損壊など
    グローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇

  2. 賠償責任リスク
    気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い、回収を図る

  3. 移行リスク
    カーボンニュートラル社会への移行に伴い、温室効果ガス排出量の大きい金融資産への価値評価が見直される

出典:環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ』1-4~1-5

ESG金融

ESGとはEnvironment(環境)・Social(社会)・Governance(統治・管理)の3つを指し、企業の持続的な成長のために必要な要素であるという考え方が世界的に広まっています。世界のESG投資総額は2018年には30.7兆ドルに拡大し、投資市場の約3分の1を占めました。

世界最大の運用会社(ブラック・ロック)のCEOも投資先に対して気候変動対策を強く訴えかけています。カーボンニュートラルに向けた取り組みは企業の資金調達に多大な影響を及ぼしているのです。

今後、カーボンニュートラルの向けた取り組みをしない企業は資金調達が困難になる恐れがあります

投資市場全体に占めるESG(サステナブル) 投資額の推移(兆ドル

※投資市場全体に占めるESG(サステナブル) 投資額の推移(兆ドル)

出典:経済産業省『気候変動分野に関するファイナンスの取組について』p.2,p.3

4. まとめ:今、全ての企業が脱炭素社会を目指す時

脱炭素社会は地球規模で目指す将来像

脱炭素社会の実現のためには省エネなどで着実に温室効果ガス削減を進めていく「移行」(トランジション)、再エネなどすでに脱炭素化の水準にある取り組み(グリーン)、人工光合成など脱炭素化に資する革新的な技術の研究開発・社会実装の取組(革新的イノベーション)が重要です。政府はこのために気候変動対策への実効性のある仕組みづくり、企業の積極的な情報開示、投資家・金融機関との信頼関係の基盤を早急に整備する方針です。

新興国を含めた世界全体を見渡すと、カーボンニュートラルの達成は決して容易ではありません。しかし日本企業だけで考えると、省エネを中心とするトランジションと、革新イノベーション技術などの「クライメイト・イノベーション」で、世界をリードし貢献することが可能です。

出典:経済産業省『気候変動分野に関するファイナンスの取組について』p.11〜p.13

カーボンニュートラルへ、生き残りをかけた挑戦

地球温暖化は深刻で、たとえ世界の温室効果ガスが今すぐゼロになったとしても、その影響をすぐ止めることはできません。しかし、世界が今できる最善を尽くし、極力の早期に脱酸素社会を実現することが、今後の地球を住み続けられる場所にするために必須なのです。

カーボンニュートラルに向けた取り組みは今後も一層加速し、取り組み情報開示のない企業は資金調達や取引、売上などに影響が出る可能性があります。中小企業も省エネ、再エネの導入、情報開示のための自社の分析など、負担のかからないところから、早期に取り組みを始めましょう。

気候変動対策は、すでに中小企業にとっても避けて通れない課題であると同時に、新たなビジネスのチャンスでもあります。企業が生き残り、将来も成長を続けるために、いま世界とともに脱炭素社会へと生まれ変わる挑戦の時なのです。

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