建設業界向けのLCAの注意点(建設業界 LCA)を解説!

建設業界向けのLCA(建設業界LCA)には、どのような注意点があるのでしょうか。そもそもLCA(ライフサイクルアセスメント)とは何か、建設業界はどのように実施し、また実施する時に注意点はあるのかなどについてご紹介します。

目次

  1. そもそもLCAとは!?建設業にとってメリットがあるの?

  2. 建設業界はLCAをどう実施する?

  3. 建設業界がLCAを実施する時の注意点

  4. まとめ:注意点を踏まえた上で建築業界でLCAを実施しよう

1. そもそもLCAとは?建設業にとってメリットがあるの?

脱炭素への取り組みを検討した時に、LCAという用語を耳にすることがあるのではないでしょうか。そもそもLCAとは何か、またLCAを実施するメリットをみていきましょう。

LCAとは

LCAはLife Cycle Assessmentの略称です。製品またはサービスがライフサイクル全体(原料調達・製造・使用・廃棄)において環境にどのような影響を与えているかを評価する手法です。建設業界においては、建物の設計・資材製造・建設・運用・改修・廃棄までがライフサイクルに該当します。LCAはISO14040/40において規格化されていますが、詳細な手法については、事業者ごとに目的に照らし合わせて実施します。

出典:環境省『再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン』

出典:国土交通省住宅局『CO2排出量が増大する民生部門における新たなCO2削減技術の策定調査報告書』(2008年3月)(p.1)

建設業界がLCAを実施するメリット

建設業界でLCAを活用するメリットは大きく3つあげられます。

(1)長寿命・ストック型建物の評価

建物の長寿命化により単位年数あたりの消費資源量は削減されます。長寿命化により建設コストは上がりますが、一方で環境負荷の低減、更新性・保守性の向上といったメリットも生まれます。LCAを実施することで、こうしたコストメリットが可視化されます。

(2)建築・設備の省エネルギー評価

自然採光・自然換気などの自然エネルギーの利用や断熱性、省エネルギー設備の導入により環境負荷の低減と合わせ消費エネルギーの低減も可能となります。この際にLCAを活用し、コストバランスを効果的に構築することができます。

(3)エコマテリアルやリサイクル材採用の評価

建物の構造材の鋼材ではリサイクル材の電炉鋼は通常の転炉鋼に対して製造エネルギーは1/3となります。また高炉スラグ混入の高炉セメントは通常のポルトラントセメントに対して約1/2のエネルギーで製造できます。

このようにリサイクル材を用いることで建設・更新時の資材製造による環境負荷を大幅に削減でき、LCAを実施することで、エコマテリアルやリサイクル材への代替で、環境負荷がどのくらい減るかを可視化することができます。

出典:奥田清明『建築物におけるLCAおよびLCCへの取組み』

2. 建設業界はLCAをどう実施する?

LCA手法を用いて環境負荷を評価する時は、国際標準化機構に基づき、定められた手順で実施する必要があります。ここでは通常のLCAを実施する手順と建設業界がLCAを実施する手順について整理しましょう。

通常のLCA実施手順

(1)目的と調査範囲の設定

まずはじめにLCA手法を用いて環境負荷の評価を実施する目的と、評価を行う調査範囲の設定を行います。LCAはCO2排出量が与える環境への影響だけでなく、オゾン層や騒音など様々な環境への影響を評価の対象とすることができます。建設業は調査範囲が大きく2つあります。建築物や工法そのものを範囲とするケースと建築物の周辺環境への影響も範囲に含めるケースとがあります。

(2)インベントリ分析

調査範囲に設定した対象物に関するデータを収集します。データには、材料使用量やエネルギー消費量、環境負荷物質の排出量、廃棄物量などがあります。

(3)影響評価

積み上げたインベントリデータから、目的に定めた影響評価を行います。

(4)結果の解釈

評価を踏まえて、工程ごとに解釈を行います。

出典:経済産業省『ライフサイクルアセスメント』(2004/1/30)(p.9〜14)

建設業界のLCA実施手順

(1)調査範囲の設定

建設業界でのLCA調査対象の項目は

  • 調査対象の名称(建物名称)

  • 調査対象の機能(建物の用途)

  • 機能単位(建築物の延床面積あたり、耐用年数あたりが実現する機能)

となります。また、空調・照明など建築物の運用エネルギー消費量に関わる機能についても考慮しなければなりません。これを地球温暖化防止対策を検討するLCA実施目的に照らし、建築物に関わる排出量が多く現実的にデータの入手が可能なCO2、HCFCs(特定フロンガス)、HFCs(代替フロンガス)に限定して実施することが妥当と考えられています。

(2)インベントリ分析

建物のライフサイクルは設計から工事、運用、改修、廃棄までの様々な各段階にわけられますが、算定の便宜上、「設計監理」、「運用エネルギー」、「維持管理」、「新築・建替・修繕・改修・廃棄」の4つに分類されます。

  • 設計監理

設計監理に関わる環境負荷は主として人手による部分で、LCAの中では1%に満たないため、設計に関わる金額あたりの環境負荷原単位によって算定されます。

  • 運用エネルギー

運用エネルギーに係わる環境負荷は建物のLCAの半分以上を占めますので、特に精度が求められる部分です。これには「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネルギー法)」の「省エネルギー計画書」で定められた標準的な使用条件でのエネルギー消費量の値に手計算を組み合わせて算定されます。

  • 維持管理

維持管理についても人手による部分となるため、LCAの中では数%となっていますが、LCC(ライフサイクルコスト※)の中ではエネルギー費以上に大きな割合を占めています。維持管理のLCAは維持管理費用に金額あたりの環境負荷原単位を乗じて算定されます。

※ライフサイクルコストとは製造から廃棄までにかかる費用をトータルで考えたもので「生涯費用」と呼ばれることもあります。

  • 新築・建替・修繕・改修・廃棄

新築工事・建替工事・修繕、改修工事・廃棄に関わる環境負荷は「工事費概算手法」・「ライフサイクル計算手法」を応用して行われます。新築時の環境負荷を算定し、これに「修繕率」、「改修工事周期」、「建て替え周期」、「廃棄物搬送距離」などの計算条件を組み合わせて算定されます。

出典:日本建築学会『建物のLCA指針』(p23)

(4)影響評価

建築物のライフサイクルについての環境負荷を評価するためには建築や設備資材の製造・流通・建設・電力・ガス・上下水道など広範囲なデータベースが必要となります。このため、複数の専門家が研究を重ね、様々な製品・サービスの金額あたりのCO2排出原単位のデータを公表しています。

出典:日本建築学会『建物のLCA指針』(p13,p93)

(5) 結果の解釈

このような工程を経て、数値化された建物の環境負荷を基に、今後のCO2排出量の削減への取り組みを進めていく必要があるのです。

3. 建設業界がLCAを実施する時の注意点

建設業界はLCAを実施する時に、いくつか知っておくべき注意点があります。ここでは建設業界がLCAを実施する時の注意点についてご紹介します。

建築物のCO2排出量算定が困難

建築物のライフサイクルの評価を行う際には、膨大な作業と手間がかかります。建築物を対象とするLCCO2を算定する手法の開発が進んでいますが、これらの手法を活用するためには専門的な知識が求められます。

出典:国土交通省住宅局『CO2排出量が増大する民生部門における新たなCO2削減技術の策定調査報告書』(2008年3月)(p.14)

評価法の確立

LCAは、もともと工業製品を対象とした手法であることから建築物を評価する方法はまだ確立されていません。ですので建築業がLCAを実施する時は、注意して計算しましょう。

4. まとめ:注意点を踏まえた上で建築業界でLCAを実施しよう

この記事では、建設業界でLCAの実施を検討している法人の皆さまが知っておくべき、基本的な知識についてご紹介しました。建築物ではまだ評価指標が明確化されておらず、算定には手間と労力を費やすかもしれません。しかし、今後の環境負荷を考慮することは企業を継続させるうえで非常に重要なガイドラインとなるでしょう。今回解説した注意点を踏まえ、必要性を理解した上でLCAを実施しましょう。

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