ネイチャーポジティブとは?意味や目的、経済効果について解説

人々の暮らし、また企業の事業活動は、自然の恵みを受けて成立しています。近年国際社会において、環境破壊および生物多様性が深刻な問題として重視され、ネイチャーポジティブ目標を掲げて自然環境の回復に取り組んでいます。この記事では、生物多様性やネイチャーポジティブの意味や目的それに伴う経済効果について解説します。

目次

  1. ネイチャーポジティブとは?

  2. ネイチャーポジティブの重要性

  3. ネイチャーポジティブ実現に向けた国際的な取り組み

  4. ネイチャーポジティブ実現に向けた政府の方針

  5. まとめ:ネイチャーポジティブで持続可能な社会を築こう!

1. ネイチャーポジティブとは?

ネイチャーポジティブの意味と目的

ネイチャーポジティブとは、自然再興を意味します。人の暮らしや企業の事業活動は、自然の恩恵を受け成り立っていますが、人類が経済発展を優先させたことにより自然環境は破壊の一途を辿っています。国際社会は、生物多様性の損失が経済の発展および持続可能な社会に与える影響の大きさを認識し、破壊された環境の再興、かつ人類が自然と共生する社会の実現に向けた計画目標を掲げ、また取り組みを強化しています。

出典:環境省「次期生物多様性国家戦略素案のポイント」p1

出典:環境省「2010年に向けて加速する生物多様性の保全及び持続可能な利用への世界と日本の潮流」p1

2. ネイチャーポジティブの重要性

暮らしや事業活動は自然の恵みを享受することで成り立っていますが、その一方で直接的・間接的に環境破壊に加担しています。生物多様性の損失を食い止め、また破壊された環境を復活させなければ、世界規模で食糧危機や貧困問題等が広がると予想されます。ここでは、より具体的なネイチャーポジティブの重要性について解説します。

ネイチャーポジティブの重要性について(1)生物多様性の損失の顕著化

ネイチャーポジティブの中核となる問題が生物多様性の損失とされています。人類を含め地球上のすべての動植物は、直接的・間接的に干渉し支え合って生きており、とくに私たちの暮らしは自然の恵みに依存しています。しかし、経済発展を優先させた結果、森林破壊や動植物の減少および絶滅を招き、それに伴う地球温暖化や生態系の破壊等の問題を引き起こしています。

生物多様性の損失は、世界規模で経済を低迷させ、貧困問題や食糧危機といった社会問題に繋がっていくのです。現在、国際社会は生物多様性の損失拡大防止を目的に、国連生物多様性条約締約国会議(COP)をはじめとする様々な取り組みを行っています。

出典:環境省「次期生物多様性国家戦略素案のポイント」p7

ネイチャーポジティブの重要性について(2)気候変動問題の深刻化

気候変動問題は、世界規模で早急な解決が必要とされる重要課題に位置します。現在、地球温暖化や海面上昇は深刻化し、事実世界の平均気温は過去100年で0.74℃、海面は17cm上昇しているといいます。これら気候変動にまつわる様々な問題は、人類が排出する温室効果ガスが原因であると断定されており、すでに自然環境および生態系の崩壊はもとより、人類の暮らしや事業活動に大きな影響を与えています。以下は、各分野における気候変動が起因とされる影響です。

【気候変動問題が起因とされる影響】

  1. 異常気象による熱波、寒波、水不足

  2. 生態系の破壊、種の減少および絶滅

  3. 農林水産分野における食料問題

  4. 暴風雨や洪水による被害の増加、海面上昇による生活区の減少

  5. 気候変動が引き起こす異常気象による健康被害

気候変動による様々な問題を解決、改善するために、ネイチャーポジティブは重視されています。

世界の年平均気温偏差

出典:環境省「温暖化から日本を守る適応への挑戦」p2

出典:国土交通省・気象庁「世界の年平均気温」p1

ネイチャーポジティブの重要性について(3)持続可能な社会の実現

冒頭より、暮らしや事業活動は自然の恵みを受けて成立しているとお伝えしておりますが、人間社会では自然の恵みを自然資本と捉え、人類と自然が共生していくことが持続可能な社会を実現する上で重要とされています。

しかし現在、経済活動による生態系や自然環境の破壊は深刻化し、世界各国ひいては各分野で様々な問題が発生しているのです。ネイチャーポジティブは、自然のバランスを崩さず将来にわたり自然の恵みを受けることができるよう、共生と循環に基づく自然の断りに沿った行動を求められています。

出典:環境省「次期生物多様性国家戦略素案のポイント」p25

3. ネイチャーポジティブ実現に向けた国際的な取り組み

ここまで、ネイチャーポジティブの重要性を解説してきました。世界規模で早急な解決が必要な環境問題ですが、国際社会はどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは、ネイチャーポジティブ実現に向けた国際社会の取り組みを紹介します。

(1)昆明・モントリオール生物多様性枠組みを採択

2022年12月、モントリオールにて国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、気候変動問題をはじめとする生物多様性問題の議論がなされました。その中で、2030年の世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組みの採択に至っています。2030年の世界目標は「使う以上に自然を回復させる」を軸に、人類と地球のために破壊されつつある自然を回復の道筋に乗せるため、生物多様性の損失を食い止めるとともにプラスへ反転させるための緊急の行動をとることが掲げられています。

また、2030年世界目標の達成に向けて、実施状況をモニタリングするための国別報告書および報告様式に関する事項も決定されたこともあり、各国がネイチャーポジティブへの取り組みを強化しています。

出典:環境省「生物多様性条約第15回締約国会議第二部、カルタヘナ議定書第10回締約国会合第二部及び名古屋議定書第4回締約国会合第二部の結果概要について」p1

出典:環境省「昆明-モントリオール 生物多様性世界枠組みについて」p13

(2)G7コーンウォールサミットにおける2030年自然協約の合意

2021年6月、イギリス・コーンウォールで開催されたG7サミットにおいて、生物多様性およびネイチャーポジティブ実現に向けて話し合われ、2030年自然協約の合意がなされました。自然協約の主な内容は、COP15で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組みを支持し、深刻化している地球温暖化や生物多様性の損失拡大を食い止め、また反転させるために4つの目標を掲げています。

【自然協約の4つの目標】

(1)2030年までに世界の陸地と海洋において少なくとも30%を保全又は保護する。

(2)持続可能な自然資源の管理及び利用への移行を支援し、自然ひいては生計に悪影響を及ぼす持続不可能かつ違法な活動に対処するため適切な手段を用いる。

(3)自然の保護・保全及び回復に対する投資を増加させることに向けて集中的に行動する。

(4)自然協約締約国である多国間環境協定の強化された説明責任及び実施およびメカニズムを優先的なものとする。

主要先進国のG7各国が自然協約を採択したことにより、世界規模でネイチャーポジティブに関する取り組みが強化されると期待されています。

出典:外務省「G7カービスベイ首脳コミュニケ ・より良い回復のためのグローバルな行動に向けた我々の共通のアジェンダ」p20

(3)TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の設立

2019年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、生物多様性に関する議論がなされ、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の設立が採択されました。これまでに合意されてきたパリ協定やポスト2020生物多様性枠、SDGsに沿って自然環境の保全・回復する活動に資金の流れを向け直し、人類と自然の共生および双方が繁栄できるようにすることで世界経済に回復力をもたらすことを目指した取り組みです。

これにより、企業や金融機関は事業活動における自然資本および自然リスクに関する情報開示が求められ、また開示された情報は、環境リスクの把握に役立てられます。

出典:国土交通省「グリーン国土の創造について」p29

4. ネイチャーポジティブ実現に向けた政府の方針

ネイチャーポジティブがもたらす日本経済への効果は大きいと予測されるため、積極的に政策を導入し取り組んでいく必要があるといえます。では、現在の日本政府は、ネイチャーポジティブ実現に向けてどのような方針を出しているのでしょうか。

(1)ネイチャーポジティブ経済研究会の発足

日本政府は、国連・新国富指標をもとにネイチャーポジティブがもたらす日本経済への効果の大きさを把握し、環境省主導のもとネイチャーポジティブ経済研究会を設置しています。ネイチャーポジティブ経済研究会は、生物多様性および自然資本とビジネスの関係、国内産業の構造を踏まえつつ気候変動や循環経済などの統合的解決を目指しています。

出典:環境省「ネイチャーポジティブ経済研究会の設置と第1回会合の開催について」

(2)生物多様性国家戦略を策定

環境省は、昆明・モントリオール生物多様性枠組みにおける2050年の世界目標「自然との「共生」を達成するため、社会経済の土台である自然資本を守り活用するための生物多様性国家戦略を策定しました。生物多様性国家戦略は、地球の持続可能性を脅かす生物多様性の損失と、気候変動問題を統合的に対応するための5つの基本戦略が設定されています。

【生物多様性国家戦略・5つの基本戦略】

  1. 生態系の健全性回復

  2. 自然を生かした社会課題の解決

  3. 生物多様性・自然資本リスクおよび機会を取り入れた経済

  4. 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動

  5. 生物多様性に係る取り組みを支える国際連携の推進

5つの基本戦略ごとに行動目標を設定し、企業や金融機関を中心とした社会全体に浸透させることでネイチャーポジティブの実現に取り組んでいます。

日本の2030年ネイチャーポジティブビジネス機会額(兆円)

出典:環境省「次期生物多様性国家戦略素案のポイント」p1

(3)ネイチャーポジティブ経済の推進

日本政府は、ネイチャーポジティブ政策の導入で得られる経済効果をネイチャーポジティブ経済と位置付け、事業者および社会全体へ推進しています。今後、政府は各事業者と連携し、事業活動と生物多様性や自然資本の関係の評価の方法、また経済に係る制度やシステムを見直すことで、自然資本の考え方が組み込まれるための施策の実施を進めています。

出典:環境省「次期生物多様性国家戦略素案のポイント」p24

5. まとめ:ネイチャーポジティブで持続可能な社会を築こう!

生物多様性の損失と気候変動問題は、世界の最優先課題であり早急に解決しなければいけません。環境破壊は世界経済の悪化を招き、また社会問題へと繋がっていきます。とはいえ、現在、各国政府間においてネイチャーポジティブに関する動きが活発化していますが、企業および個人単位でみると、まだ浸透しているといえないのが現状です。地球と人類の持続可能性を確保するためにも、一人ひとりが自然環境に配慮していくことが必要ではないでしょうか。

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