具体例から学ぶESGの社会(Social)への取り組み方

ESGとは、企業が環境や社会、統治(ガバナンス)に関する問題への取り組みを示す枠組みを意味します。この記事では、とくに社会分野へ焦点を当てて、具体例をもとに企業の取り組み方を解説します。ESGへの関心が高まっている現在、企業もESGを取り入れた経営を行う必要性が高まっています。社会(Social)分野への理解を深め、ESGに取り組む際の参考にしてみてください。

目次

  1. ESGとは?

  2. ESG:社会(Social)分野への具体的な取り組み

  3. 企業がESGの社会問題に取り組むメリット

  4. ESGの社会問題に取り組む日本企業の事例

  5. まとめ:ESGの社会問題に取り組むことが企業の成長に繋がる

1. ESGとは?

企業がESGの社会分野に取り組むためには、ESGの全体を理解することが大切といえます。ここでは、ESGを構成する環境・社会・ガバナンスについて解説します。

(1)環境:Environment

ESGの環境(Environment)は、気候変動問題をはじめとする温室効果ガス排出、大気汚染、資源効率性、生物多様性といった環境問題等が挙げられます。企業は、これら環境問題の解決、および今後の事業運営上で環境に配慮した活動が求められています。

出典:総務省「SDGs/ESG(環境、社会、企業統 治)の潮流と企業の課題」p4

出典:財務省「ESG投資について」p4 p5

(2)社会:Social

ESGの社会(Social)とは現在、国際社会で解決が急がれている人権問題や強制労働、労働基準やダイバーシティ、男女差別などの社会問題を指します。これらの社会問題は、企業の事業運営と密接に関係しており、投資活動や経営・事業活動において特に考慮すべき事項と位置付けられています。

出典:財務省「ESG投資について」p6

(3)ガバナンス:Governance

ESGのガバナンス(Governance)とは、企業統治や汚職、法の支配、社会制度の頑健性、透明性などを指します。コーポレートガバナンスを強化し、また実践することが透明かつ健全な企業と評価され、将来的な業績の促進に繋がるとされています。事実、投資先企業のガバナンスが投資パフォーマンスに影響することを示す研究や事例は多いとされます。

出典:総務省「SDGs/ESG(環境、社会、企業統 治)の潮流と企業の課題」p4

出典:財務省「ESG投資について」p7

職場のイメージ

出典:pixabay

2.  ESG:社会(Social)分野への具体的な取り組み

ESGの3要素のうち、これまで主に環境分野について議論されてきていました。しかし近年、社会分野が重視されてきています。現在、国際社会でESGの社会分野における問題は、次の通りです。

・労働環境

・人権

・地域社会

・紛争

・健康

・安全

・雇用

・人材

・ダイバーシティ など

また、企業が上記の社会問題に取り組む方法として、自社のダイバーシティ推進の強化、事業運営における人権問題等に配慮したサプライチェーンのルール策定および管理、また地域社会との協働などがあります。各企業は、これらの問題解決に取り組むことが求められています。

出典:経済産業省「事務局説明資料」p6

多様な人材のイメージ出典:pixabay

3.  企業がESGの社会問題に取り組むメリット

ESGの社会分野について解説してきました。ここでは、企業がESGの社会問題に取り組むメリットをご紹介します。

(1)事業運営におけるリスクの低減・回避

ESGへの関心の高まりを受け、企業は人権、労働環境、ダイバーシティ等の社会的責任を果たすことが求められています。実際に、児童労働等の人権無視を行なっていた企業に対して大規模な不買運動が発生し、業績低迷に繋がった事例や、劣悪環境が原因で生産体制が失われた事例が報告されています。したがって、社会分野を考慮した事業運営を行うことにより、経営上のリスクの低減・回避に繋がります。

出典:財務省「ESG投資について」p6

(2)将来的な業績アップ

企業が社会問題に取り組むことは、自社の将来的な業績アップに繋がるとされています。事実、ボストンコンサルティンググループとミュンヘン工科大学は、ダイバーシティ指数と企業の収益指標の関係について世界1,700社あまりを調査した結果、ダイバーシティが平均以上の企業は税引前利益が平均9%高くなると報告しています。

また日本企業においても、女性活用の状況と業績の関係を分析した結果、結婚や出産、育児等で正社員が減少する30代の正社員女性比率が高い企業ほど利益率が高く、また中途採用の多い企業やワークライフバランスを推進している企業は、正社員女性比率の利益率へのプラスの影響が顕著であると報告しています。このように、事業運営におけるダイバーシティ女性の登用労働環境等の社会問題に配慮することは、将来的な業績アップに繋がるとされています。

出典:財務省「ESG投資について」p6

4. ESGの社会問題に取り組む日本企業の事例

ESGの社会分野に取り組むメリットを解説しました。企業がESGの社会問題に取り組むことで、単に社会問題を解決するだけではなく、経営上のリスク回避や業績アップの効果が期待されます。事実、多くの企業がESGの社会分野を考慮した事業運営を始めています。ここでは、ESGの社会問題に取り組む日本企業の事例を紹介します。

【株式会社クレハ】

家庭用品や医薬品、農薬などの研究・開発、販売等を行う大手化学メーカーの株式会社クレハ(以下クレハ)は、積極的にサステナビリティ活動に取り組む企業です。社会分野に関しては、従業員、顧客、投資家、地域社会、取引先等の複数のステークホルダーとの関わりにおいて、積極的に対話を行い、また情報開示に勤めています。以下は、クレハの社会分野における主な取り組みです。

(1)ステークホルダーエンゲージメント

自社の社会的責任を果たすため、あらゆるステークホルダーと積極的に対話を行い、信頼関係の構築と維持に努めています。また社会の要請や懸念に配慮しながら持続可能な社会の発展に貢献することを示しています。

(2)株主・投資家とともに

コーポレートガバナンス・ガイドラインにおいて、株主・投資家との建設的な対話を促進するための方針を定めています。具体的には、情報開示基本方針に沿って適時・適切な情報開示を行い、公平かつ継続的に情報を開示していくことにより、経営の透明性とステークホルダーからの信頼を高める努力を続けています。

(3)取引先とともに

製品の原材料の調達から販売までのサプライチェーン全体における社会的責任を果たすため、調達基本方針とCSR調達ガイドラインに基づいた事業運営を行なっています。取引先に対しても環境や社会への配慮を求め、また公平・公正な関係構築を目指しています。

(4)従業員とともに

社会貢献かつ持続的な成長を続けるために、従業員の人財育成、ワークライフバランスおよびダイバーシティの推進、健康経営、労働安全衛生等に関する制度の構築と実施、職場環境の改善に取り組んでいます。

(5)地域社会とともに

地域社会との共生を重要なテーマの1つと捉え、主要な生産拠点を中心にリスクコミュニケーションの実施、医療・介護・健診での地域貢献、教育支援等の社会貢献活動を通じて、地域住民、グループ会社、従業員が互いに良好なコミュニケーションをとりながら、地域社会の発展に取り組んでいます。

(6)人権に対する取り組み

クレハグループ倫理憲章の制定後、従業員をはじめ、消費者や顧客、地域社会、取引先等のステークホルダーとの関わりといったあらゆる場面で人権を尊重した企業活動を行っています。また国際基準であるビジネスと人権に関する指導原則や、企業行動憲章に準じて、当社の人権尊重に関する方針を取締役会の承認のもとで「倫理憲章」に新たな項目として追加し、国連の指導原則を支持することを表明しています。

このようにクレハは、ESGの社会分野の重要な項目である人権問題や労働問題、情報開示等に考慮した事業運営を行なっています。

出典:株式会社クレハ「社会貢献に対する取り組み」

5. まとめ:ESGの社会問題に取り組むことが企業の成長に繋がる

ESGの社会問題への取り組み方やメリット、ESGの社会問題に取り組む日本企業の事例を紹介してきました。社会問題に考慮した事業運営、また社会問題の解決に向けた取り組みは今後、より求められていきます。社会問題に考慮したESG経営を通し、持続的な成長を目指してみては、いかがでしょうか。

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