カーボンバジェットとは?排出できる残りCO2はどのくらい?

カーボンバジェットという言葉をご存じでしょうか。カーボンバジェットとは化石燃料由来のCO2の累積排出上限のことです。カーボンバジェットから逆算するとあと残りどれくらいCO2を排出できるか判断できます。

今回はカーボンバジェットの意味や排出できるCO2の量、「決定的10年」の意味、CO2排出のために効果的な方法などについてまとめます。

目次

  1. カーボンバジェットとは何か

  2. 排出できる残りのCO2はどのくらい?

  3. 「決定的な10年」の始まり

  4. CO2の排出削減に効果的な方法とは

  5. まとめ:カーボンバジェット圧迫を防ぐために中小企業も脱炭素経営が不可欠!?

1. カーボンバジェットとは何か

カーボンバジェットは以下のように定義されています。

「カーボン・バジェットとは、気温上昇をあるレベルまでに抑えようとする場合、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量+これからの排出量)の上限が決まるということを意味」する。

過去の排出量はすでに決まっているため、地球温暖化を抑制するにはこれからの排出量を減らすしかありません。いかに「これからの排出量」を抑えるかによって地球温暖化を止められるかが決まります。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)「カーボン・バジェットとは?」

2. 排出できる残りのCO2はどのくらい?

産業革命以来、私たちは化石燃料由来のCO2を大気中に放出させ続けてきました。排出できるCO2はどのくらいなのでしょうか。IPCC1.5℃報告書やドイツの研究機関が示すカーボンバジェットと排出ギャップについて整理します。

(1)IPCC1.5℃特別報告書で提示されたカーボンバジェット

IPCCとは「気候変動に関する政府間パネル」とよばれる政府間組織で、各国政府の気候変動対策に科学的根拠を与える役割を担っています。通常、IPCCは6~7年おきに報告書を出しています。

IPCCの報告書と国際交渉出典:資源エネルギー庁「気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?」(2022/10/12)

2015年にパリ協定が締結されると、長期の気温目標に関する科学的知見が不十分であるとして、IPCCは長期気温に関する特別報告書の作成を求められました。その要請に基づいて作成されたのが「1.5℃特別報告書」です。

この段階で、地球気温の上昇を66%の確率で1.5℃以内に抑えるためのカーボンガジェットは570Gtであるとしています。

出典:資源エネルギー庁「気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?」(2022/10/12)

(2)目標と現実の乖離を示す排出量ギャップ

2015年に採択されたパリ協定では、産業革命前からの温度上昇を2℃以内、できれば、1.5℃以内に抑えるとする長期目標が定められました。

削減目標は加盟国が自主的に定めるとしていますが、各国が提出した削減目標を合計しても長期目標達成に不足するという事態が起きています。この問題をエミッションギャップ、または、ギガトンギャップといいます。

このギャップをいかに埋めるかでカーボンバジェットの残量が決まるといってよいでしょう。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)「カーボン・バジェットとは?」

3. 「決定的な10年」の始まり

2020年代は地球温暖化の進行を食い止めるうえで非常に重要です。「決定的10年」はその重要性を一言で表す言葉です。具体的な内容やCO2排出削減の加速についてまとめます。

(1)「決定的な10年」とは何か

「決定的な10年」とは、パリ協定で定められた1.5℃目標を達成するためには2020年代の取り組みが重要であることを示した言葉です。

2022年11月のCOP26では、IPCC第6次報告書をふまえてパリ協定の1.5℃目標の重要性を確認しつつ、2030年までの期間を「決定的な10年」と位置づけ、参加国にさらなるCO2排出抑制をもとめました。

出展:環境省「COP26の結果概要について」

(2)CO2排出削減の加速

COP26では、すべての排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の逓減や非効率な化石燃料補助金の段階的廃止や2025年までに途上国の適応支援のための資金を2019年比で2倍にすることなどが定められました。

出典:資源エネルギー庁「あらためて振り返る、「COP26」(後編)~交渉ポイントと日本が果たした役割」(2022/03/11)

4. CO2の排出削減に効果的な方法とは

気候変動を抑えるためにはCO2の排出削減が必要だという点では各国の認識は一致しています。具体的にはどのようにすればCO2の排出量を削減できるのでしょうか。イノベーション(技術)とファイナンス(金融)の面からまとめます。

(1)イノベーション(技術革新)

イノベーションのイメージ図出典:資源エネルギー庁「イノベーションを推進し、CO2を「ビヨンド・ゼロ」へ」(2020/04/17)

政府は5つの重点分野を定め、技術革新を目指しています。

  • 非化石エネルギーの技術革新

  • エネルギーネットワークの技術革新

  • 水素分野の技術革新

  • カーボンリサイクルやCCUSの技術革新

  • ゼロエミ農林水産業の技術革新

非化石エネルギー分野では太陽光発電を含む再生可能エネルギーの利用拡大を目指しています。エネルギーネットワーク分野では蓄電池の普及や再生可能エネルギー導入のための電力系統の再編などを行います。

水素分野のカギを握るのは再生可能エネルギーを利用して得られるカーボンフリー水素です。水素は燃料としてだけではなく、メタンの生産や製造業での利用なども期待されています。

炭素をセメントの原材料として活用する技術や、空気中から直接CO2を改修する技術の研究も進められています。

(2)ファイナンス(金融)

近年、投資判断に環境・社会・ガバナンスの要素を組み込んだ「ESG投資」が盛んになっています。災害の激甚化などの気候変動リスクがはっきりと表れるようになり、金融機関や投資家は企業の気候変動リスクへの対応や情報開示を投資判断の材料として重視するようになっています。

現在、ESG投資の主流は投資家の設定した条件を満たさない企業を一律で投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」ですが、これだけでは環境対策として不十分だという指摘があります。

そのため、投資家と投資先企業が温室効果ガス排出削減について建設的な対話を行う「エンゲージメント」などを取り入れる動きが出ています。

出典:環境省「令和2年度 環境白書 第1節 エネルギーを巡る情勢の変化」

5. まとめ:カーボンバジェット圧迫を防ぐために中小企業も脱炭素経営が不可欠!?

IPCCの報告書や世界各地で発生している災害の激甚化は、私たちにさらなるCO2排出削減を求めています。国際的な枠組みであるパリ協定が締結されたものの、目標と現実の乖離である排出量ギャップはなかなか埋まりません。

そうこうしているうちに、私たちに残されたカーボンバジェットは目減りしています。この状況を食い止めるには各国政府や大企業の取り組みだけでは限界があります。

今以上にCO2排出量を減らすには、日本の企業の99%を占める中小企業の協力が欠かせません。気候変動リスクを減らし、災害の激甚化を緩和するにも自社の脱炭素経営を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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