法人の電気料金を徹底解説。高圧・特別高圧の電力代の仕組み

「電力切り替えで御社の電気料金を安くできます!」。電力自由化に伴い、地元以外の大手電力や新電力からこのようなアピールが増え、実際に電力会社を切り替えたというところも多いのではないでしょうか。しかし、安くなってもコストはコスト。料金を下げる方法はどのようなものがあるのか、どこまで整理できていますか。今回は特に電気料金の額が大きい高圧、特別高圧の法人のみなさまに、電気料金の中身と、コスト削減のための具体策を紹介します。

目次

  1. 法人の電気料金の構成を理解しよう

  2. 電気料金の計算にも関わる、法人の契約種別とは

  3. 実量制と協議制?基本料金を左右する契約電力の計算方法

  4. 法人にできる契約電力ごとの料金削減対策

  5. 電力会社やコンサルタントに任せきりにせず、正しい知識で電気料金を見直そう

1. 法人の電気料金の構成を理解しよう

まずはじめに、普段支払っている電気料金の中身を整理しましょう。電気代を削減するといっても、どこでコストがかかっていて、どこから削減していけばいいのかは法人によって異なります。

法人によっては、無理して節電していたのに、料金構成上、実はあまり効果がなかったということもあります。しっかりと確認していきましょう。

電気料金の構成は主に「基本料金」「従量料金」「燃料調整費」「再エネ賦課金」の4点になります。

出典:資源エネルギー庁『月々の電気料金の内訳』を元にアスエネで作成

 

  • 基本料金:基本料金単価(円/kW)×契約電力(A・kVA・㎾)×力率割引(割増)

電力使用量に関係なく、電力会社に毎月支払う固定料金

料金単価は電力供給会社ごとに異なる

契約電力は後述の「実量制」「協議制」などによって決まる

力率は「実際に使える電力/電力会社が送った電力」。85%を基準に高ければ料金が安くなり、低ければ料金は高くなる

  • 従量料金:電力料金単価(円/kW)×使用電力量(㎾h)

使用した電力量に応じた変動料金

電力量料金単価は電力供給会社ごとに異なる

使用電力量はその名の通り使った分の電力量。節電では主にここが減る。

  • 燃料調整費:燃料費調整単価(円/kWh)×使用電力量(㎾h)

経済情勢の影響を受けやすい火力燃料費の変動を迅速に反映させるための料金

再生可能エネルギーに特化した電力会社では電力調達コスト調整額と呼ぶことも

  • 再エネ賦課金:再エネ賦課金単価(円/kWh)×使用電力量(㎾h)

国の再生可能エネルギーを促進させる「FIT制度」をまかなうための料金

詳しくはこちら『再生可能エネルギー発電促進賦課金は上がり続けるのか?企業負担の推移』

2. 電気料金の計算にも関わる、法人の契約種別とは

料金計算の仕組みを見てみると、コスト削減の手法として代表的な節電(使用電力量を下げること)は、主に「従量料金」「燃料調整費」「再エネ賦課金」にかかわっていることだとわかります。

では「基本料金」はどのようにすれば下げることができるのでしょうか。節電と基本料金は関係がないのでしょうか。

それを考えるためには、基本料金を構成する「契約電力」について知らなければいけません。契約電力とは、みなさんの使用電力に合わせた供給設備を、電力会社が用意するために基準とする数値です。

意味が近いものでなじみのある言葉は「高圧電力(小口・大口)」「特別高圧電力」などに当たります。電力の見積りなどで電力会社から尋ねられることも多いと思いますが。契約種別と呼ばれるこれらの言葉は契約電力の大きさによって呼び分けられています。

出典:資源エネルギー庁『電気事業制度改革』を元にアスエネで作成

3. 実量制と協議制?基本料金を左右する契約電力の計算方法

実際に契約電力はどのように決まるのでしょうか。その定め方として「実量制」と「協議制」の二つが存在します。特徴と計算方法は以下の通りです。

実量制:契約電力が500kW未満の場合。低圧・高圧小口が対象。

  1. 電力供給開始から1年毎の最大需要電力(デマンド値)により決定される

  2. 月次の需要電力は実際に使った電力を30分ごとに計量し、最大値をその月のデマンド値とする

    1. 例えば1日24時間は、30分が48コマ分。1ヵ月30日では1,440コマ分ですが、この1,440コマの中で最も平均使用量が高いコマが、月次のデマンド値となります。

  3. 直近12カ月の月次デマンド値の中で、最も高い値が契約電力になる

つまり、契約電力を抑えるには、月次のピーク、さらに言えば30分単位のピークの使用電力を抑える必要がある。

実量制の流れ

協議制:契約電力が500kW以上の場合。高圧大口・特別高圧が対象。

  1. 1年間のデマンド値を基準に協議によって定める

  2. 「使用する設備の負荷」「受電設備の内容」「同一業種の負荷率」などにより詳細を決定

デマンド値を基準とするため、基本的な決め方は実量制と大きく変わりません。しかし、高圧大口以上の需要家は配電用変電所を通さない電力網(高圧小口以下の電線より一段上の電圧の電線)から直接電力供給を受けるため、万が一の停電や事故の際、周囲の需要家への影響が大きく、法人ごとの様々な状況を踏まえて協議されてから決定されます。

協議制の流れ

4. 法人にできる契約電力ごとの料金削減対策

「基本料金」のなかの「契約電力」の仕組みを整理したところで、実際に電気代を削減する方法はどのようなものになるのでしょうか。結論を大雑把にいうと「瞬間的な節電」です。

電気料金の構成のうち、従量料金、燃料調整費、再エネ賦課金は、月次の合計の電力量(kWh)を低く抑えることが、コスト削減に直結しました。これを「全体的な節電」とします。

それに対し、基本料金の契約電力を抑えるには、なるべく同じ時間帯に電力を使うことを避け、30分という瞬間的なピーク値を抑える必要があります。つまり計画を練った瞬間的な節電が必要となるのです。

高圧小口の法人の主な手法

実量制が適用される高圧小口では「ピークカット」「ピークシフト」それらを支援する「電力使用量の可視化」が有名です。

ピークカット

そもそもの電力使用量を下げて、ピーク値を下げる方法。空調や照明、生産設備といった機器を電力効率が良いものに変えて、電力使用量を減らす手法などがあげられます。これは全体的な節電にもつながるため、直感的に理解しやすく、意識的に行っている法人も多いのではないでしょうか。

ピークシフト

それぞれの機器の稼働時間帯を分散させることでピーク値を下げる方法。電力使用量の時間帯ごとの高低差を分散することで、全体的な使用量は変わらなくとも、基本料金を下げることができます。

ピークシフトの手法として、大きな電力を使う部署同士で稼働の時間をずらすなどが現実的です。工場の稼働を夜や休日に移すことなどは現実的ではありませんが、近年では蓄電池などを利用して、ピーク時間帯は蓄電池からも電力供給をすることで、ピーク値を分散する方法なども注目されています。

電力使用量の可視化

スマートメーターやデマンドコントローラーを用いて、上記のピーク値をリアルタイムで監視、調整する方法。時間帯に応じた注意喚起の他に、社員の意識向上など定性的な効果もあります。

高圧大口・特別高圧の法人の主な手法

協議制が適用される高圧大口・特別高圧に対しても、前提として実量制と同様に最大需要電力を元に料金が決定されるため、実量制と同様の対策は有効です。他にも大口や特別高圧ならではという観点では、包括契約や競争入札が行いやすい点が挙げられます。

包括契約

複数の膨大な電力消費拠点をまとめて契約することで電力代を下げてもらえる方法です。大手電力などで取り扱いが多いプランです。

競争入札

入札情報サービスNJSSなどを用いて、需要家側が契約電力や希望の電力量などを提示し、各電力会社がプランを提案しあうことで決定するプランです。こちらも資金力がある大手電力会社が入札に参加することが多いですが、近年は脱炭素の潮流を受けて、CO2排出係数など料金以外の入札基準も現れ始めています。

また、使用施設の電力消費ピークの時間帯(昼夜、土日祝日など)に合わせたプランも柔軟に対応できるのは協議制の強みです。効果的なプランを組むには自社の電力使用の特徴をしっかりと把握しておく必要があります。

上記のほかにも、基本料金の「力率割引」を利用した削減方法もありますが、それはまた別の機会にご紹介します。

5. 電力会社やコンサルタントに任せきりにせず、正しい知識で電気料金を見直そう

電気料金の構成に始まり、それぞれの契約にあった削減方法などを紹介してきました。おそらく途中で「電力調達って考えること多くて面倒くさいな」と思った方も多いと思います。

しかし、最後に伝えたいのは、これらの情報は「全法人の電力調達担当者は知っておいてほしい内容だ」ということです。

電力関連の情報は複雑です。とりあえず契約中の電力会社の意見に従ったり、コンサルタントに任せきりという法人の担当者も多いです。しかし、知識障壁が高い分、意図せず損している可能性も多くあります。

電力調達は自社の経営に直結するため、最低限の知識をもって、自社に必要なことはしっかりと確認していくことをおすすめします。まずは、今まで使っていたけど意味はよくわからない電力関連のキーワードなど、一度調べてみましょう。

 

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