「脱炭素」がビジネスチャンス!?日本の取り組み事例やメリットとは
- 2022年06月15日
- CO2削減
脱炭素社会は2015年パリ協定で掲げられた世界共通の目標のひとつであり、日本でも2050年までに二酸化炭素排出ゼロを目指すという菅首相の宣言のもと、各企業が取り組みを始めています。
SDGsに関係する脱炭素の取り組みはビジネスチャンスにもなると言われていますが、実行に移すには具体的な方法や実態がわかりづらい・・・。という方も多いのではないでしょうか?
今回は、脱炭素化への日本企業の取り組みやビジネスチャンスと言われるESG投資との関係性、脱炭素化への移行のポイントなどをまとめて紹介します。
目次
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脱炭素社会とは?現状の日本企業の取り組み事例
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脱炭素とESG投資の重要な関係性
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脱炭素化の遅れをとると言われる日本企業の原因とは?
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脱炭素を目指すために日本企業に欠かせないMFAとは?
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脱炭素へ日本企業がスピーディーに移行できる3つのポイント
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まとめ:自社にできる脱炭素の取り組みを検討しよう
1. 脱炭素社会とは?現状の日本企業の取り組み事例
改めて脱炭素化社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減したり、温室効果ガスを再利用したりすることで実質的にゼロにしていく社会のことです。
すべてのエネルギーを100%再生可能にする国際的な取り組み「RE100」にも加盟しているようなGoogleやAppleなどの超有名企業の脱炭素に向けての取り組みはメディアなどでもよく目にするかもしれません。
しかし、企業規模やフェーズによって同じような取り組み方をすぐに取り入れるのは難しいというケースがほとんどです。
100企業あれば100通りの脱炭素に向けての取り組みの仕方があります。
様々な企業の取り組みから幅広く検討できるよう、今回は日本の中小企業の取り組み事例をメインにご紹介します。
(1)⼋洲建設株式会社
業種:総合建設業
従業員数:49名
事業内容:建築・⼟⽊建設事業など
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脱炭素削減目標案:2030年までに2018年⽐で50%削減
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脱炭素の為の取り組み案:社用車等の電化を推進と、企業内で使⽤する電⼒の再エネ化の推進を軸に取り組む。
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協⼒会社との連携により、社用車の電子化の手助けをしてもらったり、購入品をリサイクル品を優先的に選択したりすることで脱炭素化を目指す。
出典:環境省『中小企業版SBT・RE100取組事例 2020年度 ⼋洲建設株式会社』p.1
(2)株式会社篠原化学
業種:製造業
従業員数:11名
事業内容:寝具の企画や製造、卸し、輸⼊、販売
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脱炭素削減目標案:2030年までに2018年⽐で50.4%削減
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脱炭素の為の取り組み案:本社やショールームなど自社の設備を見直し電⼒の再エネ化を推進
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サプライヤーと連携することで、二酸化炭素排出の少ない素材への移⾏、容器包装の軽量化などに取り組む。
出典:環境省 『中小企業版SBT・RE100取組事例 2020年度 株式会社篠原化学』p.1
(3)ユタコロジー株式会社
業種:サービス業
従業員数:340名
事業内容:ビル環境事業とトイレタリー(化粧品類や洗面用具など)商品企画製造販売事業
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脱炭素削減目標案:2030年までに脱炭素100%⽬標
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脱炭素の為の取り組み案:電⼒再エネ化の推進
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自社製造商品資材のリサイクル、オフィス照明LED化、温室効果ガスカーボンオフセット、エコカー導⼊などサプライヤーに協力を仰ぎ脱炭素化へ取り組む。
出典:環境省『中小企業版SBT・RE100取組事例 2020年度 ユタコロジー株式会社』p.1
2. 脱炭素とESG投資の重要な関係性
そもそもESG投資とは、企業が環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)においての取り組みを基準にして投資する手法です。
海外では既に主流になりつつあり、3つのうちのどれかに注力するのではなく、バランスよく取り組まなければ企業価値が上がりません。
環境に対して何も対策をしていなければ投資対象にならないだけでなく、ステークホルダーでいるだけでもデメリットになるため優秀なパートナーからも見放されてしまう要因にもなりえます。
PRI(投資にESGの観点を取り入れることなどを含めた投資原則)署名機関数推移
出典:経済産業省「ESG投資」
現にAppleは、「2030年までにサプライチェーンも100%カーボンニュートラル」を宣言しています。
出典:経済産業省『ESG投資とは』
出典:Apple『Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束』
3. 脱炭素化の遅れをとると言われる日本企業の原因とは?
では、何故日本企業が海外企業と比べると脱炭素社会への取り組みが遅れていると言われているのでしょうか?
資源エネルギー庁の再生エネルギーの導入状況調査によると、日本の再エネ導入量は世界第6位ではあるものの2位のアメリカは日本の約4倍、1位の中国とは約10倍もの差が開いています。
出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギーの導入状況』p.7
考えられる要因は以下3つです。
(1)海外との環境リテラシーの差
最近は日本でも環境問題を選択科目としている学校がありますが、今まではリサイクルや分別など方法論の教育がほとんどでした。
しかし、日本以外の先進国では幼少期から環境問題の根本から考える教育を推奨しています。
例えば、環境教育に定評のあるスウェーデンでは教育庁を筆頭に就業前の環境教育のカリキュラムが組まれていたりするのです。
幼稚園などの身近な環境で自然を体感し、大人と一緒に環境について考えることで環境問題を早期に自分事としてとらえることができています。
出典:Skolverket『This is the Swedish National Agency for Education』
(2)コストとしてのハードルの高さ
ESG投資の普及も視野に入れると企業の脱炭素化は明らかにビジネスに直結しているととらえることができます。しかし日本ではまだまだ「コスト」として認識されている場合も少なくありません。
そんな中、中長期的な動向を視野に入れ確実に行動に移している企業も多くあります。Global Compact Network Japanの2019年のSDGsに関する認知度調査結果によると、77%が経営陣にもSDGsが定着していて、68%が自社の戦略・経営計画に反映すると回答しています。
今回調査対象の6割以上が売上高1,000億円以上の大企業ということを加味しても、ESG投資を意識した取り組みは必須となってきています。脱炭素化への取り組みをコストとしてではなく、初期投資として事業に取り入れるにはキーパーソンになる人物の働きかけや理解度の高さがポイントです。
出典:Global Compact Network Japan『SDGs日本企業調査レポート2019年度版「ESG時代におけるSDGsとビジネス~日本における企業・団体の取組みから~」』p.2、p16、p17
(3)応用しにくい脱炭素化の事例
とはいえメディアで取り上げられている脱炭素への海外企業や日本企業の取り組みは初期費用が膨大にかかるような大規模な事例がほとんどです。
例えば株式会社リコーの関連会社であるリコーエレクトロニクスは、本社の屋上に約1,000枚の太陽光パネルを設置し年間約56,000ドル以上、CO2換算で年間98.1トンのコスト削減を見込んでいます。
極端な事例かもしれませんが、やはりわかりやすくインパクトのある脱炭素化への事例の方が注目されやすいのは確かです。
自社に合った予算感や方法で、これから積極的に脱炭素を取り入れていきたいという企業にとっては情報が不足しているのが現状だと感じます。
出典:RICOH『脱炭素社会の実現 自社の事業活動における脱炭素化【事例】』
4. 脱炭素を目指すために日本企業に欠かせないMFAとは?
脱炭素を目指していくために日本企業に欠かせないのがMFA(マテリアルフローアナリシス)です。
脱炭化に取り組む際に、MFAの考え方や事例だけでも理解しておくことで効果的に脱炭素化へ移行するヒントになると考えています。
(1)MFA(マテリアルフローアナリシス)とは
国や地域などまとまりある組織や体系の中で、一定期間のモノの流れの入り口(生産など)から出口(蓄積など)までを定量的に分析する手法です。
別名「物質フロー分析」とも呼ばれていて、既に海外では企業だけではなく街レベルや個人レベルでも幅広く使用されているほど浸透しつつあります。
MFAを用いることで、ターゲットの問題点や改善点を把握しやすくなり経済的にも環境的にもバランスの取れた循環型社会を目指すことができます。
また2004年OECD(経済協力開発機構)でもMFAの取り組みが採用されたことで、OECDを中心とした本格的な活用も盛んになっています。
出典:国立研究開発法人 国立環境研究所『国際的に期待されるマテリアルフロー研究』
(2)MFAの事例
日本でもMFAをベースとしたコスト削減の取り組みを行っている企業もあります。
キャノン株式会社では一眼レフ用レンズの製造過程でMFAを導入し、どの工程で製品に傷がついているのか明確になり手法を変えたことで、商品として使える製品を5%しか作れていなかったところ35%までに向上させることができました。
またサプライチェーン上流の材料メーカーとも協力し合い、その他のレンズの製造にも応用することでさらなる生産性向上にも役立てました。
その他、積水化学工業株式会社や富士通株式会社などでもMFAの考え方を取り入れてることで環境に配慮した製品の制作やコスト削減を実現しています。
出典:日本環境効率フォーラム 環境経営評価手法研究WG『マテリアルフローをベースにしたコストと環境負荷の削減』p.10
(3)MFAを用いる効果とは
MFAは限られた予算や期限内で、どこに注力することが効果的かを誰もが判断しやすくなります。また、関係者もMFA分析結果をもとにネクストアクションを共有・実施しやすくなるのが利点です。
どんな企業も生産から廃棄までの一連をひとりが定量的に把握しておくことは不可能です。MFAの考え方を取り入れることは、社員一丸となりサプライヤーを巻き込みながら自社の製品やサービスなどが作られる過程を見直すいい機会になるとも考えられます。
5. 脱炭素へ日本企業がスピーディーに移行できる3つのポイント
一般の方のSDGsの浸透やESG投資も考えるとやはり早期に脱炭素化へ動き出す必要がありそうです。日本企業も今から脱炭素対策を取り入れていくポイントをまとめてみました。
(1)従業員と脱炭素化への認識のすり合わせをしよう
まず初めにやらなければならないのが、脱炭素化へ向けて従業員での意識のすり合わせです。
中には脱炭素化について必要性を感じないという社員の方もいると思うので、できれば経営層からのトップダウンで「やる必要性がある」という共通認識を持つことが必要です。
また、脱炭素化を進めていくうえでステークホルダーとのパートナーシップも必ず必要になってきます。自社としての脱炭素化への取り組み姿勢や方針を社員ひとりひとりが理解しておくことで、効率的な脱炭素化への移行を実現できます。
(2)補助金や支援金などの活用しよう
2050年の脱炭素社会実現に向けて、国でも脱炭素化への取り組みを後押しするため令和3年度は1,602億円の当初予算が充てられています。企業規模や脱炭素への取り組み内容、地域によって様々な助成金などがあるので自社に合った方法を見つけることができるかもしれません。
例えば、省エネコンサルにかかる費用の一部や、クリーンエネルギー自動車導入の際の初期費用を一部補填&再生エネルギー100%の電気を利用する場合に限り維持費の補助など脱炭素化に初めてチャレンジする中小企業にもおすすめの制度がたくさんあります。
出典:環境省『エネルギー対策特別会計を活用した環境省の温室効果ガス削減施策』p.1
出典:東京都地球温暖化防止活動推進センター『地域の多様な主体と連携した中小規模事業所省エネ支援事業』
出典:東京都地球温暖化防止活動推進センター『令和3年度 充電設備導入促進事業の受付を開始します~導入費及び維持管理費とも、新たな補助メニューを追加 ~』
(3)できるところから脱炭素化のスタートしよう
クリーンエネルギーの車に買い替えたり、業務用太陽光パネルを何枚も設置したりと大掛かりな脱炭素の取り組みをしなくてもいいのです。比較的安価な再生エネルギー100%の電気を利用するサービスや一部リースでクリーンエネルギーの車を利用するという手もあります。
時には専門家など外部のリソースも交えながら、脱炭素化に向けての第一歩となる具体的なアクションを決めてみましょう!
6. まとめ:自社にできる脱炭素の取り組みを検討しよう
脱炭素への日本企業の取り組みやESG投資との関係、脱炭素化に向けてのポイントなどをお伝えしましたが何かヒントになりそうなことはありましたでしょうか?
脱炭素化に向けて日本企業もビジネスチャンスを広げていきましょう。上手にサービスを利用したり足りない部分はアウトソーシングしたりしながら今できる規模でできることから始めてみてください。