GHG(温室効果ガス)削減に求められるインベントリとイノベーションとは
- 2022年06月15日
- CO2削減
現在、地球温暖化が問題視され、地球温暖化の原因となるGHGの排出削減にむけた動きが各国ですすんでいます。このGHGの削減には、「現状の把握」と「それに基づいた対策」が必要となるでしょう。ここでは、日本が行っている現状把握に必要なインベントリと削減目標達成にむけたイノベーションへの取り組みについて解説します。日本がどのような方向性でGHG削減に取り組んでいるかを理解し、自社のGHG排出削減への取り組みの参考にしてみてください。
目次
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GHG(温室効果ガス)インベントリとは
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GHG削減のためのイノベーションへの取り組み
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GHG削減にむけた日本のイノベーションへの取り組み
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【まとめ】GHG削減に必要なのはインベントリによる把握とイノベーションによる技術革新
1. GHG(温室効果ガス)インベントリとは
GHG(温室効果ガス)とは
太陽の光は地球の大気を通過して地表を暖め、その熱を大気が吸収し、地球は高い気温を維持しています。この特性をもつ大気中のガスをGHG(温室効果ガス)といいます。現在の地球の平均気温は14℃程度といわれていますが、この温室効果ガスがないと地球の気温はマイナス19℃まで低下します。
GHGは、CO2(二酸化炭素)、メタン、フロン等で構成されていますが、産業の発展により、エネルギー起源のCO2排出量が増え、GHGの量が増加により地球の温暖化が加速し、このままでは地球の平均気温は2100年に1986年~2005年より最高で4.8℃上昇すると言われており、気候変動による影響が懸念される状況になっているのです。
世界各国では、世界会議の場で削減に向けた話し合いがおこなわれ、2015年のパリで行われたサミットで「GHGの削減は世界共通で取り組むべき問題である」という認識のもと、「パリ協定」といわれる各国の削減目標の設定や具体的な指針が採択されており、日本でも2030年までに2013年比で26%の削減目標が示され、2021年には46%へ引き上げる目標が掲げられています。
GHGインベントリとは
GHG削減への取り組みとして必要なことが現状の把握となります。インベントリとは、
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一定期間内に特定の物質がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたか
を示す一覧表のことです。一国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量をまとめたものを「温室効果ガスイベンストリ」と呼び、各国や、世界全体のGHG排出量の把握に使用されています。
地球温暖化による環境への悪影響を防止するため国際的な枠組を決めた「国連気候変動枠組条約」では、毎年自国の温室効果ガスイベンストリを4月15日までに条約事務局に提出することが義務付けられています。
GHGインベントリの概要
対象となるガスは、
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二酸化炭素(CO2)
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メタン(CH4)
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一酸化二窒素(N2O)
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ハイドロフルオロカーボン類(HFCS)
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パーフルオロカーボン類(PFCS)
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六フッ化硫黄(SF6)
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三フッ化窒素(NF3)
の7種類の他、CO2と比較した場合の各温室効果ガスの温室効果の強さを示す「地球温暖化係数(GWP)」を用いてCO2等量に換算した温室効果ガスの総排出量の算定が求められています。
算定対象期間は、基準となる1990年より、インベントリ提出の2年前までの全ての年の排出・吸収量が対象となっています。(例えば2019年の提出分は1990年から2017年まで)
期間は暦年ベース(1月1日~12月31日)が基本となりますが、使用データが時系列で一貫されていれば年度ベースでの報告も可能となっています。日本では各種統計が会計年度(4月1日~翌年3月31日)に基づいているものが多く、一部を除き、会計年度ベースで集計されています。
この算出については2006年のIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によって定められたガイドラインに沿っておこなわれることが求められています。
2. GHG削減のためのイノベーションへの取り組み
インベントリにより算出された温室効果ガスの排出量をもとに、排出削減に取り組むことになりますが、気候変動問題を取り巻く課題は様々で、政府・産業・金融・研究などのあらゆる分野の協働が必要となります。その中でも、技術の「イノベーション」が重要といわれています。
例えば日本では、2020年10月の菅義偉内閣総理大臣の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という目標を掲げています。その目標達成には、
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業務用や家庭用などすべての社会インフラをオール電化または水素利用などのエネルギーに入れ替えること。
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運輸部門(自動車・電車・航空機・船舶など)のエネルギーをすべてゼロエミッションにすること。
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発電を100%非化石にすること
が必要となります。これは現在導入されている技術だけでは実現は難しいでしょう。
また、世界でのCO2排出量の3分の2は新興国が占めており、新興国の排出は今後の経済成長により増加することが予測されています。これにより、経済成長と両立できる環境・エネルギーの技術革新が求められているのです。
グリーンイノベーションサミット
2019年10月に、「環境と成長の好循環」をコンセプトとした「グリーンイノベーションサミット」が開催されました。こちらは同時期に開催された3つの国際会議と関連しており、2019年6月のG20サミットで具体的な戦略として提示された、
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イノベーションの推進
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グリーンファイナンスの推進
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ビジネス主導の国際展開・国際連携
を柱として、産業・金融・研究の各分野の連携を求めた会議となっています。
出典:経済産業省『グリーンイノベーション・サミットを開催しました』(2019年10月)
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TCFDサミット
2019年10月に開催した、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)サミットでは、企業の環境活動を金融を通じてうながす取り組みについて議論されています。
この会議には世界の企業や、金融機関の代表が集まり、総括として、「企業に対してダイベストメント(気候変動リスクの高い業種から資金を引き上げること)をおこなってもCO2の排出場所が変わるだけであり、重要なのはエンゲージメント(投資先企業との建設的な会話)による企業変化への後押しだ」というメッセージが発信されました。
2020年10月に第2回目も開催されており、さらに踏み込んだ議論へすすんでいます。
出典:経済産業省『TCFDサミット2020が開催されました』(2020年10月15日)
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ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)2019
2019年10月に日本主導でスタートしたICEF(Innovation for Cool Earth Forum)の第6回総会が開催されました。こちらは気候変動の問題に対して、世界の産・官・学のリーダーが集まり、協力を促進するためのプラットフォームです。
今回のテーマを「世界のCO2排出量が減少に転じるためのイノベーションとグリーンファイナンス」として、エネルギー・環境分野の優れたイノベーションを選出する取り組みがおこなわれています。
さらに、2020年10月の第7回総会では「COVID19を踏まえた「ビヨンド・ゼロ」社会に向けた取組」をテーマとして様々なイノベーションへの取り組みが議論されています。
出典:ICEF事務局『Innovation for Cool Earth Forum』
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RD20(Research and Development 20 for Clean Energy Technologies)
2019年10月開催のRD20(Research and Development 20 for Clean Energy Technologies)は、CO2排出の大幅な削減に向けたクリーンエネルギー技術の研究開発を担うG20各国の研究機関のリーダーを集めた世界初の会議となります。研究機関の連携を強化し、共同研究開発を展開することで革新的なイノベーションを推進することが目的となります。
第1回の成果として、各研究機関代表の意見を集約した「議長サマリー」や、クリーンエネルギー分野に関する研究開発動向をまとめた「RD20Now&Future」の公表がおこなわれ、日本でも海外の研究機関との研究協力が始まっています。
また、こちらも2020年9月に第2回目が開催されており、再生可能エネルギー、電池を用いた次世代エネルギーマネジメントシステム、水素、二酸化炭素の回収・利用・貯留について話合いがおこなわれています。
3. GHG削減にむけた日本のイノベーションへの取り組み
環境省では、「PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業」として6項目の事業への取り組みを発表しています。
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公共施設の設備制御による地域内再エネ活用モデル構築事業
再生可能エネルギーの導入や、公共施設等の調整力・遠隔管理を活用することで、地域の再エネ電力を有効活用し、公共施設等の再エネ比率を高めるモデルの構築に取り組みます。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p2)
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再エネ主力化に向けた需要側の運転制御設備等導入促進事業
太陽光・風力等の変動性再エネの主力電源化に向け、需要側の運転制御可能な設備の支援を行います。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p3)
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平時の省CO2と災害時避難施設を両立する直流による建物間融通支援事業
省CO2と災害時のエネルギー確保が可能となる直流給電による建物間の電力融通に係る設備の構築を支援します。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p5)
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ストレージパリティの達成にむけた太陽光発電設備等の価格低減促進事業
太陽光発電設備と蓄電池を組み合わせたシステムの支援を行い、ストレージパリティ(蓄電池を導入した方が経済的にメリットがある状態)の達成を目指し、災害時のレジリエンス向上を図ります。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p6)
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再エネの価格低減にむけた新手法による再エネ導入事業
再エネ主力化に向けて価格低減効果が期待される手法による設備の導入を支援します。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p7)
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データセンターの脱炭素化・レジリエンス強化促進事業
再エネ・省エネ等を活用し、データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化を目指した新設・移設・改修の支援をおこないます。
出典:環境省『PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業』(p8)
4. 【まとめ】GHG削減に必要なのはインベントリによる把握とイノベーションによる技術革新
温室効果ガスインベントリとは
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温室効果ガスインベントリとは「一国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量をまとめたもの」で、国連気候変動枠組条約により毎年の算定・提出が義務付けられている。
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対象となるガスは、二酸化炭素(CO2)・メタン(CH4)・一酸化二窒素(N2O)・ハイドロフルオロカーボン類(HFCS)・パーフルオロカーボン類(PFCS)・六フッ化硫黄(SF6)・三フッ化窒素(NF3)の7種類で、1990年より、2年前までの全ての年が対象となっている。
イノベーションへの取り組み
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日本では2050年までに2013年度比で80%の排出削減目標が掲げられているが、現在導入されている技術だけでは実現は難しい。
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世界状況をみても総排出量の3分の2は新興国からの排出となり、新興国の経済発展と共に、排出量の増加が予想され、経済成長と両立できる環境・エネルギーの技術革新が求められている。
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2019年10月に、「TCFDサミット」、「ICEF」、「RD20」の3つの世界会議に関連した「グリーンイノベーションサミット」が開催され、イノベーションの推進、グリーンファイナンスの推進、ビジネス主導の国際展開・国際連携についての協議がおこなわれた。
GHG削減にむけた日本のイノベーションへの取り組み
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環境省は、GHG削減への取り組みとして、PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化の促進事業に力をいれている。
地球温暖化の原因であるGHGの排出削減は世界の共通認識であり、世界の現状を確認するためのインベントリと削減目標の達成に向けた各国のイノベーションへの取り組みが必要となるでしょう。