企業が知っておくべき水リスクとは? 対応事例も紹介

水リスクとはどういうものか、わかりやすく解説します。人間が経済活動を行う上で欠かすことのできない水ですが、その取り扱いには十分な注意が必要です。それ自体には害のない水ですが、干ばつや洪水などで、環境へ大きな悪影響が及ぶリスクがあるのです。適切な水リスク対策は、企業の重要な責務のひとつであると言えるでしょう。

本記事ではそもそも水リスクとは何であるかや、水リスク対応のポイント、企業による水リスク対応事例などをご紹介します。

目次

  1. 水リスクとは

  2. 水リスク対応に必要な視点

  3. 水リスク対応の企業事例

  4. まとめ:水リスクを把握して、水資源を適切に利用しよう!

1. 水リスクとは

水リスクは、水に依存するビジネスで留意すべきリスクです。ここでは水リスクの概要について解説します。

水リスクとは

水リスクとは、水に関連した各種ビジネスリスクのことで、大きく3つに分類されます。

物理リスク

渇水、水質汚染、洪水など

規制リスク

条例等による各種規制

評判リスク

文化および生物多様性の重要性、風評被害など

アフリカ地域では干ばつなど渇水リスクが高いですが、日本やタイなどアジア地域では洪水リスクが取り上げられることが多くなっています。またブラジルでは、1990年代対比で地表水が15%以上減少しているという報告も見られます。このように水リスクは地域によって異なるため、企業は事業活動において考慮する必要のある水リスクを選別する必要があります。

また水資源には限りがあり、水質汚染や淡水不足は企業の活動に大きな影響を及ぼします。現在の消費や生産のパターンが変わらなければ、2030年までに世界の水供給が40%不足するという国連の予測もあり、水リスクに強いビジネスモデルへの移行が急務と考えられています。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

出典:CDP「HIGH AND DRY 水問題による座礁資産」p4-5(2022/8)

CDPにおける水セキュリティ

国際的な環境非営利組織CDP(Carbon Disclosure Project)は、水セキュリティ(水の安全保障)について「生活、人間の福利、社会経済的発展を維持し、水を媒介とする汚染や水関連の災害からの保護を確保したうえで、平和で政治的安定性のある気候の中で生態系を保全するため、適切な量の良質な水への持続可能なアクセスがあること」と定義しています。

水は気候変動の緩和に必要不可欠なものですが、逆に気温の上昇や気象パターンの変化が水の利用可能性にストレスを与えると考えられます。CDPでは水セキュリティプログラムについて、水の報告基準の確立と水の情報開示の改善を通じ、水リスク対応力の向上を図ることが目的と位置づけています。

出典:CDP「2023年CDP水セキュリティ質問書」p2-4

水リスク管理に役立つ「ウォーターフットプリント」

水リスクを管理する手法のひとつとして「ウォーターフットプリント」も注目されています。ウォーターフットプリントとは、水利用に関する環境影響を、原材料の栽培から製品の製造、流通、消費、廃棄までのライフサイクル全体で定量的に評価したものです。

ウォーターフットプリントは、使用された水量だけではなく、水質の変化の量も捉える点が特徴です。これによって主に「水資源枯渇」「水質汚染」という環境への影響を可視化することができます。ウォーターフットプリントの算定によって、水に関する情報開示とリスク分析や、水環境保全意識の啓発などの効果が期待されます。

出典:環境省「ウォーターフットプリント算出事例集」p1,3,6(2014/8)

2. 水リスク対応に必要な視点

WWFのウォータースチュワードシップを実行するには、いくつかの留意点があります。水リスク対応に必要な5つの視点について解説します。

水リスクについての関係者との「協働」

水リスクに対応するには、流域にかかわる複数のステークホルダーとの協働が求められます。ステークホルダーとは、他社、NGO、行政などです。たとえば自社の調達先に渇水や洪水などの水リスクに直面するサプライヤーがあれば、技術的あるいは資金的な支援を行うなどの行動が必要となります。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

水リスクの取り組みのを維持するための「資金調達」

流域という広大なエリアに企業が対応する際には、資金調達が鍵となります。金融機関や行政においては、企業の水リスク対策に資金を提供する際にはグリーンインフラ(屋上緑化など、自然環境が有する多様な機能を活用したインフラ)の導入を重視する傾向がありますので、企業側でもグリーンインフラを取り入れた水リスク管理が資金調達の面からも有効です。また社債の発行による資金調達も、今後の拡大が期待されます。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

出典:国土交通省「【導入編】なぜ、今グリーンインフラなのか」

流域内で活動する企業との「調整」

流域全体を視野に入れることが、水リスク管理では重要なポイントです。何らかの協定を一部の企業だけと締結しても、流域にさらに他の企業が関係している場合、協定がうまく機能しない可能性があります。

調整の失敗を防止するために、その流域にどのようなステークホルダーが存在し協力関係にあるか、事前に把握しておくことが必要となります。そのためには、業界団体を通じた呼びかけも有効です。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

流域全体を考慮した「目標設定」

自社の水利用管理の最適化に取り組む企業が増えていますが、本質的な水リスク対応のためには、他の企業や行政と協力した流域管理が必要です。そのため流域全体を考慮して水使用量や節水量目標を設定してゆくことが、世界各地の流域保全において、大きな課題となっています。関係企業間の認識を共有するためには、水リスク評価ツール「WRF(Water Risk Filter)」などの利用も有効です。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

持続可能な水利用と流域保全のための「ガバナンス」の確保

水リスク対応においては、関係企業間の協力だけでなく、政府が関与したガバナンスも課題です。各企業は連携して、水環境と流域の保全強化を、政府へ働きかける必要があります。さらに今後集中豪雨などの頻発・激甚化が予想されており、水害の防止や減災の観点から、地域コミュニティとの関係も重要になっていくと考えられます。

出典:WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」(2022/3/29)

3. 水リスク対応の企業事例

水リスクに対応する企業は業界問わず増えています。日本企業における水リスク対応の事例をご紹介します。

第一三共株式会社

第一三共株式会社では、自社グループの事業において、十分な量の良質な淡水がすべての事業所およびバリューチェーンにおいて利用可能であることが重要であると考えています。そのためWRFを活用して工場・研究所を対象に水リスクを把握しています。たとえば特に水リスクの高い工場においては、取水制限などの規制強化を主なリスクとして特定し、リサイクル水や雨水の利用など、水使用量の適正化に努めています。

出典:第一三共株式会社「気候変動・水リスクへの対応」

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社では、全社的に水リスクへの対応・水資源の効率的な利用に取り組んでいます。そのため水使用量の目標を定め、定期的な進捗管理と振り返りを行っています。具体的な対策として、雨水の活用や節水器具設置、社内イントラネットを通じた社員への周知を実施しています。また生活排水を98%再生循環できる水循環システムの構築支援など、水インフラの維持が困難な過疎地域や島嶼エリアにおける水利用対策を支援しています。

出典:ソフトバンク株式会社「水資源の適切な利用」

株式会社ヤクルト本社

株式会社ヤクルト本社では、水リスクを自社グループ事業活動における重要課題ととらえ、水に関する定量目標の設定や水資源の有効活用に取り組んでいます。たとえば本社工場やボトリング会社では、水の循環利用や運用見直しなどを通じて水使用量の削減を図るとともに、河川への影響を最小限にとどめるよう排水管理を徹底しています。また各工場が所在する河川流域の水リスクについて、外部機関による調査を実施しています。

出典:株式会社ヤクルト本社「水 マテリアリティ」

4. まとめ:水リスクを把握して、水資源を適切に利用しよう!

水リスクとは、水の利用に関するビジネス上のリスクで、物理リスク、規制リスク、評判リスクに区分されます。水リスク管理にはウォータースチュワードシップへの取組みが求められますが、その実現には関係者との協働・資金調達・企業間の調整・流域全体を視野に入れた目標設定・政府によるガバナンスといった要素が重要なポイントとなります。日本国内でも多くの企業が、水リスク対策に取り組んでいます。

自社の水リスクを把握して、限りある水資源を適切に利用しましょう。

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